ペルソナP3P
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジンを鎖で雁字搦めにして気絶させてから、アマネは血の滲んだ爪の痕を指先でこすりつつ階段を上がった。時間の経過が体内時計でしか分からないが、ジンにはさほど手間取っていない。
頂上へ繋がる階へと向かえば、タカヤが階段へ腰を下ろして俯いていた。相変わらず半裸で、しかし肌の色はすこぶる悪い。少し前にストレガの拠点跡で会った時よりも酷いそれはおそらく、数日は食事や睡眠を摂っていないせいだろう。
「……やはり、貴方が先に来ましたか」
「安心しろぉ。ジンは殺してねぇ」
足を止めて仮面を外す。紐をまとめて腰のベルト通しに引っかければ、俯いていたタカヤが顔を上げた。
ニソリと微笑んで立ち上がるタカヤにアマネも笑う。
「一つ、教えていただけますか」
「どうぞぉ」
「貴方はいったい、『何者』です?」
『何をしようとしているのか』ではない。もっと直接的な質問だ。
けれども今までアマネは、それにまともに答えた事はなかった。ずっと誰にも言わないつもりでいたのだから当然である。
平行世界から来た事は荒垣へ告げた。だがその荒垣にも、未来がどうなるのかは話していない。更に言うなら彼は昏睡状態なので、知っていたとしても誰にも話せなかったのだ。
覚えている限りの事を記したノートは沢田の家へと預けた。『一月三十一日』を過ぎてから開けてくれと書き記した手紙通りにしてくれたなら、今日がどんな風に過ぎても何かがあったとは分かってくれるだろう。
でもあのノートを読んだら沢田達は気付いてくれる。アマネの馬鹿な行動だけでも。
「斑鳩アマネ。元SEESメンバー。元特別捜査隊メンバー。ペルソナ使いの一人。シャドウによって二年後の未来から一年前の春へ跳ばされた、『大いなる封印』有里湊の――弟」
胸を張ってとまではいかなかったが宣言する。SEESも特別捜査隊も“元”が付いてしまうのが格好付かないが仕方がない。
平行世界の過去へ跳ばされて、最悪の未来を“最”悪ではない未来に変えてやろうと試行錯誤するなんて『馬鹿な行動だ』の一言に尽きる。だからアマネは現状において絶対にメンバーの一員だとは言えない。
言えばアマネにとって大事な彼女達まで馬鹿な集団になってしまうからだ。そんな馬鹿はアマネだけでいい。
あの『最悪』を知っているのも、アマネだけでいいのだ。
タカヤが顔を歪めるようにして笑う。
「なるほど……なるほど。大言をほざける訳だ。つまり貴方は、我々の知らない未来を知っていると」
「そんなものは知らねぇ。俺が知ってるのは俺が経験した最悪な過去だけだぁ」
「だがそれは我々にとっての未来でしょう?」
「似ているが違う物語だろぉ」
似ているが違う物語。自分で言っておいて何だか、やけにその言葉がしっくりきた。
アマネが経験した最悪が、この世界で起こる確証なんて実のところ最初から無かったのだ。有里は女だったしこの世界にアマネの存在は本来無かった。かつてアマネと一緒に人生を送っていたボンゴレの皆の存在も『一度目』の世界には無くて、大まかなストーリーだけは同じだったかも知れないが違う物語。
ここへアマネがきて、変えようと思ったのもその物語の一部だとしても、アマネの意志だけは何者に左右された訳でもない本物だ。
「数多の平行世界があって、でもその世界は隣り合っているだけでも大分違げぇだろぉ。なら同じ未来へ進むなんてこともねぇよ。必ず何かしらの展開が違う。もしかしたらお前がSEESで彼女達がストレガだって世界もあるかも知れねぇなぁ」
「面白い仮説だ。ではもしそんな世界があったら、貴方は私の味方になるとでも?」
「俺は俺の味方にしかなれねぇよ。俺が嫌だと思ったことを否定して、俺が良いと思ったものを肯定する。そうして選んだのが『こちら側』だったぁ。誰だってそんな生き方をしてんだぁ。俺だけが変わることも無ぇ」
「だがそれではおかしい」
「おかしくない。俺は今もSEESの味方もしてねぇ」
断言する。
「俺は『一度目』でも、お前等とも仲良くなれるって思ってたよ。今でも思ってねぇと言えば嘘になる」
「――ふざけた事を」
嘲笑する様に吐き捨てて、けれどもタカヤはアマネを睨んでいた。
世界に絶望したのは世界に期待していたからこそ。タカヤが今まで歩んできた人生がどんなもので、その辛さを共感することはアマネには出来ない。だから口先で何を言おうと、タカヤはアマネの言葉を聞き入れようとはしないだろう。
分かっている。アマネが自分のエゴでタカヤを止められないかと期待していることも。
世界を愛した望月やあの人とは逆に、タカヤが世界を嫌っていることも。
「お前がもっと自分勝手で嫌な奴だったら、俺はこんなに苦労しなかったなぁ」
「貴方がもっと話の分かる方だったら、私はこんなに苦労しなかったでしょう」
タカヤが銃を構える。大経口のリボルバー。それにアマネは腰へ提げていた仮面を顔へ着けて召喚器とナイフを抜いた。
「死ぬのは怖くありません」
