ペルソナP3P
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望月から与えられた選択肢について、SEESの皆がどちらを選ぼうがアマネの覚悟は既に決まっている。ただ望月が殺された場合、アマネはやはり望月を助けられはしないのだろう。
望月が殺されて、皆が全てを忘れたとしてもアマネだけはきっと覚えている。だからそうなっても、アマネが何もせずに終わるということだけはない。
逆にアマネにとっての『一度目』の様にSEESの皆がニュクスに抗う選択をしたとしても、アマネは彼らとは一緒に戦えないだろう。だって今更彼女達の元へ同じ目的を目指す仲間だと名乗り出ることは出来ない。せめて敵ではないと分かって貰えているだけで充分だった。
けれどそれも、これで駄目になったのだろう。
真田がアマネの後ろからアマネを羽交い締めにしていた。アマネの視線の先にはアマネに殴られて床に転がっている伊織が、岳羽と山岸に心配されている。
天田が桐条に言われて慌てて救急箱を取りに行き、コロマルが不安げに伊織とアマネの間に移動した。有里は。
伊織に罵られた彼女だけは、何の反応も出来ないまま呆然としていた。
「っ、有里さんも、彼女も好きこのんで抱えてた訳じゃねぇって分かってんだろうがぁ!」
「落ち着けアマネ!」
「落ち着いてられるかぁ! テメェの知らねぇうちに事が起こって今更当事者でしたなんて言われて、この人が一番戸惑ってることぐらい分かんだろうがよぉ! それが『オマエのせい』だとかふざけんなぁ!」
望月の話から一週間。桐条に呼ばれてアマネも赴くことにしたSEESメンバーの話し合いで、伊織が恐慌を来して有里のせいだと詰ったのだ。『一度目』であったなら『あの人』がアマネを止めたが、今回は誰もアマネを止めなかった。
箍が外れた様に殴ってしまったのだ。辛うじて利き手ではないほうの手を選ぶ理性は残っていたが、アマネは両手を殆ど同じ程度に動かせるくらいに訓練してあったし、拳ではなく平手で打つ意識も残っていたが、それでも伊織の頬は真っ赤になっている。
「誰かのせいだってんなら、ここに有里さんを呼んだ幾月の野郎のせいにも、十年前に事故を起こす切っ掛けになった桐条鴻悦のせいにだってなるし、もっとちゃんとシャドウを集めるなっていう遺言を残さなかった岳羽さんのお父さんのせいにも、シャドウの存在を知るペルソナ適合者だったアンタ自身のせいにもなるだろぉ! アンタ一人が怖ぇ訳じゃねぇよクソッタレェ!」
こんなもの、誰のせいでも無い筈だ。伊織達はまだ人生だった十数年しか生きていなくて、なのに生死に関する難題を提示されて戸惑っているのは分かる。けれどもだからといって誰かを詰るのは間違っているのだ。
「……一週間で、何も考えられねぇのは分かります。でも、だからってその人に全部の責任を被せるのは間違ってる。全部の責任を被るのは間違ってるんです」
興奮したせいで、嫌なことまで思い出す。
『あの人』は別に全部の責任を背負った訳じゃない。でも全部の責任を持っていってしまった。『彼』の命の答えはそういうものだったのだ。
アマネはそれが悲しくて悔しくて受け入れられなくて、助けて欲しいとも言われていないのに助けようとしていて、諫められてやっと受け入れることが出来たと思ったのに。
もう一度、もう一度。
「もう一度、あの恐怖を乗り越えなけりゃなんねぇ俺の“これ”は、誰のせいにも出来ねぇんだから」
あえて誰かのせいにするとすれば、アマネ自身のせいだ。
羽交い締めにしていた真田が離れて、アマネは再び伊織を殴る余力もなくその場に膝を突く。本当はアマネだって怖かった。
荒垣を助けられなかったらどうしようか、桐条のご当主を助けられなかったらどうしようか。SEESの皆が途中でシャドウにやられて死んでしまったらどうしようか。アマネ自身が途中で死んでしまったらどうしようか。
