ペルソナ3
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東の空に上り始めた満月を窓から見て、アマネは誰にも見られないように寮を出た。行き先は昨夜望月と出会ったムーンライトブリッジである。
対シャドウの武器であるナイフも召喚器も持たなかった。白い息が後ろへと流れていくのをそれとはなしに眺めながら、夜の道路を走る。
アマネはどちらかというと寒いのは苦手だ。だから本当は、こんな十二月の深夜に外を出歩くなんてしたくない。
だというのに望月に、会いに行かないといけないのである。
寒さのせいで走るのも嫌になって、結局歩いて向かった先のムーンライトブリッジでは、アマネよりも先に来て望月を倒そうとしていたらしいアイギスが倒れていた。大小様々なパーツが散らばり、それでも立ち上がろうと地面に手を突く後ろ姿に、アマネは近付いて飛び散っているパーツの一つを拾い上げる。
「二人とも、もうやめてください」
望月とアイギスがアマネに気付いて振り向いた。
「アマネ君……どうして……」
ここにアマネがいることに驚いているらしい望月へ向けて笑みを浮かべ、アマネはしゃがんでアイギスの身体を抱きかかえる。自力ではもう動けそうに無いほど損傷を受けているアイギスは、アマネに支えられて困ったようにアマネを見上げた。
「アマネさん……ごめんなさい」
「何を謝るんですか。謝るなら、気付けなかった俺の方でしょう」
アイギスを抱えたまま望月を見れば、望月はまっすぐにアマネを見つめている。
二人がどうして対峙していたのかは、正直アマネには分かっていない。落ち着いているフリをして内心では混乱していたのだが、状況的に望月がアイギスを破壊したのだろう事は分かる。
ペルソナも持つ人より頑丈なアイギスをどうやって。
おそらく、『シャドウの力』を使ってなのだろう。
昨日この場所で望月が姿を消した時、ほんの僅かにだけれどシャドウが消滅する時やファルロスが消える時と同じ感覚を覚えた。そうでなくとも車のライトで目が眩んだ一瞬で姿を消すなんて事が、アマネでもない普通の人間に出来るとは思えない。
しかしその考えを肯定した場合、望月は『シャドウ』なのである。
そしてアマネは、望月以外に一人、そういう存在に覚えがあった。
「……久しぶりって、言うべきかぁ? ファルロス」
「……今はもう、望月綾時だよ」
悲しげに、というよりは寂しげに微笑む姿は、かつてアマネを友達だと呼んだファルロスにとてもよく似ている。
それも当たり前なのだろう。彼は同じなのだから。道理で望月がアマネに親しくしようとした訳である。
「どうして僕は、あんなに君と友達になりたかったのか。思い出した今なら分かるんだ」
「友達になるのに理由はいらねぇと」
「本当は、友達になりたかったんじゃない。君を、『お兄さん』のように思ってたんだ」
アイギスの身体から、普段であれば聞こえない耳障りな稼動音が聞こえる。
「君が羨ましかったんだ。君だって“母なるものに関わる存在”だったのに、僕と違ってちゃんとした人間で、そうやって生きていて、僕と違って、死ぬ為に生まれた訳じゃない」
望月がマフラーを軽く握った。
「でもそう思うことは、今になっては甘えだったみたい。……ごめんね」
「俺は迷惑だと思ってなかったぁ。今だって思って無ぇですよ」
「そう」
喜びでも疑問視でもないただの相槌。
後ろから誰かが走ってくる足音がする。振り返れば、アマネとアマネが抱えているアイギスの姿が見えたのか、有里達が驚いた様子で駆けつけてきた。
「アイギスッ⁉」
山岸と岳羽が傍に来てアイギスの様子を窺う。有里も来て目の前でしゃがんだ。
「すみません、わたし……わたし、全部思い出した……わたしが誰なのか……『彼』が……誰なのか」
