ペルソナP3P
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タカヤの武器は大経口のリボルバーだ。リボルバーの装填数は約八発。つまり連続で八発撃たせてしまえば次弾装填の為のタイムラグが発生する。
予備の弾をタカヤが幾つ所持しているのかは分からない。そもそも撃たせてしまえばなどと軽く表現しているが、言うのとやるのとでは大違いでもある。この階には上へ行く階段以外に何も物が置かれていない。障害物になる壁もなく、ただの空間だ。
そんな場所を走り続けるだけで八発避けるというのは、なかなか困難な戦術だろう。更に言えばタカヤもペルソナを召喚出来るのだから、彼の行動次第では隙はもっと減る筈だ。タカヤだって自分の武器の不利な点など当然把握している。
ではどうするかとアマネがとった行動は、いつもと大して変わらない方法だった。
一発目を避け、二発目も避けたところで足を踏み込み、タカヤへ向かって迫る。焦らずにアマネへ照準を定めて引き金を引いたタカヤに、アマネは持っていたナイフでその軌道を逸らした。
逸らされて見当違いな方向へ飛んでいった銃弾が床を抉る。改造もしているのだろう。威力は本来のリボルバーよりも強い。当たれば即身体へ穴が開く。
弾を逸らしたアマネに驚いてかタカヤが動きを止めた。
「……信じられない」
「驚き頂いて恐悦至極。まだ見ぬ世界が見れて良かったなぁ。……銃に撃たれて死ぬなんてのは、誰かを庇いながらで充分だぁ」
庇う者がいないところで、撃たれてやるほど間抜けでもない。
「命の使い方は自分で決める。俺にはまだ果たしてねぇ『約束』がある。だから今ここでお前に殺されてやるほど俺は優しくねぇよ」
「死ぬのは怖くないと」
「言ったぜぇ。でも同時に言ったなぁ。『死より怖ぇことがある』」
体勢を直してタカヤを見つめる。
撃たれて死んだことがあった。弟と親友を庇ってのそれに、今でもアマネは後悔していない。
ただ、もし『次』があって彼等に会うことがあったら、その時は怒られるだろうとも思っている。それを怖いと思っているのではなく、怒られもせず拒絶されたらと考えるのが怖い。
誰も助けられなかったらを考えるのが、“おいていかれる”のが怖いのだ。
ウォレットチェーンの飾りに触れた。これがある限り“おいていかれる”恐怖には打ち勝てる。
「テメェにここで負ける訳にはいかねぇんだよ」
「それは私も同じ事」
動揺を打ち消してタカヤが喉を鳴らすように笑う。自分の撃った銃弾が弾かれてしまうと分かっていて笑える余裕があるとも思えなかったので、恐らくは強がりの笑いだ。
もしくは、死んでもいいという笑みか。
アマネはナイフを半回転させて逆手に持ち直した。
タカヤとも仲良くなれる可能性があると思っていた。それはかつて、絶望に囚われたバミューダという知り合いがいたからだろう。要するにアマネはタカヤに対してはやはり傲っていたのだ。
ニュクスへ希望を求めた男だった。その光は月明かりよりも脆く、けれどもタカヤにとっては眩しかったのかも知れない。
彼に違う希望を与えるとしたらどんなものがいいのかと考えてみる。だがすぐに考える為の材料が足りないと考え直した。
「でも、お前にだって希望はあるって信じてるよ」
見下ろした床の上。アマネの峰打ちを食らって意識を失ったタカヤはその言葉を聞いていない。
ただの峰打ちなのですぐに起きるだろう事は分かっていたので、指を鳴らして幻覚製の鎖を作り出す。それでタカヤをジンと同じく雁字搦めにして壁際へと運んだ。
壁へと寄りかからせたタカヤに指を鳴らして黒い炎を灯し、その炎を押しつける。
「絶望に底はあるけど希望に天井はねぇんだぁ。ニュクスを見上げるならその更に上も見とけぇ」
僅かな暖かさを残して消えた炎に、アマネは上着を脱いでタカヤの肩へと掛けてやってから立ち上がった。振り返った先にある頂上への階段を見やる。
これから何が起こるのかこのタルタロスは分かっているだろうに、常と変わらない不気味さだけを漂わせていた。その階段の先に、何がいるのかを知っている。
行動を止める者がいないのを良いことにアマネはゆっくりその階段へと足を進めた。最初の一段目に足を掛けたところで指を鳴らせば、背後でジャラジャラと鎖のこすれる音が何重にも響く。
数十段ほど昇ったところで聞こえなくなった音に振り返れば、来た道は鎖によってちゃんと塞がれていた。これでもう、アマネが幻覚を消すか意識を失わない限りあの鎖が消えることはないだろう。
それは当然彼女達が頂上へたどり着けないことを意味しているが、アマネはそれでも構わなかった。
最悪を、『最』悪にしないように。
自分以外に音を立てる存在がいない階段の途中、腰のウォレットチェーンが異を唱える様に揺れる。それを押さえ込んでからアマネはナイフを抜いた。
雲より高い場所に存在する頂上。そこから見上げた先の巨大な月は、まるで地上へ降りてこようとしているかのように近く感じられる。
異様なほどに近いそれから、黒い点。黒い翼を背負って降りてきたその姿は『一度目』に見たときよりも望月としての姿に近かった。
「……来るのが早いよ」
そう言ってペルソナの『タナトス』が持っているのと同じ片刃の直剣を持った望月の顔は、もう表情が分からないニュクス・アバターのそれになっている。
二人揃って仮面を被っているのが、こんな状況だというのにおかしい。
