昼間、美鶴にふと尋ねられた。
『この歳にして、生死に関して、こんな難題を課せられると思ったことがあるか』
ある、と答えるには美鶴は有里ほどアマネの事情には詳しくは無かった為、返事に戸惑っていたら美鶴は勝手に納得して去っていった。
あの時、有無だけであれば答えても良かったなと寮のラウンジへ集まる寮生達を見てアマネは思う。
衝撃的な事実を知って一週間。そろそろ冷静に話してみないかという美鶴の提案によって集められた話し合いは、当然ながら未だに全員ショックが抜けておらず、冷静なフリをしてはいても真実冷静そうだったのは、既に『決めて』しまっているアマネくらいだった。
「『死ぬ』って話だぞ！　怖いに決まってんだろ⁉　みんなも何ゴリッパな事言ってんだよ！　『絶対死ぬ』って意味、考えたんかよ⁉」
「考えましたよ」
皆の冷静なフリに苛々して怒鳴る伊織へアマネは答える。途端、皆の視線がアマネへと集まった。
「考えました。今までに何度も。数回は自殺さえ考えるほどに、真剣に、一生を賭けて、考えたことがあります」
「斑鳩……」
わざとゆっくり区切って、伊織の目を見つめて話す。
「それでも、今でも『死ぬ』ことの意味なんて見出せねぇ。自殺だけは、友人達が怒るからしようとはしなくなりました。ただ、『絶対死ぬ』のであれば、それすら利用しようと俺は考えます」
「利用？　……利用ったって、オレに出来る事なんか無いだろ……殺せんのは、抱えてたコイツだけなんだし。湊……。大体、オマエのせいじゃんか……そんなエラいもん抱えながら、気付きもしねえでさ……オマエが育てちまったんだろ！　オマエのせいみたいなモンじゃねえか！」
矛先が有里に向いて、思わずアマネは伊織を殴ろうと立ち上がりかけたが、隣へ座っていたその有里がアマネを止めた。
「何とかしろよ！　オマエ『特別』なんだろっ⁉」
そんな事を言ったら、アマネだって誰も言わないだけで『特別』だ。
岳羽が伊織を止めることでなんとか落ち着きは取り戻したものの、伊織は色々納まっていない。頭では理解していても感情が追い着かないのは、言葉にしないだけで伊織だけではなかった。
一週間程度で整理しようとするには、この議題は重い。
「よし……もうこういう半端な集まりは無しだ。どのみち、彼が再び現れるのは大晦日だ。それまでは普段通り過ごす事にしよう。まだ時間はある。それまで……よく考えてくれ」
美鶴の号令で、皆がそれぞれ立ち上がって散っていく。
アマネは、平気そうな顔をしていたくせに内心では伊織に言われて傷ついていたらしい有里に服を掴まれていて、暫く立ち上がれなかった。