ペルソナP3P
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玄関の下駄箱の上に雪兎のような置物が置いてある、と思ったらよく見ればそれは大福の置物だった。何だってこの家はそんな物を玄関に置いているんだと思っていると、来客用のスリッパを出した佐藤が顔を上げる。
佐藤の家だった。
「お邪魔します」
「お邪魔されます? ただいま! 友達連れてきた!」
初詣のを終えてクラスメイト達と少し遊んだ後、佐藤に誘われて佐藤の家へ招待されたのである。最初は荷物もあるしと断ったのだが、佐藤は何故か食い下がってきて結局アマネは断りきれなかったのだ。
佐藤の家へ来るのは初めてだったが、住宅地にある至って普通の一軒家だった。アマネが中学まで世話になっていた叔父の家よりも、華美ではなく落ち着いた暖かい雰囲気である。
「ただいま斑鳩連れてきた!」
「そうか。斑鳩君はお汁粉好きか?」
「え、えっと」
「あらあら、明けましておめでとう。泊まってくの?」
「いえ、この荷物は」
「婆ちゃんがお汁粉作ってるから食べていきなさい」
「婆ちゃんオレモチ三つ! 斑鳩いくつ食べる?」
「アンタ達、そんな畳みかけるように話しかけるもんじゃないよ」
居間へ顔を出して挨拶を、と思ったのに挨拶する間もない。こちらの話を聞いているのかいないのか次々と聞いてくる佐藤の両親に戸惑い、お汁粉を食べることが決定事項になったと思ったら、反対側の戸が開いて佐藤の祖母が姿を現した。
年を取って白髪ではあるが、理知的な目をしたお婆さんである。彼女の声でテレビの音声以外に静かになった居間で、やっとアマネは改めて頭を提げた。
「息子さんと学校では良くして頂いております。斑鳩アマネと」
「礼儀正しい!」
「煩い馬鹿息子。孫が世話になっているね。お汁粉を暖めているところさ、余裕があるなら食べていきなさい」
「お相伴に預かります」
「婆ちゃんオレ餅三つ!」
「もう聞いたよ」
呆れたように息を吐き、もう行けとばかりに手を振る祖母に気を悪くした様子もなく、佐藤が居間の戸を閉めて二階へと上がっていく。おそらく自室へ向かうのだろうその後を追いかけながら、アマネは見たばかりの居間を思い起こしつつ話しかけた。
「仲良い家族だなぁ」
「うん。ぁ……気に障った?」
「いや、それは全く思わなかったぁ」
アマネに両親がいないことを思い出してか、気まずげに聞いてきた佐藤へ否定を返す。ある意味ではアマネが持ったことのない家庭風景過ぎて、受け入れるのが追いついていないだけかも知れないが。
佐藤の部屋は年末大掃除後だからという訳でなく思ったよりも綺麗に掃除されていて、男子高校生云々というより家庭環境からの習慣なのだろうと思った。荷物を部屋の脇へ置かせてもらい渡されたクッションを受け取って腰を下ろす。
床はフローリングではなく畳で、畳んで置かれていた小さいちゃぶ台を佐藤が出してくる。
「良い部屋だなぁ」
「だろ? 天気がいいと窓からあっちに富士山っぽい山が見えるんだぜ」
佐藤が指差した窓の方角は富士山がある方角ではないので、佐藤の言う通りそれっぽいだけで富士山ではないのだろう。それでも視線を向けた窓の外は冬の澄んだ空気に随分と遠くまで眺めることが出来た。
ちゃぶ台を出した佐藤が満足げに向かいへ腰を下ろしたところで、部屋の戸がノックされて座ったばかりの佐藤が立ち上がる。戸の向こう側には湯飲みの乗ったお盆を持ったお婆さんがいて、呆れたようにその佐藤を見た。
「お客さんにはお茶をだすもんだよ」
「あー、でも婆ちゃんの汁粉」
「汁粉と飲み物は別だろう? お茶菓子は自分で持ってきなさい」
「チョコボール食べていい!?」
「汁粉があることを考えて選べばね」
「斑鳩! オレちょっとお菓子取ってくる!」
そう言って勢いよく部屋を出ていく佐藤に、冬休みでも自宅でも学校と変わらないなと思っているとお婆さんが部屋へ入ってきてちゃぶ台へお茶を置く。少し香ばしい匂い。
「ありがとうございます」
「斑鳩、君だったね。いつもあの孫が君のことをよく話すよ。孫と良くしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ佐藤には色々」
色々、救われている。
一度目の全てが終わってしまった後に、アマネへこの街から離れることを勧めてきたのが佐藤だった。泣きながら離れろと、逃げることは悪いことではないと言っていた彼に救われたのだ。
だがその事を話す訳にもいかず曖昧にぼかす。佐藤のお婆さんはそんなアマネを見て目を細めたかと思うと、先程佐藤が座った場所へとそのまま腰を下ろした。
「孫から聞いてた印象と違うね」
「そうですか?」
「アタシはもっと君の事を不遜な子だと思っていたよ」
それはそれで失礼だし、佐藤が普段アマネのことをどんな風に言っていたのかが気になる。そんなアマネの内心を気にした様子もなくお婆さんは佐藤の分じゃないかと思われる湯飲みを手に取った。