「でも、来るって分かってたでしょう?」
「うん……アマネ君」
望月が――ニュクス・アバターが。
「ごめんね」
予備の弾をタカヤが幾つ所持しているのかは分からない。そもそも撃たせてしまえばなどと軽く表現しているが、言うのとやるのとでは大違いでもある。この階には上へ行く階段以外に何も物が置かれていない。障害物になる壁もなく、ただの空間だ。
そんな場所を走り続けるだけで八発避けるというのは、なかなか困難な戦術だろう。更に言えばタカヤもペルソナを召喚出来るのだから、彼の行動次第では隙はもっと減る筈だ。タカヤだって自分の武器の不利な点など当然把握している。
ではどうするかとアマネがとった行動は、いつもと大して変わらない方法だった。
一発目を避け、二発目も避けたところで足を踏み込み、タカヤへ向かって迫る。焦らずにアマネへ照準を定めて引き金を引いたタカヤに、アマネは持っていたナイフでその軌道を逸らした。
逸らされて見当違いな方向へ飛んでいった銃弾が床を抉る。改造もしているのだろう。威力は本来のリボルバーよりも強い。当たれば即身体へ穴が開く。
弾を逸らしたアマネに驚いてかタカヤが動きを止めた。
「……信じられない」
「驚き頂いて恐悦至極。まだ見ぬ世界が見れて良かったなぁ。……銃に撃たれて死ぬなんてのは、誰かを庇いながらで充分だぁ」
庇う者がいないところで、撃たれてやるほど間抜けでもない。
「命の使い方は自分で決める。俺にはまだ果たしてねぇ『約束』がある。だから今ここでお前に殺されてやるほど俺は優しくねぇよ」
「死ぬのは怖くないと」
「言ったぜぇ。でも同時に言ったなぁ。『死より怖ぇことがある』」
体勢を直してタカヤを見つめる。
撃たれて死んだことがあった。弟と親友を庇ってのそれに、今でもアマネは後悔していない。
ただ、もし『次』があって彼等に会うことがあったら、その時は怒られるだろうとも思っている。それを怖いと思っているのではなく、怒られもせず拒絶されたらと考えるのが怖い。
誰も助けられなかったらを考えるのが、“おいていかれる”のが怖いのだ。
ウォレットチェーンの飾りに触れた。これがある限り“おいていかれる”恐怖には打ち勝てる。
「テメェにここで負ける訳にはいかねぇんだよ」
「それは私も同じ事」
動揺を打ち消してタカヤが喉を鳴らすように笑う。自分の撃った銃弾が弾かれてしまうと分かっていて笑える余裕があるとも思えなかったので、恐らくは強がりの笑いだ。
もしくは、死んでもいいという笑みか。
アマネはナイフを半回転させて逆手に持ち直した。
タカヤとも仲良くなれる可能性があると思っていた。それはかつて、絶望に囚われたバミューダという知り合いがいたからだろう。要するにアマネはタカヤに対してはやはり傲っていたのだ。
ニュクスへ希望を求めた男だった。その光は月明かりよりも脆く、けれどもタカヤにとっては眩しかったのかも知れない。
彼に違う希望を与えるとしたらどんなものがいいのかと考えてみる。だがすぐに考える為の材料が足りないと考え直した。
「でも、お前にだって希望はあるって信じてるよ」
見下ろした床の上。アマネの峰打ちを食らって意識を失ったタカヤはその言葉を聞いていない。
ただの峰打ちなのですぐに起きるだろう事は分かっていたので、指を鳴らして幻覚製の鎖を作り出す。それでタカヤをジンと同じく雁字搦めにして壁際へと運んだ。
壁へと寄りかからせたタカヤに指を鳴らして黒い炎を灯し、その炎を押しつける。
「絶望に底はあるけど希望に天井はねぇんだぁ。ニュクスを見上げるならその更に上も見とけぇ」
僅かな暖かさを残して消えた炎に、アマネは上着を脱いでタカヤの肩へと掛けてやってから立ち上がった。振り返った先にある頂上への階段を見やる。
これから何が起こるのかこのタルタロスは分かっているだろうに、常と変わらない不気味さだけを漂わせていた。その階段の先に、何がいるのかを知っている。
行動を止める者がいないのを良いことにアマネはゆっくりその階段へと足を進めた。最初の一段目に足を掛けたところで指を鳴らせば、背後でジャラジャラと鎖のこすれる音が何重にも響く。
数十段ほど昇ったところで聞こえなくなった音に振り返れば、来た道は鎖によってちゃんと塞がれていた。これでもう、アマネが幻覚を消すか意識を失わない限りあの鎖が消えることはないだろう。
それは当然彼女達が頂上へたどり着けないことを意味しているが、アマネはそれでも構わなかった。
最悪を、『最』悪にしないように。
自分以外に音を立てる存在がいない階段の途中、腰のウォレットチェーンが異を唱える様に揺れる。それを押さえ込んでからアマネはナイフを抜いた。
雲より高い場所に存在する頂上。そこから見上げた先の巨大な月は、まるで地上へ降りてこようとしているかのように近く感じられる。
異様なほどに近いそれから、黒い点。黒い翼を背負って降りてきたその姿は『一度目』に見たときよりも望月としての姿に近かった。
「……来るのが早いよ」
そう言ってペルソナの『タナトス』が持っているのと同じ片刃の直剣を持った望月の顔は、もう表情が分からないニュクス・アバターのそれになっている。
二人揃って仮面を被っているのが、こんな状況だというのにおかしい。
「でも、来るって分かってたでしょう?」
「うん……アマネ君」
望月が――ニュクス・アバターが。
「ごめんね」