ペルソナ3
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「……ぅ」
肩に激痛。打撲に続いてまた右側かと筋肉を動かそうとすると、血の流れる感覚はするが異物感は無い。それよりも頭が痛かった。
武治を庇って撃たれたところまでは覚えているので、その後頭を打ちでもして脳震盪でも起こしたのか。
すぐ傍に誰かが立っている気配。口から重力に従って垂れた唾液が不快で、ゆっくり覚醒していく脳が聴覚を復活させる。
「父は間違っていたのだ。死が人の救いだなど……継ぐべき思想ではない!」
「愚かな! 貴方はもう邪魔なだけだ。アイギス! 一足先にご当主に与えて差し上げろ。栄えある『救い』を!」
「やめろ! やめてくれ、アイギス!」
武治と幾月、美鶴の声。武治は無事だったかと目を動かすと、すぐ傍に立っているのが武治とアイギスであることが知れた。アイギスは幾月から命令を受けたというのに行動へ移す気配が無い。うろうろとさ迷う視線が人の様だった。
アマネは気付かれない様に指先をゆっくりと動かしてみる。肩を撃たれても神経が傷付いたりはしなかったらしく、右手は問題なく動いた。
口も閉じてゆっくり全身の筋肉が動くかを確認していく。
「チッ……もういい、私がやる! 十年だ。十年を無為にしたんだ! 先代の時とは違う……今度こそ、いかなる例外も許さない!」
アイギスが動かないことで業を煮やした幾月が叫んだ。撃鉄を起こす音が僅かに聞こえ、同時に武治が動いて懐から護身用だろう拳銃を取り出す。
二発の銃声は殆ど同時に響き渡った。
「お、父様」
武治の身体が、ゆっくりとアマネの隣へ倒れてくる。受身を取ることなく倒れた身体が、頭が、アマネの目の前で地面に小さく跳ね返って動かなくなった。
光が急速に失われた虚ろな目にアマネが映っている。武治の手には拳銃が握られたままで、アマネは武治と目が合ったままそれへ手を伸ばした。
「お父様ぁあああー!」
「う……クソッ。アイギス、『贄』どもを処刑しろ! 終わりにしてやる!」
泣き叫ぶ美鶴の悲痛な声と、幾月の痛みを堪えるような苛付いた声。どうやらアマネより後ろに美鶴達が居るらしい。それを確認するよりは武治の手から銃を取ることを重要視する。
頭上で連射される銃声が響くが、予想に反して痛みによる叫び声が上がる事はなかった。代わりに金属が落下する音や足音が聞こえる。
どうやらアイギスは幾月の命令に従わず美鶴達の拘束を壊したらしい。機械でありながら命令に背くことは普通であれば異常なのだろうが、アイギスが異常だとは思えなかった。
アマネがようやく誰にも気付かれないまま武治の手から拳銃を奪って掴んだところで、後ろから駆けつけてきた誰かの手がアマネへ伸びてくる。その反対側では美鶴が武治へ寄り添うのが見えた。
「おい斑鳩! 大丈夫かよ⁉」
伊織だったらしいその手が撃たれた肩を掴んで痛い。アマネよりも前へ幾月と対峙する様に真田が立つ。
「そっちにもう味方は居ないぞ、おまけにその怪我……これまでだな、理事長」
「ははは……何故分からない⁉ 今の世界で、希望や生きる意味を探し出すなんて、もう無理なんだよ!」
「……ちょっと、離れてください」
「斑鳩⁉ お前怪我っ」
「斑鳩くん⁉」
伊織と山岸の手をやんわりと払って、左手を支えに起き上がる。出血量が多すぎて周辺の床や服が血塗れになっていたが今は構っていられない。立ち上がると貧血で視界が眩み、足がふらついた。
真田を押し退けて前へ出る。血の出る腹部を押さえて叫んでいる幾月へ右手の銃を向けた。
「こんな世界は、やり直さなきゃ駄目なんだ……?」
大幅に照準がずれて、幾月の足元で跳ねた銃弾はしかし、幾月の戯言を止めるには充分だったらしい。