「でも違う。アンタ何を隠してるんだい?」
「……別に隠してなんて」
「年寄りを舐めるモンじゃないよ。アンタ、――本当に“人”かい?」
佐藤の家だった。
「お邪魔します」
「お邪魔されます? ただいま! 友達連れてきた!」
初詣のを終えてクラスメイト達と少し遊んだ後、佐藤に誘われて佐藤の家へ招待されたのである。最初は荷物もあるしと断ったのだが、佐藤は何故か食い下がってきて結局アマネは断りきれなかったのだ。
佐藤の家へ来るのは初めてだったが、住宅地にある至って普通の一軒家だった。アマネが中学まで世話になっていた叔父の家よりも、華美ではなく落ち着いた暖かい雰囲気である。
「ただいま斑鳩連れてきた!」
「そうか。斑鳩君はお汁粉好きか?」
「え、えっと」
「あらあら、明けましておめでとう。泊まってくの?」
「いえ、この荷物は」
「婆ちゃんがお汁粉作ってるから食べていきなさい」
「婆ちゃんオレモチ三つ! 斑鳩いくつ食べる?」
「アンタ達、そんな畳みかけるように話しかけるもんじゃないよ」
居間へ顔を出して挨拶を、と思ったのに挨拶する間もない。こちらの話を聞いているのかいないのか次々と聞いてくる佐藤の両親に戸惑い、お汁粉を食べることが決定事項になったと思ったら、反対側の戸が開いて佐藤の祖母が姿を現した。
年を取って白髪ではあるが、理知的な目をしたお婆さんである。彼女の声でテレビの音声以外に静かになった居間で、やっとアマネは改めて頭を提げた。
「息子さんと学校では良くして頂いております。斑鳩アマネと」
「礼儀正しい!」
「煩い馬鹿息子。孫が世話になっているね。お汁粉を暖めているところさ、余裕があるなら食べていきなさい」
「お相伴に預かります」
「婆ちゃんオレ餅三つ!」
「もう聞いたよ」
呆れたように息を吐き、もう行けとばかりに手を振る祖母に気を悪くした様子もなく、佐藤が居間の戸を閉めて二階へと上がっていく。おそらく自室へ向かうのだろうその後を追いかけながら、アマネは見たばかりの居間を思い起こしつつ話しかけた。
「仲良い家族だなぁ」
「うん。ぁ……気に障った?」
「いや、それは全く思わなかったぁ」
アマネに両親がいないことを思い出してか、気まずげに聞いてきた佐藤へ否定を返す。ある意味ではアマネが持ったことのない家庭風景過ぎて、受け入れるのが追いついていないだけかも知れないが。
佐藤の部屋は年末大掃除後だからという訳でなく思ったよりも綺麗に掃除されていて、男子高校生云々というより家庭環境からの習慣なのだろうと思った。荷物を部屋の脇へ置かせてもらい渡されたクッションを受け取って腰を下ろす。
床はフローリングではなく畳で、畳んで置かれていた小さいちゃぶ台を佐藤が出してくる。
「良い部屋だなぁ」
「だろ? 天気がいいと窓からあっちに富士山っぽい山が見えるんだぜ」
佐藤が指差した窓の方角は富士山がある方角ではないので、佐藤の言う通りそれっぽいだけで富士山ではないのだろう。それでも視線を向けた窓の外は冬の澄んだ空気に随分と遠くまで眺めることが出来た。
ちゃぶ台を出した佐藤が満足げに向かいへ腰を下ろしたところで、部屋の戸がノックされて座ったばかりの佐藤が立ち上がる。戸の向こう側には湯飲みの乗ったお盆を持ったお婆さんがいて、呆れたようにその佐藤を見た。
「お客さんにはお茶をだすもんだよ」
「あー、でも婆ちゃんの汁粉」
「汁粉と飲み物は別だろう? お茶菓子は自分で持ってきなさい」
「チョコボール食べていい!?」
「汁粉があることを考えて選べばね」
「斑鳩! オレちょっとお菓子取ってくる!」
そう言って勢いよく部屋を出ていく佐藤に、冬休みでも自宅でも学校と変わらないなと思っているとお婆さんが部屋へ入ってきてちゃぶ台へお茶を置く。少し香ばしい匂い。
「ありがとうございます」
「斑鳩、君だったね。いつもあの孫が君のことをよく話すよ。孫と良くしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ佐藤には色々」
色々、救われている。
一度目の全てが終わってしまった後に、アマネへこの街から離れることを勧めてきたのが佐藤だった。泣きながら離れろと、逃げることは悪いことではないと言っていた彼に救われたのだ。
だがその事を話す訳にもいかず曖昧にぼかす。佐藤のお婆さんはそんなアマネを見て目を細めたかと思うと、先程佐藤が座った場所へとそのまま腰を下ろした。
「孫から聞いてた印象と違うね」
「そうですか?」
「アタシはもっと君の事を不遜な子だと思っていたよ」
それはそれで失礼だし、佐藤が普段アマネのことをどんな風に言っていたのかが気になる。そんなアマネの内心を気にした様子もなくお婆さんは佐藤の分じゃないかと思われる湯飲みを手に取った。
「でも違う。アンタ何を隠してるんだい?」
「……別に隠してなんて」
「年寄りを舐めるモンじゃないよ。アンタ、――本当に“人”かい?」