ペルソナP3P
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“刈り取る者”を倒したことで気が抜けたのか、常とは違うペルソナの召喚方に気力が消耗したのかアマネは気絶したらしく、目を覚ますと覚えはないが見覚えのある天井が視界に入った。
「……荒垣さんの、部屋?」
起きあがろうと身動ぎすると背中が痛む。打撲か痣でも出来ているのだろう。左腕を見ると包帯が巻かれており湿布の匂いがした。
おそらくアマネが意識を失ったせいで、放置も出来ずにタルタロスから巌戸台分寮へ連れ戻ってきたのだろう。
冬休みで佐藤に見られることが無くて良かったと思いつつ、ゆっくり起き上がって部屋を見回す。髪ゴムと一緒に召喚器やナイフがちゃんと回収されて机の上へ置かれていた。腕輪とウォレットチェーンも他の所持品と一緒にある。
出来るだけ背中に振動がいかない様にベッドから降りて身形を整え、髪を下の方で結わえて部屋を出た。やはり荒垣が使っていた部屋で、隣や傍の部屋からは何も聞こえない。廊下の突き当たりの窓から見える外は暗く、時計を確認出来ていないがまだ夜は明けていないのだろう。
運んで治療もしてもらった様だし、帰る前にお礼でも書き置いておくべきかと考えながらラウンジへ降りれば、厨房から湯気の立つマグカップを持った真田が出てきた。真田はアマネがラウンジへいることに驚いた様に立ち止まってから、やがてゆっくりと近づいてくる。
「起きたのか。身体の調子はどうだ?」
「背中が痛てぇくらいで他には。ありがとうございました」
「こっちも伊織を助けてもらったようだしな」
目の前で立ち止まった真田はアマネのことを満遍なく観察するように眺めた。何か変なところでもあるのかとたじろぐと、満足したようにソファへと向かう。
「まあ座れ」
「帰ろうと思っていたのですが」
「どうせあと数時間は誰も起きてこない。居ようが帰ろうが同じだ」
マグカップへ口を付けながらそう言われて、仕方なくアマネもソファへ腰を下ろした。真田は戻ってきてからずっと起きていたのか少し眠そうな顔をしている。
「寝なくていいんですか」
「大晦日まではそう寝れる気がしなくてな。眠くなったら寝るさ」
「睡眠不足は身体に悪ぃですよ」
「そうだな」
壁の時計がカチカチと音を立てていて、それ以外は静かだった。どことなく気まずくてアマネは俯く。
ラウンジは暖房も切れているらしく寒い。吐く息が白くならないのが不思議なくらいだった。先程までベッドの中だったからか、なおさら寒さが身に沁みる。
影時間ではないのに、自分と真田以外の全てが死んでいるようだった。
「よくシンジの見舞いに行ってくれているらしいな」
顔を上げると真田は微笑んでいた。
「オレが見舞いに行くと看護婦によく言われるんだ」
「ああ……勝手にすみません」
「別に悪いと言っているわけじゃない。アイツも喜んでるだろう」
「喜んで、ますかね?」
「アイツとは仲が良かったのか?」
「……無理に俺に付き合ってもらってました」
無理にアマネのわがままへ付き合わせ、あの命を捨てさせなかったのだ。彼はまだ目を覚まさないが、目を覚ましたら怒られるかも知れない。
「シンジも泣いたのか?」
「……は?」
「前に、オレ達が泣いたと言っただろ。シンジも泣いたのか?」
言われて、望月がニュクスの事を話した一週間後の集まりの時のことを思い出す。あまり言及されたくはなかったが、あんなに意味深に思える言動をしてしまっては訊かれても仕方がない。
「……荒垣さんは、いませんでした」
「そうか。悪いが、オレにはそれがいつのことだか思い出せないんだ。教えてくれるか?」
「すみません。今はまだ」
「いつなら話せる?」
