ペルソナP3P
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「斑鳩、アマネ。ですか? そんなクラスメイトは居なかったと思いますけど……違うクラスと間違えてるんじゃありませんか?」
「斑鳩? そんな後輩いたっけ? 転校してくる前の学校のとかじゃない?」
「アマネさん、ですか? ちょっと分からないです」
「覚えはないな」
酷く眠たい気持ちを堪えて、有里は人の少なくなった放課後の廊下を歩いていた。探している青年についての情報は今のところ何一つ出てきていない。
斑鳩 アマネ。有里以外の誰もがその存在を忘れているようだった。
けれども有里の記憶の中に彼は居たのである。SEESの仲間だった荒垣を助け、桐条の父親を助け、SEESのメンバーに何度も助け船を出して手を貸して窮地に現れて、有里自身のことも助けてくれた。
有里は何度も彼に助けられたし、彼に様々なことを教えられたとも思っている。ニュクスを封印する為の絆の力の一つには、彼との繋がりだってあっただろう。
けれども彼の事が、あの日から全て消えてしまっていた。
覚えているのは自分だけなのか、どうして居なくなってしまったのか。その理由は何となくだが分かっている。何故ならSEESの皆がシャドウとの戦いとの事を忘れているようだったからだ。
きっと影時間と同じく、彼は忘れられてしまった。世界が改変された音にかき消されたのだ。
だが、それは多分『死』より悲しいことだと思う。
廊下の真ん中で足を止める。胸に穴が空いたような喪失感と悲しみに涙が溢れそうだ。
彼は、もう――。
「――『奏』」
綾時に似た、落ち着いた声に呼ばれて顔を上げる。廊下の先に見たことのない男子生徒が立っていた。
少し自分に似ていると思ったのは、色違いの音楽プレーヤーを提げていたからだけではないだろう。男女の違いや髪型といったものは違うけれど、顔立ちは実は双子だったのではと思わせるほど似ている。ただ男子生徒の方が感情の振り幅は少なさそうだ。
無表情に近いその顔で、男子生徒はけれども有里を勇気付けるように微笑む。
窓の外から部活に勤しむ声が聞こえる。校門を出て行く生徒の笑い声。開けられた窓からの冷たい潮風が、壁の掲示物を捲り上げては吹き抜けていく。
「『諦めないで。あの子は諦めなかった』」
「――……みなと、くん?」
諦めないでと言われても有里には『時間がない』
青い蝶が男子生徒の周りを飛んで、男子生徒がゆっくりと歩み寄ってくる。目の前で止まって伸ばされた手が有里の手を掴んだ。
冷たい手。心が温かい人のそれ。
「『“朝”を取り戻しに行こう』」
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