撃った反動で肩の傷から再び血が流れたようで、腕に力が入らないのをアマネは左手を添えることで堪える。左手で構えないのはただの矜持だ。
「……好き勝手に人の命を奪っておいて、勝手に世界を決め付ける権利がテメェにあると思ってんのかぁ。何処の世界に行ったってテメェは結局満足出来ねぇよ。死ぬ気で覚悟した事もねぇ汚泥野郎が、テメェの腐った価値観で世界も人も貶してんじゃねぇ」
今度は、狙い通りに幾月の心臓へと当たった。
驚いたような表情で、撃たれた事も分かっていなさそうな幾月がゆっくり空を見上げる。空には満月を一日過ぎた月が、冷ややかに幾月やアマネ達を見下ろしていた。
見上げる幾月の口から、咳と一緒に血が溢れる。縋るように月へ手が伸ばされ、幾月が音も無く後ろへと倒れていった。
端へ立っていた幾月の身体が吸い込まれるように建物から落下していく。アマネはそれを、最後まで目に焼き付けてから銃を降ろした。
「斑鳩……」
真田に呼ばれてもアマネは動けない。後ろから伸ばされた手によって銃が取り上げられる。
美鶴が縋るように武治の体を揺さぶって泣いていた。
「お父様……。以前、お父様は言っていた……私たちの代にまでリスクを負わせた責任は、命に代えても果たすと……でも私は、お父様に生きていて欲しかった。私は……この人を守りたくて、ペルソナ使いになったのに……ううぅ……うう……」
父親に生きていて欲しいが為だけに、ペルソナ使いになったのだと心情を吐露する美鶴。
それならばアマネのした事は合っていて、間違ってもいたのだろう。武治は娘達を守る為に撃ちはしたが、幾月を殺してはいない。その罪はアマネが奪った。
人殺しとして死なせない。
それだけが、武治を守れなかった今のアマネに出来る償いだった。
やがて影時間が明ける頃、放心状態だった美鶴を真田が支え、アマネにも伊織が肩を貸してくれてタルタロスを後にする。
誰も一言も声を発しないまま、寮へと戻った。
肩に激痛。打撲に続いてまた右側かと筋肉を動かそうとすると、血の流れる感覚はするが異物感は無い。それよりも頭が痛かった。
武治を庇って撃たれたところまでは覚えているので、その後頭を打ちでもして脳震盪でも起こしたのか。
すぐ傍に誰かが立っている気配。口から重力に従って垂れた唾液が不快で、ゆっくり覚醒していく脳が聴覚を復活させる。
「父は間違っていたのだ。死が人の救いだなど……継ぐべき思想ではない!」
「愚かな! 貴方はもう邪魔なだけだ。アイギス! 一足先にご当主に与えて差し上げろ。栄えある『救い』を!」
「やめろ! やめてくれ、アイギス!」
武治と幾月、美鶴の声。武治は無事だったかと目を動かすと、すぐ傍に立っているのが武治とアイギスであることが知れた。アイギスは幾月から命令を受けたというのに行動へ移す気配が無い。うろうろとさ迷う視線が人の様だった。
アマネは気付かれない様に指先をゆっくりと動かしてみる。肩を撃たれても神経が傷付いたりはしなかったらしく、右手は問題なく動いた。
口も閉じてゆっくり全身の筋肉が動くかを確認していく。
「チッ……もういい、私がやる! 十年だ。十年を無為にしたんだ! 先代の時とは違う……今度こそ、いかなる例外も許さない!」
アイギスが動かないことで業を煮やした幾月が叫んだ。撃鉄を起こす音が僅かに聞こえ、同時に武治が動いて懐から護身用だろう拳銃を取り出す。
二発の銃声は殆ど同時に響き渡った。
「お、父様」
武治の身体が、ゆっくりとアマネの隣へ倒れてくる。受身を取ることなく倒れた身体が、頭が、アマネの目の前で地面に小さく跳ね返って動かなくなった。
光が急速に失われた虚ろな目にアマネが映っている。武治の手には拳銃が握られたままで、アマネは武治と目が合ったままそれへ手を伸ばした。
