後日談2
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メティスはアイギスのシャドウだった存在だ。シャドウとしての自身は受け入れられて人格だけになっても、アマネの事も気に掛けてくれたから今ここへ、二度目の時の狭間へ来てくれただけの少女だが、だからこそアマネは彼女もと思った。
こんな記憶の再現でしかない時の狭間でさえ、彼女には新鮮な世界だったのだ。外にはこれ以上の世界が広がっているというのに、彼女はそれを見ることも叶いやしない。
「お前等は外に出れないのか」
「特に私はその通りです。エレボスはアマネさんの『生きたい』っていう気持ちなんですけど……その」
「分かるよ。アマネちゃんすぐ我を忘れて自己犠牲に走るもんね」
白蘭がしたり顔で頷く。言い返したかったが今までの事を考えれば言い返せなかった。
「とにかくその、そういう感じなので今も簡単に消えないんだと思うんですけど、私はここじゃない世界の姉さんに受け入れられて、心の海で眠ってたシャドウだから」
「既に受け入れられているから、外へは出ていけない?」
「外へ出て行く為の体も本当はありません。今の私はもっと簡単に言うと残り滓なんです」
「残り滓だなんて……」
山岸の言う通り残り滓だなんてあんまりな言い方だ。けれども確かに、彼女はあの一度目の時の狭間でちゃんとアイギスに受け入れられて、アイギスを生かして消えた。
望月や、一度目の二年後に出会った『クマ』の様な存在であれば平然と外へ出ることは出来ただろう。エレボスに関してはこうして抱き抱えて全く消える様子がない当たり、外へ出ても消えそうにない。エレボスの場合今後も完全に消滅する事が出来ないのではと思う。
死ぬ気の炎と同じだ。白蘭の言う通り、人は生きている限り必ず『生きたい』と願っているだろうがアマネは性格上すぐにまたどうせ『自分を代償に』とやるだろうから。
「じ、じゃあ外に出てからアイギスみてーな身体を造れば、さ!」
「その場合人格はどうするんだ。伊織、例え仮に身体を造ったとしても今の彼女の人格を作り上げることは出来ない」
アマネが見下ろした先で、メティスが少し困ったように微笑んでいる。桐条の言う通り、時の狭間から出てから彼女そっくりの外見のヒューマノイドを造ったとしてもそれはメティスではない別の誰かだ。
その事はアマネが一番分かっている。だから最初から伊織のような考えをするつもりは無かった。同じ人格など、魂など存在しない。
けれども。
「――メティス。お前を造ってもいいかぁ?」
「アマネさん。だから」
「桐条財閥の力を借りてでも独力でも構わねぇ。お前と同じ見た目をした少女だぁ。でもそれはお前じゃない。既に存在しているお前を造るなんて馬鹿な真似は絶対に出来ねぇ。そんなレプリカを造るような真似は俺には出来ねぇよ。だから――」
アマネを守り続けてくれていた少女が、もし許してくれるのなら。
「俺はその子を“娘”だと思う。お前によく似た娘だぁ。お前が俺と出会ったことで生まれた、お前の存在を証明する娘。その子を通してお前が確かに居たことを証明しよう。その子にお前の分とそれ以上の世界を見せるって約束する。その子を通してお前も俺と一緒に外へ行く。――いいかぁ?」
それはメティスではない。メティスに“よく似た”違う存在だ。メティス本人を外へ連れ出すことは出来ず、今のアマネにはそんな約束をする程度の事しかできない。それですら荒唐無稽でアイギス達が驚いているのが視界の隅へ見えるくらいだ。
アマネが例え造ることへ成功しても、それに目の前のメティスとの関係は傍目からすれば何一つ存在しない。それではやっぱりレプリカとかコピーを造ってふざけているようにしか思えないかも知れないが、アマネは自分の言った事を無かったことにするつもりはなかった。
「兄さんや今まで出会った人達へそう思う様に、俺はお前にも俺の世界から消えて欲しくない」
一度目の時の狭間で、アマネをまっすぐ見つめた紅い瞳を思い出す。
「お前も、俺を置いていかないで」
エレボスを降ろしてあの時と同じ様に、まっすぐにアマネを見つめている少女の手を握りしめた。小さく細く、こんな手で鈍器を握りアマネを助けてきたのかと思うと尚更思いは強くなる。
そろそろ彼女だって報われていい。アイギスに受け入れられる事がシャドウとしては報われた形であろうと、彼女はもう、アイギス以外にも接してメティスという心の形を持っているのだ。
ならばその心が持つ気持ちを、アマネに教えて欲しいと願うのはわがままか。
メティスはアマネを見上げてアマネの言葉を聞いていたが、戸惑った表情になったかと思うと助けを求めるようにアイギス達を見回し、しかし助けは何処からも来ないと悟ってかサンバイサーの様に上げていた紅い蝶の形の仮面を降ろして顔を隠す。それでもアマネが彼女の手を握ったまま返事を待っていれば、やがてゆるゆるとその手が握り返された。
「……よろしく、おねがいします」
か細い声だが辺りが静かなせいで、アマネだけではなく真田達にもちゃんと聞こえただろう。アマネの足下でエレボスがカカカカと歯を鳴らす。
「アマネチャン」
「ん、……わがままが過ぎたかぁ?」
「それはいいんだけどさ。誰も言わないからボクが言うけど、――それってプロポーズじゃない?」
「――はぁ!?」
