ペルソナP3P
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行き着けるところへまで行き着いて、今はまだ先へ進めないように立てられている柵へ触れる。どんな仕組みだか分からないがタルタロスの階層の合間合間に置かれているこの柵は、時期を見て解放されなければアマネでなくともその先へ進めさせてくれない。
無理に壊して進むことも出来なくはないだろう。けれどもまだ大晦日も過ぎていない現状、そこまでせずともいいだろうと判断した。
外へ戻るにしても休憩をするにしても、エントランスには待機組が居るだろうから行く気になれず、少し休憩してから少し下の階層へ戻ってまた昇ってくることにして、柵へ寄りかかって座る。
膝を抱えて腕にはめていた腕輪を手慰みの様に回した。特に意味のない行動であったが、何かをしていないと嫌な方向に思考が落ち込みそうだったのである。
原因はやはり伊織を殴ったことだろう。それに付随して『あの人』のことを話してしまったのも痛かった。
死んだことなど、話すつもりもなかったし彼女達は知らなくていいことだ。特に彼女は。
「……貴方は死ぬ運命です、つってるもんだよなぁ」
やはり休むにはタルタロスを出てからベッドでしっかり寝た方がいいと判断して立ち上がる。時計が意味を為さないので体感時間で推測するにまだSEESの面々は帰らない。
そろそろ周回するかと立ち上がって、昇降機へ向かう。一階のエントランスへは向かわずに適当な階へ足を進めた。少し嫌な気配と戦闘音が聞こえるのに彼女達が居るのかと眉をひそめてしまう。
さっさと階段を見つけて上の階へ行くかと通路を進んで、“刈り取る者”の姿があることに気付いた。片付けていくかとそちらへ足を向けたところで“刈り取る者”がマスケット銃を振り上げたのが見える。
武器を振り上げた。ということは何かと戦闘中だ。奴はシャドウには襲いかからない。
襲いかかる相手は、人だ。
「――っ!」
地面を蹴って走り出し、マスケット銃を振り下ろす直前の“刈り取る者”へと飛びかかる。途中でアマネに気付いたのであろう“刈り取る者”の持つマスケット銃の銃身が軌道を変え、アマネのわき腹に迫ってきたのをナイフを抜いて防ぐ。
当然勢いの付いていた銃身をナイフ一本で防げる訳も無く、受け止めた勢いそのままに吹き飛ばされた。受け身を取り損ねて床へ転がり、出来るだけ迅速に起きあがる。
“刈り取る者”の向こうに伊織の姿だけがあった。おそらく階段を上がった直後他のメンバーとはぐれたのだろう。それか散策中だったか。ともあれ今の伊織一人では“刈り取る者”に勝てるとは思えなかった。
マスケット銃を受け止めたナイフに問題はない。衝撃を逃しきれなかったのでわき腹が痛いが、問題はないだろう。
左手にナイフを構えて“刈り取る者”と対峙する。
“刈り取る者”も先に倒すべきは伊織ではなくアマネだと認識を改めたのかアマネへと体を向けた。じゃらりと鎖が音を立てる。
視線だけを動かして伊織を見れば彼はアマネが現れたことに驚いているらしい。その時間で逃げるなり体勢を立て直すなりしてくれればと思いもするが、そう声をかける余裕はなかった。
マスケットの銃口がアマネへ向けられる。銃弾を見切るよりは動いて避けた方がいいなと横へ向かって走り出す。追ってくる銃口ではなくその引き金にかけられた指を注視した。
動いた指へ、進行方向を出来るだけ唐突に変える。本来向かっていた方向の床へ吸い込まれていった弾丸を一瞥し、今度は“刈り取る者”へ向けて走った。
“刈り取る者”はマスケット銃を二丁持っている。故に一発だけをやり過ごしてももう一発放たれる危険性は残っていた。だが奴は逐一の動作がその巨体故か緩慢だ。そこを見過ごさなければ接近は出来る。
接近すれば“刈り取る者”は撃つのではなく、先ほどアマネを攻撃したようにマスケット銃を鈍器として扱う。その為にマスケット銃を振り上げ、振り下ろすのだ。
