ペルソナP3P
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「アイギスさん」
三十日の夕方。修理を終えて分寮へ戻ってきたアイギスが自室へ戻ろうとしていたところへアマネは声をかけた。女子部屋のある三階は基本男子立ち入り禁止だが踊り場なら平気だったはずだ。
振り返ったアイギスはアマネの事を少し不思議そうに見返す。
機械乙女でありながら人の心を持つ故に、彼女は『あの人』が死んでしまった後一番悲しんだ人であった。その心を分離して『メティス』というシャドウを作り上げてしまう程に、彼女の心は人間らしい。
彼女は『メティス』を受け入れた。アマネが自分のシャドウを受け入れるよりも先に。その事を恨んでいるかと言われたら全くそんなことはないと断言できる。それは『一度目』に既に告げてあった。
そういえば彼女との約束も、もう守れなくなってしまったなと心が痛む。
「ムーンライトブリッジでは助けずにすみませんでした」
「あれは、私も悪かったのだと思います。……貴方は」
「俺はねアイギスさん。『全部知ってたんです』」
人工的な青い瞳がアマネを写す。
「十年前に貴方が“デス”を有里さんの中へ封印したことも、貴方がそれを忘れていることも、大型シャドウを全て倒せばどうなるのかも、全部知っていたんです」
全部知っていたことは薄々気付かれていただろうが、明言したのはこれが初めてだろうか。下の階で人の気配がする。聞こえる小声からして有里や桐条だけではなく岳羽や伊織も居るようだ。
「でも俺には俺の目的があって、あえて皆さんに何も言いませんでした。そう考えたら忘れていた貴女より俺は罪深けぇかも知れませんね」
「アマネさんは何を目指しているのか聞いてもいいですか?」
「俺が目指しているのは、案外貴女とそう変わらねぇことだと思います。貴女は自分へ『命がない』と言いますが、俺は貴女についてもう一つ知っている事があります」
「もう一つ知っていること?」
「それは俺を慰めてくれた。少なくとも『彼女』が『駄目だ』と言ったから俺はここにいる」
『時の狭間』で出会ったアイギスのシャドウである『メティス』は、何も分かっていなかっただろうにアマネのことを引き留めた。それだけではなくアマネの為に泣こうとしてくれたのだ。
泣かれたらどうすればいいのか分からないというのに泣かれてしまいそうになって、メティスの手がアマネを引き留めてくれたというのに、未だにアマネはメティスにお礼の一つも言えていない。
何の事だか分からないであろうアイギスに、アマネは『メティス』の事を告げるつもりもなく強がりの笑みを向ける。
「命の答えは、一つじゃないんです」
命の答えは一つではないと言っておきながら、アマネは自分が求める命の答えを未だに出せていない。それを出せたら『あの人』を助けられるのかと言えばそれはまた違う話だろう。
何度も転生して生きて、未だにその答えを出せないのは今までその問題を真面目に考えたことが無かったからか。考える時間はあっても考えなければ答えは出ない。当たり前だが時間が無くとも考えた者だけがその答えに至れる。
ではアマネは、未だにその問題の答えを出そうとしていないのかと思った。
大晦日の夜。日付が変わる前に佐藤からメールが来る。明日の初詣は何時に何処へと集合場所を伝える為のそれに、大晦日らしく『よいお年を』と返した。それから携帯をしまう前に、『月森』と写っている卒業式の写真を画面へ出す。
もし今夜SEESの皆が望月を殺すことを選択したら、この写真だって見納めかも知れない。望月が殺される先の未来はアマネも知らないのだ。
「何見てるの?」
「後輩と撮った写真なんです」
「後輩いるんだ。中学の時の?」
答えられなくて曖昧に笑えば、岳羽は聞いてはいけないことだったとすぐに理解したようだった。写真を見ようと携帯画面を覗き込んでくることもなく、アマネが手に持つ携帯を見る。それから訝しげな表情を浮かべた。
「どうしました?」
「……それ、使い込まれてるけどまだ最新型だよね?」
「え?」
言われて自分の携帯を見る。確かにこの携帯は『一度目』から持ち越しで使っている携帯だったが、いつ機種変更したかは覚えていなかった。『一度目』の荒垣のアドレスが入っているので荒垣が死ぬ前だと思うが、それを『今』に照らし合わせれば数ヶ月前だということになるのか。
アマネ自身はもう数年使い込んでいるので何とも思っていなかったが、ある意味これもアマネと一緒に“時を越えてしまった”物だ。
追求されたら乱雑に持ち歩いているから傷だらけなのだと説明するかと身構えていたが、岳羽は予想と違って考え込むように黙り込んでしまった。それはそれで逆に怖いなと何か言い出すのを待っていると、点けっぱなしだったテレビが時刻と明日の天気を告げる。
天気予報が終わったそのテレビを桐条が消し、それを切っ掛けとするようにラウンジへ寮生全員が集まった。
ソファへは座らず窓辺に立っていたアマネの足下へコロマルが寄ってくる。背中と腕の湿布を前より無臭の物へ変えたからか、臭そうな顔もしていない。
