後日談2
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タルタロスの内部。階段を上がった先では空から降りてくるニュクスの真下、『彼女』が『彼』と向き合っていた。
空から今にも堕ちてきそうな月。視界いっぱいのそれに遮られて夜空なんて見えやしない。とはいえ、あの時は夜空を眺める余裕なんてありはしなかった。
「アマネチャン!」
彼の姿に白蘭が叫んで駆け寄ろうとする。彼はアイギス達が来たことへ気付いているだろうに振り返る素振りはなかった。
彼の傍らにはニュクスアバターとして倒したはずだった望月と、彼の抑圧された『何か』を表しているエレボスの姿があったが、望月は俯いたまま動かない彼からアイギス達へ顔を向け、戸惑ったような顔をしている。望月が説明しようと口を開きかけ、けれどもそれは彼に遮られた。
「……やっぱり戻れない」
「アマネチャン?」
「ごめん白蘭」
そう言った彼がいつの間にか前置きもなくエレボスと共に走り出し、タルタロスの縁から飛び堕ちていく。岳羽が思わずと言ったように悲鳴を上げ、真田と荒垣が急いで彼の落ちた辺りへと向かうが、彼の姿は見えなかったのか悄然とした雰囲気で戻ってきた。
それを見た白蘭がポケットへ手を入れて何かをきつく握り締めている。
「いっつもそうだ。アマネチャンは何にも言わないで……っ」
「……あの、久しぶり、でいいのかな?」
こんな時だというのに、いや、こんな時だからこそか場の空気を変えるような挨拶にアイギスは彼へ置いていかれた望月を見た。黄色いマフラーも冬だというのに薄着の格好も泣き黒子も何一つ変わっていない、人の姿をした望月がそこにいる。アイギス達の視線を受けて、気まずそうに胸元へ手を当てるその仕草も変わっていなかった。
ここが時の狭間であることを差し引いても、望月がいるのはおかしい。
「僕が居るのが、変だって顔だね」
「そりゃ……そうだろ。だってお前」
「僕も変だって思うよ。でもアマネ君の行動を考えたらおかしくはないんじゃないかな」
「? それって」
「オニーサン。アマネチャンの払った代償でここにいるんでしょ」
彼の居なくなった方を見つめていた白蘭が振り向いて言うのに、望月が泣きそうに目元を歪めて頷いた。
「本来僕はここに居る筈のない存在だ。でも奏ちゃんとアマネ君のおかげって言えばいいのかな? あの二人――“三人”が望んだからここに居るんだと思う」
望月はそう言って自分の胸元をきつく握り締める。その手には大きめの白い破片。
「でも一人でのうのうと君達の元になんて戻れなかった。――ごめんね皆、僕のせいで」
「オニーサンのせいじゃないよ。仮にオニーサンのせいだとしても、アマネチャンがアナタを助けようとしてた時点でオニーサンは悪くない」
望月の前へ立った白蘭が、自身の指へ填められている指輪をさすりながら続ける。
「アマネチャンはどんな悪者でも助けようとしちゃう大馬鹿だよ。世界征服をしようとしたボクだって、アマネチャンの知り合いを沢山泣かせたボクだって助けちゃうような大馬鹿だけど、でも、アマネチャンはそれら全部を受け入れてくれた。哀れみとかそんなんじゃなくて、アマネチャン自身がそうしようと思ったからだ。そんなに強い想いが自分へ向けられてる事に気付けて、オニーサンはそれをないがしろに出来る?」
「でも、僕は」
「アマネチャンの友達でしょ? そんな十分な理由があるんだから、いいんだよ」
「……いいの、かな?」
「い、いいに決まってんだろ! 綾時!」
伊織が望月へ向けて怒鳴った。
「お前ずっとオレらの事考えてただろ!? お前が好きこのんで世界滅亡を考えたんじゃねーだろ! 皆だってそう思うよな!?」
「そうだよね。綾時君は、ニュクスに適わないと思ってても色々教えてくれたもの」
「最初は貴方が居なければとか、思いましたけど、貴方だって好きでそう生まれた訳じゃ無かったんですよね……」
「元は私のお爺さまの暴挙が始まりだ。君もその被害者だろう。良ければ、君も生きてくれないか?」
桐条の言葉に望月が堪えきれないとばかりに息を呑んで、涙を堪えるように顔を歪める。けれども結局溢れた涙に手の甲で目元を拭って、望月は俯いた。
「ありがとう」
望月が手に持っていた白い破片が落ちる。しゃがんでそれを拾った白蘭が、再び立ち上がってから望月の手を掴んでアイギス達の傍へと戻ってきた。
白蘭が拾った破片は今までアイギス達が拾ってきたものと同じで、それに気付いた伊織が今までに組み合わせた仮面を取り出して、白蘭から破片を受け取り組み合わせようとする。カチリとピースが揃うように収まったそれはけれども、あと少しが足りない。
まだ足りないとはいえ、残りはせいぜいあと一欠けくらいだ。この仮面の意味もアイギス達はまだ分からないでいるが、何か多分大切な物であったことくらいは分かっている。
だって、『彼』が持っていたものだ。
「とにかく、アマネを追いかけよう。アイツが短絡的に飛び降りるとは思えない」
「飛び降りても元の場所へ戻るだけですから、それが狙いだったのかも」
「逃げたってコトか?」
「……あのさ。思ったんだけどアマネチャン、ずっと勘違いしてるよね?」