振り下ろされたマスケット銃の銃身がアマネのすぐ脇をかすめる。風圧に押される形でよろけた足を踏み込んで、逆にマスケット銃へと飛び乗った。
羽虫が付いたとばかりに振り回されるマスケット銃の勢いで、天井すれすれへと弾き飛ばされる。臨界点を越えて勢いを失った身体をひねって天井を蹴り、“刈り取る者”の頭上へと降り立った。
ナイフで“刈り取る者”へと切り込んでいく。布袋の穴から覗く“刈り取る者”の眼と目が合った気がした。その眼へとナイフの刀身を突き刺す。
悲鳴とも鳴き声ともつかない叫びを発する“刈り取る者”の振り回すマスケット銃が、足許で見ていた伊織に。
「伊織先輩っ!」
叫んで名前を呼ばれて、伊織が肩を竦ませる。だが動けない。
“刈り取る者”の眼に突き刺していたナイフを抜いて投げるが、当然ながらそんな程度でマスケット銃の勢いは殺せなかった。
ホルスターから召喚器を抜いて自身のこめかみへ押し当てる。こんなところで出し惜しみなんてしていられない。
「【イブリス】!」
黒い炎をまとった魔神の姿をしたアマネのペルソナは、アマネが指示するまでもなく伊織へと向かい、伊織を掴んでマスケット銃の銃身が届かない場所へと移動させた。最初から離れてろと言っておけば良かったと今更ながら思ったが、とにかく伊織が無事で良かったと。
思った瞬間背後から衝撃がきた。
息が詰まる程の衝撃に脳が揺れる。“刈り取る者”の肩から落ちながら見れば伊織を襲ったのとは逆の手にあったマスケット銃の先端が、アマネの立っていた位置へ。
あれで強打されたのだろう。
受け身なんてとれないまま床に落下した。強打された衝撃に加えて追い打ちをかけるようなそれに、すぐには動けない。
乾いた音を立てて召喚器が転がっていく。ナイフも手許へ無いのに、あれまでも失ってしまうと打つ手が考えられなかった。
「斑鳩!」
伊織の震えるような声が遠く響く。彼は暴力が嫌いな人だ。だから本当はシャドウと戦うのだって嫌なのだろう。
優しい人なのだ。色々隠していて殴りもしたアマネを結局はああして心配してしまう。目の前の恐怖に怯える。寂しいという感覚を理解できる人。
それから『あの人』の大切な仲間の一人でもあった。
きっと彼が死んだら、有里だけではなくSEESの皆や望月や他にも彼のクラスメイトや彼の友人が悲しむだろう。それは『あの人』が死んだ時と何も変わらない。
誰が死んでも駄目だ。『あの人』も『彼女』も『誰か』も。
鎖の音がして伊織が怯えたような声を出す。耳にその音は入ってくるのに認識は出来ない。こんなところで彼を死なせる訳には絶対にいかなかった。
手が動かせる。肋骨が痛むが出来るだけ深く呼吸をしてその手を見た。
複数の足音。伊織を呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。ならばあと少し時間を稼げば少なくとも伊織は大丈夫だ。
手のひらを上へ向ける。青い粒子の様な光が何処からともなく集まって、一枚の青いタロットカードが宙で回っていた。
『一つの召喚方に慣れてしまった貴方は、新しい召喚方の場合酷く気力を消耗しましょう』
いつかのイゴールの忠告を思い出す。けれどもアマネは笑った。
慣れていないのなら、慣らしてしまえばいい。慣れていないだけで使えない訳ではない。
アマネの召喚器は手の届かないところで、ナイフも同じく見当たらなかった。“刈り取る者”はアマネから離れ着実に伊織達の元へ向かっている。大分弱っているのでこのタイミングで一撃入れればそれで片が付くだろう。
有里と真田の声がする。伊織だけではなくアマネも呼んでいるようだった。
手のひらの上で回るタロットカードを握りしめる。薄いガラスの割れるような音。
『あの人』の声が聞こえた気がした。
「――ッ【IBLIS】!」
もう一度現れた黒い炎を纏う魔神が“刈り取る者”へと突撃していく。体当たりと言うには勢いの付き過ぎているそれを受けた“刈り取る者”が断末魔をあげて消えていくのを、アマネのペルソナであるイブリスがどうでもいいとばかりに無視してアマネへと振り返っていた。
