後日談2
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「今日はきっと“また”三月三十一日だよ」
巌戸台分寮へ現れた謎の青年白蘭の言う通り、寮の外は本来訪れるはずの四月一日を迎えていなかった。寮にいたメンバーが日付を勘違いしていたという思い違いでもなく、世間は三月三十一日を繰り返していたのである。その異変に気付いたのは寮へ残っていたメンバーだけではなく、既に寮を出ていた元SEESメンバーもであった。
異変に気付いているのが自身だけなのかと考え、彼らが集まったのが巌戸台分寮であることはやはりというべきか。あの一年を共に越えてきた仲間意識というものもあったかも知れない。
そうして全員が揃って再び深夜の零時を迎えたところで、アイギス達は時計の針が止まる感覚を覚えた。点けたままだったテレビからは『三月三十一日をお知らせします』とキャスターの声が響く。
それを聞いて、アイギス達の視線は体感時間の昨日から分寮へいた白蘭へと向けられた。
「ほらね。今日はまた三月三十一日。このままだと明日も明後日もずっと三月三十一日なんだろうね」
サイコロの様な正方形の匣を手の上で弄んでいた白蘭は、そう言って匣をポケットへと仕舞う。
「誰かこの寮の外へ出られるか試してもらってもいい?」
「外? 外に出られるかって……開かない?」
岳羽が玄関のドアノブへ手をかけて開けようとするが、誰も鍵を掛けた記憶が無いというのにドアが開かなくなっていた。鍵のせいというよりも、揺さぶっても微動だにしない。荒垣が歩み寄って岳羽へ手を貸しても扉は開かず、不可解だと言わんばかりの視線が再び白蘭へと集まる。
白蘭は扉が開かないだろう事を予測していたとばかりにため息を吐く。
「閉じこめられたね」
「そんな冷静に」
「多分そこの地下にある場所のせいだよ」
「地下……」
「『時の狭間』っていうらしいけど、本当かどうかは分かんない。でもその場所のせいで時間と空間が歪んじゃって、ボク達はこの『三月三十一日』から抜け出せない」
立ち上がった白蘭が脇に置いていた鞄を掴んで、『時の狭間』へと繋がる階段を下りていった。慌ててアイギス達が追いかければ、階段の先には果てしない程に広い砂漠が広がっている。
すぐ傍には扉が一つ自立して立っていた。その無造作に存在している扉を眺めて、白蘭が何かに気付いた様に自分の足下を見下ろす。
「これが、『時の狭間』?」
「人が作った空間ではないな……タルタロスのようなものか?」
「どうだろうね」
「どうだろうね、って、知ってるんじゃないんですか?」
「ボクはその『タルタロス』って場所に行ったこと無いし。知ってるのは……知ってるのは、時間の空回りや外に出られなくなった理由はこの場所が原因だって事だけだよ。ボク達が無事に『明日』を迎えるには、何とかしてこの空間を消さなきゃならない。でもボクは消し方までは知らないんだ」
しゃがんで自分の足下の砂に手を伸ばした白蘭に、アイギス達は顔を見合わせた。彼の言うことをどこまで鵜呑みにしていいのか分からないし、彼がどうしてそこまで知っているのかも分からなかったからだ。
彼は『タルタロスを知らない』と言った。そのくせ『影時間』の事は知っている。手に付いた砂を払って立ち上がった白蘭が改めてアイギス達へと振り返った。
「ここから出られないなら食料とかの問題もあるし、いつかは餓死しちゃうかもしれないね。ボクの話が信じられないと思うなら好きにしていいよ。ボクもキミ達に構ってられない」
「何その言い方。ちょっとねえ――」
「ボクは『アマネチャン』を迎えにきただけで、こんな事に巻き込まれるつもりは無かったんだ。つまりボクだって巻き込まれた被害者だよ? ボクに当たる暇があるなら自分達でも考えたらどう?」
突き放すような言い方をした白蘭に岳羽だけではなく伊織や真田も機嫌を悪くする。だがある意味では白蘭の言う通りかも知れなかった。
彼はペルソナ使いではない。見たところ適正があるようにも思えなかった。ただ『影時間』や『時の狭間』を知っているだけの青年だ。
かつてのストレガの様にアイギス達へ敵意がある訳でもなく、何か用があって巌戸台分寮へ現れ、巻き込まれて知っていたから話してくれただけ。それだけと言ってしまえばそれだけだ。教えてくれたことに感謝するべきかも知れない。
それでもやはり『何故知っているのか』とか『何をしに来たのか』という疑問は残っている。
ポケットへ手を突っ込んで、何かを握りしめるように動かす仕草をした白蘭に、アイギスは無意識にその腕を掴んでいた。
「なに?」
「あ……その、貴方はここを探索するつもりなのですか?」
「うん。この空間を消す方法は知らないけど、ボクの捜し物はここにあるみたいだからね」
「捜し物?」
「『アマネチャン』だよ。でも――言っても分かんないデショ」
昨日、彼が分寮へ訪れた直後に言っていた言葉だ。しかし白蘭はアイギス達には分からないと言う。
「それは、本当にここにあるの?」
「あるよ。ここにはきっとキミ達が求めてるものだってある」
それは『何』のことなのか。扉へと向かおうとする白蘭へアイギスは提案する。
