ペルソナP3P
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十二月の満月の夜。
影時間のムーンライトブリッジ。“十三番目”とアイギスの因縁の場所。
『死の宣告者』として覚醒した望月に倒され、ボロボロのアイギスを抱き起こす。どうしてここへアマネがいるのかと驚いているアイギスに何も言わず、これ以上破損が広がらないようにと持ってきた道具で応急処置をした。
そうしてとりあえずの処置が終わったところで顔を上げて、アマネは望月を見る。影時間の不気味な色合いの中でも煌々と光を落とす月を頭上に、望月もアマネを見つめていた。
話すことなんて何一つ無い。アマネも望月もこうなることを知っていたし、場合によってはこれから起こることも知っていると言える。少なくとも望月は起こらざるを得ない事を知っているし、アマネはアマネでそれを止める術を探していた。
立ち上がることの出来ないくらい破損しているアイギスの肩に触れてから、アマネは立ち上がって望月の元へと歩き出す。背後からはアイギスのアマネを呼ぶ声とSEESの面々がやってきたらしい気配がした。
ことさらゆっくりと歩くアマネの後ろで、アイギスが謝る声が聞こえる。全てを思い出したのだと、『有里 奏』へと謝る彼女を悪いとはアマネは思えない。
「君が謝る必要なんて無い」
望月がアイギスを慰めるように口を開く。その隣に立つことは出来ても、アマネは振り返ることが出来なかった。
思い出せなかったアイギスよりも、知らなかった望月よりも今は全てを知っていて黙っていたアマネが一番悪いと分かっている。アイギスの機能が停止したのかアイギスの声が聞こえなくなり、そうしてやっとアマネは彼女達へと振り返って後悔した。
「君『達』は何者だ?」
「アマネ君は違うよ。でも僕は……君達が『シャドウ』と呼ぶものと、ほぼ同じ存在なんだ」
「綾時さん」
「大丈夫だよ」
アマネに振り向いて微笑む望月の腕に手を伸ばす。望月の目には予想に反して悲しみ以外の色は無かった。穏やかで、落ち着いた目に何も言えなくなる。
十二の『アルカナ』が全て交わることで生まれる『宣告者』。その種子は十年前のこの場所でアイギスによって有里奏へ埋め込まれていたとしても、呼び起こす切っ掛けを知っていたアマネはそれを止めなかった。
望月はきっとその理由に気付いている。だからアマネへ、アマネの存在を覚えていることを告げたのだろう。そうして、あえてもう一度、残酷な未来を選ばせようとしている。
望月に会う前から、アマネは選んでいたというのに。
アイギスを返り討ちにするのに力を使った為か、倒れる望月に手を伸ばして支えて、アマネは望月の話に動揺しているだろう有里達を見た。
望月を背中へ背負って、出来るだけ振動を背中の望月へ与えないようにしながらSEESの面々の傍へと近付く。警戒と動揺とを浮かべる桐条達の手が届かない距離で立ち止まって、それ以上の敵意を向けられないように動かないアイギスを見下ろした。
「応急処置はしました。ラボへ運んで見てもらえば問題はない筈です」
「……斑鳩、君は」
「俺は、綾時さんと『友達』でした。友達、なんです」
友達だから何だ。自分の言葉に虫唾が走る。
「彼をどこへ連れて行くつもりだ?」
「特に思い当たる場所はありません。俺のアパートか、公園のベンチかも知れねぇ」
「なら私達に着いてこい。アイギスのこともあるし逃げられては困るからな」
あからさまな警戒をする桐条に思わず口角が上がった。
「逃げる? もう逃げる場所なんて何処にも無ぇのに?」
「おい斑鳩」
「警戒するのは分かりますが、綾時さんは何も悪くねぇんです。それだけはどうかご理解ください」
「じゃあお前は悪いのかよっ」
散らばったアイギスの破片を拾い集めていた伊織がアマネを睨む。その視線をまっすぐに受け止めて、肯定しようとして。
「そういう話も、帰ってからにしようよ」
