ペルソナP3P
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奏視点
ムーンライトブリッジの歩行者専用通路。海の向こうにポロニアンモールのイルミネーションが遠く見える。ベンチもない冷えたコンクリートの上。小学生だってきっと今は使わないだろうランチシートを敷いて。
狭いそのシートへ並んで座る。水筒に入れられた紅茶と手作りのショートケーキ。
「ショートケーキってなんで三角形なの?」
「丸いケーキを切り分けてるからだよ。最近は四角いのとかもあるけど」
「ふうん。美味しいね」
「……うん」
奏の隣でプラスチックのフォークをくわえた綾時が微笑んだ。道路を走っていく車のライトがその顔を少しの間照らしてまた暗くなる。
言われた通り出来るだけの防寒対策をしてきたお陰で、寒さよりも海からの潮の匂いが少し気になるだけだった。あとは暗くて綾時の顔をちゃんと見れないことが不満だったが、あまり欲を欲しても仕方ないだろう。
ムーンライトブリッジに行けば綾時に会えるかも知れない。そう教えてくれたのはアマネ君だった。
『本当に居るかどうかは分かりませんが、少なくとも『一度目』は居てくれたので』
そう言ってアマネ君は奏へ綾時に会いに行く権利を譲ったのだ。前の日から作っていたらしいショートケーキや、ランチシートといった用意も全部貸してくれた。きっと奏がアマネ君へ尋ねなかったら、アマネ君が綾時のところへ行くつもりだったのだろう。
一緒に行こうと言ったら、『綾時さんに恋人とのクリスマスを経験させてあげてください』と断られた。アマネ君に綾時と恋人であることを話したのは奏だったが、そういう風に言われると非常に恥ずかしかったのを覚えている。
そうして奏一人でムーンライトブリッジへ赴いて、綾時を見つけたのだ。
「ごめんね。私綾時に会いたいとは思ってたけど何も用意してなかった」
「ううん。僕なんて会えるとも思ってなかった」
「私も会えると思ってなかった」
アマネ君に尋ねたのだってダメ元だった。食べ終えたケーキの紙皿を脇に置いて隣へ座る綾時へもたれ掛かる。本来ならこんな事だってきっと二度と出来なかったのだろう。
大晦日に再会できたとしてもこんな事を出来るとは思えなかった。
「私、恋人と過ごすクリスマスって初めてかな」
「僕もかな。友達と過ごすのも嬉しかったけど、奏ちゃんと過ごせるのも幸せだね」
綾時の手が奏のそれを握る。あんまり暖かくはなかったがそんな事はどうでも良かった。
遠くからかすかにクリスマスソングが聞こえる。今だけは辛い事なんて何一つ考えたくなかった。
「アマネ君とはいつから『友達』だったの?」
時計の秒針が十二を差して全てが止まり、訪れた影時間に水筒へ残る紅茶へ口を付けながら綾時へ尋ねる。まだ残っていたショートケーキのイチゴを食べようとしていた綾時は懐かしむように微笑んだ。
「アマネ君の時間だと四年くらい前かな」
「じゃあ、アマネ君のお兄さんのこと知ってる?」
「ああ……知ってるよ。湊君も僕の友達だったから」
友達“だった”と過去形であることが引っかかった。
「アマネ君が話したの?」
「うん。……どんな人だったか、聞いてもいい?」
紙皿を置いた綾時が奏を見つめる。悲しそうな目に聞いてはいけない事だったかなと思ったけれど、質問を言わなかったことにする気にはなれなかった。
だってきっと、アマネ君が影時間やSEESに関わっているのは『その人』の存在があるからだ。
綾時は影時間でほの緑に発光する橋を見上げる。満月ではない月を見上げながら躊躇しているようだったが、やがて顔を下げると再び奏を見た。
「湊君のことは今の奏ちゃんには教えられない」
「なんで?」
「教えたらアマネ君がきっと困るから、かな。でも湊君とアマネ君のことはちょっとだけ教えてあげる」
小首を傾げてマフラーをたくし上げた綾時が続ける。
「アマネ君はね、まだ湊君のことを諦めてないんだと思うんだ」
「……でもその『湊』って人、もう」
「うん。でもアマネ君は諦めきれないんだよ。あれだけ泣いたのに、辛かっただろうに諦めてくれやしない。僕は“あの時”アマネ君が泣いてたのを聞いてた。聞いてるだけで何も出来なかった」
奏にはその“あの時”というのがいつの事なのか分からなかったが、その時はアマネ君だけではなく綾時も、アマネの『兄』だったという『湊』という人も辛かったのだろうことは分かった。おそらくその『湊』もアマネ君や綾時の様にシャドウや影時間と関わっていて、それで荒垣先輩や天田の母親、美鶴のお父さんの様に巻き込まれたのかも知れない。
そう考えればアマネ君が必死に荒垣先輩や美鶴のお父さんを助けようとしたのも、分からないでもなかった。
自分と同じ思いをさせたくなかった、のだろう。
「奏ちゃん。アマネ君は本当はとても弱いんだ。だからアマネ君を嫌いにはならないであげてくれる?」
「嫌いになんてならないよ。当たり前でしょ」
繋いでいた手に綾時が力を込める。
奏の為に怒ってくれた子だ。他にも影ながらSEESの皆を、奏を助けてくれていた。そんな彼を今更信頼しないなんてことを、奏には出来そうにない。