「ここは何があるか分かりません。よければ私達と一緒に行きませんか?」
巌戸台分寮へ現れた謎の青年白蘭の言う通り、寮の外は本来訪れるはずの四月一日を迎えていなかった。寮にいたメンバーが日付を勘違いしていたという思い違いでもなく、世間は三月三十一日を繰り返していたのである。その異変に気付いたのは寮へ残っていたメンバーだけではなく、既に寮を出ていた元SEESメンバーもであった。
異変に気付いているのが自身だけなのかと考え、彼らが集まったのが巌戸台分寮であることはやはりというべきか。あの一年を共に越えてきた仲間意識というものもあったかも知れない。
そうして全員が揃って再び深夜の零時を迎えたところで、アイギス達は時計の針が止まる感覚を覚えた。点けたままだったテレビからは『三月三十一日をお知らせします』とキャスターの声が響く。
それを聞いて、アイギス達の視線は体感時間の昨日から分寮へいた白蘭へと向けられた。
「ほらね。今日はまた三月三十一日。このままだと明日も明後日もずっと三月三十一日なんだろうね」
サイコロの様な正方形の匣を手の上で弄んでいた白蘭は、そう言って匣をポケットへと仕舞う。
「誰かこの寮の外へ出られるか試してもらってもいい?」
「外? 外に出られるかって……開かない?」
岳羽が玄関のドアノブへ手をかけて開けようとするが、誰も鍵を掛けた記憶が無いというのにドアが開かなくなっていた。鍵のせいというよりも、揺さぶっても微動だにしない。荒垣が歩み寄って岳羽へ手を貸しても扉は開かず、不可解だと言わんばかりの視線が再び白蘭へと集まる。
白蘭は扉が開かないだろう事を予測していたとばかりにため息を吐く。
「閉じこめられたね」
「そんな冷静に」
「多分そこの地下にある場所のせいだよ」
「地下……」
「『時の狭間』っていうらしいけど、本当かどうかは分かんない。でもその場所のせいで時間と空間が歪んじゃって、ボク達はこの『三月三十一日』から抜け出せない」
立ち上がった白蘭が脇に置いていた鞄を掴んで、『時の狭間』へと繋がる階段を下りていった。慌ててアイギス達が追いかければ、階段の先には果てしない程に広い砂漠が広がっている。
すぐ傍には扉が一つ自立して立っていた。その無造作に存在している扉を眺めて、白蘭が何かに気付いた様に自分の足下を見下ろす。
「これが、『時の狭間』?」
「人が作った空間ではないな……タルタロスのようなものか?」
「どうだろうね」
「どうだろうね、って、知ってるんじゃないんですか?」
「ボクはその『タルタロス』って場所に行ったこと無いし。知ってるのは……知ってるのは、時間の空回りや外に出られなくなった理由はこの場所が原因だって事だけだよ。ボク達が無事に『明日』を迎えるには、何とかしてこの空間を消さなきゃならない。でもボクは消し方までは知らないんだ」
しゃがんで自分の足下の砂に手を伸ばした白蘭に、アイギス達は顔を見合わせた。彼の言うことをどこまで鵜呑みにしていいのか分からないし、彼がどうしてそこまで知っているのかも分からなかったからだ。
彼は『タルタロスを知らない』と言った。そのくせ『影時間』の事は知っている。手に付いた砂を払って立ち上がった白蘭が改めてアイギス達へと振り返った。
「ここから出られないなら食料とかの問題もあるし、いつかは餓死しちゃうかもしれないね。ボクの話が信じられないと思うなら好きにしていいよ。ボクもキミ達に構ってられない」
「何その言い方。ちょっとねえ――」
「ボクは『アマネチャン』を迎えにきただけで、こんな事に巻き込まれるつもりは無かったんだ。つまりボクだって巻き込まれた被害者だよ? ボクに当たる暇があるなら自分達でも考えたらどう?」
突き放すような言い方をした白蘭に岳羽だけではなく伊織や真田も機嫌を悪くする。だがある意味では白蘭の言う通りかも知れなかった。
彼はペルソナ使いではない。見たところ適正があるようにも思えなかった。ただ『影時間』や『時の狭間』を知っているだけの青年だ。
かつてのストレガの様にアイギス達へ敵意がある訳でもなく、何か用があって巌戸台分寮へ現れ、巻き込まれて知っていたから話してくれただけ。それだけと言ってしまえばそれだけだ。教えてくれたことに感謝するべきかも知れない。
それでもやはり『何故知っているのか』とか『何をしに来たのか』という疑問は残っている。
ポケットへ手を突っ込んで、何かを握りしめるように動かす仕草をした白蘭に、アイギスは無意識にその腕を掴んでいた。
「なに?」
「あ……その、貴方はここを探索するつもりなのですか?」
「うん。この空間を消す方法は知らないけど、ボクの捜し物はここにあるみたいだからね」
「捜し物?」
「『アマネチャン』だよ。でも――言っても分かんないデショ」
昨日、彼が分寮へ訪れた直後に言っていた言葉だ。しかし白蘭はアイギス達には分からないと言う。
「それは、本当にここにあるの?」
「あるよ。ここにはきっとキミ達が求めてるものだってある」
それは『何』のことなのか。扉へと向かおうとする白蘭へアイギスは提案する。
「ここは何があるか分かりません。よければ私達と一緒に行きませんか?」