ペルソナP3P
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ベンチの隣へ腰を下ろした有里にハンドタオルを渡され、代わりといっては何だが巻いていたマフラーと手袋を渡した。上着は着ていなかったから貸せない。真冬の外気に晒されたベンチでそれらは大した防寒にもならなかっただろうが、有里はずっとアマネの隣へ座っていた。
「……すみませんでした」
「何が?」
やっと涙が収まって深呼吸をしたところで謝る。だがすぐに聞き返されて言葉に詰まった。
醜態を晒したことにか、頼んではいなかったがずっと隣へ居てもらったことにか。ただ黙っていてくれたことにかも知れない。ともかくアマネは彼女へ申し訳なく思ったのだ。
有里はそんなアマネを観察してから、言葉を探すように手袋を填めた自分の手を見下ろした。
「チドリ、生き返ったね」
「はい」
「アマネ君は、知ってたの? その、生き返ること」
「確証はありませんでした」
望月やシャドウ、影時間とも関わりがあり『ニュクス』の事を知っていたと知られた今では、黙っていても大差ないことだと判断して口を開く。
「結局俺はチドリさんが生き返った理由が分かりません。聞いた話ではチドリが花を咲かすのに利用していた力が彼女の中へ戻ったとか、そういう理由がとりあえずはあったと思います。でもその程度で人が生き返るとは思えねぇし、となればそれこそ『奇跡』なのかと」
チドリが伊織を庇って死ぬ前。彼女は周囲の花へペルソナの能力を使ってその花々を咲かせていた。それは伊織へ自身の生命力を分け与え伊織を生かした力であり、花々へ行なわれたそれは人を一人助けるのよりももっと小さい力であっただろう。
だがそうして命を分け与えられた花々から、彼女は再び命を分け与えられた。そうして生き返った。
「花を近くに置くことが、生き返ることに繋がるかどうかは本当に分からなかった。だって『一度目』と『今』は違う。『一度目』とは色んな事がもう、違ってるじゃねぇですか」
『一度目』と違う、最悪ではない未来を。そう願ったのはアマネだ。だがそうやって『変える』ことで想定しない未来だって現れる。
チドリはその最たる存在だった。
だがその予想はいい意味で裏切られ、想定しなかった『現実』はチドリの言葉からアマネへと知らされる。
「『一度目』とは違うんです。『一度目』には『なかった』俺の存在や綾時さんの記憶。生き延びた人の数、色んなものが決定的に違う」
有里から借りていたハンドタオルを握りしめた。
アマネにとっての『一度目』とは違っているもの。違ってきたもの。その差がアマネの勝機に繋がっている。
「俺は絶対、あの人のことを覚えているって決めたんです。今後どんな人生を歩もうとも」
すぐそこの駐車場から車が出て行く。見舞いか診察が終わった来院者が帰るところなのだろう。
学校を出た頃はまだ明るかった空も、冬であることも相まって既に暗い。少し『ニュクス』が封印された後の空間に似ている気がした。
空気が乾燥していて、空が澄んでいたからかも知れない。見上げれば幾つかの星が見えている。
「あの人は『救ってくれ』なんて一度も頼んでねぇし、もしかしたら今この瞬間だって俺の行動に怒ってたり呆れたりするかも知れねぇんですけど、でも俺の願いを聞いてくれなかったあの人に文句言われる筋合いはねぇんですよ。見たいものだけを見ている訳じゃない。ただ、置いていかれたのなら追いつく努力でもしてみようかなと」
隣へ座っている有里を振り返って微笑む。
「有里さん。伊織先輩に『良かったですね』と伝えてもらえますか。俺が会いに行くのはあまり良くねぇでしょうから」
「どうして? アマネ君が言った方が喜ぶんじゃない?」
「俺はチドリさんに限った事じゃねぇけどある意味『知っていて言わなかった』奴なんです。幾月と同じ様な事をしてた奴に感謝なんてしねぇでしょう?」
ベンチから立ち上がって見下ろした有里の顔は、多少似ている気がしたが『あの人』と重なることはなかった。同じ『立場』を与えられてはいても、『別人』なのだから当たり前だ。
鞄だけを持って有里へ頭を下げる。そうして家へ帰る為に歩き出して、病院の敷地を出て随分歩いてから有里へマフラーも手袋も化していたのだと思い出した。自分が持っていたのは涙で汚れた女物のハンドタオルで、それでは暖の一つも取れやしない。
信号で立ち止まった横断歩道の前で、握りしめたままだったハンドタオルを見下ろす。有里へ少し詳しく喋ってしまったような気もするが、確たる証拠に繋がるものが何もない筈である以上、アマネが経験した事実に至ることはきっと出来ない。
せいぜいが推測と憶測だ。それにもうそろそろ、知られてしまったからといって彼女達に口出しも出来ないだろう。
「兄さんだって口出ししなかったんだから、おあいこですよね」
誰に言うでもなく呟いて青になった信号を渡る。
