後日談2
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辰巳記念病院の一室。白い寝台に横たわったまま窓の外を眺めていた彼女が、病室へ入ってきたアマネへ気付いて振り返り笑みを浮かべる。
「“おかえり”。アマネ君」
「……ただいま戻されました」
「そういう言い方は嫌」
「……ただいま」
見舞い客用の椅子へ腰を下ろして、彼女の顔を見れないまま俯く。
「――俺を、連れ帰してくれてありがとうございました」
「お礼を言われるような事はしてないよ。私は湊君を手伝っただけだもの」
大いなる封印という役目を、“平行世界の自分”へ奪われた少女は笑った。
世界が平行世界であれ心の海で繋がっていることを前提に、アマネの兄である『有里湊』は、本来この世界で大いなる封印となる予定であった彼女という“自分”の役目も担うことにしたらしい。そんな事が出来るのかと言われたらアマネには分かる訳がないが、命の答えへ到達した者として、彼が起こす全てがもう奇跡たり得ない奇跡なのかも知れなかった。
「湊君、ほんとにアマネ君のこと大好きなんだね」
「依存してんの、俺だけだと思ってました」
「あはは。でもアマネ君見てたらしたくなっちゃうよ。私も」
時の狭間を出た直後、アイギス達は夢を見たらしい。それはアマネにとっての一度目に起こった出来事をその時の自身の視点から見たもので、有里湊という彼の事も、アマネの事もそれで全て分かったと言っていた。
つまりアマネが『何も言わないまま理解されずとも』と考えていた計画や理由はあの人の行動で全て白日の元へ晒され、ここへ来る前にも分寮で伊織や岳羽達に散々色々と言われている。全てを知られてしまった事を今更恥ずかしいと思いはしないが、随分と複雑な気分ではあった。
アマネの為に、そうしたのだろうけれど。
「綾時は?」
「今日は桐条先輩と一緒に戸籍や住居の確認へ。貴女と同棲でもいいとか言って怒られてました」
「うーん。まだ早いよね」
望月はアマネ達と時の狭間を出た後、気付いたら深夜の月光館学園の校門前へ居たらしい。そこから携帯で伊織へと連絡をとって、アマネ達とちゃんとした再会を果たしている。とはいえ元はシャドウ同然だった身で、今後の生活を送る為の確認や準備を行なっていた。
時の狭間を出て、既に数日が経っている。
寮の解散や有里が目を覚まし望月が戻ってきたこと等のゴタゴタで皆が忙しなく動き回っていて、アマネもちゃんと有里との時間がとれたのは今日が初めてだった。何せアマネ自身存在が消えかけていたものだから、住んでいたアパートや学校生活の事が全て放置状態だったのだ。
それらを全て片付けて、やっと有里の元へ来られた。
「それで、アマネ君はこれからどうするの?」
開け放たれた窓からほのかに花の匂いがする。
「――……イタリアに、行こうと思ってます」
「イタリア」
「白蘭を一度送り帰さなけりゃいけねぇし、色々終わったら会いに行くとも約束してましたし。……二年後の『約束』の為に、色々と準備もしたくて」
「遠いなあ。海の向こうかぁ」
有里がアマネ越しに窓の外の空を見やった。
「すぐに戻ってきますよ。娘も造らなきゃいけねぇですし」
「でも毎日は会えないね」
「兄さんとも会えない」
「うん。“まだ”会えないね」
窓の外から花の匂いがする。桜の花はそろそろ咲き始める頃合いだ。このままいい天気が続けば数日後の月光館の始業式には綻ぶだろう。
アマネもそれには顔を出して、でも五月になる前には書類などをまとめて休学するつもりだ。佐藤や伏見にもその事を告げなければいけない。
イタリアへ行くことを告げる事自体白蘭以外には初めてだから、きっと桐条達も驚くだろう。
「携帯って便利だよね。エジソンって偉大だよ」
「電話を発明したのはベルです」
「そうだっけ?」
「連絡、します。出来るだけ」
「無理しなくても大丈夫だよ。時差とかもあるだろうし、別に離れていても“切れる”わけじゃないし」
心地よい風が入ってくる。
「アマネ君。ありがとうね」
顔を上げた先で有里が微笑んでいた。少し兄の湊へ似ているそれに湊の顔が重なる。
本当はずっと欲深く思っていた。その為になら何でも出来ると覚悟をした結果がこんなにも周りへ迷惑を掛けることになって。
けれどもその周りの皆は、微塵も『迷惑だった』なんて思ってくれないのだ。そんなアマネにやさしい大切な人達の為にと、アマネが頑張る度に繰り返される『もう一度』
もう一度、彼女達を助けられたら。もう一度、彼を助けられたら。
そう何度もループするかも知れなかった輪は断ち切られた。
最悪を最『良』に、出来ただろうか。
その答えを誰かから聞けるとはもう思わない。『朝』は取り戻された。
「……いってきます」
「いってらっしゃい」
「あ、私の事も湊君みたいに『姉さん』って呼んでくれる? 私もアマネ君のお姉さんになりたい!」
