ペルソナ3
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隔年毎の二三年合同修学旅行が近付いてきて、生徒会の役職持ちがその旅行へ行ってしまう上、事前準備にと生徒会はここ連日忙しいらしい。帰りのホームルームが長引いたせいで生徒会の会計をしている伏見が、焦りながら荷物を鞄へ納めている。
生徒会長である美鶴は、昨夜アマネと話した後もまだ沈んでいるようだった。アマネの慰め程度で持ち直すとも思っていなかったのでそれは構わない。そもそも慰めですらなかった。
ただ、その無気力状態で旅行は楽しめないだろうと思う。
「伏見君、いるか?」
「お、小田桐先輩」
教室の戸が開いて先輩らしい男子学生が顔を覗かせた。伏見が反応した辺り、彼も生徒会の人間なのだろう。良く見れば全校総会などで美鶴の隣に立っていた気がする。
「すまないが生徒会室へ来る前に会長を探してくれないか?」
「いないんですか?」
「ホームルームは終わっていたようだが姿が見つからなくてな。暇を持て余していそうな輩にも声を掛けて探させているところなのだが……」
「あの、俺も手伝いましょうか?」
「君は?」
「斑鳩です。桐条先輩と同じ寮の」
巌戸台分寮が一般生徒へどう認識されているのか知らないが、そう説明すればその男子学生は納得したように頷いた。
「ああ、なら頼んでもいいか? すまないな」
小田桐というらしい先輩は忙しなく教室を出て行く。恐らく他にも探しに行くのだろう。
鞄を胸元へ抱えたままの伏見を振り返れば、伏見は申し訳なさそうな顔をしていた。
「ご、ごめんなさい。斑鳩君は関係ないのに……」
「雑用を苦だと思ってねぇし、伏見さんが悪ぃ訳じゃねぇだろぉ?」
「そーそー! それに桐条生徒会長だぜ? あのしっかりきっちりした人が、生徒会の仕事忘れて帰ってるなんて事はないだろうし、ちょっとした散歩だって」
「……って佐藤は言ってるし、伏見さんは生徒会室へ行っていいぜぇ。俺等で探すから」
「って、ちょっと待て斑鳩。オレも⁉」
「ちょっとした散歩なんだろぉ?」
座っていた椅子を前後に揺らしながら叫んだ佐藤を振り返れば、佐藤はガックリとうな垂れながら立ち上がる。茶々を入れた後の責任感があるのはいいことだ。
鞄は教室に置きっ放しにして、伏見には生徒会室へ行ってもらい佐藤と別れて校舎を探す。どちらかが見つけたり生徒会室へ美鶴が戻ってきたりしたら、それぞれへメールすることだけ決めておいた。
放課後の校舎はだんだんと生徒の数が減っていく。部活へ行ったり家へ帰ったりと理由はそれぞれだが、文化部でもない限り校舎に残り続ける生徒はいない。
一階や通路のほうを見に行くと言った佐藤と別れ、アマネは上の階や屋上を探す為に階段を昇る。
屋上の扉を開けると、外の冷たい風が顔に体当たりしてくる。そういえば屋上に来た事はあまり無かったなと思いながら人の姿が無いかを確認していると、黄色いものが視界をよぎった。
「……あれ? どちら様?」
それが首に巻かれたマフラーだと気付く前に、そのマフラーの持ち主が顔を上げる。ちゃんとした月光館の制服ではなく、オールバックな髪型の、男子生徒。
見覚えが無いあたり二年生か三年生だろう。しかし制服ではないところを考えると、この前二年に来たという帰国子女の転校生かもしれない。
サスペンダーと白いシャツ、日に焼けていない肌がモノトーンな印象を与えるというのに、首へ巻かれた黄色いマフラーがよく目立つ。
首を傾げながらもにこりと微笑む姿に、アマネもどうしてだか嬉しくて微笑んだ。
「……一年の、斑鳩周です。生徒会長を探しに来たんですけれど」
「会長さんならさっき行ったよ」
「みてぇですね」
ポケットの中の携帯が震えて着信を告げている。多分伏見からだろう。だったらアマネは屋上から立ち去っていいはずなのに、立ち去る気にはなれなかった。
「この前来たって言う、二年の転校生の方ですか?」
「うん、分かる? 制服がまだ準備できなくてね」
マフラーを弄りながら近付いてくる彼は、屋上の出入り口を塞いでしまっているアマネの前で止まると顔を覗きこんでくる。
墨のように薄い黒色の眼が一瞬青く見えた。
左眼の下へある泣きボクロが目に付く。それに見覚えのある気がして、アマネが何処で見たのかを思い出そうとしていると、目の前の彼は無邪気そうに笑った。
「僕ね、望月綾時。君のこと、アマネ君って呼んでいい?」
「……いいですよ」
「ほんとう? あ、僕のことは綾時でいいよ!」
ニコニコと笑う望月に、アマネは彼が『誰』に似ているのか思い至る。
影時間だけに会えた、アマネと『友達』であろうとした少年。ファルロスだ。
最後の大型シャドウを倒す前に会ったきり、会っていないその少年に望月は似ている。泣きボクロの位置や、雰囲気が。
「アマネ君は不思議だね。なんだか初めて会った気がしないや」
望月はまじまじとアマネを観察している。それをあまり不快に思わなかったのは、無意識に望月をファルロスと重ねて彼を見た目よりも幼い子供のように見ているからか。
少なくともアマネは望月を、外見年齢通りに見ていない。
そのことに気付いて内心首を傾げる。いくらファルロスに似ているからとは言え、初対面の先輩にそう思うのはおかしかった。
