ペルソナ3
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試験は可も無く不可も無く、と言ったら佐藤に脇腹を突かれそうになったのでアイアンクローを返した。寮へ帰ったら掲示板に張られていた試験結果を見たらしい有里に頭を撫でられたアマネは、ボサボサになった髪を軽く直してからキッチンへと篭もる。
ブラウニーを作って紙袋へ入れ、ベルベットルームへ行こうとしたところでラウンジへ降りてきた真田に声を掛けられた。
「丁度良かった。コロマルの散歩に行こうと思ったんだが一緒に……何処か行くのか?」
「ポロニアンモールへちょっと。でもそれなら渡したらすぐに戻ってきますよ」
「いや、用があるのなら構わん。たまには話をしようと思っただけだしな」
真田の様子からして本当に気まぐれのようだ。有里もそうだが、真田もアマネのことを色々気に掛けてくれている。
それでも真田が散歩へ行く仕度をしている間に寮を出て、アマネは駆け足でポロニアンモールにあるベルベットルームの扉を潜った。試験日の時の事など忘れたとばかりに落ち着いた挨拶を返してきたイゴールへ、言いたいことはあったものの作ったブラウニーを渡してベルベットルームを出る。
その足でコロマルの散歩コースである長鳴神社へと行けば、思った通りコロマルを遊ばせている真田がいた。
匂いでか足音でか、アマネが来たことに気付いたコロマルが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
「結局来たのか。用事は平気なのか?」
「ブラウニーを渡しに行っただけですから。それに、先輩の誘いを無碍にも出来ねぇでしょう?」
コロマルを撫でる為に片膝を突いていた姿勢から立ち上がれば、真田の手が手以外に唯一外気へ晒されているアマネの顔に伸びてきた。思ったよりも暖かい。
見れば反対の手にタブの開いた缶珈琲が握られていた。手が暖かいのはそのせいか。
「まいったな。そんな大した話でもないんだ」
手を引いた真田がそう言ったものの、改めて話しかけてくるときに大した話ではなかった例が無いのだが。そのことは言わずにアマネも自販機へ近付いて小銭を入れる。
ガコン、と鈍い音を立てて落ちてきたホットの紅茶の缶。上着のポケットへ押し込んで暖を取った。
コロマルが再び自由に遊びに行く。
「ただ、『自殺を考える』ほど『死ぬ』ことについて考えた理由が気になっただけなんだ」
望月が居なくなってから丁度一週間経った後の話し合いで自分がそう言ったのを思い出し、アマネはやはりと思う。
やはり、真田は意図せずアマネの深い部分を抉ってくるのだ。
空の半分を雲が覆っていた。雨雲や雪雲では無さそうだが、明日も曇るのであれば洗濯物が乾かなくて困る。
「……聞かねぇでくれますか」
「嫌な話だったか?」
「まぁ、普通自殺を考えてた話なんてあまり言いてぇとは思わねぇでしょう。とりあえず今は自殺を考えてねぇってことで納得してください」
「じゃあ質問を変えよう。何があったんだ?」
あまり変わっていない質問だなと思いつつ、ポケットから紅茶の缶を出してプルタブを起こす。こういうものは暖かいうちに飲まないと美味しくない。
「……多分、広すぎたんですよ。目に見える場所には誰も居なくて」
「広い?」
「一人しか居ねぇ部屋は、広いでしょう?」
「寂しかったのか?」
「寂しい……ああ、そういう表現が正しいんですかねぇ? ちょっと分かんねぇんですけど」
「普段は驚くほど察しがいいのに、意外と鈍いんだな」
意外にとはなんだ、とは言えずに曖昧に返す。
「それでも考えたのなら、よほど極限状態だったのか……」
「先輩?」
何か呟いたようだったが近くを通った車のタイヤ音のせいで聞こえず、何か言ったかと聞き返したときには真田はもうなんでも無いという顔をしていた。缶珈琲を飲み干して、自販機の横のゴミ箱へ捨てる姿に慌ててアマネも紅茶に口を付ける。
まだ暖かいというより熱いに近い紅茶は、大量生産の安物で一気に飲み干すには甘い匂いがきつい。それでも何とか飲んでいるところでコロマルが満足したように戻ってきた。
その首にリードを繋げて真田が振り返る。
「無理して飲まなくていいぞ。そのくらい待ってやるから」
「本当ですか?」
「ああ」
コロマルがリードの先を掴んでいる真田を引っ張るようにしてアマネの傍へと来た。それも急かされているように見えてアマネは困るのだが、しゃがんだ真田がコロマルの背を撫でて宥めているのを見ながら最後の一口を飲み込む。
ゴミ箱へ空になった缶を捨てて顔を上げれば、何故か真田がリードを持つのとは逆の手を差し出していた。
「……俺はもう手を繋ぐような歳じゃねぇんですけど」
「オレから見れば年下だ」
溜め息を吐いてその手を握る。何が楽しくて高校生にもなって同じ男子高校生と手を繋がなければならないのかと思ったものの、よく考えればアマネも相手を年下だと判断すれば近いことを頻繁にやっていたことを思い出した。
「天田とも時々手を繋ぐんだが、やっぱり違うな」
「伊織先輩と繋いだらどうですか」
「アイツはこういうことをしていいヤツじゃない」