アイギスを真田の背中へ背負わせようとしていた有里が、遮るように言った。彼女はほんの少し前に自身が『宣告者』の卵を封印させられていたと知った筈なのに、少しも動揺している様子はない。だがそれは別に、驚いていないだとか何とも思っていないという事と同義ではなかった。
『有里 湊』だってそうだったではないか。あの人も目に見えた動揺はしていなかった。
目に見えては。
「……ごめんなさい」
促されてアイギスと望月を巌戸台分寮へと運び、望月を空いていた部屋のベッドへと寝かせた。
以前に来た時掃除をしていたのが良かったのか、特に埃立つこともないベッドである。だがこの為にベッドメイキングをしておいた訳ではない。
望月を寝かせてそのまま眠っている望月を観察していれば、研究所へアイギスを連れて帰る職員を見送ってきたらしい桐条と岳羽が部屋へやってきた。それを一瞥して無言で視線を望月へ戻す。
アマネへ何かを尋ねられたとしても、せめて望月が目を覚ますまでは何も話すことはない。そもそもアマネの事情は望月とも違うのだから、まだ殆ど真実を知らないSEESに対して話せることなど無かった。
部屋にあった椅子に座ったまま手を握りしめる。
「少しいいだろうか」
「綾時さんが起きるまで何も話せません」
「雑談ならどうだ?」
どうしてもアマネと話したいのかと振り返って睨もうとすれば岳羽と目が合った。肩を跳ねさせるも、気丈に目を反らさない岳羽に少しだけ気分が落ち着く。
「関係無ぇ話題なんて、無ぇじゃねぇですか」
それでも話をする気にはなれた。
「『宣告者』については綾時さんから聞いてください。それ以外の俺に答えられることになら」
椅子の向きを変えて桐条と岳羽に向き直る。座ったままでは失礼かと思ったが、この部屋には生憎椅子が一つしかなかった。
立ったままアマネを見る二人は、アマネが比較的素直に話をしてくれると思っていなかったらしく、少し躊躇しながら口を開く。
「……まずは、アイギスの応急処置をしてくれてありがとう。迎えに来たスタッフ達も的確な処置だと褒めていった」
「本当は怪我をさせる前に止めりゃ良かったのでしょうが」
「君にそこまで頼れないさ。例え敵対しないと分かっていてもな」
幾月の件の後に分寮で言った話を誰かから聞いていたのか、桐条はそんな言い方をした。あの時桐条は居なかったので、確実に誰かが話したのだろう。
敵対しないとはいえ、味方だとは言い難い。その関係もアマネが今夜望月と一緒にいたことで、またSEESメンバーの数人には疑われるのだろう。
疑われようと目的を目指すだけなので、嫌われることを悲しいとか寂しいと思いはしても、アマネは立ち止まる気は無い。
「君は、いつから知っていたんだ?」
「何をですか」
「色々だ。無論言いたくない部分は答えてくれなくていい。雑談だからな」
逃げ道を作って桐条はアマネの返答を待つ。横目で見た望月はピクリとも動かず、呼吸の音がしなければ縁起でもなく死んでいるのかとも思えた。
色々なことを知ったのは、体感年数で言うなら四年前か。もうそんなに経つのかと少し感慨深く思ったが、そのうち一年は無気力な状態で過ごしていたので、カウントしなくてもいい気がした。
「知った時期に関して言うなら、ここ数年の話ですよ。ペルソナ使いになったのだって、同じくらいです」
「やっぱりペルソナ使いなんだ」
納得したような態度をとる岳羽に、腰のホルダーへ入れていた召喚器を取り出して差し出す。使い込まれてきっと岳羽達の持つそれより傷が付いているだろうそれは、けれども調べたところで作られたという記録はないのだろう。
この世界で作ってアマネへ渡された訳ではないそれは、鍵のキーホルダーやウォレットチェーンと同様に、気付いたら傍にあった。きっと八十稲羽での出来事を経験したアマネなら、召喚器が無くともペルソナの召喚は出来るのだろうが、試したことはない。
「没収しますか?」
「……いや、やめておこう。何も分からないままに没収するのはいい手段だと思えない」