「話すつもりは無いんです。知らなくていいことですから」
「自分のことなのにか」
不満そうにする真田が子供っぽくてちょっと笑ってしまい、しかし笑える話ではなかったと俯く。
本当に笑える話ではない。
荒垣は生き延びた。目を覚ますかどうかはともかく、一度はアマネの目の前で失われたあの命は『二度目』の今、失われていない。
けれどもそれを知るのは、アマネだけだ。
顔を上げて真田を見る。この人は『黙っている』事が出来る人だった。
「俺の懺悔を、聞いてもらえますか」
真田が不思議そうにアマネを見て、それから頷く。
「俺の目の前で、荒垣さんは死んだんです」
「……生きてるだろ?」
「天田を庇ってタカヤに撃たれて、俺も貴方も誰も間に合わなくて、俺は立ち尽くしてあの人を見ているしか出来なかったんです。ただ死んで欲しくないと喚いているだけで、荒垣さんが死ぬのを見ているだけでした」
真田は黙っている。
「桐条先輩のお父さんも、俺は助けられなかったんです。意識不明の重体なんかじゃなくて、幾月と相打ちで、幾月にとどめを刺したのは俺でしたけど、ご当主も俺は助けられませんでした。貴方も皆も俺を責める人はいなかったけれども、それを知っていたくせに結局二人とも俺はやっぱり助けられませんでした」
荒垣もご当主も、助かったのは命だけ。
「俺はまだ諦めません。頑張ります。諦められる訳がねぇ。でも、だから……真田先輩達には、知って欲しくないんです」
「……分かった」
そう言われたことで、少しだけ楽になってしまった気がした。真田がマグカップをテーブルへ置く。彼らにとっては最悪かもしれない今は、アマネにとってはそれでも改善された結果だ。
荒垣は死んでおらず、ご当主も生きている。殴られようがアマネが責任を問われようがどうでもいい。この『二度目』はそれでもきっと最悪ではなかった。
「真田先輩は、やっぱり優しい方ですね」
「いきなりなんだ?」
「最初に助けてくれたのは兄さんだったけど、傍にいたのは真田先輩だったんですよ。監視も兼ねていたのでしょうけど」
意味が分からないという風に首を傾げる真田に『一度目』のことを思い出す。駅前での影時間でシャドウから助けてくれたのは『あの人』だったが、目を覚ましたときに傍にいたのは真田だった。アマネが『殺し屋だった』という前世の事実も、真田はすんなりと受け入れてくれていたのだ。
外で車の走行音がする。バイクの音がしてポストに新聞が入れられたらしい。
「大晦日に、俺もここへ来て皆さんの選択を聞いてもいいでしょうか」
「最初からそのつもりじゃなかったのか?」
「寮の外で待ってるだけのつもりでした」
望月は死ななければ、一月三十一日の事を告げて寮から出て行く。アマネは彼が『良いお年を』と告げてから、何処へ行ってしまったのかまでは知らなかった。おそらくはタルタロスの中か、人が知覚出来ない場所へいるのだろう。
とはいえ死ななければ必ず寮からは出てくるのだ。だから待っているつもりだった。
「外は寒いだろ。来るのなら外は駄目だ。何だったら大晦日まで泊まってもいいぞ」
「……他の皆さんが嫌がらなければ」
「嫌がらないに決まってる」
「伊織先輩は嫌がるかも知れません」
「ああそうだ。アイツお前に謝りたがってたぞ。自分本位で悪かったって」
「……悪いのは俺だと思うんですけどねぇ」
「言わせてやれ。お前ばかり謝っても仕方ないだろ」
物音がして振り返ればどこで寝ていたのかコロマルが階段を降りてくる。真田とアマネに気付いて歩み寄ってきたコロマルは、挨拶代わりか真田の足へすり寄ってからアマネの傍へ来て前足をアマネの膝へと掛けて身を乗り出してきた。
怪我を心配されているのかも知れない。コロマルを撫でれば暖かかった。
