ペルソナP3P
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『長鳴神社にいるからおいでよ』とメールが来て、携帯と財布だけ持ってアパートを飛び出した。とはいえ腕輪もウォレットチェーンも身に着けてはいたが。
残るところあと二日。二十九日の夜。
それはある意味ではアマネが結果を出さねばならない時までもあと二日しか無いという事で、冬の夜の空気が肌に嫌というほどその事実を突きつけてきていた。
最悪の結果を少しでも『最』悪ではない結果へしようというアマネの考えは、今のところ果たして上手くいっているのかなんて判断のしようがない。アマネの比較では荒垣も霧条の当主も重傷であれ命は繋いでいる事が最も大きな変化だったが、それも二日後にどうなるかで結局分からなくなるのだ。
良くある言葉で『結果はどうあれ努力を認めろ』なんてものがあるが、そんな言葉は信用出来ない。だってアマネ以外『一度目』の最悪を知らないのだ。
だからアマネ以外にとっては結局今の状態でも『最悪』のまま。
息を切らせて階段を登った先、境内の遊具の側に数人の高校生がたむろしている。その中からアマネへ気付いて駆け寄ってきたコロマルに、アマネは呼吸を整えながらしゃがんでその身体をなで回した。
「アマネ」
ジャングルジムの上から真田がアマネを呼ぶ。遊んでいた伊織達が動きを止めるのに立ち直して頭を下げた。
「有里さんにメールを頂いたので。……お邪魔でしたら帰ります」
「せっかく来たんならそんなこと言わないでよ」
「そうですよ。コロマルも嬉しそうでしょう?」
天田がそう言って滑り台から降りてくる。駆け寄ってきた勢いのままに飛びついてくる天田は走ってきたアマネよりも少し冷たい。
コロマルと天田に押されて遊具の傍へと向かえば有里が目の前に立って微笑む。その首には貸しっぱなしだったアマネのマフラーが巻かれていた。
「一緒に遊ぼう?」
彼女へ言われたら断れない。
「はい」
「おー斑鳩。お前ジャングルジム登れるか?」
「そりゃ登れるでしょ。アンタ何言ってんの?」
「ゆかりッチ厳しい!」
ジャングルジムの上から伊織が叫ぶ。ジムの内側で詰まっていた山岸が必死に上へ上がるか降りるかしようとしている。桐条がそれを良く分かっていないながらに真面目に観察していた。
アイギスが戻ってきたコロマルに手を差し出しては、頭の上へ前脚を置かれている。岳羽が有里と一緒にジャングルジムへ足を掛けた。
空に明後日には満月になる膨れた月が浮いている。その月からの明かりで周囲はそれなりに明るい。
月へ近付きたかった。それかこのままいっその事、明後日の事なんてアマネ以外忘れてしまえばいいのに。
そんな願いは望月を殺さなかった時点で叶うことはない。そろそろ夜も更けてきたから帰ろうと言い出した桐条達に、アマネは少し離れた場所から呼び掛けた。
一斉に振り返る彼女達に、出来るだけ何とも思わせないように微笑む。
「俺は明後日、貴方達の敵になります」
「え?」
岳羽が思わずと言ったように声をこぼした。他の皆も声こそ漏らしはしないが、同じように驚いている。
「俺は明後日貴方達の敵になります。俺の目的は貴方達と少し違う」
「……アマネくん? それってどういうこと?」
「貴方達の目的はニュクスを“倒す”事。ストレガの目的はニュクスを受け入れる事。でも俺の目的は――俺の目的はそのどちらとも違うんです」
何処かで車のクラクションが響く。こんな遅い時間にクラクションを鳴らすなんて近所迷惑だなとどうでもいいことを思った。
アマネを見つめたまま真田と桐条が不可解そうな表情を浮かべる。アマネの真意を測りかねているといったところか。だがアマネとしても彼等に真意を悟らせるつもりはない。
知らなくていいことだ。
「アマネ。それはもしタルタロスの中でお前と会ったら、お前とも戦えということか?」
真田の問いに頷く。とはいえアマネと彼女達が出会うかどうかがそもそも分からない。
ストレガの二人は確実にタルタロスの中へいる。彼等はそこでニュクスの訪れを待ち望んでいたから。
だがあの二人はアマネが先にどうにかしてしまうだろう。アマネが向かう先はストレガの二人より更に先だ。二人が邪魔をするならアマネは容赦しない。
しかし後から頂上へ来るだろうSEESの皆は、アマネ自身どうするのか決まっていなかった。彼女達が来た時にはもうアマネの用事が済んでいれば良し。済んでいなければその時アマネは。
有里を見る。彼女は悲しげな顔をしていた。
アマネは意識して笑う。彼女達にそんな表情をして欲しい訳ではない。
「……敵になると言っておいて、こんな事を言うのはふざけてると怒られるかも知れませんが。俺は、貴女達の誰一人として悲しい目にあって欲しくねぇ。犠牲なんていらない。犠牲なんて言葉は好きじゃねぇ」
頭を深く下げる。
「ですからどうか、誰一人として諦めねぇでください」
あの時、誰も諦めなどしなかった。だからそんな心配は必要ないのかも知れないが、それでも言っておきたかったのだ。
