ペルソナP3P
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路地裏の不良の溜まり場を更に奥へと向かい、廃墟同然の建物の中で根気強く追いかけてきた若者達へと対峙して、ほんの数分で全員を返り討ちにしてからアマネはリーダーらしい青年へと声を掛けた。
「絶対的に抵抗も出来ねぇ状況に陥ったら、アンタはどうするぅ?」
「ぁ……ぅ」
茫然自失の戦意喪失状態へ陥っている青年の答えは、実のところ求めていない。求めているのは“違う相手”の返事だ。
「俺はそれでも諦めなかったよ。――タカヤ。俺の考えを笑うかぁ?」
振り返った先の、倒壊しないのが不思議なくらいの柱の陰から現れたタカヤは真冬だというのに相変わらず半裸で、しかし鳥肌が立っているようにも見えず不気味に青白い肌を晒していた。
『一度目』は『×××』が使えなかった為に探す事が出来なかったニュクス教を広めて不安を煽っている張本人。
まさか最初の拠点であっただろう廃墟へ再び潜伏しているとは思っていなかった。特にタカヤは。
終末を望む男はアマネを見つめ、ニソリと笑みを浮かべる。それを見てアマネに声を掛けられていたリーダー格の青年が不気味さに恐怖してか、倒れている仲間達を置いて逃げていった。
「せっかく信奉してる宗教の宗主に会わせてやったってのに、つまんねぇ奴だなぁ」
「どうして私の居場所が分かったのか、お聞きしても?」
「さてなぁ。“死”の匂いが嗅ぎとれるとでも言っておいてやろうかぁ」
「それは羨ましい」
半分以上冗談のつもりで言ったというのに羨ましがられて閉口する。そんなものを嗅ぎとれる才能はないし、単に『×××』で探っただけだ。
意識のある者は二人だけとなった廃墟で、アマネは出来るだけ悠然と構えてタカヤへと話しかける。
「三が日の間に、黄泉の淵へ行ってきた」
「ヨミの淵?」
「日本神話は興味無ぇ?」
「そうですね。知識は乏しいかも知れません。我々が信奉しているのはニュクスだ」
タカヤがうっすらと笑う。アマネは笑わなかった。
「そのニュクスはテメェのことなど意識の欠片にもねぇよ」
「それでも構いません。我々は見返りなど求めていない」
「……ふうん。そっか。そう、か」
天井の汚れを仰ぎ見て、左手で指を鳴らしながら再びタカヤを見つめた。目が合い、タカヤが笑みを消す。
「別にそれでもいいよ。俺にはお前の決意を止める権利はあれど義務は存在しねぇ。だが――ニュクスはテメェが思ってるよりもデカいよ」
睨んだ先のタカヤが脂汗を滲ませていた。喘ぐように息をしているタカヤにアマネはもう一度指を鳴らして“幻覚”を消す。
「――今のは」
「何のことだぁ? まるで白昼夢でも見たみてぇに顔が白いぜぇ? ああ、お前は元から顔色が悪かったなぁ」
『何も知らない』振りをしてとぼければ、タカヤは一瞬感情を高ぶらせるようにアマネを睨み、しかしすぐにいつもの薄ら笑いを浮かべ直した。
気のせいだと思う筈はないだろうが、確証が無い故に何も出来ないのだろう。アマネも自身が覚えているニュクスの畏れをタカヤへ見せはしても、それ以上何も言うつもりはない。
ただ、どう思うのか聞いてみたかっただけだ。もしタカヤが『怖い』とか『死にたくない』と少しでも考えたのであれば、アマネは彼を止めるべきだと考えていた。
タカヤの手を見る。きつく握りしめられたそれは震えていた。
「――私は、貴方の“正体”を知りません」
吐く息が白い。
「今まで貴方に興味はありませんでした。ですが、貴方はどうも我々よりもずっと先を進んでいるようだ。となれば訊いておくべきなのでしょう」
タカヤが拳銃を抜いて構える。
「貴方は、“何をしようとしている”のです?」
アマネは笑う。
「この命と全てを賭けて、好きな人達の背中を押そうとしてる」
構えられた大経口リボルバーの引き金がわずかにきしむ音が聞こえた。タカヤの目を見つめたままアマネは一歩を踏み出す。
一歩、また一歩と進んで、銃口が自身の胸元へ当たったところで足を止めた。これでもう、引き金を引かれてしまえばアマネは避けることも叶わず胸部へ大穴が開くだろう。
かつての荒垣がそうなり、アマネが阻止して起こらなかった荒垣のように。
「俺、好きな人がいるんだよ」
「ほう?」
「弟と親友と血の繋がらねぇ兄と、――全てが真逆で鏡合わせのような単純で複雑な存在。あいつにだけは堂々とちゃんと目を見て好きだと言える。でもあいつは一度、世界をあと一歩のところまで壊した過去がある」
目を伏せてその存在を脳裏に思い浮かべる。白い髪に紫の瞳。
「世界に絶望したところだけ、お前はあいつに似ているよ」
引き金が引かれた。
ガチン、と音を立てたもののその銃口から弾が飛ぶことはなく、アマネの胸へ穴が開くこともない。タカヤが憎々しげにアマネを睨んでいるのに対し、アマネは銃身を掴んで微笑んだ。
タカヤにアマネは殺せない。それは比喩でも何でもなく、タカヤよりもアマネの方が『強い』というだけの事実だ。
「一月三十一日。俺はSEESの邪魔もするけどお前の邪魔もするぜぇ」
「貴方一人で全てを片付けられるとでも?」