アイギスが、ボロボロの手を有里へと差し伸べた。触れれば崩れてしまいそうなその手を有里がそっと握る。
もっと早くアマネが来ていれば、こうなる事はなかっただろうか。
「湊さん……あなたの傍に居たかった理由も、分かったの。ごめんなさい……わたし、やっぱり勝てなかった……ごめん、なさい……」
「君が謝る必要なんてない」
今まで黙っていた望月が口を開き、そこで初めて望月が居る事に気づいたらしい伊織が声を上げる。アマネはアイギスの顔の汚れをそっと指先で拭った。
アイギスから聞こえていた稼動音が止まる。眼に光が無くなり、完全に機能が停止したことが分かった。
「……君は何者だ?」
「僕は……君たちが『シャドウ』と呼ぶものと、ほぼ同じ存在なんだ」
胸元を握るように服を掴む望月。
今までの満月で倒してきた大型シャドウ。十二の『アルカナ』が全て交わることで生まれる『宣告者』。望月は自身の事をそう説明した。
望月の話を聞きながら、アマネは望月の姿を見つめる。殆ど目の前に居るというのに、こんなにも遠いと思ったことは久しぶりだった。
「シャドウたちの目的。それは『母なるもの』の復活なんだ。『死の宣告者』……その存在に引き寄せられて、『母なるもの』の目覚めは始まる」
「死の宣告者…それが、君だというのか?」
「そう……」
美鶴の質問に頷いた望月がアマネを見る。
「『母なるもの』って、いったい……」
「大いなるものさ。君たちの言語には、当てはまる言葉は無い」
アマネへ向けられた望月の意味深な視線。
「十年前、一人の人間の手によって無数のシャドウが一つの場所に集められた。そこで僕は生まれたんだ。……でも結合は、何故か急に中断されてね。僕は不完全なままで目を覚ました。そして僕はアイギスと相打ちになった」
視線が逸らされるのに振り返れば、有里達が呆然として望月の話の続きを待っていた。
「彼女は、僕を封印しようと捨て身で挑んだ。そして僕は、たまたまそこに居た一人の子供の中に封印された。その子供は僕を宿したまま成長し、運命の悪戯で再びその地へ戻って来たんだ。君たちの学園に……転入生としてね」
「転入生って、ま、まさか……」
皆の視線が有里へ集まる。当の本人は傍目には少し驚いている程度にしか思えない反応をしていたが、あれはきっとひどく驚いているのだろう。
アマネは望月の正体がファルロスだった時点で少なからず勘付いていた。だって望月だったファルロスはアマネよりも先に有里と接触していたのだ。何も無いのであれば有里と接触する必要なんて無い。
それを言えば、アマネとも『友達になる』必要なんてファルロスには無かったのだろうが。
信じられないと怒鳴る伊織に、望月はそれでも淡々と事実を語る。全て自分が原因だといった直後、望月の身体から力が抜けてふらりとよろめいた。
「綾時くんっ!」
アイギスを岳羽へ渡して、アマネは思わず駆け出す。何とか望月が地面へ倒れる前にその身体を抱き留めることが出来た。
暖かくも冷たくもない、体温。
「ひどく消耗しているようだな……。今日のところは、引き上げて休ませよう。アイギスの件もある。話の続きはその後だ」
桐条が出したとりあえずの指示に従って、山岸達がアイギスの散らばったパーツを集め始める。望月を支えたままそれを眺めていたアマネの元へ、真田が近付いてきた。
「ソイツも寮へ運ぼう。放置は出来ないしな」
「俺が運んでもいいですか?」
「斑鳩も知り合いだったのか?」
「『友達』なんです」
真田はアマネのその発言について追究しようとはしてこず、アマネが運ぶのならばと背負うのを手伝ってくれる。パーツもある程度集め終え、アイギスの身体を真田が背負ってそれぞれ歩き出した。
誰も、アマネと望月の関係については聞いてこない。それがありがたかったし、少し申し訳なくも思う。仲が良かった理由を今は説明出来る気がしなかった。