そんな事を何度も考えた。何度も頭の中でシミュレーションを繰り返して、最善の方法を模索して、探し続けている。
けれども『一度目』を知っているから怖がって行動しない選択肢は無かった。アマネが行動せずとも物語は進んでいってしまうことを知っていたから、行動せずにはいられなかったのだ。
だって決めたのである。やり直すのではなく、変えてやろうと。
「怖くたっていいですよ。それが当然だぁ。でもそれをその人とか、誰かのせいにはしねぇでください」
土下座のように床へ握り拳を押し当てて呟く。聞こえていてもいなくても構わない。『二度目』だから大丈夫かと思っていたが、アマネこそ恐慌に陥っていたようだった。
むしろ『二度目』だからか。
「あなた達は誰一人として誰も悪くねぇ。お願いします伊織先輩。誰かを責めるのだけは、止めてください」
かつて『あの人』は、それを無言で受け止めながらもショックを受けていた。
「君は、何を知ってるの?」
尋ねられて身体を起こし振り向けば、一人ソファに座ったままだった有里がアマネを見下ろしている。少し『あの人』に似ていると思ったが、それも当然といえば当然なのかもしれない。
この世界では、この人が『あの人』の役割を抱えているのだ。
「……兄さんが、死んだんです」
彼女は静かにアマネを見下ろしている。
「兄さんが死んだんです。俺は『あの人』を助けられなくて、だから」
「だから?」
「だから、もう誰にも死んで欲しくない」
有里が微笑んだ。
「お兄さんのこと、大好きだったんだね」
「……はい」
伊織が岳羽と山岸に手を貸して貰ってソファへ座り直し、天田が持ってきた救急箱で頬の手当てをする。
「お兄さんのこと、教えてよ」
「……兄さんは、血が繋がっている訳ではなく、ただの先輩と後輩というだけでした。大食いで、『どうでもいい』が口癖で、あんまり感情をさらけ出す人じゃなかったんですけど、優しい人でした」
『あの人』のことなら弟と同じ位いくらだって話せるだろう。アマネを愛してくれた人だ。アマネを弟にしてくれて、アマネの頭を撫でて、アマネへ向けて微笑んでくれた。アマネを受け入れてくれた人。
たった一年も満たない時間しか一緒に居なかったことが、信じられないし信じたくない。
「兄さんが好きでした。あの人が今も傍にいてくれていれば俺はきっとここには来なかったし、こんな辛い思いもせずに済んだ。あんな辛い思いをするのは、覚えてるのは俺一人でいい」
「アマネくん?」
「俺一人でいいです。皆さんがあんな思いをしなくていい。だって皆泣いたじゃねぇですか。泣かれたらどうすりゃいいんですか。分かんねぇよそんなの。どうすりゃいいのか分かんねぇよ」
嬉し涙でさえどうすればいいのか分からないアマネの知っている方法なんて、頭を撫でてやるくらいだ。自分の涙の止め方でさえ分からない。
「死ぬことよりあの人が居なくなることが嫌だった。あの責任の一端は俺にあった。俺があんなことを言わなければ。今でもそう思う。でもここにあの人はいない。だから、だから――っ」
だから、アマネは『彼女達』の為に。
「お願いだから、一人にしないで」
床へ這う様に頭を下げて懇願する。きっと彼女達にアマネの言葉の意味は理解出来ないだろう。
それで良かった。理解出来たならそれこそアマネは伊織だけではなく全員に詰られるべきだ。
鼻を啜ってゆっくりと立ち上がる。みっともない顔をしている自覚があったので顔は上げなかった。
「……好き勝手ほざいてすみませんでした。もう帰ります」
呼ばれたので来たが本当に何しに来たのか。伊織を殴ってただ泣き言をほざいただけだ。こんな調子であと数ヶ月を一人で頑張れるのか不安になる。
作戦室を飛び出して、正しく逃げるように作戦室を出て階段を駆け下りた。一階へ降りてラウンジから出て自宅であるアパートへ帰る。
