ペルソナ3
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年跨ぎの番組を流しているテレビを消して暫く、玄関から聞こえた物音にラウンジへ揃っていた寮生は顔を上げた。
望月がやってきたのだ。
「やあ、久しぶりだね」
日付の変わる前に約束通りやってきた望月の第一声はそんな平々凡々としたもので、だからこそアマネは少しだけ怖くなる。
覚悟している目だと思ったからだ。
その覚悟が一体どちらへ対するものなのかは分からない。ただ、選択肢によっては今日、明日になる前に『消える』ことになるというのに、望月にはそのことへ対する恐怖はないようだった。
答えは出ているか、という望月の問いに寮生は無言で返す。有里の部屋で待っているからと歩き出した望月の後ろ姿に、アマネは膝の上へ置いていた手を握り締めた。
全員の考えを再確認して、有里が美鶴から拳銃を受け取ってラウンジを出て行く。その姿が見えなくなって、アマネは少しホッとした。
『覚悟を決めた』人が、やはり少し苦手だ。
今の望月も有里も、ラウンジへ残っている寮生も今は少し一緒にいたいと思わない。
怖い、のとは少し違うのかもしれないが、自分の覚悟が比べて随分と曖昧なものへと感じられる。それで居心地が悪い。
アマネが抱え続けている覚悟など『一秒でも長く生きること』だ。
『大いなる全知の亜種』であるアマネなら、望月の言う『ニュクス』だって倒せるかもしれない。今のペルソナ『イブリス』に半分以上取られている状態でも完全に死ぬ気の炎を灯せない訳ではないし、そうでなくても経験の差がある。
世界の滅亡だの人間ではない『何か』との戦いだの、世界の存続の為の騒動にだって、アマネは巻き込まれたことがあるではないか。
それが今回だけ何も出来ないなどと、誰が言った。詰まるところアマネが選んだ選択はそういう『傲慢さ』を孕んでいる。
ニュクスと戦うことになっても、アマネならば何とか出来るかもしれない。
だからこそ、『覚悟している』望月達とアマネは違う。
ラウンジに望月と有里が戻ってきた。ホッとした様子で寮生が駆け寄っていくのに、アマネの動きは少し遅れる。たった数秒の遅れだったから、誰もそれには気付かなかった。
「よぉ。また会ったな。リョージ!」
「フゥ……残念だけど、君たちの選択だ」
「当然でしょ」
「当然か……。ニュクスを止めるのは不可能なのにね」
同意を求めるように望月の眼がアマネへと向けられたが、アマネには同意する意思は無い。アマネは『ニュクス』を知らないし、それがどれだけ強大な相手であるかも『×××』を使えない今は知ることすら出来ずにいる。
それでも構わなかったのは、彼が死んで『いなくならなかった』からだ。
一ヵ月後の一月三十一日。その日にタルタロスの頂上へと『ニュクス』が降りてくる。
世界の終わりにあたるその日に、タルタロスの頂上へたどり着いていれば『ニュクス』に会うことが出来るらしい。同時にニュクスを止められるのもそのタイミング。
そのたった一度でも、アマネ達はチャンスを得たといえるのだろうか。
「良いお年を」
寮を出ていく間際、振り返ってそう言った望月の声はアマネには震えているように聞こえた。
「……って、言うんでしょ。年の瀬はさ。じゃあね」
嗚呼そうか。彼にとってはこれもまた『最初で最後』の一日なのだ。そう思うとアマネは望月を追いかけたい衝動に駆られたが、きっともう寮を出ても望月の姿は無い。
何処からか鳴り始めた除夜の鐘が聞こえてくる。望月がそれを一つでも聞けたかどうかは分からなかった。
「一ヵ月後の、一月三十一日か……。行こう、みんなで」
美鶴の宣言にアマネは寮の玄関からラウンジへと視線を向ける。皆もう腹を括ったという表情だった。
まだ一ヶ月ある、というべきか、もう一ヶ月しかないと思うべきか。
「……一ヶ月あったら、未来を変えられるなぁ」
「何か言った?」
「いえ、何でも無ぇですよ」
「話が終わったら腹が空いたな。斑鳩、年越し蕎麦が余ってたりしないか?」
「あ、オレも食べるッス!」
「こんな夜中に食べると身体に悪いぞ」
望月が去って、あと数分で年が変わるというのに皆の雰囲気は穏やかだ。
夕食に食べた年越し蕎麦はまだ汁も残っていたので、アマネは笑って他に食べたい人は居ないかと尋ねる。どうせ明日の御節の仕度をする為にまだキッチンへ居る予定だった。
山岸や岳羽も手を上げ、身体に悪いとたしなめていた美鶴も苦笑して手を挙げる。天田も手を上げてコロマルも返事をするように鳴いたのを確認して、アマネは玄関を見つめていた有里を振り返った。
あと一ヶ月。それはアマネにとって短いのだろう。
「どうしますか『兄さん』」
「……うん。食べる」
振り返ってアマネを見た有里は微笑んだ。
「『兄さん』って何事よ? 斑鳩と湊って親戚だっけ?」
「ああ、いえ、『兄のように慕っている』というだけで……その……人前で言うのって恥ずかしいですね」
「もっと言っていい」
「んだよー! オレのこともオニイサマと呼んでくれていいぞ?」
アマネの肩へ腕を回して主張してくる伊織に岳羽が呆れて息を吐いている。山岸が口元に手を当てて笑っていて、アイギスは良く分からないらしく首を傾げていた。