「んな事は無理だろぉ。俺は正しい方法を何一つ知らねぇから」
「浅ましい……」
吐き捨てるように言われた。実際浅ましいのだから仕方がない。
「絶対的に抵抗も出来ねぇ状況に陥ったら、アンタはどうするぅ?」
「ぁ……ぅ」
茫然自失の戦意喪失状態へ陥っている青年の答えは、実のところ求めていない。求めているのは“違う相手”の返事だ。
「俺はそれでも諦めなかったよ。――タカヤ。俺の考えを笑うかぁ?」
振り返った先の、倒壊しないのが不思議なくらいの柱の陰から現れたタカヤは真冬だというのに相変わらず半裸で、しかし鳥肌が立っているようにも見えず不気味に青白い肌を晒していた。
『一度目』は『×××』が使えなかった為に探す事が出来なかったニュクス教を広めて不安を煽っている張本人。
まさか最初の拠点であっただろう廃墟へ再び潜伏しているとは思っていなかった。特にタカヤは。
終末を望む男はアマネを見つめ、ニソリと笑みを浮かべる。それを見てアマネに声を掛けられていたリーダー格の青年が不気味さに恐怖してか、倒れている仲間達を置いて逃げていった。
「せっかく信奉してる宗教の宗主に会わせてやったってのに、つまんねぇ奴だなぁ」
「どうして私の居場所が分かったのか、お聞きしても?」
「さてなぁ。“死”の匂いが嗅ぎとれるとでも言っておいてやろうかぁ」
「それは羨ましい」
半分以上冗談のつもりで言ったというのに羨ましがられて閉口する。そんなものを嗅ぎとれる才能はないし、単に『×××』で探っただけだ。
意識のある者は二人だけとなった廃墟で、アマネは出来るだけ悠然と構えてタカヤへと話しかける。
「三が日の間に、黄泉の淵へ行ってきた」
「ヨミの淵?」
「日本神話は興味無ぇ?」
「そうですね。知識は乏しいかも知れません。我々が信奉しているのはニュクスだ」
タカヤがうっすらと笑う。アマネは笑わなかった。
「そのニュクスはテメェのことなど意識の欠片にもねぇよ」
「それでも構いません。我々は見返りなど求めていない」
「……ふうん。そっか。そう、か」
天井の汚れを仰ぎ見て、左手で指を鳴らしながら再びタカヤを見つめた。目が合い、タカヤが笑みを消す。
「別にそれでもいいよ。俺にはお前の決意を止める権利はあれど義務は存在しねぇ。だが――ニュクスはテメェが思ってるよりもデカいよ」
睨んだ先のタカヤが脂汗を滲ませていた。喘ぐように息をしているタカヤにアマネはもう一度指を鳴らして“幻覚”を消す。
「――今のは」
「何のことだぁ? まるで白昼夢でも見たみてぇに顔が白いぜぇ? ああ、お前は元から顔色が悪かったなぁ」
『何も知らない』振りをしてとぼければ、タカヤは一瞬感情を高ぶらせるようにアマネを睨み、しかしすぐにいつもの薄ら笑いを浮かべ直した。
気のせいだと思う筈はないだろうが、確証が無い故に何も出来ないのだろう。アマネも自身が覚えているニュクスの畏れをタカヤへ見せはしても、それ以上何も言うつもりはない。
ただ、どう思うのか聞いてみたかっただけだ。もしタカヤが『怖い』とか『死にたくない』と少しでも考えたのであれば、アマネは彼を止めるべきだと考えていた。
タカヤの手を見る。きつく握りしめられたそれは震えていた。
「――私は、貴方の“正体”を知りません」
吐く息が白い。
「今まで貴方に興味はありませんでした。ですが、貴方はどうも我々よりもずっと先を進んでいるようだ。となれば訊いておくべきなのでしょう」
タカヤが拳銃を抜いて構える。
「貴方は、“何をしようとしている”のです?」
アマネは笑う。
「この命と全てを賭けて、好きな人達の背中を押そうとしてる」
構えられた大経口リボルバーの引き金がわずかにきしむ音が聞こえた。タカヤの目を見つめたままアマネは一歩を踏み出す。
一歩、また一歩と進んで、銃口が自身の胸元へ当たったところで足を止めた。これでもう、引き金を引かれてしまえばアマネは避けることも叶わず胸部へ大穴が開くだろう。
かつての荒垣がそうなり、アマネが阻止して起こらなかった荒垣のように。
「俺、好きな人がいるんだよ」
「ほう?」
「弟と親友と血の繋がらねぇ兄と、――全てが真逆で鏡合わせのような単純で複雑な存在。あいつにだけは堂々とちゃんと目を見て好きだと言える。でもあいつは一度、世界をあと一歩のところまで壊した過去がある」
目を伏せてその存在を脳裏に思い浮かべる。白い髪に紫の瞳。
「世界に絶望したところだけ、お前はあいつに似ているよ」
引き金が引かれた。
ガチン、と音を立てたもののその銃口から弾が飛ぶことはなく、アマネの胸へ穴が開くこともない。タカヤが憎々しげにアマネを睨んでいるのに対し、アマネは銃身を掴んで微笑んだ。
タカヤにアマネは殺せない。それは比喩でも何でもなく、タカヤよりもアマネの方が『強い』というだけの事実だ。
「一月三十一日。俺はSEESの邪魔もするけどお前の邪魔もするぜぇ」
「貴方一人で全てを片付けられるとでも?」
「んな事は無理だろぉ。俺は正しい方法を何一つ知らねぇから」
「浅ましい……」
吐き捨てるように言われた。実際浅ましいのだから仕方がない。