ではアマネは真田にとってこういう事をしていい相手なのか。真田の基準が良く分からない。
その後、寮へ帰ってつい手を繋いだまま玄関を潜ったら有里と桐条に見られ、何故だか『自分も手を繋ぎたい』と二人に羨ましがられた。
ブラウニーを作って紙袋へ入れ、ベルベットルームへ行こうとしたところでラウンジへ降りてきた真田に声を掛けられた。
「丁度良かった。コロマルの散歩に行こうと思ったんだが一緒に……何処か行くのか?」
「ポロニアンモールへちょっと。でもそれなら渡したらすぐに戻ってきますよ」
「いや、用があるのなら構わん。たまには話をしようと思っただけだしな」
真田の様子からして本当に気まぐれのようだ。有里もそうだが、真田もアマネのことを色々気に掛けてくれている。
それでも真田が散歩へ行く仕度をしている間に寮を出て、アマネは駆け足でポロニアンモールにあるベルベットルームの扉を潜った。試験日の時の事など忘れたとばかりに落ち着いた挨拶を返してきたイゴールへ、言いたいことはあったものの作ったブラウニーを渡してベルベットルームを出る。
その足でコロマルの散歩コースである長鳴神社へと行けば、思った通りコロマルを遊ばせている真田がいた。
匂いでか足音でか、アマネが来たことに気付いたコロマルが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
「結局来たのか。用事は平気なのか?」
「ブラウニーを渡しに行っただけですから。それに、先輩の誘いを無碍にも出来ねぇでしょう?」
コロマルを撫でる為に片膝を突いていた姿勢から立ち上がれば、真田の手が手以外に唯一外気へ晒されているアマネの顔に伸びてきた。思ったよりも暖かい。
見れば反対の手にタブの開いた缶珈琲が握られていた。手が暖かいのはそのせいか。
「まいったな。そんな大した話でもないんだ」
手を引いた真田がそう言ったものの、改めて話しかけてくるときに大した話ではなかった例が無いのだが。そのことは言わずにアマネも自販機へ近付いて小銭を入れる。
ガコン、と鈍い音を立てて落ちてきたホットの紅茶の缶。上着のポケットへ押し込んで暖を取った。
コロマルが再び自由に遊びに行く。
「ただ、『自殺を考える』ほど『死ぬ』ことについて考えた理由が気になっただけなんだ」
望月が居なくなってから丁度一週間経った後の話し合いで自分がそう言ったのを思い出し、アマネはやはりと思う。
やはり、真田は意図せずアマネの深い部分を抉ってくるのだ。
空の半分を雲が覆っていた。雨雲や雪雲では無さそうだが、明日も曇るのであれば洗濯物が乾かなくて困る。
「……聞かねぇでくれますか」
「嫌な話だったか?」
「まぁ、普通自殺を考えてた話なんてあまり言いてぇとは思わねぇでしょう。とりあえず今は自殺を考えてねぇってことで納得してください」
「じゃあ質問を変えよう。何があったんだ?」
あまり変わっていない質問だなと思いつつ、ポケットから紅茶の缶を出してプルタブを起こす。こういうものは暖かいうちに飲まないと美味しくない。
「……多分、広すぎたんですよ。目に見える場所には誰も居なくて」
「広い?」
「一人しか居ねぇ部屋は、広いでしょう?」
「寂しかったのか?」
「寂しい……ああ、そういう表現が正しいんですかねぇ? ちょっと分かんねぇんですけど」
「普段は驚くほど察しがいいのに、意外と鈍いんだな」
意外にとはなんだ、とは言えずに曖昧に返す。
「それでも考えたのなら、よほど極限状態だったのか……」
「先輩?」
何か呟いたようだったが近くを通った車のタイヤ音のせいで聞こえず、何か言ったかと聞き返したときには真田はもうなんでも無いという顔をしていた。缶珈琲を飲み干して、自販機の横のゴミ箱へ捨てる姿に慌ててアマネも紅茶に口を付ける。
まだ暖かいというより熱いに近い紅茶は、大量生産の安物で一気に飲み干すには甘い匂いがきつい。それでも何とか飲んでいるところでコロマルが満足したように戻ってきた。
その首にリードを繋げて真田が振り返る。
「無理して飲まなくていいぞ。そのくらい待ってやるから」
「本当ですか?」
「ああ」
コロマルがリードの先を掴んでいる真田を引っ張るようにしてアマネの傍へと来た。それも急かされているように見えてアマネは困るのだが、しゃがんだ真田がコロマルの背を撫でて宥めているのを見ながら最後の一口を飲み込む。
ゴミ箱へ空になった缶を捨てて顔を上げれば、何故か真田がリードを持つのとは逆の手を差し出していた。
「……俺はもう手を繋ぐような歳じゃねぇんですけど」
「オレから見れば年下だ」
溜め息を吐いてその手を握る。何が楽しくて高校生にもなって同じ男子高校生と手を繋がなければならないのかと思ったものの、よく考えればアマネも相手を年下だと判断すれば近いことを頻繁にやっていたことを思い出した。
「天田とも時々手を繋ぐんだが、やっぱり違うな」
「伊織先輩と繋いだらどうですか」
「アイツはこういうことをしていいヤツじゃない」
ではアマネは真田にとってこういう事をしていい相手なのか。真田の基準が良く分からない。
その後、寮へ帰ってつい手を繋いだまま玄関を潜ったら有里と桐条に見られ、何故だか『自分も手を繋ぎたい』と二人に羨ましがられた。