そんなアマネに気付かず望月は嬉しそうに喋っている。
彼が嬉しそうなら別にいいかと、アマネは内心に沸いたその疑問を無視する事にした。
生徒会長である美鶴は、昨夜アマネと話した後もまだ沈んでいるようだった。アマネの慰め程度で持ち直すとも思っていなかったのでそれは構わない。そもそも慰めですらなかった。
ただ、その無気力状態で旅行は楽しめないだろうと思う。
「伏見君、いるか?」
「お、小田桐先輩」
教室の戸が開いて先輩らしい男子学生が顔を覗かせた。伏見が反応した辺り、彼も生徒会の人間なのだろう。良く見れば全校総会などで美鶴の隣に立っていた気がする。
「すまないが生徒会室へ来る前に会長を探してくれないか?」
「いないんですか?」
「ホームルームは終わっていたようだが姿が見つからなくてな。暇を持て余していそうな輩にも声を掛けて探させているところなのだが……」
「あの、俺も手伝いましょうか?」
「君は?」
「斑鳩です。桐条先輩と同じ寮の」
巌戸台分寮が一般生徒へどう認識されているのか知らないが、そう説明すればその男子学生は納得したように頷いた。
「ああ、なら頼んでもいいか? すまないな」
小田桐というらしい先輩は忙しなく教室を出て行く。恐らく他にも探しに行くのだろう。
鞄を胸元へ抱えたままの伏見を振り返れば、伏見は申し訳なさそうな顔をしていた。
「ご、ごめんなさい。斑鳩君は関係ないのに……」
「雑用を苦だと思ってねぇし、伏見さんが悪ぃ訳じゃねぇだろぉ?」
「そーそー! それに桐条生徒会長だぜ? あのしっかりきっちりした人が、生徒会の仕事忘れて帰ってるなんて事はないだろうし、ちょっとした散歩だって」
「……って佐藤は言ってるし、伏見さんは生徒会室へ行っていいぜぇ。俺等で探すから」
「って、ちょっと待て斑鳩。オレも⁉」
「ちょっとした散歩なんだろぉ?」
座っていた椅子を前後に揺らしながら叫んだ佐藤を振り返れば、佐藤はガックリとうな垂れながら立ち上がる。茶々を入れた後の責任感があるのはいいことだ。
鞄は教室に置きっ放しにして、伏見には生徒会室へ行ってもらい佐藤と別れて校舎を探す。どちらかが見つけたり生徒会室へ美鶴が戻ってきたりしたら、それぞれへメールすることだけ決めておいた。
放課後の校舎はだんだんと生徒の数が減っていく。部活へ行ったり家へ帰ったりと理由はそれぞれだが、文化部でもない限り校舎に残り続ける生徒はいない。
一階や通路のほうを見に行くと言った佐藤と別れ、アマネは上の階や屋上を探す為に階段を昇る。
屋上の扉を開けると、外の冷たい風が顔に体当たりしてくる。そういえば屋上に来た事はあまり無かったなと思いながら人の姿が無いかを確認していると、黄色いものが視界をよぎった。
「……あれ? どちら様?」
それが首に巻かれたマフラーだと気付く前に、そのマフラーの持ち主が顔を上げる。ちゃんとした月光館の制服ではなく、オールバックな髪型の、男子生徒。
見覚えが無いあたり二年生か三年生だろう。しかし制服ではないところを考えると、この前二年に来たという帰国子女の転校生かもしれない。
サスペンダーと白いシャツ、日に焼けていない肌がモノトーンな印象を与えるというのに、首へ巻かれた黄色いマフラーがよく目立つ。
首を傾げながらもにこりと微笑む姿に、アマネもどうしてだか嬉しくて微笑んだ。
「……一年の、斑鳩周です。生徒会長を探しに来たんですけれど」
「会長さんならさっき行ったよ」
「みてぇですね」
ポケットの中の携帯が震えて着信を告げている。多分伏見からだろう。だったらアマネは屋上から立ち去っていいはずなのに、立ち去る気にはなれなかった。
「この前来たって言う、二年の転校生の方ですか?」
「うん、分かる? 制服がまだ準備できなくてね」
マフラーを弄りながら近付いてくる彼は、屋上の出入り口を塞いでしまっているアマネの前で止まると顔を覗きこんでくる。
墨のように薄い黒色の眼が一瞬青く見えた。
左眼の下へある泣きボクロが目に付く。それに見覚えのある気がして、アマネが何処で見たのかを思い出そうとしていると、目の前の彼は無邪気そうに笑った。
「僕ね、望月綾時。君のこと、アマネ君って呼んでいい?」
「……いいですよ」
「ほんとう? あ、僕のことは綾時でいいよ!」
ニコニコと笑う望月に、アマネは彼が『誰』に似ているのか思い至る。
影時間だけに会えた、アマネと『友達』であろうとした少年。ファルロスだ。
最後の大型シャドウを倒す前に会ったきり、会っていないその少年に望月は似ている。泣きボクロの位置や、雰囲気が。
「アマネ君は不思議だね。なんだか初めて会った気がしないや」
望月はまじまじとアマネを観察している。それをあまり不快に思わなかったのは、無意識に望月をファルロスと重ねて彼を見た目よりも幼い子供のように見ているからか。
少なくともアマネは望月を、外見年齢通りに見ていない。
そのことに気付いて内心首を傾げる。いくらファルロスに似ているからとは言え、初対面の先輩にそう思うのはおかしかった。
そんなアマネに気付かず望月は嬉しそうに喋っている。
彼が嬉しそうなら別にいいかと、アマネは内心に沸いたその疑問を無視する事にした。