ペルソナ3
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アイギスを桐条財閥の職員が迎えに来て研究所へと連れて帰った。窓からそれを眺めていたアマネは、暫くしてノックされる音にドアへと向かう。
開けた先には美鶴。
「望月は……どうだ?」
「眠ってます。まだ目覚める様子も無ぇですね」
肩越しに振り返ったアマネのベッドの上には望月が眠っていた。あれから日が昇り午前中も半ばを過ぎたのだが、望月に目覚める様子は無い。
アイギスを修理に出す為の引取りを待っていた美鶴とアマネだけが寮へ残っている。他の面々は試験が近いこともあって学校へと行っていた。
本来ならアマネも学校へ行くべきだったのだが、望月へ自室のベッドを貸している関係から自習休学させてもらったのである。美鶴は生徒会の仕事もあって、これから学校へ行くという。
「キッチンに弁当箱ありますから」
「それはいいんだが……大丈夫か?」
「泣きそうです」
正直に言ってみたら、ひどく曖昧な顔をされた。
美鶴を促して部屋を出て、後ろ手にドアを閉める。それから深く息を吐いてその場に蹲った。
「桐条先輩。俺は、アイギスさんの不自然な挙動に気付いてたんです。だから一昨日、俺はアイギスさんが『ダメ』って言っている綾時さんを探して、ムーンライトブリッジで会って、その時にはもうあの人が『普通』の人じゃねぇって気付いてたんです。でもどうすりゃいいのかは分かってなかったぁ。綾時さんも俺の事を『友達』って言ってたくせに、本当のところは『お兄さん』とか、言われ慣れてるけどお前このタイミングで言うのかよとか、切り捨てさせる為にそういう言い方何処で学んだんだよとか……」
「ちょっと待て。望月がシャドウなのに気付いていたのか?」
「五感がいいんです」
以前にも似たようなことを言った気がする。
何がショックだったのかと言われれば、望月がシャドウだったことではなく、望月がアマネの事を羨んでいたという事だ。
羨ましがれるような生き方をした覚えはない。少なくとも、そう容易い人生も送ったことは無かった。
「……そういう話も、彼が目覚めてからにしよう」
「目覚めたら先輩の携帯へ連絡します」
立ち上がってそう答えて、アマネは学校へ行く為に去っていく美鶴へ頭を下げる。彼女の姿が見えなくなってからもう一度深く溜め息を吐いて、部屋の中へと戻った。
ベッドの上では望月が深く眠っている。その枕元の床に腰を降ろしてベッドへ寄りかかった。少し首を動かせば望月が寝ているのが見える。
「……一度拾ったものを、俺は見捨てたくねぇんだよ。ファルロス」
「……。ファルロスじゃないってば」
眠そうにゆっくり目蓋を開いた望月は、此処が何処だか分かっていなそうな様子で天井や部屋を見回して、最後に床に座っているアマネを見て身体ごと横を向いた。
「体調はぁ?」
「平気」
「腹はぁ」
「大丈夫」
「気分はぁ」
「……あまり良くない、かな」
布団に顔を隠す様にして俯く望月に、アマネも向き合う形に姿勢を変えて手を伸ばす。相変わらず、暖かくも冷たくも無い体温をしている。
「……平熱」
「熱なんて出ないよ。……『人』じゃないんだから」
「俺から見たら、アンタは立派な人ですよ」
「敬語だったりタメ口だったりするね」
「ファルロスへ話し掛けるならタメ口。綾時さんに話し掛けるなら敬語です」
その敬語だって崩れているものだが。
薄い墨のような色をした目がアマネへ向けられる。一瞬だけ青く見えたそれから目を逸らさずにいれば、望月は泣きそうな笑みを浮かべた。
「ごめんね」
「謝られる理由が分かんねぇです」
本心からそう言ったのに、望月はそうは思わなかったらしい。泣きそうな笑みを深くする。
泣きたいのはこっちだとはアマネには言えなかった。月光館学園へ入学したせいでペルソナ使いなんてものになって、毎月生死を賭けた戦いを行って、その結果出来た友達が『人』じゃありませんでしたなんて、『昔』出来た朱色の弟分よりも酷い。
それでも、謝られるのは間違っている。
アマネが自分でこうなりたくて生まれた訳ではないように、望月だって『宣告者』なんてものになりたかった訳ではないだろう。
望月は言っていたではないか。シャドウが集められて自分が生まれたのだと。
シャドウが集められなければ、誰かが集めようなんてしなければ、こうして言葉を交わすどころか生まれることすら無かった存在。
望月もアマネも、自分の意思でその世界や場所を選んだ訳でも、使命を選んで生まれた訳でもない。自分を含めた生き物は、誰かに生み落とされただけなのだ。
だから、望月が謝る必要性は、無い。
「桐条先輩が、綾時さんが目覚めたら連絡くれって言ってたんですけど、今連絡してもとんぼ返りになっちまうし、もう一眠りしていいですよ」
「……うん」
話題を変えるようにそう言えば、望月は頷いて布団を引き上げる。望月が寝たら自分達とコロマルの昼飯と、夕食の下拵えをしに行こうと思ってその布団を軽く叩いた。