アマネの膝の上に乗り上がって伏せるコロマルに、真田がマグカップを持って立ち上がる。
「何か淹れよう。寒いし暖房も点けるか」
「朝食作りましょうか?」
「まだ早くないか?」
「……荒垣さんの、部屋?」
起きあがろうと身動ぎすると背中が痛む。打撲か痣でも出来ているのだろう。左腕を見ると包帯が巻かれており湿布の匂いがした。
おそらくアマネが意識を失ったせいで、放置も出来ずにタルタロスから巌戸台分寮へ連れ戻ってきたのだろう。
冬休みで佐藤に見られることが無くて良かったと思いつつ、ゆっくり起き上がって部屋を見回す。髪ゴムと一緒に召喚器やナイフがちゃんと回収されて机の上へ置かれていた。腕輪とウォレットチェーンも他の所持品と一緒にある。
出来るだけ背中に振動がいかない様にベッドから降りて身形を整え、髪を下の方で結わえて部屋を出た。やはり荒垣が使っていた部屋で、隣や傍の部屋からは何も聞こえない。廊下の突き当たりの窓から見える外は暗く、時計を確認出来ていないがまだ夜は明けていないのだろう。
運んで治療もしてもらった様だし、帰る前にお礼でも書き置いておくべきかと考えながらラウンジへ降りれば、厨房から湯気の立つマグカップを持った真田が出てきた。真田はアマネがラウンジへいることに驚いた様に立ち止まってから、やがてゆっくりと近づいてくる。
「起きたのか。身体の調子はどうだ?」
「背中が痛てぇくらいで他には。ありがとうございました」
「こっちも伊織を助けてもらったようだしな」
目の前で立ち止まった真田はアマネのことを満遍なく観察するように眺めた。何か変なところでもあるのかとたじろぐと、満足したようにソファへと向かう。
「まあ座れ」
「帰ろうと思っていたのですが」
「どうせあと数時間は誰も起きてこない。居ようが帰ろうが同じだ」
マグカップへ口を付けながらそう言われて、仕方なくアマネもソファへ腰を下ろした。真田は戻ってきてからずっと起きていたのか少し眠そうな顔をしている。
「寝なくていいんですか」
「大晦日まではそう寝れる気がしなくてな。眠くなったら寝るさ」
「睡眠不足は身体に悪ぃですよ」
「そうだな」
壁の時計がカチカチと音を立てていて、それ以外は静かだった。どことなく気まずくてアマネは俯く。
ラウンジは暖房も切れているらしく寒い。吐く息が白くならないのが不思議なくらいだった。先程までベッドの中だったからか、なおさら寒さが身に沁みる。
影時間ではないのに、自分と真田以外の全てが死んでいるようだった。
「よくシンジの見舞いに行ってくれているらしいな」
顔を上げると真田は微笑んでいた。
「オレが見舞いに行くと看護婦によく言われるんだ」
「ああ……勝手にすみません」
「別に悪いと言っているわけじゃない。アイツも喜んでるだろう」
「喜んで、ますかね?」
「アイツとは仲が良かったのか?」
「……無理に俺に付き合ってもらってました」
無理にアマネのわがままへ付き合わせ、あの命を捨てさせなかったのだ。彼はまだ目を覚まさないが、目を覚ましたら怒られるかも知れない。
「シンジも泣いたのか?」
「……は?」
「前に、オレ達が泣いたと言っただろ。シンジも泣いたのか?」
言われて、望月がニュクスの事を話した一週間後の集まりの時のことを思い出す。あまり言及されたくはなかったが、あんなに意味深に思える言動をしてしまっては訊かれても仕方がない。
「……荒垣さんは、いませんでした」
「そうか。悪いが、オレにはそれがいつのことだか思い出せないんだ。教えてくれるか?」
「すみません。今はまだ」
「いつなら話せる?」
「話すつもりは無いんです。知らなくていいことですから」
「自分のことなのにか」
不満そうにする真田が子供っぽくてちょっと笑ってしまい、しかし笑える話ではなかったと俯く。