心配してくれているのか、とちょっとおかしく思う。
消滅した“刈り取る者”の向こうから、伊織達が駆け寄ってくるのが見えた。
無理に壊して進むことも出来なくはないだろう。けれどもまだ大晦日も過ぎていない現状、そこまでせずともいいだろうと判断した。
外へ戻るにしても休憩をするにしても、エントランスには待機組が居るだろうから行く気になれず、少し休憩してから少し下の階層へ戻ってまた昇ってくることにして、柵へ寄りかかって座る。
膝を抱えて腕にはめていた腕輪を手慰みの様に回した。特に意味のない行動であったが、何かをしていないと嫌な方向に思考が落ち込みそうだったのである。
原因はやはり伊織を殴ったことだろう。それに付随して『あの人』のことを話してしまったのも痛かった。
死んだことなど、話すつもりもなかったし彼女達は知らなくていいことだ。特に彼女は。
「……貴方は死ぬ運命です、つってるもんだよなぁ」
やはり休むにはタルタロスを出てからベッドでしっかり寝た方がいいと判断して立ち上がる。時計が意味を為さないので体感時間で推測するにまだSEESの面々は帰らない。
そろそろ周回するかと立ち上がって、昇降機へ向かう。一階のエントランスへは向かわずに適当な階へ足を進めた。少し嫌な気配と戦闘音が聞こえるのに彼女達が居るのかと眉をひそめてしまう。
さっさと階段を見つけて上の階へ行くかと通路を進んで、“刈り取る者”の姿があることに気付いた。片付けていくかとそちらへ足を向けたところで“刈り取る者”がマスケット銃を振り上げたのが見える。
武器を振り上げた。ということは何かと戦闘中だ。奴はシャドウには襲いかからない。
襲いかかる相手は、人だ。
「――っ!」
地面を蹴って走り出し、マスケット銃を振り下ろす直前の“刈り取る者”へと飛びかかる。途中でアマネに気付いたのであろう“刈り取る者”の持つマスケット銃の銃身が軌道を変え、アマネのわき腹に迫ってきたのをナイフを抜いて防ぐ。
当然勢いの付いていた銃身をナイフ一本で防げる訳も無く、受け止めた勢いそのままに吹き飛ばされた。受け身を取り損ねて床へ転がり、出来るだけ迅速に起きあがる。
“刈り取る者”の向こうに伊織の姿だけがあった。おそらく階段を上がった直後他のメンバーとはぐれたのだろう。それか散策中だったか。ともあれ今の伊織一人では“刈り取る者”に勝てるとは思えなかった。
マスケット銃を受け止めたナイフに問題はない。衝撃を逃しきれなかったのでわき腹が痛いが、問題はないだろう。
左手にナイフを構えて“刈り取る者”と対峙する。
“刈り取る者”も先に倒すべきは伊織ではなくアマネだと認識を改めたのかアマネへと体を向けた。じゃらりと鎖が音を立てる。
視線だけを動かして伊織を見れば彼はアマネが現れたことに驚いているらしい。その時間で逃げるなり体勢を立て直すなりしてくれればと思いもするが、そう声をかける余裕はなかった。
マスケットの銃口がアマネへ向けられる。銃弾を見切るよりは動いて避けた方がいいなと横へ向かって走り出す。追ってくる銃口ではなくその引き金にかけられた指を注視した。
動いた指へ、進行方向を出来るだけ唐突に変える。本来向かっていた方向の床へ吸い込まれていった弾丸を一瞥し、今度は“刈り取る者”へ向けて走った。
“刈り取る者”はマスケット銃を二丁持っている。故に一発だけをやり過ごしてももう一発放たれる危険性は残っていた。だが奴は逐一の動作がその巨体故か緩慢だ。そこを見過ごさなければ接近は出来る。
接近すれば“刈り取る者”は撃つのではなく、先ほどアマネを攻撃したようにマスケット銃を鈍器として扱う。その為にマスケット銃を振り上げ、振り下ろすのだ。
振り下ろされたマスケット銃の銃身がアマネのすぐ脇をかすめる。風圧に押される形でよろけた足を踏み込んで、逆にマスケット銃へと飛び乗った。