途中、夜だというのに蝶が居たような気がして振り返った。見間違いだったのかそんなものはいなくて、けれども少し落ち着いて歩調を緩める。
当然ながら今日は満月ではなく、吐く息が白くなるくらいにただただ寒かった。
望月が殺されて、皆が全てを忘れたとしてもアマネだけはきっと覚えている。だからそうなっても、アマネが何もせずに終わるということだけはない。
逆にアマネにとっての『一度目』の様にSEESの皆がニュクスに抗う選択をしたとしても、アマネは彼らとは一緒に戦えないだろう。だって今更彼女達の元へ同じ目的を目指す仲間だと名乗り出ることは出来ない。せめて敵ではないと分かって貰えているだけで充分だった。
けれどそれも、これで駄目になったのだろう。
真田がアマネの後ろからアマネを羽交い締めにしていた。アマネの視線の先にはアマネに殴られて床に転がっている伊織が、岳羽と山岸に心配されている。
天田が桐条に言われて慌てて救急箱を取りに行き、コロマルが不安げに伊織とアマネの間に移動した。有里は。
伊織に罵られた彼女だけは、何の反応も出来ないまま呆然としていた。
「っ、有里さんも、彼女も好きこのんで抱えてた訳じゃねぇって分かってんだろうがぁ!」
「落ち着けアマネ!」
「落ち着いてられるかぁ! テメェの知らねぇうちに事が起こって今更当事者でしたなんて言われて、この人が一番戸惑ってることぐらい分かんだろうがよぉ! それが『オマエのせい』だとかふざけんなぁ!」
望月の話から一週間。桐条に呼ばれてアマネも赴くことにしたSEESメンバーの話し合いで、伊織が恐慌を来して有里のせいだと詰ったのだ。『一度目』であったなら『あの人』がアマネを止めたが、今回は誰もアマネを止めなかった。
箍が外れた様に殴ってしまったのだ。辛うじて利き手ではないほうの手を選ぶ理性は残っていたが、アマネは両手を殆ど同じ程度に動かせるくらいに訓練してあったし、拳ではなく平手で打つ意識も残っていたが、それでも伊織の頬は真っ赤になっている。
「誰かのせいだってんなら、ここに有里さんを呼んだ幾月の野郎のせいにも、十年前に事故を起こす切っ掛けになった桐条鴻悦のせいにだってなるし、もっとちゃんとシャドウを集めるなっていう遺言を残さなかった岳羽さんのお父さんのせいにも、シャドウの存在を知るペルソナ適合者だったアンタ自身のせいにもなるだろぉ! アンタ一人が怖ぇ訳じゃねぇよクソッタレェ!」
こんなもの、誰のせいでも無い筈だ。伊織達はまだ人生だった十数年しか生きていなくて、なのに生死に関する難題を提示されて戸惑っているのは分かる。けれどもだからといって誰かを詰るのは間違っているのだ。
「……一週間で、何も考えられねぇのは分かります。でも、だからってその人に全部の責任を被せるのは間違ってる。全部の責任を被るのは間違ってるんです」
興奮したせいで、嫌なことまで思い出す。
『あの人』は別に全部の責任を背負った訳じゃない。でも全部の責任を持っていってしまった。『彼』の命の答えはそういうものだったのだ。
アマネはそれが悲しくて悔しくて受け入れられなくて、助けて欲しいとも言われていないのに助けようとしていて、諫められてやっと受け入れることが出来たと思ったのに。
もう一度、もう一度。
「もう一度、あの恐怖を乗り越えなけりゃなんねぇ俺の“これ”は、誰のせいにも出来ねぇんだから」
あえて誰かのせいにするとすれば、アマネ自身のせいだ。
羽交い締めにしていた真田が離れて、アマネは再び伊織を殴る余力もなくその場に膝を突く。本当はアマネだって怖かった。
荒垣を助けられなかったらどうしようか、桐条のご当主を助けられなかったらどうしようか。SEESの皆が途中でシャドウにやられて死んでしまったらどうしようか。アマネ自身が途中で死んでしまったらどうしようか。
そんな事を何度も考えた。何度も頭の中でシミュレーションを繰り返して、最善の方法を模索して、探し続けている。
