後日談2
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『あの頃、死んだら楽になれるのかなって考えたことがあるの』
駅前商店街にある甘味処『小豆あらい』の中で、青年と過去の『山岸』が向かい合って座っている。それぞれが注文したのであろう物は既に来ていて、あんみつを見つめて『山岸』が微笑んでいた。
『もちろん今はそんなこと無いよ。皆が居るし友達も、いるから』
『それは良かったですね』
『それでね。……それでも、綾時君の話は怖かった』
望月の話、ということはアイギスが全てを思い出し、ムーンライトブリッジで望月へ襲いかかった後の出来事だろう。
『絶対に死んでしまうって、やっぱり怖いよ』
『……俺には、それよりもっと怖いことがあります』
過去の情景の中で、『アマネ』が微笑んだ。
『それがもう一度、起こるのを阻止したくて頑張ってるんです』
既に記憶を取り戻した岳羽達と山岸が何とも言えない顔をする。それを見てまだ記憶を取り戻していないメンバーも、今の言葉の意味を察した。
彼は言葉通り『最悪』を『最』悪にならないようにし続けてきていたのだろう。おそらくは四月の、荒垣を見つけた時から。
過去の山岸の向かいへ座っている彼が、テーブルへ肘を突いて頭を抱える。
『阻止したかったんです。俺は。……なのに』
テーブルへ置かれていたアイスの溶けかけたあんみつが、白い陶器の破片へと変わった。歩み寄って砂の上からそれを拾い上げた山岸が、破片を見つめて泣きそうな顔で微笑んだ。
「阻止してくれたよ。アマネ君は」
それが今の状況を作り出している要因の一つであったとしても、有里が昏睡状態になってしまったとしても、今までの話を統合すれば彼は確かに何かを『阻止』したのだろう。山岸の持つ破片を見つめていた白蘭が口を開きかけて、言葉を飲み込むように顔を逸らした。
コロマルが白蘭の傍へ寄って伺う様に鼻を鳴らしている。白蘭は困ったようにそれを見下ろして、遠慮がちに手を伸ばして撫でていた。
「白蘭君。アマネ君の考える『最悪』って、こういう事だったの?」
「少なくとも、アマネチャンが望んだのはもっと良い方向だったんじゃないかな。アマネチャンはそう簡単に諦めない」
「もっといい方向?」
「アリサトさんだっけ? その人がここにいる状況とか。だってアマネチャンの胸に引っかかってるのは」
言い掛けて白蘭は何かに気付いたように言葉を飲み込み、それから慎重に続ける。
「引っかかってるのは、アリサトさんが『死んでしまう』っていう事実だったハズだし」
「死んでしまう……?」
「奏は死んでねーだろ」
伊織が言い返すも、既に記憶を取り戻した桐条達はそれに同意出来ないといった様子で黙る。言い返された百蘭も特に不快に思った様子もなく伊織を見た。
「そうだね。アマネチャンが頑張ったから『彼女』は死ななかった。でもアマネチャンは『彼女が死んでしまう可能性』を知っていて、だからキミ達へ介入したワケ。本来ならアマネチャンは介入すらする必要は無かったんじゃないかってボクは思うけどね」
「必要ない? どうしてですか?」
「だって『彼』と同じで『彼女』はやり遂げるってアマネチャンは分かってたと思うんだ。でなくちゃ大まかな“ストーリー”に乗っ取って動くなんて真似は出来ない。荒垣サンを助けて桐条当主を助けて? 最後に土壇場で『彼女』を助けるところまでがアマネチャンの計画だったとすれば、それは『彼女』が“そこへ到達する”と信じてなくちゃ出来ないでしょ」
全ての始まりが、彼女が巌戸台へ来て初めてペルソナを召喚した四月からだったとして。
殆どSEESに関わろうとしていなかったらしい彼がSEESメンバーを誘導できたかといえば否だ。少なくとも突然現れた青年がいきなり『大型シャドウ退治をやめろ』と言ってきても、アイギス達は止めなかっただろう。ストレガのタカヤ達へ言われても止めなかったのだからそのくらいは簡単に推測できる。
だが、では自分の思い通りに動かせない相手達に対して『自分の思うように』改変しようとしたら何が必要だったのか。
「『彼女』が死ぬ可能性や、色んなデメリットがあってもアマネチャンは出来るだけキミ達へ介入せずあくまでもキミ達が進む『ルート』での改変を目指したんだ。キミ達へ悟られないように、キミ達が――自分の意志で未来を決められるように」
砂に残るたくさんの足跡。百蘭が自分の足下へ残っていたそれを踏み消す。
最悪を最悪ではないように。
その言葉の重さが今になってアイギスへも感じ取れるようになってきた。ムーンライトブリッジで一人で望月を倒そうとしたアイギスだからこそ、その言葉が行動へ移す為には難しいものだと分かる。
自分の行動のその先が本当に『最悪』にはならないか、自分の行動を疑う心はいつだって現れるものだ。未来は常に成功と失敗の可能性を最低限存在させている。
アイギスが望月を倒そうとした試みは二度とも失敗した。今ではもう、成功した未来を想像もできない。
