ペルソナ3
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夜になって作戦室へ集まったアマネ達に少し遅れて、幾月がやってくる。
進化したペルソナであるユノを召喚した山岸が、シャドウの出現場所を懸命に探っている間、アマネは腕を組んで壁へ寄り掛かっていた。
『発見しました。場所はムーンライトブリッジ南端。十二番目……最後のシャドウです』
「フンフン、いよいよだね」
『それと、予想通り、付近にペルソナ使いの反応あり。ストレガの二人です』
シャドウと同時に見つかったストレガの二人。ゴスロリ少女がコチラの手で入院中の今、半裸男とジンは隠れながらの行動は出来ないらしい。
ジンとは、夏休みの佐藤と映画を観に行ったあの日以降会っていなかった。例え会っていた所でアマネが彼を説得する理由も気力もなかったが。
毎度の如く寮に待機する幾月へ見送られながら、シャドウとストレガが待ち構えているムーンライトブリッジへと向かう。電車も車も動いていない影時間の今は、移動手段が美鶴のバイクか徒歩しかなかった。
見上げた空に大きく見える満月。
「アマネ?」
「……見納めなら、忘れねぇようにしとこうと思いまして」
有里へ空を見上げている理由を尋ねられる前に答える。緑かかった光景も、棺も血の跡も、今夜シャドウを倒せばもう二度と見られない筈のもので、そう考えると感慨深い思いもあった。
影時間が無ければ、アマネに適性が無ければこうして有里と並んで歩くことも無く、ましてや寮で暮らしてもいなかっただろう。そしてそのままだったら荒垣に会う事も無く、その死を通して気付いた事に気付かないままだった。
嬉しい事ではないけれど、それは大切な事だ。
「シャドウ倒し終わったらどうなるんですかね、寮」
「何も言われてないね」
「SEESの為なところがあるし、解体かなぁ」
「ちゃんとした寮として使うんじゃない?」
「男女どっちの寮としてですか」
「……うーん」
どちらにせよ、この特別課外活動部が用済みとなり解散となったら、アマネはあの寮を出て入学に当初考えていた様に一人暮らしとなるだろう。
きっと有里達とも学校でしか会わなくなり、しかも学年が違うので会う場所も限られてくる。天田は初等科なので更に会う頻度が減るだろうし、コロマルに到っては神社付近へこちらから行かねば会えない。
そのことに関しては、確かに寂しいと思えた。
ムーンライトブリッジの上で、ストレガの残る二人であるタカヤとジンは待ち構えていた。
アマネが相変わらず半裸のタカヤを無視してジンを見ると、目が合ってから何か言いたそうに顔を背けられる。そういえば奢ったお礼を言われてなかったなと、今は殊更関係の無いことを思い出した。
「今日で最後という事は、むろん知っていますね? あなた方は、シャドウが災いを招くから倒すのだと言った。しかし命は、日々無数に死んでゆく……シャドウなど居なくてもね」
当たり前のことを仰々しく言うタカヤに天田が何か言おうとして止める。きっと荒垣の事を言いたかったのだろう。
アマネだって『昔』はその無数に死んでいく命を増やしていた側だった。個人に名称や理由はあっても、命には理由無く意味も無く、タカヤの言う通りシャドウが居なかろうが過去のアマネのような殺し屋が居なかろうが、寿命や事故や抗えない何かで命は消える。
だからこそ、お前らは何も分かってないという風に語るタカヤが、鬱陶しい。
今この場で一番『人の死』を見ているのは、その死について考える事がなかったとしてもアマネだ。ストレガという団体名でタカヤ達が復讐代行業なんて殺人を行っていたところでそれは変わらない。
有里や美鶴達とアマネの違いはそこだ。当たり前である事を知っているからこそ、目新しい事実であるように話すタカヤをアマネは冷めた眼でしか見られなかった。
「ペルソナ能力そのものは悪ではない。否定する理由などありません。本当は、分かっているんでしょう? あなた方は影時間を消したい訳じゃない……そうする事で、自分の中の何かを消した気分になりたいだけなのですよ」