「お父様ぁあああー!」
「う……クソッ。アイギス、『贄』どもを処刑しろ! 終わりにしてやる!」
泣き叫ぶ美鶴の悲痛な声と、幾月の痛みを堪えるような苛付いた声。どうやらアマネより後ろに美鶴達が居るらしい。それを確認するよりは武治の手から銃を取ることを重要視する。
頭上で連射される銃声が響くが、予想に反して痛みによる叫び声が上がる事はなかった。代わりに金属が落下する音や足音が聞こえる。
どうやらアイギスは幾月の命令に従わず美鶴達の拘束を壊したらしい。機械でありながら命令に背くことは普通であれば異常なのだろうが、アイギスが異常だとは思えなかった。
アマネがようやく誰にも気付かれないまま武治の手から拳銃を奪って掴んだところで、後ろから駆けつけてきた誰かの手がアマネへ伸びてくる。その反対側では美鶴が武治へ寄り添うのが見えた。
「おい斑鳩! 大丈夫かよ⁉」
伊織だったらしいその手が撃たれた肩を掴んで痛い。アマネよりも前へ幾月と対峙する様に真田が立つ。
「そっちにもう味方は居ないぞ、おまけにその怪我……これまでだな、理事長」
「ははは……何故分からない⁉ 今の世界で、希望や生きる意味を探し出すなんて、もう無理なんだよ!」
「……ちょっと、離れてください」
「斑鳩⁉ お前怪我っ」
「斑鳩くん⁉」
伊織と山岸の手をやんわりと払って、左手を支えに起き上がる。出血量が多すぎて周辺の床や服が血塗れになっていたが今は構っていられない。立ち上がると貧血で視界が眩み、足がふらついた。
真田を押し退けて前へ出る。血の出る腹部を押さえて叫んでいる幾月へ右手の銃を向けた。
「こんな世界は、やり直さなきゃ駄目なんだ……?」
大幅に照準がずれて、幾月の足元で跳ねた銃弾はしかし、幾月の戯言を止めるには充分だったらしい。
撃った反動で肩の傷から再び血が流れたようで、腕に力が入らないのをアマネは左手を添えることで堪える。左手で構えないのはただの矜持だ。
「……好き勝手に人の命を奪っておいて、勝手に世界を決め付ける権利がテメェにあると思ってんのかぁ。何処の世界に行ったってテメェは結局満足出来ねぇよ。死ぬ気で覚悟した事もねぇ汚泥野郎が、テメェの腐った価値観で世界も人も貶してんじゃねぇ」
今度は、狙い通りに幾月の心臓へと当たった。
驚いたような表情で、撃たれた事も分かっていなさそうな幾月がゆっくり空を見上げる。空には満月を一日過ぎた月が、冷ややかに幾月やアマネ達を見下ろしていた。
見上げる幾月の口から、咳と一緒に血が溢れる。縋るように月へ手が伸ばされ、幾月が音も無く後ろへと倒れていった。
端へ立っていた幾月の身体が吸い込まれるように建物から落下していく。アマネはそれを、最後まで目に焼き付けてから銃を降ろした。
「斑鳩……」
真田に呼ばれてもアマネは動けない。後ろから伸ばされた手によって銃が取り上げられる。
美鶴が縋るように武治の体を揺さぶって泣いていた。
「お父様……。以前、お父様は言っていた……私たちの代にまでリスクを負わせた責任は、命に代えても果たすと……でも私は、お父様に生きていて欲しかった。私は……この人を守りたくて、ペルソナ使いになったのに……ううぅ……うう……」
父親に生きていて欲しいが為だけに、ペルソナ使いになったのだと心情を吐露する美鶴。
それならばアマネのした事は合っていて、間違ってもいたのだろう。武治は娘達を守る為に撃ちはしたが、幾月を殺してはいない。その罪はアマネが奪った。
人殺しとして死なせない。
それだけが、武治を守れなかった今のアマネに出来る償いだった。
やがて影時間が明ける頃、放心状態だった美鶴を真田が支え、アマネにも伊織が肩を貸してくれてタルタロスを後にする。
誰も一言も声を発しないまま、寮へと戻った。