「まぁ奪われたら取り返すだけですけれど」
検分されたそれを返してもらい、ホルダーへ戻した。
影時間のムーンライトブリッジ。“十三番目”とアイギスの因縁の場所。
『死の宣告者』として覚醒した望月に倒され、ボロボロのアイギスを抱き起こす。どうしてここへアマネがいるのかと驚いているアイギスに何も言わず、これ以上破損が広がらないようにと持ってきた道具で応急処置をした。
そうしてとりあえずの処置が終わったところで顔を上げて、アマネは望月を見る。影時間の不気味な色合いの中でも煌々と光を落とす月を頭上に、望月もアマネを見つめていた。
話すことなんて何一つ無い。アマネも望月もこうなることを知っていたし、場合によってはこれから起こることも知っていると言える。少なくとも望月は起こらざるを得ない事を知っているし、アマネはアマネでそれを止める術を探していた。
立ち上がることの出来ないくらい破損しているアイギスの肩に触れてから、アマネは立ち上がって望月の元へと歩き出す。背後からはアイギスのアマネを呼ぶ声とSEESの面々がやってきたらしい気配がした。
ことさらゆっくりと歩くアマネの後ろで、アイギスが謝る声が聞こえる。全てを思い出したのだと、『有里 奏』へと謝る彼女を悪いとはアマネは思えない。
「君が謝る必要なんて無い」
望月がアイギスを慰めるように口を開く。その隣に立つことは出来ても、アマネは振り返ることが出来なかった。
思い出せなかったアイギスよりも、知らなかった望月よりも今は全てを知っていて黙っていたアマネが一番悪いと分かっている。アイギスの機能が停止したのかアイギスの声が聞こえなくなり、そうしてやっとアマネは彼女達へと振り返って後悔した。
「君『達』は何者だ?」
「アマネ君は違うよ。でも僕は……君達が『シャドウ』と呼ぶものと、ほぼ同じ存在なんだ」
「綾時さん」
「大丈夫だよ」
アマネに振り向いて微笑む望月の腕に手を伸ばす。望月の目には予想に反して悲しみ以外の色は無かった。穏やかで、落ち着いた目に何も言えなくなる。
十二の『アルカナ』が全て交わることで生まれる『宣告者』。その種子は十年前のこの場所でアイギスによって有里奏へ埋め込まれていたとしても、呼び起こす切っ掛けを知っていたアマネはそれを止めなかった。
望月はきっとその理由に気付いている。だからアマネへ、アマネの存在を覚えていることを告げたのだろう。そうして、あえてもう一度、残酷な未来を選ばせようとしている。
望月に会う前から、アマネは選んでいたというのに。
アイギスを返り討ちにするのに力を使った為か、倒れる望月に手を伸ばして支えて、アマネは望月の話に動揺しているだろう有里達を見た。
望月を背中へ背負って、出来るだけ振動を背中の望月へ与えないようにしながらSEESの面々の傍へと近付く。警戒と動揺とを浮かべる桐条達の手が届かない距離で立ち止まって、それ以上の敵意を向けられないように動かないアイギスを見下ろした。
「応急処置はしました。ラボへ運んで見てもらえば問題はない筈です」
「……斑鳩、君は」
「俺は、綾時さんと『友達』でした。友達、なんです」
友達だから何だ。自分の言葉に虫唾が走る。
「彼をどこへ連れて行くつもりだ?」
「特に思い当たる場所はありません。俺のアパートか、公園のベンチかも知れねぇ」
「なら私達に着いてこい。アイギスのこともあるし逃げられては困るからな」
あからさまな警戒をする桐条に思わず口角が上がった。
「逃げる? もう逃げる場所なんて何処にも無ぇのに?」
「おい斑鳩」
「警戒するのは分かりますが、綾時さんは何も悪くねぇんです。それだけはどうかご理解ください」
「じゃあお前は悪いのかよっ」
散らばったアイギスの破片を拾い集めていた伊織がアマネを睨む。その視線をまっすぐに受け止めて、肯定しようとして。
「そういう話も、帰ってからにしようよ」