「だったらお前等は何を守った気分になりてぇんだぁ?」
タカヤがアマネを見る。細められた目は笑っているようにも睨んでいるようにも見えた。
「また貴方ですか。ですが、皆さんの中では貴方が一番、話が分かりそうですね」
「半裸に言われたくねぇ言葉ナンバーワンだなぁ。何かを消した気分ってのは現実から逃避してぇって意味だろぉ。だとしたらテメェは俺等に現実見ろって言いてぇと考える。まぁその意見には賛成したっていいと俺は思う」
「斑鳩!?」
「だがなぁ半裸。お前回りくどい上に演技かかっててウゼェ。お前等こそ理由をしっかりと言わずに俺達の邪魔すんなら、守った気分になりてぇだけじゃねぇかぁ」
アマネがタカヤの言葉を肯定するような発言をした事で思わず叫んだ美鶴を制し、構わずに続けてアマネはタカヤを見下すように見つめる。
「何を守った気分になりてぇのか、言ってみろよ小僧」
「……本当に愚かな人たちだ。影時間を消すという事は、あなた方自身を消す行為に等しい。そんな事にすら想像が及ばないとは、本当に愚かし過ぎて、嫌になります。やはり、私とあなた方とでは、僅かほども交わっていないようです」
タカヤはアマネの質問へは答えなかった。
影時間を守るという目的に躍起になっているところすらあるが、それこそタカヤがアマネ達へ言った『消した気分になりたいだけ』と変わらないことに、タカヤは気付いているだろうか。
「互いの力と運命とが、残るべき者を決めるでしょう……来なさい」
結局実力行使で分からせるしかないらしい。臨戦態勢をとるタカヤとジンに有里達もそれぞれ、本来であればシャドウを倒す為の武器を構える。
タカヤは荒垣の仇だ。天田と真田へ譲りたい気持ちがあるけれど、だからといって二人がタカヤなんかの血で手を汚す事は無い。最後の一撃だけは、後でどれだけ恨まれようとアマネがするつもりだった。
案の定真田と天田の狙いはタカヤで、アマネは他のメンバーが動き出す前にジンへと向かって走り出す。あの二人の狙いは予想出来ていたのだから、アマネの狙いは最初からジンのほうだ。
腰から抜いたナイフを構えるアマネの動きに、ジンが持っていたアタッシュケースで身を守ろうとする。それをアマネは更に踏み込んだ足を軸にして蹴り飛ばす。
素人同然の引っ掛かり方に少し落胆しながら、予想より吹き飛んで倒れたジンへと近付いた。
「言っただろぉ。『俺はお前等が邪魔者になりそうだってんで殺してるかも知れねぇ』って。あれって逆に言うとなぁ、俺だけは躊躇も遠慮も無しに殺せるって話なんだぁ」
「……よく言う」
「相手の反撃や抵抗無しに殺せばよかった奴に比べれば、俺はそういう経験もある。先輩達には嫌がられるかも知れねぇけど、俺にとって殺人はタブーじゃねぇんだよ」
「何が言いたいんや」
「お前らの決意とかその理由とか分からねぇけど、ゴメン」
倒れているジンの左腕に、戸惑い無くナイフを突き刺す。
コンクリートと縫い付ける事はナイフの強度の問題もあって出来ず、けれども驚きと痛みのあまりに叫んでいるジンは、しばらく再び立ち上がることは出来なさそうだった。
ジンの叫ぶ声を聞きながら、刺したナイフはそのままにして立ち上がる。
流石に抜いて動けば出血多量で命が危ないだろうが、今は抜かなければ命に別状は無い。そういう場所を狙った。
涙と涎、鼻水までも流し信じられないものを見るかのような眼で見上げてくるジンに、アマネは意識して笑みを浮かべる。後ろから誰かが息を飲む音が聞こえて、タカヤのほうでの音が止んでいることに気づいた。
タカヤも真田達に倒されたことによって、アマネはアマネの行動に驚いて動けないでいた岳羽から救急道具を受け取りジンの傷口の止血を始める。
自分で傷付けたくせに応急処置をするアマネを、少し落ち着いたのかタカヤが負けたことで悄然としているのか、ジンが悲しげに見ていた。
「……結局、勝たれへんのか。『与えられた』わしらは、自ら目覚めよったモンには勝たれへんのか……」
「与えられた?」