羽虫が付いたとばかりに振り回されるマスケット銃の勢いで、天井すれすれへと弾き飛ばされる。臨界点を越えて勢いを失った身体をひねって天井を蹴り、“刈り取る者”の頭上へと降り立った。
ナイフで“刈り取る者”へと切り込んでいく。布袋の穴から覗く“刈り取る者”の眼と目が合った気がした。その眼へとナイフの刀身を突き刺す。
悲鳴とも鳴き声ともつかない叫びを発する“刈り取る者”の振り回すマスケット銃が、足許で見ていた伊織に。
「伊織先輩っ!」
叫んで名前を呼ばれて、伊織が肩を竦ませる。だが動けない。
“刈り取る者”の眼に突き刺していたナイフを抜いて投げるが、当然ながらそんな程度でマスケット銃の勢いは殺せなかった。
ホルスターから召喚器を抜いて自身のこめかみへ押し当てる。こんなところで出し惜しみなんてしていられない。
「【イブリス】!」
黒い炎をまとった魔神の姿をしたアマネのペルソナは、アマネが指示するまでもなく伊織へと向かい、伊織を掴んでマスケット銃の銃身が届かない場所へと移動させた。最初から離れてろと言っておけば良かったと今更ながら思ったが、とにかく伊織が無事で良かったと。
思った瞬間背後から衝撃がきた。
息が詰まる程の衝撃に脳が揺れる。“刈り取る者”の肩から落ちながら見れば伊織を襲ったのとは逆の手にあったマスケット銃の先端が、アマネの立っていた位置へ。
あれで強打されたのだろう。
受け身なんてとれないまま床に落下した。強打された衝撃に加えて追い打ちをかけるようなそれに、すぐには動けない。
乾いた音を立てて召喚器が転がっていく。ナイフも手許へ無いのに、あれまでも失ってしまうと打つ手が考えられなかった。
「斑鳩!」
伊織の震えるような声が遠く響く。彼は暴力が嫌いな人だ。だから本当はシャドウと戦うのだって嫌なのだろう。
優しい人なのだ。色々隠していて殴りもしたアマネを結局はああして心配してしまう。目の前の恐怖に怯える。寂しいという感覚を理解できる人。
それから『あの人』の大切な仲間の一人でもあった。
きっと彼が死んだら、有里だけではなくSEESの皆や望月や他にも彼のクラスメイトや彼の友人が悲しむだろう。それは『あの人』が死んだ時と何も変わらない。
誰が死んでも駄目だ。『あの人』も『彼女』も『誰か』も。
鎖の音がして伊織が怯えたような声を出す。耳にその音は入ってくるのに認識は出来ない。こんなところで彼を死なせる訳には絶対にいかなかった。
手が動かせる。肋骨が痛むが出来るだけ深く呼吸をしてその手を見た。
複数の足音。伊織を呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。ならばあと少し時間を稼げば少なくとも伊織は大丈夫だ。
手のひらを上へ向ける。青い粒子の様な光が何処からともなく集まって、一枚の青いタロットカードが宙で回っていた。
『一つの召喚方に慣れてしまった貴方は、新しい召喚方の場合酷く気力を消耗しましょう』
いつかのイゴールの忠告を思い出す。けれどもアマネは笑った。
慣れていないのなら、慣らしてしまえばいい。慣れていないだけで使えない訳ではない。
アマネの召喚器は手の届かないところで、ナイフも同じく見当たらなかった。“刈り取る者”はアマネから離れ着実に伊織達の元へ向かっている。大分弱っているのでこのタイミングで一撃入れればそれで片が付くだろう。
有里と真田の声がする。伊織だけではなくアマネも呼んでいるようだった。
手のひらの上で回るタロットカードを握りしめる。薄いガラスの割れるような音。
『あの人』の声が聞こえた気がした。
「――ッ【IBLIS】!」
もう一度現れた黒い炎を纏う魔神が“刈り取る者”へと突撃していく。体当たりと言うには勢いの付き過ぎているそれを受けた“刈り取る者”が断末魔をあげて消えていくのを、アマネのペルソナであるイブリスがどうでもいいとばかりに無視してアマネへと振り返っていた。
心配してくれているのか、とちょっとおかしく思う。
消滅した“刈り取る者”の向こうから、伊織達が駆け寄ってくるのが見えた。