本当に笑える話ではない。
荒垣は生き延びた。目を覚ますかどうかはともかく、一度はアマネの目の前で失われたあの命は『二度目』の今、失われていない。
けれどもそれを知るのは、アマネだけだ。
顔を上げて真田を見る。この人は『黙っている』事が出来る人だった。
「俺の懺悔を、聞いてもらえますか」
真田が不思議そうにアマネを見て、それから頷く。
「俺の目の前で、荒垣さんは死んだんです」
「……生きてるだろ?」
「天田を庇ってタカヤに撃たれて、俺も貴方も誰も間に合わなくて、俺は立ち尽くしてあの人を見ているしか出来なかったんです。ただ死んで欲しくないと喚いているだけで、荒垣さんが死ぬのを見ているだけでした」
真田は黙っている。
「桐条先輩のお父さんも、俺は助けられなかったんです。意識不明の重体なんかじゃなくて、幾月と相打ちで、幾月にとどめを刺したのは俺でしたけど、ご当主も俺は助けられませんでした。貴方も皆も俺を責める人はいなかったけれども、それを知っていたくせに結局二人とも俺はやっぱり助けられませんでした」
荒垣もご当主も、助かったのは命だけ。
「俺はまだ諦めません。頑張ります。諦められる訳がねぇ。でも、だから……真田先輩達には、知って欲しくないんです」
「……分かった」
そう言われたことで、少しだけ楽になってしまった気がした。真田がマグカップをテーブルへ置く。彼らにとっては最悪かもしれない今は、アマネにとってはそれでも改善された結果だ。
荒垣は死んでおらず、ご当主も生きている。殴られようがアマネが責任を問われようがどうでもいい。この『二度目』はそれでもきっと最悪ではなかった。
「真田先輩は、やっぱり優しい方ですね」
「いきなりなんだ?」
「最初に助けてくれたのは兄さんだったけど、傍にいたのは真田先輩だったんですよ。監視も兼ねていたのでしょうけど」
意味が分からないという風に首を傾げる真田に『一度目』のことを思い出す。駅前での影時間でシャドウから助けてくれたのは『あの人』だったが、目を覚ましたときに傍にいたのは真田だった。アマネが『殺し屋だった』という前世の事実も、真田はすんなりと受け入れてくれていたのだ。
外で車の走行音がする。バイクの音がしてポストに新聞が入れられたらしい。
「大晦日に、俺もここへ来て皆さんの選択を聞いてもいいでしょうか」
「最初からそのつもりじゃなかったのか?」
「寮の外で待ってるだけのつもりでした」
望月は死ななければ、一月三十一日の事を告げて寮から出て行く。アマネは彼が『良いお年を』と告げてから、何処へ行ってしまったのかまでは知らなかった。おそらくはタルタロスの中か、人が知覚出来ない場所へいるのだろう。
とはいえ死ななければ必ず寮からは出てくるのだ。だから待っているつもりだった。
「外は寒いだろ。来るのなら外は駄目だ。何だったら大晦日まで泊まってもいいぞ」
「……他の皆さんが嫌がらなければ」
「嫌がらないに決まってる」
「伊織先輩は嫌がるかも知れません」
「ああそうだ。アイツお前に謝りたがってたぞ。自分本位で悪かったって」
「……悪いのは俺だと思うんですけどねぇ」
「言わせてやれ。お前ばかり謝っても仕方ないだろ」
物音がして振り返ればどこで寝ていたのかコロマルが階段を降りてくる。真田とアマネに気付いて歩み寄ってきたコロマルは、挨拶代わりか真田の足へすり寄ってからアマネの傍へ来て前足をアマネの膝へと掛けて身を乗り出してきた。
怪我を心配されているのかも知れない。コロマルを撫でれば暖かかった。
アマネの膝の上に乗り上がって伏せるコロマルに、真田がマグカップを持って立ち上がる。
「何か淹れよう。寒いし暖房も点けるか」
「朝食作りましょうか?」
「まだ早くないか?」