あの人はアマネの『願い』を聞いてはくれなかった。でもアマネが追いかけることに文句も言わない。いいとも悪いとも言ってはくれないが、駄目だと直接言われない限りは、止める必要だってないのだ。
「……すみませんでした」
「何が?」
やっと涙が収まって深呼吸をしたところで謝る。だがすぐに聞き返されて言葉に詰まった。
醜態を晒したことにか、頼んではいなかったがずっと隣へ居てもらったことにか。ただ黙っていてくれたことにかも知れない。ともかくアマネは彼女へ申し訳なく思ったのだ。
有里はそんなアマネを観察してから、言葉を探すように手袋を填めた自分の手を見下ろした。
「チドリ、生き返ったね」
「はい」
「アマネ君は、知ってたの? その、生き返ること」
「確証はありませんでした」
望月やシャドウ、影時間とも関わりがあり『ニュクス』の事を知っていたと知られた今では、黙っていても大差ないことだと判断して口を開く。
「結局俺はチドリさんが生き返った理由が分かりません。聞いた話ではチドリが花を咲かすのに利用していた力が彼女の中へ戻ったとか、そういう理由がとりあえずはあったと思います。でもその程度で人が生き返るとは思えねぇし、となればそれこそ『奇跡』なのかと」
チドリが伊織を庇って死ぬ前。彼女は周囲の花へペルソナの能力を使ってその花々を咲かせていた。それは伊織へ自身の生命力を分け与え伊織を生かした力であり、花々へ行なわれたそれは人を一人助けるのよりももっと小さい力であっただろう。
だがそうして命を分け与えられた花々から、彼女は再び命を分け与えられた。そうして生き返った。
「花を近くに置くことが、生き返ることに繋がるかどうかは本当に分からなかった。だって『一度目』と『今』は違う。『一度目』とは色んな事がもう、違ってるじゃねぇですか」
『一度目』と違う、最悪ではない未来を。そう願ったのはアマネだ。だがそうやって『変える』ことで想定しない未来だって現れる。
チドリはその最たる存在だった。
だがその予想はいい意味で裏切られ、想定しなかった『現実』はチドリの言葉からアマネへと知らされる。
「『一度目』とは違うんです。『一度目』には『なかった』俺の存在や綾時さんの記憶。生き延びた人の数、色んなものが決定的に違う」
有里から借りていたハンドタオルを握りしめた。
アマネにとっての『一度目』とは違っているもの。違ってきたもの。その差がアマネの勝機に繋がっている。
「俺は絶対、あの人のことを覚えているって決めたんです。今後どんな人生を歩もうとも」
すぐそこの駐車場から車が出て行く。見舞いか診察が終わった来院者が帰るところなのだろう。
学校を出た頃はまだ明るかった空も、冬であることも相まって既に暗い。少し『ニュクス』が封印された後の空間に似ている気がした。
空気が乾燥していて、空が澄んでいたからかも知れない。見上げれば幾つかの星が見えている。
「あの人は『救ってくれ』なんて一度も頼んでねぇし、もしかしたら今この瞬間だって俺の行動に怒ってたり呆れたりするかも知れねぇんですけど、でも俺の願いを聞いてくれなかったあの人に文句言われる筋合いはねぇんですよ。見たいものだけを見ている訳じゃない。ただ、置いていかれたのなら追いつく努力でもしてみようかなと」
隣へ座っている有里を振り返って微笑む。
「有里さん。伊織先輩に『良かったですね』と伝えてもらえますか。俺が会いに行くのはあまり良くねぇでしょうから」
「どうして? アマネ君が言った方が喜ぶんじゃない?」
「俺はチドリさんに限った事じゃねぇけどある意味『知っていて言わなかった』奴なんです。幾月と同じ様な事をしてた奴に感謝なんてしねぇでしょう?」
ベンチから立ち上がって見下ろした有里の顔は、多少似ている気がしたが『あの人』と重なることはなかった。同じ『立場』を与えられてはいても、『別人』なのだから当たり前だ。
鞄だけを持って有里へ頭を下げる。そうして家へ帰る為に歩き出して、病院の敷地を出て随分歩いてから有里へマフラーも手袋も化していたのだと思い出した。自分が持っていたのは涙で汚れた女物のハンドタオルで、それでは暖の一つも取れやしない。
信号で立ち止まった横断歩道の前で、握りしめたままだったハンドタオルを見下ろす。有里へ少し詳しく喋ってしまったような気もするが、確たる証拠に繋がるものが何もない筈である以上、アマネが経験した事実に至ることはきっと出来ない。
せいぜいが推測と憶測だ。それにもうそろそろ、知られてしまったからといって彼女達に口出しも出来ないだろう。
「兄さんだって口出ししなかったんだから、おあいこですよね」
誰に言うでもなく呟いて青になった信号を渡る。
あの人はアマネの『願い』を聞いてはくれなかった。でもアマネが追いかけることに文句も言わない。いいとも悪いとも言ってはくれないが、駄目だと直接言われない限りは、止める必要だってないのだ。