患部をきつく締めてナイフを抜いた後、そう呟いたジンに美鶴が疑問符を浮かべる。
「わしらは自然に目覚めた訳やない……体を強制しとかんと力が保たれへん。お前らの死んだ仲間が持っとったやろ」
「シンジの薬……出所はお前らか」
「お前ら、影時間が消えるちゅう意味よう考えとるんやろな? 影時間になんか体験しても、普通のモンは記憶から消えてまう。けど、影時間そのものが消えてもうたら、わしらペルソナ使いかて……」
「ジン……もういいのです」
気を失ってまではいなかったらしいタカヤがよろよろと立ち上がった。
「普通はこの辺りが潮時でしょうね……しかし、そうもいきません。時の限られたこの体。力を失ってまで生き永らえるなど無意味……ならば、私の生きた証、この地に立てるのみ!」
そう言って召喚器を自らに向けるタカヤに、傍らへ置いたままだったナイフを投げつけようとしたアマネはしかし、それより早く駆け出していったジンが邪魔して投げる事ができない。
ジンは体当たりするようにタカヤが召喚するのを阻止した。
「破れかぶれは、あかん!」
「ジン⁉」
「……すんません。でもこれは、あなたが言うてくれた言葉です」
ジンがそのままタカヤを連れて、ムーンライトブリッジの柵を乗り越える。ジンの腕からは流れ出ていた血の残滓が地面へと滴り落ちていた。
「お前らの勝ちや……行ってシャドウを倒したらええ。お前らの戦いが何やったんか、それで全部分かるやろ」
「おい、ちょっと待て! まさか飛び降りようってんじゃ……!」
「そこの人の腕に風穴開けた阿呆、わしはお前が大っ嫌いや。でも……捕まって恥晒すんは死んでもゴメンや! よう見とけ! わしらの生きざま!」
叫んだジンの身体がタカヤも巻き込み、二人は暗い海へと消えていく。
慌てて柵へと近付いたところで、影時間の明かりの無い暗さではもう見つけられないだろう。
柵から身を乗り出せば僅かに水面らしきものが揺れているような感じはする。
けれども気がするだけだしこの高さであの怪我では、生きているかどうかを量るには不安材料しかなかった。
「……自殺の方が恥じゃねぇのかぁ、馬鹿」
進化したペルソナであるユノを召喚した山岸が、シャドウの出現場所を懸命に探っている間、アマネは腕を組んで壁へ寄り掛かっていた。
『発見しました。場所はムーンライトブリッジ南端。十二番目……最後のシャドウです』
「フンフン、いよいよだね」
『それと、予想通り、付近にペルソナ使いの反応あり。ストレガの二人です』
シャドウと同時に見つかったストレガの二人。ゴスロリ少女がコチラの手で入院中の今、半裸男とジンは隠れながらの行動は出来ないらしい。
ジンとは、夏休みの佐藤と映画を観に行ったあの日以降会っていなかった。例え会っていた所でアマネが彼を説得する理由も気力もなかったが。
毎度の如く寮に待機する幾月へ見送られながら、シャドウとストレガが待ち構えているムーンライトブリッジへと向かう。電車も車も動いていない影時間の今は、移動手段が美鶴のバイクか徒歩しかなかった。
見上げた空に大きく見える満月。
「アマネ?」
「……見納めなら、忘れねぇようにしとこうと思いまして」
有里へ空を見上げている理由を尋ねられる前に答える。緑かかった光景も、棺も血の跡も、今夜シャドウを倒せばもう二度と見られない筈のもので、そう考えると感慨深い思いもあった。
影時間が無ければ、アマネに適性が無ければこうして有里と並んで歩くことも無く、ましてや寮で暮らしてもいなかっただろう。そしてそのままだったら荒垣に会う事も無く、その死を通して気付いた事に気付かないままだった。
嬉しい事ではないけれど、それは大切な事だ。
「シャドウ倒し終わったらどうなるんですかね、寮」
「何も言われてないね」
「SEESの為なところがあるし、解体かなぁ」
「ちゃんとした寮として使うんじゃない?」
「男女どっちの寮としてですか」
「……うーん」
どちらにせよ、この特別課外活動部が用済みとなり解散となったら、アマネはあの寮を出て入学に当初考えていた様に一人暮らしとなるだろう。