そうすればアマネは、いったい『何』なのだろうという話になりそうだったから。
対シャドウの武器であるナイフも召喚器も持たなかった。白い息が後ろへと流れていくのをそれとはなしに眺めながら、夜の道路を走る。
アマネはどちらかというと寒いのは苦手だ。だから本当は、こんな十二月の深夜に外を出歩くなんてしたくない。
だというのに望月に、会いに行かないといけないのである。
寒さのせいで走るのも嫌になって、結局歩いて向かった先のムーンライトブリッジでは、アマネよりも先に来て望月を倒そうとしていたらしいアイギスが倒れていた。大小様々なパーツが散らばり、それでも立ち上がろうと地面に手を突く後ろ姿に、アマネは近付いて飛び散っているパーツの一つを拾い上げる。
「二人とも、もうやめてください」
望月とアイギスがアマネに気付いて振り向いた。
「アマネ君……どうして……」
ここにアマネがいることに驚いているらしい望月へ向けて笑みを浮かべ、アマネはしゃがんでアイギスの身体を抱きかかえる。自力ではもう動けそうに無いほど損傷を受けているアイギスは、アマネに支えられて困ったようにアマネを見上げた。
「アマネさん……ごめんなさい」
「何を謝るんですか。謝るなら、気付けなかった俺の方でしょう」
アイギスを抱えたまま望月を見れば、望月はまっすぐにアマネを見つめている。
二人がどうして対峙していたのかは、正直アマネには分かっていない。落ち着いているフリをして内心では混乱していたのだが、状況的に望月がアイギスを破壊したのだろう事は分かる。
ペルソナも持つ人より頑丈なアイギスをどうやって。
おそらく、『シャドウの力』を使ってなのだろう。
昨日この場所で望月が姿を消した時、ほんの僅かにだけれどシャドウが消滅する時やファルロスが消える時と同じ感覚を覚えた。そうでなくとも車のライトで目が眩んだ一瞬で姿を消すなんて事が、アマネでもない普通の人間に出来るとは思えない。
しかしその考えを肯定した場合、望月は『シャドウ』なのである。
そしてアマネは、望月以外に一人、そういう存在に覚えがあった。
「……久しぶりって、言うべきかぁ? ファルロス」
「……今はもう、望月綾時だよ」
悲しげに、というよりは寂しげに微笑む姿は、かつてアマネを友達だと呼んだファルロスにとてもよく似ている。
それも当たり前なのだろう。彼は同じなのだから。道理で望月がアマネに親しくしようとした訳である。
「どうして僕は、あんなに君と友達になりたかったのか。思い出した今なら分かるんだ」
「友達になるのに理由はいらねぇと」
「本当は、友達になりたかったんじゃない。君を、『お兄さん』のように思ってたんだ」
アイギスの身体から、普段であれば聞こえない耳障りな稼動音が聞こえる。
「君が羨ましかったんだ。君だって“母なるものに関わる存在”だったのに、僕と違ってちゃんとした人間で、そうやって生きていて、僕と違って、死ぬ為に生まれた訳じゃない」
望月がマフラーを軽く握った。
「でもそう思うことは、今になっては甘えだったみたい。……ごめんね」
「俺は迷惑だと思ってなかったぁ。今だって思って無ぇですよ」
「そう」
喜びでも疑問視でもないただの相槌。
後ろから誰かが走ってくる足音がする。振り返れば、アマネとアマネが抱えているアイギスの姿が見えたのか、有里達が驚いた様子で駆けつけてきた。
「アイギスッ⁉」
山岸と岳羽が傍に来てアイギスの様子を窺う。有里も来て目の前でしゃがんだ。
「すみません、わたし……わたし、全部思い出した……わたしが誰なのか……『彼』が……誰なのか」
アイギスが、ボロボロの手を有里へと差し伸べた。触れれば崩れてしまいそうなその手を有里がそっと握る。