けれども『一度目』を知っているから怖がって行動しない選択肢は無かった。アマネが行動せずとも物語は進んでいってしまうことを知っていたから、行動せずにはいられなかったのだ。
だって決めたのである。やり直すのではなく、変えてやろうと。
「怖くたっていいですよ。それが当然だぁ。でもそれをその人とか、誰かのせいにはしねぇでください」
土下座のように床へ握り拳を押し当てて呟く。聞こえていてもいなくても構わない。『二度目』だから大丈夫かと思っていたが、アマネこそ恐慌に陥っていたようだった。
むしろ『二度目』だからか。
「あなた達は誰一人として誰も悪くねぇ。お願いします伊織先輩。誰かを責めるのだけは、止めてください」
かつて『あの人』は、それを無言で受け止めながらもショックを受けていた。
「君は、何を知ってるの?」
尋ねられて身体を起こし振り向けば、一人ソファに座ったままだった有里がアマネを見下ろしている。少し『あの人』に似ていると思ったが、それも当然といえば当然なのかもしれない。
この世界では、この人が『あの人』の役割を抱えているのだ。
「……兄さんが、死んだんです」
彼女は静かにアマネを見下ろしている。
「兄さんが死んだんです。俺は『あの人』を助けられなくて、だから」
「だから?」
「だから、もう誰にも死んで欲しくない」
有里が微笑んだ。
「お兄さんのこと、大好きだったんだね」
「……はい」
伊織が岳羽と山岸に手を貸して貰ってソファへ座り直し、天田が持ってきた救急箱で頬の手当てをする。
「お兄さんのこと、教えてよ」
「……兄さんは、血が繋がっている訳ではなく、ただの先輩と後輩というだけでした。大食いで、『どうでもいい』が口癖で、あんまり感情をさらけ出す人じゃなかったんですけど、優しい人でした」
『あの人』のことなら弟と同じ位いくらだって話せるだろう。アマネを愛してくれた人だ。アマネを弟にしてくれて、アマネの頭を撫でて、アマネへ向けて微笑んでくれた。アマネを受け入れてくれた人。
たった一年も満たない時間しか一緒に居なかったことが、信じられないし信じたくない。
「兄さんが好きでした。あの人が今も傍にいてくれていれば俺はきっとここには来なかったし、こんな辛い思いもせずに済んだ。あんな辛い思いをするのは、覚えてるのは俺一人でいい」
「アマネくん?」
「俺一人でいいです。皆さんがあんな思いをしなくていい。だって皆泣いたじゃねぇですか。泣かれたらどうすりゃいいんですか。分かんねぇよそんなの。どうすりゃいいのか分かんねぇよ」
嬉し涙でさえどうすればいいのか分からないアマネの知っている方法なんて、頭を撫でてやるくらいだ。自分の涙の止め方でさえ分からない。
「死ぬことよりあの人が居なくなることが嫌だった。あの責任の一端は俺にあった。俺があんなことを言わなければ。今でもそう思う。でもここにあの人はいない。だから、だから――っ」
だから、アマネは『彼女達』の為に。
「お願いだから、一人にしないで」
床へ這う様に頭を下げて懇願する。きっと彼女達にアマネの言葉の意味は理解出来ないだろう。
それで良かった。理解出来たならそれこそアマネは伊織だけではなく全員に詰られるべきだ。
鼻を啜ってゆっくりと立ち上がる。みっともない顔をしている自覚があったので顔は上げなかった。
「……好き勝手ほざいてすみませんでした。もう帰ります」
呼ばれたので来たが本当に何しに来たのか。伊織を殴ってただ泣き言をほざいただけだ。こんな調子であと数ヶ月を一人で頑張れるのか不安になる。
作戦室を飛び出して、正しく逃げるように作戦室を出て階段を駆け下りた。一階へ降りてラウンジから出て自宅であるアパートへ帰る。
途中、夜だというのに蝶が居たような気がして振り返った。見間違いだったのかそんなものはいなくて、けれども少し落ち着いて歩調を緩める。
当然ながら今日は満月ではなく、吐く息が白くなるくらいにただただ寒かった。