しゃがんでその背中を撫でていれば、日付が変わる前に望月がやってきた。
三十日の夕方。修理を終えて分寮へ戻ってきたアイギスが自室へ戻ろうとしていたところへアマネは声をかけた。女子部屋のある三階は基本男子立ち入り禁止だが踊り場なら平気だったはずだ。
振り返ったアイギスはアマネの事を少し不思議そうに見返す。
機械乙女でありながら人の心を持つ故に、彼女は『あの人』が死んでしまった後一番悲しんだ人であった。その心を分離して『メティス』というシャドウを作り上げてしまう程に、彼女の心は人間らしい。
彼女は『メティス』を受け入れた。アマネが自分のシャドウを受け入れるよりも先に。その事を恨んでいるかと言われたら全くそんなことはないと断言できる。それは『一度目』に既に告げてあった。
そういえば彼女との約束も、もう守れなくなってしまったなと心が痛む。
「ムーンライトブリッジでは助けずにすみませんでした」
「あれは、私も悪かったのだと思います。……貴方は」
「俺はねアイギスさん。『全部知ってたんです』」
人工的な青い瞳がアマネを写す。
「十年前に貴方が“デス”を有里さんの中へ封印したことも、貴方がそれを忘れていることも、大型シャドウを全て倒せばどうなるのかも、全部知っていたんです」
全部知っていたことは薄々気付かれていただろうが、明言したのはこれが初めてだろうか。下の階で人の気配がする。聞こえる小声からして有里や桐条だけではなく岳羽や伊織も居るようだ。
「でも俺には俺の目的があって、あえて皆さんに何も言いませんでした。そう考えたら忘れていた貴女より俺は罪深けぇかも知れませんね」
「アマネさんは何を目指しているのか聞いてもいいですか?」
「俺が目指しているのは、案外貴女とそう変わらねぇことだと思います。貴女は自分へ『命がない』と言いますが、俺は貴女についてもう一つ知っている事があります」
「もう一つ知っていること?」
「それは俺を慰めてくれた。少なくとも『彼女』が『駄目だ』と言ったから俺はここにいる」
『時の狭間』で出会ったアイギスのシャドウである『メティス』は、何も分かっていなかっただろうにアマネのことを引き留めた。それだけではなくアマネの為に泣こうとしてくれたのだ。
泣かれたらどうすればいいのか分からないというのに泣かれてしまいそうになって、メティスの手がアマネを引き留めてくれたというのに、未だにアマネはメティスにお礼の一つも言えていない。
何の事だか分からないであろうアイギスに、アマネは『メティス』の事を告げるつもりもなく強がりの笑みを向ける。
「命の答えは、一つじゃないんです」
命の答えは一つではないと言っておきながら、アマネは自分が求める命の答えを未だに出せていない。それを出せたら『あの人』を助けられるのかと言えばそれはまた違う話だろう。
何度も転生して生きて、未だにその答えを出せないのは今までその問題を真面目に考えたことが無かったからか。考える時間はあっても考えなければ答えは出ない。当たり前だが時間が無くとも考えた者だけがその答えに至れる。
ではアマネは、未だにその問題の答えを出そうとしていないのかと思った。
大晦日の夜。日付が変わる前に佐藤からメールが来る。明日の初詣は何時に何処へと集合場所を伝える為のそれに、大晦日らしく『よいお年を』と返した。それから携帯をしまう前に、『月森』と写っている卒業式の写真を画面へ出す。
もし今夜SEESの皆が望月を殺すことを選択したら、この写真だって見納めかも知れない。望月が殺される先の未来はアマネも知らないのだ。
「何見てるの?」
「後輩と撮った写真なんです」
「後輩いるんだ。中学の時の?」
答えられなくて曖昧に笑えば、岳羽は聞いてはいけないことだったとすぐに理解したようだった。写真を見ようと携帯画面を覗き込んでくることもなく、アマネが手に持つ携帯を見る。それから訝しげな表情を浮かべた。
「どうしました?」
「……それ、使い込まれてるけどまだ最新型だよね?」
「え?」
言われて自分の携帯を見る。確かにこの携帯は『一度目』から持ち越しで使っている携帯だったが、いつ機種変更したかは覚えていなかった。『一度目』の荒垣のアドレスが入っているので荒垣が死ぬ前だと思うが、それを『今』に照らし合わせれば数ヶ月前だということになるのか。
アマネ自身はもう数年使い込んでいるので何とも思っていなかったが、ある意味これもアマネと一緒に“時を越えてしまった”物だ。
追求されたら乱雑に持ち歩いているから傷だらけなのだと説明するかと身構えていたが、岳羽は予想と違って考え込むように黙り込んでしまった。それはそれで逆に怖いなと何か言い出すのを待っていると、点けっぱなしだったテレビが時刻と明日の天気を告げる。
天気予報が終わったそのテレビを桐条が消し、それを切っ掛けとするようにラウンジへ寮生全員が集まった。
ソファへは座らず窓辺に立っていたアマネの足下へコロマルが寄ってくる。背中と腕の湿布を前より無臭の物へ変えたからか、臭そうな顔もしていない。
しゃがんでその背中を撫でていれば、日付が変わる前に望月がやってきた。