もっと早くアマネが来ていれば、こうなる事はなかっただろうか。
「湊さん……あなたの傍に居たかった理由も、分かったの。ごめんなさい……わたし、やっぱり勝てなかった……ごめん、なさい……」
「君が謝る必要なんてない」
今まで黙っていた望月が口を開き、そこで初めて望月が居る事に気づいたらしい伊織が声を上げる。アマネはアイギスの顔の汚れをそっと指先で拭った。
アイギスから聞こえていた稼動音が止まる。眼に光が無くなり、完全に機能が停止したことが分かった。
「……君は何者だ?」
「僕は……君たちが『シャドウ』と呼ぶものと、ほぼ同じ存在なんだ」
胸元を握るように服を掴む望月。
今までの満月で倒してきた大型シャドウ。十二の『アルカナ』が全て交わることで生まれる『宣告者』。望月は自身の事をそう説明した。
望月の話を聞きながら、アマネは望月の姿を見つめる。殆ど目の前に居るというのに、こんなにも遠いと思ったことは久しぶりだった。
「シャドウたちの目的。それは『母なるもの』の復活なんだ。『死の宣告者』……その存在に引き寄せられて、『母なるもの』の目覚めは始まる」
「死の宣告者…それが、君だというのか?」
「そう……」
美鶴の質問に頷いた望月がアマネを見る。
「『母なるもの』って、いったい……」
「大いなるものさ。君たちの言語には、当てはまる言葉は無い」
アマネへ向けられた望月の意味深な視線。
「十年前、一人の人間の手によって無数のシャドウが一つの場所に集められた。そこで僕は生まれたんだ。……でも結合は、何故か急に中断されてね。僕は不完全なままで目を覚ました。そして僕はアイギスと相打ちになった」
視線が逸らされるのに振り返れば、有里達が呆然として望月の話の続きを待っていた。
「彼女は、僕を封印しようと捨て身で挑んだ。そして僕は、たまたまそこに居た一人の子供の中に封印された。その子供は僕を宿したまま成長し、運命の悪戯で再びその地へ戻って来たんだ。君たちの学園に……転入生としてね」
「転入生って、ま、まさか……」
皆の視線が有里へ集まる。当の本人は傍目には少し驚いている程度にしか思えない反応をしていたが、あれはきっとひどく驚いているのだろう。
アマネは望月の正体がファルロスだった時点で少なからず勘付いていた。だって望月だったファルロスはアマネよりも先に有里と接触していたのだ。何も無いのであれば有里と接触する必要なんて無い。
それを言えば、アマネとも『友達になる』必要なんてファルロスには無かったのだろうが。
信じられないと怒鳴る伊織に、望月はそれでも淡々と事実を語る。全て自分が原因だといった直後、望月の身体から力が抜けてふらりとよろめいた。
「綾時くんっ!」
アイギスを岳羽へ渡して、アマネは思わず駆け出す。何とか望月が地面へ倒れる前にその身体を抱き留めることが出来た。
暖かくも冷たくもない、体温。
「ひどく消耗しているようだな……。今日のところは、引き上げて休ませよう。アイギスの件もある。話の続きはその後だ」
桐条が出したとりあえずの指示に従って、山岸達がアイギスの散らばったパーツを集め始める。望月を支えたままそれを眺めていたアマネの元へ、真田が近付いてきた。
「ソイツも寮へ運ぼう。放置は出来ないしな」
「俺が運んでもいいですか?」
「斑鳩も知り合いだったのか?」
「『友達』なんです」
真田はアマネのその発言について追究しようとはしてこず、アマネが運ぶのならばと背負うのを手伝ってくれる。パーツもある程度集め終え、アイギスの身体を真田が背負ってそれぞれ歩き出した。
誰も、アマネと望月の関係については聞いてこない。それがありがたかったし、少し申し訳なくも思う。仲が良かった理由を今は説明出来る気がしなかった。
そうすればアマネは、いったい『何』なのだろうという話になりそうだったから。