キッチンへ向かいながら時計を確認する。
寂しかったので、意地でも『さよなら』は言わない事にした。
望月がやってきたのだ。
「やあ、久しぶりだね」
日付の変わる前に約束通りやってきた望月の第一声はそんな平々凡々としたもので、だからこそアマネは少しだけ怖くなる。
覚悟している目だと思ったからだ。
その覚悟が一体どちらへ対するものなのかは分からない。ただ、選択肢によっては今日、明日になる前に『消える』ことになるというのに、望月にはそのことへ対する恐怖はないようだった。
答えは出ているか、という望月の問いに寮生は無言で返す。有里の部屋で待っているからと歩き出した望月の後ろ姿に、アマネは膝の上へ置いていた手を握り締めた。
全員の考えを再確認して、有里が美鶴から拳銃を受け取ってラウンジを出て行く。その姿が見えなくなって、アマネは少しホッとした。
『覚悟を決めた』人が、やはり少し苦手だ。
今の望月も有里も、ラウンジへ残っている寮生も今は少し一緒にいたいと思わない。
怖い、のとは少し違うのかもしれないが、自分の覚悟が比べて随分と曖昧なものへと感じられる。それで居心地が悪い。
アマネが抱え続けている覚悟など『一秒でも長く生きること』だ。
『大いなる全知の亜種』であるアマネなら、望月の言う『ニュクス』だって倒せるかもしれない。今のペルソナ『イブリス』に半分以上取られている状態でも完全に死ぬ気の炎を灯せない訳ではないし、そうでなくても経験の差がある。
世界の滅亡だの人間ではない『何か』との戦いだの、世界の存続の為の騒動にだって、アマネは巻き込まれたことがあるではないか。
それが今回だけ何も出来ないなどと、誰が言った。詰まるところアマネが選んだ選択はそういう『傲慢さ』を孕んでいる。
ニュクスと戦うことになっても、アマネならば何とか出来るかもしれない。
だからこそ、『覚悟している』望月達とアマネは違う。
ラウンジに望月と有里が戻ってきた。ホッとした様子で寮生が駆け寄っていくのに、アマネの動きは少し遅れる。たった数秒の遅れだったから、誰もそれには気付かなかった。
「よぉ。また会ったな。リョージ!」
「フゥ……残念だけど、君たちの選択だ」
「当然でしょ」
「当然か……。ニュクスを止めるのは不可能なのにね」
同意を求めるように望月の眼がアマネへと向けられたが、アマネには同意する意思は無い。アマネは『ニュクス』を知らないし、それがどれだけ強大な相手であるかも『×××』を使えない今は知ることすら出来ずにいる。
それでも構わなかったのは、彼が死んで『いなくならなかった』からだ。
一ヵ月後の一月三十一日。その日にタルタロスの頂上へと『ニュクス』が降りてくる。
世界の終わりにあたるその日に、タルタロスの頂上へたどり着いていれば『ニュクス』に会うことが出来るらしい。同時にニュクスを止められるのもそのタイミング。
そのたった一度でも、アマネ達はチャンスを得たといえるのだろうか。
「良いお年を」
寮を出ていく間際、振り返ってそう言った望月の声はアマネには震えているように聞こえた。
「……って、言うんでしょ。年の瀬はさ。じゃあね」
嗚呼そうか。彼にとってはこれもまた『最初で最後』の一日なのだ。そう思うとアマネは望月を追いかけたい衝動に駆られたが、きっともう寮を出ても望月の姿は無い。
何処からか鳴り始めた除夜の鐘が聞こえてくる。望月がそれを一つでも聞けたかどうかは分からなかった。
「一ヵ月後の、一月三十一日か……。行こう、みんなで」
美鶴の宣言にアマネは寮の玄関からラウンジへと視線を向ける。皆もう腹を括ったという表情だった。
まだ一ヶ月ある、というべきか、もう一ヶ月しかないと思うべきか。
「……一ヶ月あったら、未来を変えられるなぁ」
「何か言った?」
「いえ、何でも無ぇですよ」
「話が終わったら腹が空いたな。斑鳩、年越し蕎麦が余ってたりしないか?」
「あ、オレも食べるッス!」
「こんな夜中に食べると身体に悪いぞ」
望月が去って、あと数分で年が変わるというのに皆の雰囲気は穏やかだ。
夕食に食べた年越し蕎麦はまだ汁も残っていたので、アマネは笑って他に食べたい人は居ないかと尋ねる。どうせ明日の御節の仕度をする為にまだキッチンへ居る予定だった。
山岸や岳羽も手を上げ、身体に悪いとたしなめていた美鶴も苦笑して手を挙げる。天田も手を上げてコロマルも返事をするように鳴いたのを確認して、アマネは玄関を見つめていた有里を振り返った。
あと一ヶ月。それはアマネにとって短いのだろう。
「どうしますか『兄さん』」
「……うん。食べる」
振り返ってアマネを見た有里は微笑んだ。
「『兄さん』って何事よ? 斑鳩と湊って親戚だっけ?」
「ああ、いえ、『兄のように慕っている』というだけで……その……人前で言うのって恥ずかしいですね」
「もっと言っていい」
「んだよー! オレのこともオニイサマと呼んでくれていいぞ?」
アマネの肩へ腕を回して主張してくる伊織に岳羽が呆れて息を吐いている。山岸が口元に手を当てて笑っていて、アイギスは良く分からないらしく首を傾げていた。
キッチンへ向かいながら時計を確認する。
寂しかったので、意地でも『さよなら』は言わない事にした。