きっと有里達とも学校でしか会わなくなり、しかも学年が違うので会う場所も限られてくる。天田は初等科なので更に会う頻度が減るだろうし、コロマルに到っては神社付近へこちらから行かねば会えない。
そのことに関しては、確かに寂しいと思えた。
ムーンライトブリッジの上で、ストレガの残る二人であるタカヤとジンは待ち構えていた。
アマネが相変わらず半裸のタカヤを無視してジンを見ると、目が合ってから何か言いたそうに顔を背けられる。そういえば奢ったお礼を言われてなかったなと、今は殊更関係の無いことを思い出した。
「今日で最後という事は、むろん知っていますね? あなた方は、シャドウが災いを招くから倒すのだと言った。しかし命は、日々無数に死んでゆく……シャドウなど居なくてもね」
当たり前のことを仰々しく言うタカヤに天田が何か言おうとして止める。きっと荒垣の事を言いたかったのだろう。
アマネだって『昔』はその無数に死んでいく命を増やしていた側だった。個人に名称や理由はあっても、命には理由無く意味も無く、タカヤの言う通りシャドウが居なかろうが過去のアマネのような殺し屋が居なかろうが、寿命や事故や抗えない何かで命は消える。
だからこそ、お前らは何も分かってないという風に語るタカヤが、鬱陶しい。
今この場で一番『人の死』を見ているのは、その死について考える事がなかったとしてもアマネだ。ストレガという団体名でタカヤ達が復讐代行業なんて殺人を行っていたところでそれは変わらない。
有里や美鶴達とアマネの違いはそこだ。当たり前である事を知っているからこそ、目新しい事実であるように話すタカヤをアマネは冷めた眼でしか見られなかった。
「ペルソナ能力そのものは悪ではない。否定する理由などありません。本当は、分かっているんでしょう? あなた方は影時間を消したい訳じゃない……そうする事で、自分の中の何かを消した気分になりたいだけなのですよ」
「だったらお前等は何を守った気分になりてぇんだぁ?」
タカヤがアマネを見る。細められた目は笑っているようにも睨んでいるようにも見えた。
「また貴方ですか。ですが、皆さんの中では貴方が一番、話が分かりそうですね」
「半裸に言われたくねぇ言葉ナンバーワンだなぁ。何かを消した気分ってのは現実から逃避してぇって意味だろぉ。だとしたらテメェは俺等に現実見ろって言いてぇと考える。まぁその意見には賛成したっていいと俺は思う」
「斑鳩!?」
「だがなぁ半裸。お前回りくどい上に演技かかっててウゼェ。お前等こそ理由をしっかりと言わずに俺達の邪魔すんなら、守った気分になりてぇだけじゃねぇかぁ」
アマネがタカヤの言葉を肯定するような発言をした事で思わず叫んだ美鶴を制し、構わずに続けてアマネはタカヤを見下すように見つめる。
「何を守った気分になりてぇのか、言ってみろよ小僧」
「……本当に愚かな人たちだ。影時間を消すという事は、あなた方自身を消す行為に等しい。そんな事にすら想像が及ばないとは、本当に愚かし過ぎて、嫌になります。やはり、私とあなた方とでは、僅かほども交わっていないようです」
タカヤはアマネの質問へは答えなかった。
影時間を守るという目的に躍起になっているところすらあるが、それこそタカヤがアマネ達へ言った『消した気分になりたいだけ』と変わらないことに、タカヤは気付いているだろうか。
「互いの力と運命とが、残るべき者を決めるでしょう……来なさい」
結局実力行使で分からせるしかないらしい。臨戦態勢をとるタカヤとジンに有里達もそれぞれ、本来であればシャドウを倒す為の武器を構える。
タカヤは荒垣の仇だ。天田と真田へ譲りたい気持ちがあるけれど、だからといって二人がタカヤなんかの血で手を汚す事は無い。最後の一撃だけは、後でどれだけ恨まれようとアマネがするつもりだった。
案の定真田と天田の狙いはタカヤで、アマネは他のメンバーが動き出す前にジンへと向かって走り出す。あの二人の狙いは予想出来ていたのだから、アマネの狙いは最初からジンのほうだ。
