ペルソナ3
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大晦日を明日に控えた三十日の夜。部屋のドアをノックする音がしてドアを開ければ、そこには今日の夕方修理を終えて、約一ヶ月ぶりに寮へ帰ってきたアイギスが立っていた。
「アマネさん。少しよろしいですか?」
「どうぞぉ」
一ヶ月も見ない内に、だいぶ人間らしくなった機械乙女。それとも姿を見ない一ヶ月があったからこそ、人間らしくなっている事に気付けたのか。
アマネが勧めた椅子へ腰を降ろすのを見やって、アマネもベッドへと座る。
「あの時の事、謝ろうと思いまして。アマネさんにはずいぶんとご迷惑をお掛けしました」
「別に、俺が勝手にやったことですしぃ。アイギスさんこそ俺が勝手な真似をして」
このままでは互いに謝罪の応酬になってしまうと分かって黙った。そんな謝罪をアイギスから受けるつもりは本当にアマネには無いのだ。
膝の上で軽く手を組んだアイギスは、少し考えるように俯いてからアマネを見る。
「アマネさんは……いつも私に答えへの助言や説明をくださいました。だからこれも答えてくれますか?」
「……言ってみてください」
「『生きる』ことは、難しくありませんか?」
戸惑いの残る目。
「先ほど私は、自分に命じられて『生きて』みるのだと言いました。ですが『命』のない私には、やっぱり難しい事の様に思います」
「……先人の知恵、とでも言うべきですかねぇ。俺の認識では『生きる』のは難しかったと思います」
僅かに逡巡してから口を開けば、アイギスはどういう事かと首を傾げる。
「難し『かった』……?」
不思議がるアイギスにそれもそうだろうと思わず笑みが浮かんだ。
「この際だから言いますけど、俺は昔貴女のように『生きる』ことが良く分からなかった経験があります。『命』のある理由が分からず、とりあえず生きることを意識して過ごしていた時期が」
記憶を持ったまま、親しかった者が誰も居やしない百年近い後の世界で。どうすればいいのかも何をすればいいのかもそもそも何をしてもいいのかすら、分からないでいた『二度目の人生』
結局深いことは考えられず、気付けば漠然と『生きていていい』のだと悟った。
「意識してちゃ難しいことなんでしょう。その時の俺はふとした時に『生きている』って思えることが、多分一番正解に近けぇんだと思いました。もちろんこれは俺の考えなのでアイギスさんに当て嵌まるかっていうとまた別ですが」
片脚を上げて抱え込むようにして、その膝へ顎を置く。
「……難しいですね」
「俺が数年を賭けた謎でしたからねぇ。んなアッサリ分かってもらっちゃ、俺が悩んだ時間ってのは何だったのかって話でぇ」
「アマネさんは、今はもうその答えを知っているのですか?」
「いいえ。答えに辿り着く途中です。――俺の話はそれでいいとして、そういえばアイギスさんに言おうと思ってた話がありました」
「はい?」
「全損しても造り直せるとか、仕様が残るとか言うの、……正直胸糞悪くなるんで、やめて下さい」
首を傾げるアイギスにはまだ分からないだろうが、『人間』は修理出来ないのだ。
「腕とか足とか中身のパーツは取替えや修理が利くかもしれませんが、貴女が今まで経験した貴女自身の記憶や思考、判断の際に重要視するもの、性格とかってのは、全部コピーしたところで全く同じモンが作れるって事はねぇんです。取り返しのつかなくなるような馬鹿な破損は、絶対にしねぇでください」
「ですが、今では記憶もデータとして残せますが」
「そのデータを見て思うことは、人それぞれ違って全く同じって事は無ぇでしょう。人の感情ってのはそう出来てる。だからアイギスさんももしそういう考えなら、やめてください」
『昔』の朱色の弟分を思い出して警告する。今はあの世界がどうなっているのか全く分からないが、あの子達は生きているのだろう。
身体構成における情報は同じであっても、性格や思考、利き手や立ち方など、見た目以外の何もかもが違った二つの存在を知っている。あれはアイギスで例えれば、アイギスを量産したとでも言えばいいのか。しかし二人は決して何一つ『同一』ではなかった。
もし今アイギスが全損し、同じ鋳型から見た目的には変わりの無い機械乙女が造られたとしても、アマネはその機械乙女が持つペルソナは違うのだろうと思う。
「機械だからいいってのは、『生きる』のには邪魔になりますよ」
「……難しいですが、つまり『身体を大事に』ということですか?」
「今はまだ、それでいいと思います」
理解したのかそれともしていないのか、アイギスは頷いたもののその表情は考えている風情だ。だがそれでいいともアマネは思う。
「俺、アイギスさん好きですから、そう簡単に怪我して欲しくねぇってのもありますけどね」
笑いながらそう言えば、アイギスは心外だと言わんばかりに顔を上げた。
「そうは言いますがアマネさん。貴方のほうが負傷回数は多いです」
「言いますねぇ」
「私もアマネさんのことは好きでありますので、どうかアマネさんも気を付けてください」
立ち上がって目の前に立ったアイギスに手を差し出され、アマネは脚を降ろしてその手を握手するように握る。
手触りは人と変わりない、少女の手。
出来る限りのパーツを新調したのか、アイギスの身体に付いていた筈のシャドウとの戦いで付いた傷跡は無い。逆にアマネの身体には銃で撃たれた痕などが、服の下へ残っている。