「死ぬのは怖くねぇ。怖いのはもっと別なこと」
引かれる引き金にアマネは横へ向かって走る。アマネを追いかける銃口から弾き出された銃弾がタルタロスの壁を抉った。
頂上へ繋がる階へと向かえば、タカヤが階段へ腰を下ろして俯いていた。相変わらず半裸で、しかし肌の色はすこぶる悪い。少し前にストレガの拠点跡で会った時よりも酷いそれはおそらく、数日は食事や睡眠を摂っていないせいだろう。
「……やはり、貴方が先に来ましたか」
「安心しろぉ。ジンは殺してねぇ」
足を止めて仮面を外す。紐をまとめて腰のベルト通しに引っかければ、俯いていたタカヤが顔を上げた。
ニソリと微笑んで立ち上がるタカヤにアマネも笑う。
「一つ、教えていただけますか」
「どうぞぉ」
「貴方はいったい、『何者』です?」
『何をしようとしているのか』ではない。もっと直接的な質問だ。
けれども今までアマネは、それにまともに答えた事はなかった。ずっと誰にも言わないつもりでいたのだから当然である。
平行世界から来た事は荒垣へ告げた。だがその荒垣にも、未来がどうなるのかは話していない。更に言うなら彼は昏睡状態なので、知っていたとしても誰にも話せなかったのだ。
覚えている限りの事を記したノートは沢田の家へと預けた。『一月三十一日』を過ぎてから開けてくれと書き記した手紙通りにしてくれたなら、今日がどんな風に過ぎても何かがあったとは分かってくれるだろう。
でもあのノートを読んだら沢田達は気付いてくれる。アマネの馬鹿な行動だけでも。
「斑鳩アマネ。元SEESメンバー。元特別捜査隊メンバー。ペルソナ使いの一人。シャドウによって二年後の未来から一年前の春へ跳ばされた、『大いなる封印』有里湊の――弟」
胸を張ってとまではいかなかったが宣言する。SEESも特別捜査隊も“元”が付いてしまうのが格好付かないが仕方がない。
平行世界の過去へ跳ばされて、最悪の未来を“最”悪ではない未来に変えてやろうと試行錯誤するなんて『馬鹿な行動だ』の一言に尽きる。だからアマネは現状において絶対にメンバーの一員だとは言えない。
言えばアマネにとって大事な彼女達まで馬鹿な集団になってしまうからだ。そんな馬鹿はアマネだけでいい。
あの『最悪』を知っているのも、アマネだけでいいのだ。
タカヤが顔を歪めるようにして笑う。
「なるほど……なるほど。大言をほざける訳だ。つまり貴方は、我々の知らない未来を知っていると」
「そんなものは知らねぇ。俺が知ってるのは俺が経験した最悪な過去だけだぁ」
「だがそれは我々にとっての未来でしょう?」
「似ているが違う物語だろぉ」
似ているが違う物語。自分で言っておいて何だか、やけにその言葉がしっくりきた。
アマネが経験した最悪が、この世界で起こる確証なんて実のところ最初から無かったのだ。有里は女だったしこの世界にアマネの存在は本来無かった。かつてアマネと一緒に人生を送っていたボンゴレの皆の存在も『一度目』の世界には無くて、大まかなストーリーだけは同じだったかも知れないが違う物語。
ここへアマネがきて、変えようと思ったのもその物語の一部だとしても、アマネの意志だけは何者に左右された訳でもない本物だ。
「数多の平行世界があって、でもその世界は隣り合っているだけでも大分違げぇだろぉ。なら同じ未来へ進むなんてこともねぇよ。必ず何かしらの展開が違う。もしかしたらお前がSEESで彼女達がストレガだって世界もあるかも知れねぇなぁ」
「面白い仮説だ。ではもしそんな世界があったら、貴方は私の味方になるとでも?」
「俺は俺の味方にしかなれねぇよ。俺が嫌だと思ったことを否定して、俺が良いと思ったものを肯定する。そうして選んだのが『こちら側』だったぁ。誰だってそんな生き方をしてんだぁ。俺だけが変わることも無ぇ」
「だがそれではおかしい」
「おかしくない。俺は今もSEESの味方もしてねぇ」
断言する。
「俺は『一度目』でも、お前等とも仲良くなれるって思ってたよ。今でも思ってねぇと言えば嘘になる」
「――ふざけた事を」
嘲笑する様に吐き捨てて、けれどもタカヤはアマネを睨んでいた。
世界に絶望したのは世界に期待していたからこそ。タカヤが今まで歩んできた人生がどんなもので、その辛さを共感することはアマネには出来ない。だから口先で何を言おうと、タカヤはアマネの言葉を聞き入れようとはしないだろう。
分かっている。アマネが自分のエゴでタカヤを止められないかと期待していることも。
世界を愛した望月やあの人とは逆に、タカヤが世界を嫌っていることも。
「お前がもっと自分勝手で嫌な奴だったら、俺はこんなに苦労しなかったなぁ」
「貴方がもっと話の分かる方だったら、私はこんなに苦労しなかったでしょう」
タカヤが銃を構える。大経口のリボルバー。それにアマネは腰へ提げていた仮面を顔へ着けて召喚器とナイフを抜いた。
「死ぬのは怖くありません」
「死ぬのは怖くねぇ。怖いのはもっと別なこと」
引かれる引き金にアマネは横へ向かって走る。アマネを追いかける銃口から弾き出された銃弾がタルタロスの壁を抉った。