ペルソナ3
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バックアップ役の山岸の傍に残っていた待機組の一人だったアマネに、最後のシャドウを倒して戻ってきた有里が、駆け足だった勢いのままアマネへと体当たりしてきた。
「ぅえっ⁉」
思わず変な声を出しながらも踏ん張って倒れるのは阻止する。
抱き締められた姿勢のまま何故か頭を撫でられて、待機組だった真田やアイギスや、戻ってきた伊織と岳羽が生暖かい視線を向けてきていた。
「作戦終了と言いますか、『任務完了』でありますね」
「ああ……終わったな」
アイギスと美鶴は有里の奇行をスルーする方向らしい。どうすればいいのか分かっていないアマネのすぐ傍で、アマネではない誰かの腹が鳴る音が聞こえる。
当然、そんな音が聞こえるほど近くにいるのは一人しかいないのだが。
「湊さん。こういう場合、現場リーダーの『とっさの一言』が必要かと思います。『勝利宣言』をお願いするであります」
「腹減った」
「せーの、腹減ったーっ!」
「やっぱりかぁ⁉」
「はらへっ……た?」
アイギスに請われての勝利宣言が、全くもって勝利宣言ではない。いきなりの発言に山岸が豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしているし、アマネさえ思わず怒鳴ってしまった。
「何か食べたい。アマネ」
「あーあーあーあー! もう分かりましたよぉ! 帰ったら夜食作りましょうねぇ!」
思わずといった風に吹き出す岳羽に、勝利宣言を真似したアイギス。そんなアイギスの空腹について首を傾げる天田と、彼等からシャドウとの戦いであったはずの緊張感はもう吹き飛んだらしい。有里はそれを狙ったわけでは無いだろうが、結果的には良かったのか。
「ところで桐条先輩。明日の夜は『祝勝会』するんスよね」
「なんだ、気が早いな。もちろん、その予定だが、どうした?」
随分と気が軽くなったような面持ちで首を傾げる美鶴に、伊織が遠慮がちに寿司を食いたいと提案する。それを聞きながらアマネはいい加減有里にも離れてもらった。
「スシか……いつ以来かな。オレはヒラメだ。あと、ウニも予約だ。」
「わわ、ええと、じゃ私、中トロ」
「え、え、言わないと駄目? ええと、じゃあイクラ予約で」
「ちょ、待ってよ予約とかって、おかしいだろ⁉」
「わたしは、大トロ、マグロ、エビ、イカ、ホタテ、鉄火、……あと、アナゴも確保であります」
「取りすぎだーっ! つか、オマエは食わなくてもいいだろがっ!」
「みにくい争いだ……」
「ワン!」
「ってか、ダブっちゃいけねぇのかぁ?」
最年少と犬にまで呆れられている。人の中では二番目に年少のアマネも、この予約合戦には苦笑しか出来なかった。
「桐条先輩、一応、タマゴも頼みます。寿司屋の実力はタマゴで分かるって言うから」
「寿司屋の実力? ったく、子供のくせに、かわいくないなー」
「わかったわかった。それじゃあ明日は、特上品を運ばせよう」
結局天田まで注文を出して予約合戦は終わった。アマネとしては全員に行き渡るように注文すれば良いだけだと思ったのだが、そこら辺の裁量は美鶴任せで構わないだろう。
「マジスか⁉ あああっ、これまで生きてきて良かった……」
「寿司くらい言ってくれれば作れましたけどぉ」
「マジで⁉ お前今それ言っちゃう斑鳩⁉」
「中学? 時代の知り合いの家が寿司屋で、色々教えてもらいましたし」
「お前何なんだよっ⁉」
「順平は、残ったかんぴょう巻きね」
「なっ、まだ続いてんのか、ソレ! ってか、かんぴょうバカにすんなっ!」
岳羽に言い返す伊織もどうしてかんぴょうの弁護をするのか良く分からない。
思わずと言った笑い声が広がる中、アマネはふとストレガの二人が飛び降りた橋の欄干を見やる。
未だ明けない影時間の奇妙な月明かりに照らされたその場所に、異変は何も無かった。けれども確実にそこから二人の人物が落下している事を思い出す。
「守ったんですよね、わたしたち」
「ああ。私たちのすべき事を、ちゃんと果たしたんだ。たとえ、誰かの記憶に残らなくてもな」
何を守ったのだろう。
漠然とそう思ったのは、今までにもアマネが自己満足であっても色々守ってきたからかも知れない。
記憶に残らない結果。覚えているのは影時間を経験していた者だけ。
嗚呼これは、曖昧な『彼』に余計だったかもしれない手出しをした時に似ていると思った。
だからあながちストレガの言葉もアマネは否定できない。偽善だが偽悪だか分からないが、それでいいと思っているのだから。
関係の無い者は覚えていなくていい。覚えていた方がいいこともあるけれど、覚えていなくても良い事というのもある。
それに。
「アマネ」
「っ、湊さん」
「何考えてるの?」
気付けば皆帰る為に歩き出していて、それに気付いていなかったアマネと有里だけが残っていた。
振り返れば寮生達の後ろ姿が見え、コロマルと天田がこちらを気にして振り返っている。
もう一度見た有里の視線は、何かを言いたそうなわけではないけれどやさしい。アマネは深く息を吐き出して笑った。
「『昔』の事を少し。でも大丈夫です」
「そう。……じゃあ帰ろう。夜食食べたい」
「夜に食ったら太りますよ?」
「影時間だから大丈夫」
「その言い訳も今日で終わりですねぇ。明日からはなんて言い訳するつもりです?」
「えーと……成長期だから大丈夫」