腰から抜いたナイフを構えるアマネの動きに、ジンが持っていたアタッシュケースで身を守ろうとする。それをアマネは更に踏み込んだ足を軸にして蹴り飛ばす。
素人同然の引っ掛かり方に少し落胆しながら、予想より吹き飛んで倒れたジンへと近付いた。
「言っただろぉ。『俺はお前等が邪魔者になりそうだってんで殺してるかも知れねぇ』って。あれって逆に言うとなぁ、俺だけは躊躇も遠慮も無しに殺せるって話なんだぁ」
「……よく言う」
「相手の反撃や抵抗無しに殺せばよかった奴に比べれば、俺はそういう経験もある。先輩達には嫌がられるかも知れねぇけど、俺にとって殺人はタブーじゃねぇんだよ」
「何が言いたいんや」
「お前らの決意とかその理由とか分からねぇけど、ゴメン」
倒れているジンの左腕に、戸惑い無くナイフを突き刺す。
コンクリートと縫い付ける事はナイフの強度の問題もあって出来ず、けれども驚きと痛みのあまりに叫んでいるジンは、しばらく再び立ち上がることは出来なさそうだった。
ジンの叫ぶ声を聞きながら、刺したナイフはそのままにして立ち上がる。
流石に抜いて動けば出血多量で命が危ないだろうが、今は抜かなければ命に別状は無い。そういう場所を狙った。
涙と涎、鼻水までも流し信じられないものを見るかのような眼で見上げてくるジンに、アマネは意識して笑みを浮かべる。後ろから誰かが息を飲む音が聞こえて、タカヤのほうでの音が止んでいることに気づいた。
タカヤも真田達に倒されたことによって、アマネはアマネの行動に驚いて動けないでいた岳羽から救急道具を受け取りジンの傷口の止血を始める。
自分で傷付けたくせに応急処置をするアマネを、少し落ち着いたのかタカヤが負けたことで悄然としているのか、ジンが悲しげに見ていた。
「……結局、勝たれへんのか。『与えられた』わしらは、自ら目覚めよったモンには勝たれへんのか……」
「与えられた?」
患部をきつく締めてナイフを抜いた後、そう呟いたジンに美鶴が疑問符を浮かべる。
「わしらは自然に目覚めた訳やない……体を強制しとかんと力が保たれへん。お前らの死んだ仲間が持っとったやろ」
「シンジの薬……出所はお前らか」
「お前ら、影時間が消えるちゅう意味よう考えとるんやろな? 影時間になんか体験しても、普通のモンは記憶から消えてまう。けど、影時間そのものが消えてもうたら、わしらペルソナ使いかて……」
「ジン……もういいのです」
気を失ってまではいなかったらしいタカヤがよろよろと立ち上がった。
「普通はこの辺りが潮時でしょうね……しかし、そうもいきません。時の限られたこの体。力を失ってまで生き永らえるなど無意味……ならば、私の生きた証、この地に立てるのみ!」
そう言って召喚器を自らに向けるタカヤに、傍らへ置いたままだったナイフを投げつけようとしたアマネはしかし、それより早く駆け出していったジンが邪魔して投げる事ができない。
ジンは体当たりするようにタカヤが召喚するのを阻止した。
「破れかぶれは、あかん!」
「ジン⁉」
「……すんません。でもこれは、あなたが言うてくれた言葉です」
ジンがそのままタカヤを連れて、ムーンライトブリッジの柵を乗り越える。ジンの腕からは流れ出ていた血の残滓が地面へと滴り落ちていた。
「お前らの勝ちや……行ってシャドウを倒したらええ。お前らの戦いが何やったんか、それで全部分かるやろ」
「おい、ちょっと待て! まさか飛び降りようってんじゃ……!」
「そこの人の腕に風穴開けた阿呆、わしはお前が大っ嫌いや。でも……捕まって恥晒すんは死んでもゴメンや! よう見とけ! わしらの生きざま!」
叫んだジンの身体がタカヤも巻き込み、二人は暗い海へと消えていく。
慌てて柵へと近付いたところで、影時間の明かりの無い暗さではもう見つけられないだろう。
柵から身を乗り出せば僅かに水面らしきものが揺れているような感じはする。
けれども気がするだけだしこの高さであの怪我では、生きているかどうかを量るには不安材料しかなかった。
「……自殺の方が恥じゃねぇのかぁ、馬鹿」