アイギスを真田の背中へ背負わせようとしていた有里が、遮るように言った。彼女はほんの少し前に自身が『宣告者』の卵を封印させられていたと知った筈なのに、少しも動揺している様子はない。だがそれは別に、驚いていないだとか何とも思っていないという事と同義ではなかった。
『有里 湊』だってそうだったではないか。あの人も目に見えた動揺はしていなかった。
目に見えては。
「……ごめんなさい」
促されてアイギスと望月を巌戸台分寮へと運び、望月を空いていた部屋のベッドへと寝かせた。
以前に来た時掃除をしていたのが良かったのか、特に埃立つこともないベッドである。だがこの為にベッドメイキングをしておいた訳ではない。
望月を寝かせてそのまま眠っている望月を観察していれば、研究所へアイギスを連れて帰る職員を見送ってきたらしい桐条と岳羽が部屋へやってきた。それを一瞥して無言で視線を望月へ戻す。
アマネへ何かを尋ねられたとしても、せめて望月が目を覚ますまでは何も話すことはない。そもそもアマネの事情は望月とも違うのだから、まだ殆ど真実を知らないSEESに対して話せることなど無かった。
部屋にあった椅子に座ったまま手を握りしめる。
「少しいいだろうか」
「綾時さんが起きるまで何も話せません」
「雑談ならどうだ?」
どうしてもアマネと話したいのかと振り返って睨もうとすれば岳羽と目が合った。肩を跳ねさせるも、気丈に目を反らさない岳羽に少しだけ気分が落ち着く。
「関係無ぇ話題なんて、無ぇじゃねぇですか」
それでも話をする気にはなれた。
「『宣告者』については綾時さんから聞いてください。それ以外の俺に答えられることになら」
椅子の向きを変えて桐条と岳羽に向き直る。座ったままでは失礼かと思ったが、この部屋には生憎椅子が一つしかなかった。
立ったままアマネを見る二人は、アマネが比較的素直に話をしてくれると思っていなかったらしく、少し躊躇しながら口を開く。
「……まずは、アイギスの応急処置をしてくれてありがとう。迎えに来たスタッフ達も的確な処置だと褒めていった」
「本当は怪我をさせる前に止めりゃ良かったのでしょうが」
「君にそこまで頼れないさ。例え敵対しないと分かっていてもな」
幾月の件の後に分寮で言った話を誰かから聞いていたのか、桐条はそんな言い方をした。あの時桐条は居なかったので、確実に誰かが話したのだろう。
敵対しないとはいえ、味方だとは言い難い。その関係もアマネが今夜望月と一緒にいたことで、またSEESメンバーの数人には疑われるのだろう。
疑われようと目的を目指すだけなので、嫌われることを悲しいとか寂しいと思いはしても、アマネは立ち止まる気は無い。
「君は、いつから知っていたんだ?」
「何をですか」
「色々だ。無論言いたくない部分は答えてくれなくていい。雑談だからな」
逃げ道を作って桐条はアマネの返答を待つ。横目で見た望月はピクリとも動かず、呼吸の音がしなければ縁起でもなく死んでいるのかとも思えた。
色々なことを知ったのは、体感年数で言うなら四年前か。もうそんなに経つのかと少し感慨深く思ったが、そのうち一年は無気力な状態で過ごしていたので、カウントしなくてもいい気がした。
「知った時期に関して言うなら、ここ数年の話ですよ。ペルソナ使いになったのだって、同じくらいです」
「やっぱりペルソナ使いなんだ」
納得したような態度をとる岳羽に、腰のホルダーへ入れていた召喚器を取り出して差し出す。使い込まれてきっと岳羽達の持つそれより傷が付いているだろうそれは、けれども調べたところで作られたという記録はないのだろう。
この世界で作ってアマネへ渡された訳ではないそれは、鍵のキーホルダーやウォレットチェーンと同様に、気付いたら傍にあった。きっと八十稲羽での出来事を経験したアマネなら、召喚器が無くともペルソナの召喚は出来るのだろうが、試したことはない。
「没収しますか?」
「……いや、やめておこう。何も分からないままに没収するのはいい手段だと思えない」
「まぁ奪われたら取り返すだけですけれど」
検分されたそれを返してもらい、ホルダーへ戻した。