『アマネ』は、それでも全てのチャンスを信じていたのだろう。
駅前商店街にある甘味処『小豆あらい』の中で、青年と過去の『山岸』が向かい合って座っている。それぞれが注文したのであろう物は既に来ていて、あんみつを見つめて『山岸』が微笑んでいた。
『もちろん今はそんなこと無いよ。皆が居るし友達も、いるから』
『それは良かったですね』
『それでね。……それでも、綾時君の話は怖かった』
望月の話、ということはアイギスが全てを思い出し、ムーンライトブリッジで望月へ襲いかかった後の出来事だろう。
『絶対に死んでしまうって、やっぱり怖いよ』
『……俺には、それよりもっと怖いことがあります』
過去の情景の中で、『アマネ』が微笑んだ。
『それがもう一度、起こるのを阻止したくて頑張ってるんです』
既に記憶を取り戻した岳羽達と山岸が何とも言えない顔をする。それを見てまだ記憶を取り戻していないメンバーも、今の言葉の意味を察した。
彼は言葉通り『最悪』を『最』悪にならないようにし続けてきていたのだろう。おそらくは四月の、荒垣を見つけた時から。
過去の山岸の向かいへ座っている彼が、テーブルへ肘を突いて頭を抱える。
『阻止したかったんです。俺は。……なのに』
テーブルへ置かれていたアイスの溶けかけたあんみつが、白い陶器の破片へと変わった。歩み寄って砂の上からそれを拾い上げた山岸が、破片を見つめて泣きそうな顔で微笑んだ。
「阻止してくれたよ。アマネ君は」
それが今の状況を作り出している要因の一つであったとしても、有里が昏睡状態になってしまったとしても、今までの話を統合すれば彼は確かに何かを『阻止』したのだろう。山岸の持つ破片を見つめていた白蘭が口を開きかけて、言葉を飲み込むように顔を逸らした。
コロマルが白蘭の傍へ寄って伺う様に鼻を鳴らしている。白蘭は困ったようにそれを見下ろして、遠慮がちに手を伸ばして撫でていた。
「白蘭君。アマネ君の考える『最悪』って、こういう事だったの?」
「少なくとも、アマネチャンが望んだのはもっと良い方向だったんじゃないかな。アマネチャンはそう簡単に諦めない」
「もっといい方向?」
「アリサトさんだっけ? その人がここにいる状況とか。だってアマネチャンの胸に引っかかってるのは」
言い掛けて白蘭は何かに気付いたように言葉を飲み込み、それから慎重に続ける。
「引っかかってるのは、アリサトさんが『死んでしまう』っていう事実だったハズだし」
「死んでしまう……?」
「奏は死んでねーだろ」
伊織が言い返すも、既に記憶を取り戻した桐条達はそれに同意出来ないといった様子で黙る。言い返された百蘭も特に不快に思った様子もなく伊織を見た。
「そうだね。アマネチャンが頑張ったから『彼女』は死ななかった。でもアマネチャンは『彼女が死んでしまう可能性』を知っていて、だからキミ達へ介入したワケ。本来ならアマネチャンは介入すらする必要は無かったんじゃないかってボクは思うけどね」
「必要ない? どうしてですか?」
「だって『彼』と同じで『彼女』はやり遂げるってアマネチャンは分かってたと思うんだ。でなくちゃ大まかな“ストーリー”に乗っ取って動くなんて真似は出来ない。荒垣サンを助けて桐条当主を助けて? 最後に土壇場で『彼女』を助けるところまでがアマネチャンの計画だったとすれば、それは『彼女』が“そこへ到達する”と信じてなくちゃ出来ないでしょ」
全ての始まりが、彼女が巌戸台へ来て初めてペルソナを召喚した四月からだったとして。
殆どSEESに関わろうとしていなかったらしい彼がSEESメンバーを誘導できたかといえば否だ。少なくとも突然現れた青年がいきなり『大型シャドウ退治をやめろ』と言ってきても、アイギス達は止めなかっただろう。ストレガのタカヤ達へ言われても止めなかったのだからそのくらいは簡単に推測できる。
だが、では自分の思い通りに動かせない相手達に対して『自分の思うように』改変しようとしたら何が必要だったのか。
「『彼女』が死ぬ可能性や、色んなデメリットがあってもアマネチャンは出来るだけキミ達へ介入せずあくまでもキミ達が進む『ルート』での改変を目指したんだ。キミ達へ悟られないように、キミ達が――自分の意志で未来を決められるように」
砂に残るたくさんの足跡。百蘭が自分の足下へ残っていたそれを踏み消す。
最悪を最悪ではないように。
その言葉の重さが今になってアイギスへも感じ取れるようになってきた。ムーンライトブリッジで一人で望月を倒そうとしたアイギスだからこそ、その言葉が行動へ移す為には難しいものだと分かる。
自分の行動のその先が本当に『最悪』にはならないか、自分の行動を疑う心はいつだって現れるものだ。未来は常に成功と失敗の可能性を最低限存在させている。
アイギスが望月を倒そうとした試みは二度とも失敗した。今ではもう、成功した未来を想像もできない。
『アマネ』は、それでも全てのチャンスを信じていたのだろう。