部屋を出るとコロマルが床に伏せていて、アマネに気付いて起き上がる。その鼻面を撫でてやれば逆に慰めるように掌を舐められた。
開けた先には美鶴。
「望月は……どうだ?」
「眠ってます。まだ目覚める様子も無ぇですね」
肩越しに振り返ったアマネのベッドの上には望月が眠っていた。あれから日が昇り午前中も半ばを過ぎたのだが、望月に目覚める様子は無い。
アイギスを修理に出す為の引取りを待っていた美鶴とアマネだけが寮へ残っている。他の面々は試験が近いこともあって学校へと行っていた。
本来ならアマネも学校へ行くべきだったのだが、望月へ自室のベッドを貸している関係から自習休学させてもらったのである。美鶴は生徒会の仕事もあって、これから学校へ行くという。
「キッチンに弁当箱ありますから」
「それはいいんだが……大丈夫か?」
「泣きそうです」
正直に言ってみたら、ひどく曖昧な顔をされた。
美鶴を促して部屋を出て、後ろ手にドアを閉める。それから深く息を吐いてその場に蹲った。
「桐条先輩。俺は、アイギスさんの不自然な挙動に気付いてたんです。だから一昨日、俺はアイギスさんが『ダメ』って言っている綾時さんを探して、ムーンライトブリッジで会って、その時にはもうあの人が『普通』の人じゃねぇって気付いてたんです。でもどうすりゃいいのかは分かってなかったぁ。綾時さんも俺の事を『友達』って言ってたくせに、本当のところは『お兄さん』とか、言われ慣れてるけどお前このタイミングで言うのかよとか、切り捨てさせる為にそういう言い方何処で学んだんだよとか……」
「ちょっと待て。望月がシャドウなのに気付いていたのか?」
「五感がいいんです」
以前にも似たようなことを言った気がする。
何がショックだったのかと言われれば、望月がシャドウだったことではなく、望月がアマネの事を羨んでいたという事だ。
羨ましがれるような生き方をした覚えはない。少なくとも、そう容易い人生も送ったことは無かった。
「……そういう話も、彼が目覚めてからにしよう」
「目覚めたら先輩の携帯へ連絡します」
立ち上がってそう答えて、アマネは学校へ行く為に去っていく美鶴へ頭を下げる。彼女の姿が見えなくなってからもう一度深く溜め息を吐いて、部屋の中へと戻った。
ベッドの上では望月が深く眠っている。その枕元の床に腰を降ろしてベッドへ寄りかかった。少し首を動かせば望月が寝ているのが見える。
「……一度拾ったものを、俺は見捨てたくねぇんだよ。ファルロス」
「……。ファルロスじゃないってば」
眠そうにゆっくり目蓋を開いた望月は、此処が何処だか分かっていなそうな様子で天井や部屋を見回して、最後に床に座っているアマネを見て身体ごと横を向いた。
「体調はぁ?」
「平気」
「腹はぁ」
「大丈夫」
「気分はぁ」
「……あまり良くない、かな」
布団に顔を隠す様にして俯く望月に、アマネも向き合う形に姿勢を変えて手を伸ばす。相変わらず、暖かくも冷たくも無い体温をしている。
「……平熱」
「熱なんて出ないよ。……『人』じゃないんだから」
「俺から見たら、アンタは立派な人ですよ」
「敬語だったりタメ口だったりするね」
「ファルロスへ話し掛けるならタメ口。綾時さんに話し掛けるなら敬語です」
その敬語だって崩れているものだが。
薄い墨のような色をした目がアマネへ向けられる。一瞬だけ青く見えたそれから目を逸らさずにいれば、望月は泣きそうな笑みを浮かべた。
「ごめんね」
「謝られる理由が分かんねぇです」
本心からそう言ったのに、望月はそうは思わなかったらしい。泣きそうな笑みを深くする。
泣きたいのはこっちだとはアマネには言えなかった。月光館学園へ入学したせいでペルソナ使いなんてものになって、毎月生死を賭けた戦いを行って、その結果出来た友達が『人』じゃありませんでしたなんて、『昔』出来た朱色の弟分よりも酷い。
それでも、謝られるのは間違っている。
アマネが自分でこうなりたくて生まれた訳ではないように、望月だって『宣告者』なんてものになりたかった訳ではないだろう。
望月は言っていたではないか。シャドウが集められて自分が生まれたのだと。
シャドウが集められなければ、誰かが集めようなんてしなければ、こうして言葉を交わすどころか生まれることすら無かった存在。
望月もアマネも、自分の意思でその世界や場所を選んだ訳でも、使命を選んで生まれた訳でもない。自分を含めた生き物は、誰かに生み落とされただけなのだ。
だから、望月が謝る必要性は、無い。
「桐条先輩が、綾時さんが目覚めたら連絡くれって言ってたんですけど、今連絡してもとんぼ返りになっちまうし、もう一眠りしていいですよ」
「……うん」
話題を変えるようにそう言えば、望月は頷いて布団を引き上げる。望月が寝たら自分達とコロマルの昼飯と、夕食の下拵えをしに行こうと思ってその布団を軽く叩いた。
部屋を出るとコロマルが床に伏せていて、アマネに気付いて起き上がる。その鼻面を撫でてやれば逆に慰めるように掌を舐められた。