驚いて白蘭へと振り返れば白蘭は呆れた様子で肩を竦めていた。異論を求めて荒垣達を見るが、荒垣達もアマネが見ると視線を逸らせ目を会わせないようにしている。
改めてメティスを見やれば、彼女も本当はそう思っていたのか仮面の下で顔を赤くしていた。
こんな記憶の再現でしかない時の狭間でさえ、彼女には新鮮な世界だったのだ。外にはこれ以上の世界が広がっているというのに、彼女はそれを見ることも叶いやしない。
「お前等は外に出れないのか」
「特に私はその通りです。エレボスはアマネさんの『生きたい』っていう気持ちなんですけど……その」
「分かるよ。アマネちゃんすぐ我を忘れて自己犠牲に走るもんね」
白蘭がしたり顔で頷く。言い返したかったが今までの事を考えれば言い返せなかった。
「とにかくその、そういう感じなので今も簡単に消えないんだと思うんですけど、私はここじゃない世界の姉さんに受け入れられて、心の海で眠ってたシャドウだから」
「既に受け入れられているから、外へは出ていけない?」
「外へ出て行く為の体も本当はありません。今の私はもっと簡単に言うと残り滓なんです」
「残り滓だなんて……」
山岸の言う通り残り滓だなんてあんまりな言い方だ。けれども確かに、彼女はあの一度目の時の狭間でちゃんとアイギスに受け入れられて、アイギスを生かして消えた。
望月や、一度目の二年後に出会った『クマ』の様な存在であれば平然と外へ出ることは出来ただろう。エレボスに関してはこうして抱き抱えて全く消える様子がない当たり、外へ出ても消えそうにない。エレボスの場合今後も完全に消滅する事が出来ないのではと思う。
死ぬ気の炎と同じだ。白蘭の言う通り、人は生きている限り必ず『生きたい』と願っているだろうがアマネは性格上すぐにまたどうせ『自分を代償に』とやるだろうから。
「じ、じゃあ外に出てからアイギスみてーな身体を造れば、さ!」
「その場合人格はどうするんだ。伊織、例え仮に身体を造ったとしても今の彼女の人格を作り上げることは出来ない」
アマネが見下ろした先で、メティスが少し困ったように微笑んでいる。桐条の言う通り、時の狭間から出てから彼女そっくりの外見のヒューマノイドを造ったとしてもそれはメティスではない別の誰かだ。
その事はアマネが一番分かっている。だから最初から伊織のような考えをするつもりは無かった。同じ人格など、魂など存在しない。
けれども。
「――メティス。お前を造ってもいいかぁ?」
「アマネさん。だから」
「桐条財閥の力を借りてでも独力でも構わねぇ。お前と同じ見た目をした少女だぁ。でもそれはお前じゃない。既に存在しているお前を造るなんて馬鹿な真似は絶対に出来ねぇ。そんなレプリカを造るような真似は俺には出来ねぇよ。だから――」
アマネを守り続けてくれていた少女が、もし許してくれるのなら。
「俺はその子を“娘”だと思う。お前によく似た娘だぁ。お前が俺と出会ったことで生まれた、お前の存在を証明する娘。その子を通してお前が確かに居たことを証明しよう。その子にお前の分とそれ以上の世界を見せるって約束する。その子を通してお前も俺と一緒に外へ行く。――いいかぁ?」
それはメティスではない。メティスに“よく似た”違う存在だ。メティス本人を外へ連れ出すことは出来ず、今のアマネにはそんな約束をする程度の事しかできない。それですら荒唐無稽でアイギス達が驚いているのが視界の隅へ見えるくらいだ。
アマネが例え造ることへ成功しても、それに目の前のメティスとの関係は傍目からすれば何一つ存在しない。それではやっぱりレプリカとかコピーを造ってふざけているようにしか思えないかも知れないが、アマネは自分の言った事を無かったことにするつもりはなかった。
「兄さんや今まで出会った人達へそう思う様に、俺はお前にも俺の世界から消えて欲しくない」
一度目の時の狭間で、アマネをまっすぐ見つめた紅い瞳を思い出す。
「お前も、俺を置いていかないで」
エレボスを降ろしてあの時と同じ様に、まっすぐにアマネを見つめている少女の手を握りしめた。小さく細く、こんな手で鈍器を握りアマネを助けてきたのかと思うと尚更思いは強くなる。
そろそろ彼女だって報われていい。アイギスに受け入れられる事がシャドウとしては報われた形であろうと、彼女はもう、アイギス以外にも接してメティスという心の形を持っているのだ。
ならばその心が持つ気持ちを、アマネに教えて欲しいと願うのはわがままか。
メティスはアマネを見上げてアマネの言葉を聞いていたが、戸惑った表情になったかと思うと助けを求めるようにアイギス達を見回し、しかし助けは何処からも来ないと悟ってかサンバイサーの様に上げていた紅い蝶の形の仮面を降ろして顔を隠す。それでもアマネが彼女の手を握ったまま返事を待っていれば、やがてゆるゆるとその手が握り返された。
「……よろしく、おねがいします」
か細い声だが辺りが静かなせいで、アマネだけではなく真田達にもちゃんと聞こえただろう。アマネの足下でエレボスがカカカカと歯を鳴らす。
「アマネチャン」
「ん、……わがままが過ぎたかぁ?」
「それはいいんだけどさ。誰も言わないからボクが言うけど、――それってプロポーズじゃない?」
「――はぁ!?」
驚いて白蘭へと振り返れば白蘭は呆れた様子で肩を竦めていた。異論を求めて荒垣達を見るが、荒垣達もアマネが見ると視線を逸らせ目を会わせないようにしている。
改めてメティスを見やれば、彼女も本当はそう思っていたのか仮面の下で顔を赤くしていた。