未完成の仮面を自分の顔へ重ねて観察していた白蘭が首を傾ける。それに望月とメティスが揃って頷いた。
「うん。アマネ君は『自分が“死んだ”』と勘違いしてる」
空から今にも堕ちてきそうな月。視界いっぱいのそれに遮られて夜空なんて見えやしない。とはいえ、あの時は夜空を眺める余裕なんてありはしなかった。
「アマネチャン!」
彼の姿に白蘭が叫んで駆け寄ろうとする。彼はアイギス達が来たことへ気付いているだろうに振り返る素振りはなかった。
彼の傍らにはニュクスアバターとして倒したはずだった望月と、彼の抑圧された『何か』を表しているエレボスの姿があったが、望月は俯いたまま動かない彼からアイギス達へ顔を向け、戸惑ったような顔をしている。望月が説明しようと口を開きかけ、けれどもそれは彼に遮られた。
「……やっぱり戻れない」
「アマネチャン?」
「ごめん白蘭」
そう言った彼がいつの間にか前置きもなくエレボスと共に走り出し、タルタロスの縁から飛び堕ちていく。岳羽が思わずと言ったように悲鳴を上げ、真田と荒垣が急いで彼の落ちた辺りへと向かうが、彼の姿は見えなかったのか悄然とした雰囲気で戻ってきた。
それを見た白蘭がポケットへ手を入れて何かをきつく握り締めている。
「いっつもそうだ。アマネチャンは何にも言わないで……っ」
「……あの、久しぶり、でいいのかな?」
こんな時だというのに、いや、こんな時だからこそか場の空気を変えるような挨拶にアイギスは彼へ置いていかれた望月を見た。黄色いマフラーも冬だというのに薄着の格好も泣き黒子も何一つ変わっていない、人の姿をした望月がそこにいる。アイギス達の視線を受けて、気まずそうに胸元へ手を当てるその仕草も変わっていなかった。
ここが時の狭間であることを差し引いても、望月がいるのはおかしい。
「僕が居るのが、変だって顔だね」
「そりゃ……そうだろ。だってお前」
「僕も変だって思うよ。でもアマネ君の行動を考えたらおかしくはないんじゃないかな」
「? それって」
「オニーサン。アマネチャンの払った代償でここにいるんでしょ」
彼の居なくなった方を見つめていた白蘭が振り向いて言うのに、望月が泣きそうに目元を歪めて頷いた。
「本来僕はここに居る筈のない存在だ。でも奏ちゃんとアマネ君のおかげって言えばいいのかな? あの二人――“三人”が望んだからここに居るんだと思う」
望月はそう言って自分の胸元をきつく握り締める。その手には大きめの白い破片。
「でも一人でのうのうと君達の元になんて戻れなかった。――ごめんね皆、僕のせいで」
「オニーサンのせいじゃないよ。仮にオニーサンのせいだとしても、アマネチャンがアナタを助けようとしてた時点でオニーサンは悪くない」
望月の前へ立った白蘭が、自身の指へ填められている指輪をさすりながら続ける。
「アマネチャンはどんな悪者でも助けようとしちゃう大馬鹿だよ。世界征服をしようとしたボクだって、アマネチャンの知り合いを沢山泣かせたボクだって助けちゃうような大馬鹿だけど、でも、アマネチャンはそれら全部を受け入れてくれた。哀れみとかそんなんじゃなくて、アマネチャン自身がそうしようと思ったからだ。そんなに強い想いが自分へ向けられてる事に気付けて、オニーサンはそれをないがしろに出来る?」
「でも、僕は」
「アマネチャンの友達でしょ? そんな十分な理由があるんだから、いいんだよ」
「……いいの、かな?」
「い、いいに決まってんだろ! 綾時!」
伊織が望月へ向けて怒鳴った。
「お前ずっとオレらの事考えてただろ!? お前が好きこのんで世界滅亡を考えたんじゃねーだろ! 皆だってそう思うよな!?」
「そうだよね。綾時君は、ニュクスに適わないと思ってても色々教えてくれたもの」
「最初は貴方が居なければとか、思いましたけど、貴方だって好きでそう生まれた訳じゃ無かったんですよね……」
「元は私のお爺さまの暴挙が始まりだ。君もその被害者だろう。良ければ、君も生きてくれないか?」
桐条の言葉に望月が堪えきれないとばかりに息を呑んで、涙を堪えるように顔を歪める。けれども結局溢れた涙に手の甲で目元を拭って、望月は俯いた。
「ありがとう」
望月が手に持っていた白い破片が落ちる。しゃがんでそれを拾った白蘭が、再び立ち上がってから望月の手を掴んでアイギス達の傍へと戻ってきた。
白蘭が拾った破片は今までアイギス達が拾ってきたものと同じで、それに気付いた伊織が今までに組み合わせた仮面を取り出して、白蘭から破片を受け取り組み合わせようとする。カチリとピースが揃うように収まったそれはけれども、あと少しが足りない。
まだ足りないとはいえ、残りはせいぜいあと一欠けくらいだ。この仮面の意味もアイギス達はまだ分からないでいるが、何か多分大切な物であったことくらいは分かっている。
だって、『彼』が持っていたものだ。
「とにかく、アマネを追いかけよう。アイツが短絡的に飛び降りるとは思えない」
「飛び降りても元の場所へ戻るだけですから、それが狙いだったのかも」
「逃げたってコトか?」
「……あのさ。思ったんだけどアマネチャン、ずっと勘違いしてるよね?」
未完成の仮面を自分の顔へ重ねて観察していた白蘭が首を傾ける。それに望月とメティスが揃って頷いた。
「うん。アマネ君は『自分が“死んだ”』と勘違いしてる」