ペルソナ3
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三角巾で釣った右腕を見た佐藤は、九月の怪我同様案の定自分が痛いかのように悶絶して、最終的にクラスの女子に『変な踊り?』と聞かれて正気を取り戻した。
「あー痛い。あー痛い。ねぇそれ痛い?」
「ウゼェ」
「だってお前、何がどーなってその怪我なの? 骨折? それとも肉離れ? 腕切断?」
「結構怖ぇ事言うなぁ」
ぎゃあぎゃあと騒がしいもののそれは心配してくれているということで、しかしかといって銃で撃たれたなどとは教えられない。
この平和な筈の日本の平凡な高校生が、どうして銃で撃たれる事などがあろうか。
「ノート大丈夫なん?」
「俺左利きなんだけどぉ」
「あ、そうか……そうだっけ?」
本来は左利きだったし今は両利きである。
心配し通しの佐藤と、体育の着替えの時に包帯とって傷見せてと冗談で近付いてくるクラスメイトをうまく退ける事一日。佐藤と別れて帰宅の途へ着くと、寮の前でアイギスを見つけた。
幾月に思考回路を奪われ命令を聞くだけの機械人形になっていたアイギスは、命じられたプログラムが原因ということで罪状を大目に見られて、美鶴よりも一足先に戻ってきたらしい。
寮を見上げる表情は悲しげで、ひたすら申し訳ないという雰囲気を押し出している。
「アイギスさん」
「……アマネさん」
アマネに気付いて振り返ったアイギスは、三角巾で釣られているアマネの右腕を見ると辛そうに俯いた。何かを堪えるように組まれた両手に力が篭もっている。
数歩分の距離を近付いてアマネはその手へ手を伸ばした。どんな技術を使っているのか人とあまり変わらないその質感は、人が緊張している時の様にひんやりとしている。
「損傷はありませんでしたか? あの程度では壊れねぇと信じていましたが、それでも俺はひどい事をしました」
「……いえ、異常損傷はありませんでした」
「なら良かったぁ。顔を上げてください。少なくとも俺の怪我はアイギスさんのせいじゃねぇ。だからこの怪我の事までアイギスさんが気に病む必要はありません」
「……ですが」
「ここは、『了解しました』っていうのが一番言ってもらいたい言葉ですよ」
更に何か言おうとするアイギスの言葉を遮ってそう言えば、アイギスは良く分からないという目をしてから、それでも意を汲んだのか理解したのか小さい声で『了解しました』と呟いた。
アマネにはアイギスを責めるつもりは微塵も無い。彼女があの時命令に反抗出来るとは最初から考えていなかったし、攻撃してきた事だって決して彼女の意思ではないのだから責めることはお門違いだ。
どちらかというと一時的とは言え、あんな乱暴に動きを封じたアマネのほうが申し訳なく思っている。
「ただ、それでも悪ぃと思っているなら、俺の手伝いしてくれませんか? 片腕で料理作んの結構大変なんです」
「……了解しました」
アイギスは人の様に料理は食べられないが、その知識としては料理の仕方もデータとして入っているらしく、手伝いの腕はなかなかだった。
寮のメンバーもアイギスを責める者はいない。というより責めることは元からあまり考えていなかったようで、多少ぎこちなくはあっても今までと変わらない会話をしている。ぎこちなさがあるのもアイギスのほうだけだ。
夕食後。鎮痛剤を忘れたので一度部屋へ取りに行ってアマネがラウンジへ戻ってくると、点けっ放しのテレビでは桐条グループの総帥が急死したというニュースが流れていた。
チャンネルを変えるつもりだったのか、立っている岳羽がリモコンを持ったままそれを眺めている。
影時間で起こった出来事は、日常では都合のいいように改変されてしまうのが法則だ。桐条武治の場合、桐条財閥が手を回して病気での急死という事実にしているのだろうが。
「……桐条先輩、大丈夫かな」
「心配ですか」
「うん……そうね」
ソファへ座った岳羽の視線はニュースに釘付けだ。アマネが一度厨房へ行って、鎮痛剤を飲んで戻るとテレビは消されていた。
「斑鳩君はさ、幾月さんのことどう思う?」
「高校生に躊躇い無く銃を向けられる馬鹿な大人、ですがぁ?」
「そっか、撃たれたんだよね。痛いでしょ」
「俺も撃ったしおあいこってことで」
「はは……馬鹿な大人、かぁ」
テーブルに置かれた雑誌は岳羽が持ってきたものだろうが、手を伸ばす気配は無い。
「……実のところ、俺は屋久島旅行の辺りから幾月さんを少し疑ってました」
「え?」
「屋久島で、先輩のお父さんが残した映像があったでしょう? アレに違和感があったんです。そうでなくともあの人は情報を小出しにしていたという印象があった。それが何を意味してるかも意図的なものかも分かってませんでしたけど、信用していいのかその時追究してれば良かったかも知れませんね」
「斑鳩君って、時々高校生らしくないよね。アタシはそんなに考えたり出来ないな。祝勝会の時、帰ってこないで何してたの?」
「あの日は、ストレガの拠点を探してあいつ等の考えの手がかりを探してました」
「ほら、やっぱり高校生っぽくない。碌な大人より大人っぽいじゃん」
ストレガの拠点を探していた事へは追究せず、岳羽は笑う。
「ホント、高校生らしくなくて笑える」
「すみません」
「でも、斑鳩君がいて良かったと思うよ。でなくちゃアタシたち、幾月さんのこととかもっと色々複雑に考えてただろうし。……あの時斑鳩君が怒ってくれたから、素直に受け止められてるところもある気がするの」