「あのね奏ちゃん。アマネ君は――」
例え彼に、どんな理由があっても。
「――え?」
ムーンライトブリッジの歩行者専用通路。海の向こうにポロニアンモールのイルミネーションが遠く見える。ベンチもない冷えたコンクリートの上。小学生だってきっと今は使わないだろうランチシートを敷いて。
狭いそのシートへ並んで座る。水筒に入れられた紅茶と手作りのショートケーキ。
「ショートケーキってなんで三角形なの?」
「丸いケーキを切り分けてるからだよ。最近は四角いのとかもあるけど」
「ふうん。美味しいね」
「……うん」
奏の隣でプラスチックのフォークをくわえた綾時が微笑んだ。道路を走っていく車のライトがその顔を少しの間照らしてまた暗くなる。
言われた通り出来るだけの防寒対策をしてきたお陰で、寒さよりも海からの潮の匂いが少し気になるだけだった。あとは暗くて綾時の顔をちゃんと見れないことが不満だったが、あまり欲を欲しても仕方ないだろう。
ムーンライトブリッジに行けば綾時に会えるかも知れない。そう教えてくれたのはアマネ君だった。
『本当に居るかどうかは分かりませんが、少なくとも『一度目』は居てくれたので』
そう言ってアマネ君は奏へ綾時に会いに行く権利を譲ったのだ。前の日から作っていたらしいショートケーキや、ランチシートといった用意も全部貸してくれた。きっと奏がアマネ君へ尋ねなかったら、アマネ君が綾時のところへ行くつもりだったのだろう。
一緒に行こうと言ったら、『綾時さんに恋人とのクリスマスを経験させてあげてください』と断られた。アマネ君に綾時と恋人であることを話したのは奏だったが、そういう風に言われると非常に恥ずかしかったのを覚えている。
そうして奏一人でムーンライトブリッジへ赴いて、綾時を見つけたのだ。
「ごめんね。私綾時に会いたいとは思ってたけど何も用意してなかった」
「ううん。僕なんて会えるとも思ってなかった」
「私も会えると思ってなかった」
アマネ君に尋ねたのだってダメ元だった。食べ終えたケーキの紙皿を脇に置いて隣へ座る綾時へもたれ掛かる。本来ならこんな事だってきっと二度と出来なかったのだろう。
大晦日に再会できたとしてもこんな事を出来るとは思えなかった。
「私、恋人と過ごすクリスマスって初めてかな」
「僕もかな。友達と過ごすのも嬉しかったけど、奏ちゃんと過ごせるのも幸せだね」
綾時の手が奏のそれを握る。あんまり暖かくはなかったがそんな事はどうでも良かった。
遠くからかすかにクリスマスソングが聞こえる。今だけは辛い事なんて何一つ考えたくなかった。
「アマネ君とはいつから『友達』だったの?」
時計の秒針が十二を差して全てが止まり、訪れた影時間に水筒へ残る紅茶へ口を付けながら綾時へ尋ねる。まだ残っていたショートケーキのイチゴを食べようとしていた綾時は懐かしむように微笑んだ。
「アマネ君の時間だと四年くらい前かな」
「じゃあ、アマネ君のお兄さんのこと知ってる?」
「ああ……知ってるよ。湊君も僕の友達だったから」
友達“だった”と過去形であることが引っかかった。
「アマネ君が話したの?」
「うん。……どんな人だったか、聞いてもいい?」
紙皿を置いた綾時が奏を見つめる。悲しそうな目に聞いてはいけない事だったかなと思ったけれど、質問を言わなかったことにする気にはなれなかった。
だってきっと、アマネ君が影時間やSEESに関わっているのは『その人』の存在があるからだ。
綾時は影時間でほの緑に発光する橋を見上げる。満月ではない月を見上げながら躊躇しているようだったが、やがて顔を下げると再び奏を見た。
「湊君のことは今の奏ちゃんには教えられない」
「なんで?」
「教えたらアマネ君がきっと困るから、かな。でも湊君とアマネ君のことはちょっとだけ教えてあげる」
小首を傾げてマフラーをたくし上げた綾時が続ける。
「アマネ君はね、まだ湊君のことを諦めてないんだと思うんだ」
「……でもその『湊』って人、もう」
「うん。でもアマネ君は諦めきれないんだよ。あれだけ泣いたのに、辛かっただろうに諦めてくれやしない。僕は“あの時”アマネ君が泣いてたのを聞いてた。聞いてるだけで何も出来なかった」
奏にはその“あの時”というのがいつの事なのか分からなかったが、その時はアマネ君だけではなく綾時も、アマネの『兄』だったという『湊』という人も辛かったのだろうことは分かった。おそらくその『湊』もアマネ君や綾時の様にシャドウや影時間と関わっていて、それで荒垣先輩や天田の母親、美鶴のお父さんの様に巻き込まれたのかも知れない。
そう考えればアマネ君が必死に荒垣先輩や美鶴のお父さんを助けようとしたのも、分からないでもなかった。
自分と同じ思いをさせたくなかった、のだろう。
「奏ちゃん。アマネ君は本当はとても弱いんだ。だからアマネ君を嫌いにはならないであげてくれる?」
「嫌いになんてならないよ。当たり前でしょ」
繋いでいた手に綾時が力を込める。
奏の為に怒ってくれた子だ。他にも影ながらSEESの皆を、奏を助けてくれていた。そんな彼を今更信頼しないなんてことを、奏には出来そうにない。
「あのね奏ちゃん。アマネ君は――」
例え彼に、どんな理由があっても。
「――え?」