「……貴女がいいなら、考えておきます」
「“おかえり”。アマネ君」
「……ただいま戻されました」
「そういう言い方は嫌」
「……ただいま」
見舞い客用の椅子へ腰を下ろして、彼女の顔を見れないまま俯く。
「――俺を、連れ帰してくれてありがとうございました」
「お礼を言われるような事はしてないよ。私は湊君を手伝っただけだもの」
大いなる封印という役目を、“平行世界の自分”へ奪われた少女は笑った。
世界が平行世界であれ心の海で繋がっていることを前提に、アマネの兄である『有里湊』は、本来この世界で大いなる封印となる予定であった彼女という“自分”の役目も担うことにしたらしい。そんな事が出来るのかと言われたらアマネには分かる訳がないが、命の答えへ到達した者として、彼が起こす全てがもう奇跡たり得ない奇跡なのかも知れなかった。
「湊君、ほんとにアマネ君のこと大好きなんだね」
「依存してんの、俺だけだと思ってました」
「あはは。でもアマネ君見てたらしたくなっちゃうよ。私も」
時の狭間を出た直後、アイギス達は夢を見たらしい。それはアマネにとっての一度目に起こった出来事をその時の自身の視点から見たもので、有里湊という彼の事も、アマネの事もそれで全て分かったと言っていた。
つまりアマネが『何も言わないまま理解されずとも』と考えていた計画や理由はあの人の行動で全て白日の元へ晒され、ここへ来る前にも分寮で伊織や岳羽達に散々色々と言われている。全てを知られてしまった事を今更恥ずかしいと思いはしないが、随分と複雑な気分ではあった。
アマネの為に、そうしたのだろうけれど。
「綾時は?」
「今日は桐条先輩と一緒に戸籍や住居の確認へ。貴女と同棲でもいいとか言って怒られてました」
「うーん。まだ早いよね」
望月はアマネ達と時の狭間を出た後、気付いたら深夜の月光館学園の校門前へ居たらしい。そこから携帯で伊織へと連絡をとって、アマネ達とちゃんとした再会を果たしている。とはいえ元はシャドウ同然だった身で、今後の生活を送る為の確認や準備を行なっていた。
時の狭間を出て、既に数日が経っている。
寮の解散や有里が目を覚まし望月が戻ってきたこと等のゴタゴタで皆が忙しなく動き回っていて、アマネもちゃんと有里との時間がとれたのは今日が初めてだった。何せアマネ自身存在が消えかけていたものだから、住んでいたアパートや学校生活の事が全て放置状態だったのだ。
それらを全て片付けて、やっと有里の元へ来られた。
「それで、アマネ君はこれからどうするの?」
開け放たれた窓からほのかに花の匂いがする。
「――……イタリアに、行こうと思ってます」
「イタリア」
「白蘭を一度送り帰さなけりゃいけねぇし、色々終わったら会いに行くとも約束してましたし。……二年後の『約束』の為に、色々と準備もしたくて」
「遠いなあ。海の向こうかぁ」
有里がアマネ越しに窓の外の空を見やった。
「すぐに戻ってきますよ。娘も造らなきゃいけねぇですし」
「でも毎日は会えないね」
「兄さんとも会えない」
「うん。“まだ”会えないね」
窓の外から花の匂いがする。桜の花はそろそろ咲き始める頃合いだ。このままいい天気が続けば数日後の月光館の始業式には綻ぶだろう。
アマネもそれには顔を出して、でも五月になる前には書類などをまとめて休学するつもりだ。佐藤や伏見にもその事を告げなければいけない。
イタリアへ行くことを告げる事自体白蘭以外には初めてだから、きっと桐条達も驚くだろう。
「携帯って便利だよね。エジソンって偉大だよ」
「電話を発明したのはベルです」
「そうだっけ?」
「連絡、します。出来るだけ」
「無理しなくても大丈夫だよ。時差とかもあるだろうし、別に離れていても“切れる”わけじゃないし」
心地よい風が入ってくる。
「アマネ君。ありがとうね」
顔を上げた先で有里が微笑んでいた。少し兄の湊へ似ているそれに湊の顔が重なる。
本当はずっと欲深く思っていた。その為になら何でも出来ると覚悟をした結果がこんなにも周りへ迷惑を掛けることになって。
けれどもその周りの皆は、微塵も『迷惑だった』なんて思ってくれないのだ。そんなアマネにやさしい大切な人達の為にと、アマネが頑張る度に繰り返される『もう一度』
もう一度、彼女達を助けられたら。もう一度、彼を助けられたら。
そう何度もループするかも知れなかった輪は断ち切られた。
最悪を最『良』に、出来ただろうか。
その答えを誰かから聞けるとはもう思わない。『朝』は取り戻された。
「……いってきます」
「いってらっしゃい」
「あ、私の事も湊君みたいに『姉さん』って呼んでくれる? 私もアマネ君のお姉さんになりたい!」
「……貴女がいいなら、考えておきます」
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