「……真田先輩か湊さんから何か言われたんですか?」
「え? 何の話?」
「いえ、覚えがないのでしたらいいです」
「あー痛い。あー痛い。ねぇそれ痛い?」
「ウゼェ」
「だってお前、何がどーなってその怪我なの? 骨折? それとも肉離れ? 腕切断?」
「結構怖ぇ事言うなぁ」
ぎゃあぎゃあと騒がしいもののそれは心配してくれているということで、しかしかといって銃で撃たれたなどとは教えられない。
この平和な筈の日本の平凡な高校生が、どうして銃で撃たれる事などがあろうか。
「ノート大丈夫なん?」
「俺左利きなんだけどぉ」
「あ、そうか……そうだっけ?」
本来は左利きだったし今は両利きである。
心配し通しの佐藤と、体育の着替えの時に包帯とって傷見せてと冗談で近付いてくるクラスメイトをうまく退ける事一日。佐藤と別れて帰宅の途へ着くと、寮の前でアイギスを見つけた。
幾月に思考回路を奪われ命令を聞くだけの機械人形になっていたアイギスは、命じられたプログラムが原因ということで罪状を大目に見られて、美鶴よりも一足先に戻ってきたらしい。
寮を見上げる表情は悲しげで、ひたすら申し訳ないという雰囲気を押し出している。
「アイギスさん」
「……アマネさん」
アマネに気付いて振り返ったアイギスは、三角巾で釣られているアマネの右腕を見ると辛そうに俯いた。何かを堪えるように組まれた両手に力が篭もっている。
数歩分の距離を近付いてアマネはその手へ手を伸ばした。どんな技術を使っているのか人とあまり変わらないその質感は、人が緊張している時の様にひんやりとしている。
「損傷はありませんでしたか? あの程度では壊れねぇと信じていましたが、それでも俺はひどい事をしました」
「……いえ、異常損傷はありませんでした」
「なら良かったぁ。顔を上げてください。少なくとも俺の怪我はアイギスさんのせいじゃねぇ。だからこの怪我の事までアイギスさんが気に病む必要はありません」
「……ですが」
「ここは、『了解しました』っていうのが一番言ってもらいたい言葉ですよ」
更に何か言おうとするアイギスの言葉を遮ってそう言えば、アイギスは良く分からないという目をしてから、それでも意を汲んだのか理解したのか小さい声で『了解しました』と呟いた。
アマネにはアイギスを責めるつもりは微塵も無い。彼女があの時命令に反抗出来るとは最初から考えていなかったし、攻撃してきた事だって決して彼女の意思ではないのだから責めることはお門違いだ。
どちらかというと一時的とは言え、あんな乱暴に動きを封じたアマネのほうが申し訳なく思っている。
「ただ、それでも悪ぃと思っているなら、俺の手伝いしてくれませんか? 片腕で料理作んの結構大変なんです」
「……了解しました」
アイギスは人の様に料理は食べられないが、その知識としては料理の仕方もデータとして入っているらしく、手伝いの腕はなかなかだった。
寮のメンバーもアイギスを責める者はいない。というより責めることは元からあまり考えていなかったようで、多少ぎこちなくはあっても今までと変わらない会話をしている。ぎこちなさがあるのもアイギスのほうだけだ。
夕食後。鎮痛剤を忘れたので一度部屋へ取りに行ってアマネがラウンジへ戻ってくると、点けっ放しのテレビでは桐条グループの総帥が急死したというニュースが流れていた。
チャンネルを変えるつもりだったのか、立っている岳羽がリモコンを持ったままそれを眺めている。
影時間で起こった出来事は、日常では都合のいいように改変されてしまうのが法則だ。桐条武治の場合、桐条財閥が手を回して病気での急死という事実にしているのだろうが。
「……桐条先輩、大丈夫かな」
「心配ですか」
「うん……そうね」
ソファへ座った岳羽の視線はニュースに釘付けだ。アマネが一度厨房へ行って、鎮痛剤を飲んで戻るとテレビは消されていた。
「斑鳩君はさ、幾月さんのことどう思う?」
「高校生に躊躇い無く銃を向けられる馬鹿な大人、ですがぁ?」
「そっか、撃たれたんだよね。痛いでしょ」
「俺も撃ったしおあいこってことで」
「はは……馬鹿な大人、かぁ」
テーブルに置かれた雑誌は岳羽が持ってきたものだろうが、手を伸ばす気配は無い。
「……実のところ、俺は屋久島旅行の辺りから幾月さんを少し疑ってました」
「え?」
「屋久島で、先輩のお父さんが残した映像があったでしょう? アレに違和感があったんです。そうでなくともあの人は情報を小出しにしていたという印象があった。それが何を意味してるかも意図的なものかも分かってませんでしたけど、信用していいのかその時追究してれば良かったかも知れませんね」
「斑鳩君って、時々高校生らしくないよね。アタシはそんなに考えたり出来ないな。祝勝会の時、帰ってこないで何してたの?」
「あの日は、ストレガの拠点を探してあいつ等の考えの手がかりを探してました」
「ほら、やっぱり高校生っぽくない。碌な大人より大人っぽいじゃん」
ストレガの拠点を探していた事へは追究せず、岳羽は笑う。
「ホント、高校生らしくなくて笑える」
「すみません」
「でも、斑鳩君がいて良かったと思うよ。でなくちゃアタシたち、幾月さんのこととかもっと色々複雑に考えてただろうし。……あの時斑鳩君が怒ってくれたから、素直に受け止められてるところもある気がするの」
「……真田先輩か湊さんから何か言われたんですか?」
「え? 何の話?」
「いえ、覚えがないのでしたらいいです」