アイギスが『人』だったら、きっともっときつく注意してきただろうなと思った。
「アマネさん。少しよろしいですか?」
「どうぞぉ」
一ヶ月も見ない内に、だいぶ人間らしくなった機械乙女。それとも姿を見ない一ヶ月があったからこそ、人間らしくなっている事に気付けたのか。
アマネが勧めた椅子へ腰を降ろすのを見やって、アマネもベッドへと座る。
「あの時の事、謝ろうと思いまして。アマネさんにはずいぶんとご迷惑をお掛けしました」
「別に、俺が勝手にやったことですしぃ。アイギスさんこそ俺が勝手な真似をして」
このままでは互いに謝罪の応酬になってしまうと分かって黙った。そんな謝罪をアイギスから受けるつもりは本当にアマネには無いのだ。
膝の上で軽く手を組んだアイギスは、少し考えるように俯いてからアマネを見る。
「アマネさんは……いつも私に答えへの助言や説明をくださいました。だからこれも答えてくれますか?」
「……言ってみてください」
「『生きる』ことは、難しくありませんか?」
戸惑いの残る目。
「先ほど私は、自分に命じられて『生きて』みるのだと言いました。ですが『命』のない私には、やっぱり難しい事の様に思います」
「……先人の知恵、とでも言うべきですかねぇ。俺の認識では『生きる』のは難しかったと思います」
僅かに逡巡してから口を開けば、アイギスはどういう事かと首を傾げる。
「難し『かった』……?」
不思議がるアイギスにそれもそうだろうと思わず笑みが浮かんだ。
「この際だから言いますけど、俺は昔貴女のように『生きる』ことが良く分からなかった経験があります。『命』のある理由が分からず、とりあえず生きることを意識して過ごしていた時期が」
記憶を持ったまま、親しかった者が誰も居やしない百年近い後の世界で。どうすればいいのかも何をすればいいのかもそもそも何をしてもいいのかすら、分からないでいた『二度目の人生』
結局深いことは考えられず、気付けば漠然と『生きていていい』のだと悟った。
「意識してちゃ難しいことなんでしょう。その時の俺はふとした時に『生きている』って思えることが、多分一番正解に近けぇんだと思いました。もちろんこれは俺の考えなのでアイギスさんに当て嵌まるかっていうとまた別ですが」
片脚を上げて抱え込むようにして、その膝へ顎を置く。
「……難しいですね」
「俺が数年を賭けた謎でしたからねぇ。んなアッサリ分かってもらっちゃ、俺が悩んだ時間ってのは何だったのかって話でぇ」
「アマネさんは、今はもうその答えを知っているのですか?」
「いいえ。答えに辿り着く途中です。――俺の話はそれでいいとして、そういえばアイギスさんに言おうと思ってた話がありました」
「はい?」
「全損しても造り直せるとか、仕様が残るとか言うの、……正直胸糞悪くなるんで、やめて下さい」
首を傾げるアイギスにはまだ分からないだろうが、『人間』は修理出来ないのだ。
「腕とか足とか中身のパーツは取替えや修理が利くかもしれませんが、貴女が今まで経験した貴女自身の記憶や思考、判断の際に重要視するもの、性格とかってのは、全部コピーしたところで全く同じモンが作れるって事はねぇんです。取り返しのつかなくなるような馬鹿な破損は、絶対にしねぇでください」
「ですが、今では記憶もデータとして残せますが」
「そのデータを見て思うことは、人それぞれ違って全く同じって事は無ぇでしょう。人の感情ってのはそう出来てる。だからアイギスさんももしそういう考えなら、やめてください」
『昔』の朱色の弟分を思い出して警告する。今はあの世界がどうなっているのか全く分からないが、あの子達は生きているのだろう。
身体構成における情報は同じであっても、性格や思考、利き手や立ち方など、見た目以外の何もかもが違った二つの存在を知っている。あれはアイギスで例えれば、アイギスを量産したとでも言えばいいのか。しかし二人は決して何一つ『同一』ではなかった。
もし今アイギスが全損し、同じ鋳型から見た目的には変わりの無い機械乙女が造られたとしても、アマネはその機械乙女が持つペルソナは違うのだろうと思う。
「機械だからいいってのは、『生きる』のには邪魔になりますよ」
「……難しいですが、つまり『身体を大事に』ということですか?」
「今はまだ、それでいいと思います」
理解したのかそれともしていないのか、アイギスは頷いたもののその表情は考えている風情だ。だがそれでいいともアマネは思う。
「俺、アイギスさん好きですから、そう簡単に怪我して欲しくねぇってのもありますけどね」
笑いながらそう言えば、アイギスは心外だと言わんばかりに顔を上げた。
「そうは言いますがアマネさん。貴方のほうが負傷回数は多いです」
「言いますねぇ」
「私もアマネさんのことは好きでありますので、どうかアマネさんも気を付けてください」
立ち上がって目の前に立ったアイギスに手を差し出され、アマネは脚を降ろしてその手を握手するように握る。
手触りは人と変わりない、少女の手。
出来る限りのパーツを新調したのか、アイギスの身体に付いていた筈のシャドウとの戦いで付いた傷跡は無い。逆にアマネの身体には銃で撃たれた痕などが、服の下へ残っている。
アイギスが『人』だったら、きっともっときつく注意してきただろうなと思った。