顔を上げれば彼女達は思い思いの表情をしていた。せっかくの全員揃っての楽しかった夜を台無しにしてしまったなと胸が痛んだが、それについて謝るつもりはない。
謝るのなら、もっと他の事にだ。
残るところあと二日。二十九日の夜。
それはある意味ではアマネが結果を出さねばならない時までもあと二日しか無いという事で、冬の夜の空気が肌に嫌というほどその事実を突きつけてきていた。
最悪の結果を少しでも『最』悪ではない結果へしようというアマネの考えは、今のところ果たして上手くいっているのかなんて判断のしようがない。アマネの比較では荒垣も霧条の当主も重傷であれ命は繋いでいる事が最も大きな変化だったが、それも二日後にどうなるかで結局分からなくなるのだ。
良くある言葉で『結果はどうあれ努力を認めろ』なんてものがあるが、そんな言葉は信用出来ない。だってアマネ以外『一度目』の最悪を知らないのだ。
だからアマネ以外にとっては結局今の状態でも『最悪』のまま。
息を切らせて階段を登った先、境内の遊具の側に数人の高校生がたむろしている。その中からアマネへ気付いて駆け寄ってきたコロマルに、アマネは呼吸を整えながらしゃがんでその身体をなで回した。
「アマネ」
ジャングルジムの上から真田がアマネを呼ぶ。遊んでいた伊織達が動きを止めるのに立ち直して頭を下げた。
「有里さんにメールを頂いたので。……お邪魔でしたら帰ります」
「せっかく来たんならそんなこと言わないでよ」
「そうですよ。コロマルも嬉しそうでしょう?」
天田がそう言って滑り台から降りてくる。駆け寄ってきた勢いのままに飛びついてくる天田は走ってきたアマネよりも少し冷たい。
コロマルと天田に押されて遊具の傍へと向かえば有里が目の前に立って微笑む。その首には貸しっぱなしだったアマネのマフラーが巻かれていた。
「一緒に遊ぼう?」
彼女へ言われたら断れない。
「はい」
「おー斑鳩。お前ジャングルジム登れるか?」
「そりゃ登れるでしょ。アンタ何言ってんの?」
「ゆかりッチ厳しい!」
ジャングルジムの上から伊織が叫ぶ。ジムの内側で詰まっていた山岸が必死に上へ上がるか降りるかしようとしている。桐条がそれを良く分かっていないながらに真面目に観察していた。
アイギスが戻ってきたコロマルに手を差し出しては、頭の上へ前脚を置かれている。岳羽が有里と一緒にジャングルジムへ足を掛けた。
空に明後日には満月になる膨れた月が浮いている。その月からの明かりで周囲はそれなりに明るい。
月へ近付きたかった。それかこのままいっその事、明後日の事なんてアマネ以外忘れてしまえばいいのに。
そんな願いは望月を殺さなかった時点で叶うことはない。そろそろ夜も更けてきたから帰ろうと言い出した桐条達に、アマネは少し離れた場所から呼び掛けた。
一斉に振り返る彼女達に、出来るだけ何とも思わせないように微笑む。
「俺は明後日、貴方達の敵になります」
「え?」
岳羽が思わずと言ったように声をこぼした。他の皆も声こそ漏らしはしないが、同じように驚いている。
「俺は明後日貴方達の敵になります。俺の目的は貴方達と少し違う」
「……アマネくん? それってどういうこと?」
「貴方達の目的はニュクスを“倒す”事。ストレガの目的はニュクスを受け入れる事。でも俺の目的は――俺の目的はそのどちらとも違うんです」
何処かで車のクラクションが響く。こんな遅い時間にクラクションを鳴らすなんて近所迷惑だなとどうでもいいことを思った。
アマネを見つめたまま真田と桐条が不可解そうな表情を浮かべる。アマネの真意を測りかねているといったところか。だがアマネとしても彼等に真意を悟らせるつもりはない。
知らなくていいことだ。
「アマネ。それはもしタルタロスの中でお前と会ったら、お前とも戦えということか?」
真田の問いに頷く。とはいえアマネと彼女達が出会うかどうかがそもそも分からない。
ストレガの二人は確実にタルタロスの中へいる。彼等はそこでニュクスの訪れを待ち望んでいたから。
だがあの二人はアマネが先にどうにかしてしまうだろう。アマネが向かう先はストレガの二人より更に先だ。二人が邪魔をするならアマネは容赦しない。
しかし後から頂上へ来るだろうSEESの皆は、アマネ自身どうするのか決まっていなかった。彼女達が来た時にはもうアマネの用事が済んでいれば良し。済んでいなければその時アマネは。
有里を見る。彼女は悲しげな顔をしていた。
アマネは意識して笑う。彼女達にそんな表情をして欲しい訳ではない。
「……敵になると言っておいて、こんな事を言うのはふざけてると怒られるかも知れませんが。俺は、貴女達の誰一人として悲しい目にあって欲しくねぇ。犠牲なんていらない。犠牲なんて言葉は好きじゃねぇ」
頭を深く下げる。
「ですからどうか、誰一人として諦めねぇでください」
あの時、誰も諦めなどしなかった。だからそんな心配は必要ないのかも知れないが、それでも言っておきたかったのだ。
顔を上げれば彼女達は思い思いの表情をしていた。せっかくの全員揃っての楽しかった夜を台無しにしてしまったなと胸が痛んだが、それについて謝るつもりはない。
謝るのなら、もっと他の事にだ。