ペルソナP3P
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屋上に立っていた望月の、首から下がる黄色いマフラーの端が風に揺れている。アマネが後ろ手で閉めた扉の音に気付いて振り返った望月の顔は、冬も直前な季節の夕方であっても寒さで赤くなっていることも無かった。
「やあ、アマネ君」
「こんにちは綾時さん。もう学校閉まっちゃいますよ」
冷たい風の吹く屋上で、中天ではないが空にはもうすぐ満月になる月がうっすらと姿を現している。それを眺めていたらしい望月は少し寂しげにアマネを見て微笑んだ。
「アマネ君寒くない?」
「寒いです。でもホッカイロ持ってますから」
「今日学校サボっちゃった」
「知ってます。教室に会いに行きましたから」
「順平とか、奏ちゃん心配してた?」
「してましたよ。風邪引いたのかって。貴方は風邪なんて引けねぇのに」
「……寒くない?」
「寒いです」
「……なんで、僕たちはこうなっちゃったんだろうねえ」
そう言って涙を零した望月へ駆け寄って抱き締める。『前』の様に来ないで、なんて言わせる間も無かった。
もうすぐ十二月の満月が来る。それは同時に『前』で望月が全部を思い出す日だった。
『今』のアマネが出会い直した望月も全部を忘れていて、全部を忘れている他にアマネの事も本来であれば初対面なので知らない。けれども屋上で出会った時望月は『アマネを覚えている』様な節を見せた。そして今の会話で確信したのだ。
彼はアマネを『覚えている』
アマネを覚えている。という事は、アマネと同じものを“覚えている”可能性があるということで、となれば当然『前』に起こった全てを知っているか、少なくともこれから思い出すことになるのだ。
「……何処まで思い出してますか」
「まだ殆ど靄が掛かってる感じ。でもきっと、次の満月には全部思い出すんだろうね」
そうは言っても、望月はもう色々な事に気付いてしまっているのだろう。でなければアマネがここへ来ることなんて予想もしなかっただろうから。
知らないでいて欲しくはあった。アマネのことなんて知らない『望月綾時』で、これから起こることも全部知らないまま。そうであったならアマネは彼を更に悲しませずに済んだ筈だ。
彼は、アマネに対しても罪悪感を持っているだろうから。
「アマネ君。ごめんね」
ほらやっぱり、と耳元で謝る望月を抱き締める。
「ごめんね。ごめんね……『湊君』のこと――」
「謝らないでください。貴方のせいじゃねぇ」
「でもっ、でも僕はこれから――っ」
これから、“また”世界を死に導くのだと、望月はもう理解していた。
世界を破滅へと向かわせなければ、望月がこの世界へ現れてくれないのだとしたら。アマネがSEESによる大型シャドウの討伐を阻止しなかったのはそれが理由かもしれない。なんだかんだ言ってアマネは自分のわがままを優先したのである。
その結果で望月が、アイギスや有里が悲しむ羽目になるのは分かっていただろう。そこからまだ取り返しが利くとでも思っているのだろうか。
思っていなければしないだろうなと、まだ自分の愚考に憎しみを抱いた。まだ『ニュクスを止める方法』は見つかっていない。
もしかしたら、という仮定であるのなら、一つだけ方法はある。恐らく『あの人』と同じことをするだろう有里の代わりに、アマネがやればいい。その代わり二年後の約束は果たされることなく、もしかしたら『月森』達は霧の中へ消えてしまうかもしれなかった。
だがもしそうなった場合、アマネの代わりに生き残るだろう有里達へ託すことは出来る。彼らが月森達へ手を貸してくれるのなら、それはアマネ一人よりも心強いはずだ。
「ふうん。『イザナギ』ねえ……」
「ある意味では桐条鴻悦が求めた『時を操る力』を、直接経験したようなものなんでしょう。高位のシャドウはもうその名の通り神の領域なんでしょうね」
「神の領域、かあ。じゃあ僕がアマネ君にとって『前』の僕なのも、そのせいかな」
「俺達はちょっと人とずれてるから、動かしやすかったのかも知れねぇですね」
閉められる前の校舎から出て、談笑するには向いていないムーンライトブリッジで座り込む。アマネは寒かったし望月も寒くないかと気にしてくれたが、他の場所へ行こうだなんて言えもしなかった。
満月になってしまえば、また望月とは殆ど話せなくなる。そうなれば次に会えるのは大晦日の一夜か、一月三十一日だ。もう二ヶ月と日は無いのに、会える時間はもっと少ない。
「……あの後、大変だったんだね」
「大変でしたよ。兄さんは居ないし貴方も居なくて、寂しかったんですから」
「僕はずっとぼんやりしてる感じだったかなあ。……ああでも、一度だけ夢を見たよ。僕と彼とで、女の子を元の場所へ帰してあげる夢だった」
「女の子」
「あの時は君の声が聞こえた気もしたよ。夢でもちょっと嬉しかったな」
本当に嬉しそうに言うので、その女の子はいわゆる臨死体験をしているのではとか、夢で聞いたらしい自分の声に嫉妬とか色々思ったが、結局全部言わなかった。そういうこれから自分達が引き起こすだろう未来以外のことを、もっと話したかったのもある。
「やあ、アマネ君」
「こんにちは綾時さん。もう学校閉まっちゃいますよ」
冷たい風の吹く屋上で、中天ではないが空にはもうすぐ満月になる月がうっすらと姿を現している。それを眺めていたらしい望月は少し寂しげにアマネを見て微笑んだ。
「アマネ君寒くない?」
「寒いです。でもホッカイロ持ってますから」
「今日学校サボっちゃった」
「知ってます。教室に会いに行きましたから」
「順平とか、奏ちゃん心配してた?」
「してましたよ。風邪引いたのかって。貴方は風邪なんて引けねぇのに」
「……寒くない?」
「寒いです」
「……なんで、僕たちはこうなっちゃったんだろうねえ」
そう言って涙を零した望月へ駆け寄って抱き締める。『前』の様に来ないで、なんて言わせる間も無かった。
もうすぐ十二月の満月が来る。それは同時に『前』で望月が全部を思い出す日だった。
『今』のアマネが出会い直した望月も全部を忘れていて、全部を忘れている他にアマネの事も本来であれば初対面なので知らない。けれども屋上で出会った時望月は『アマネを覚えている』様な節を見せた。そして今の会話で確信したのだ。
彼はアマネを『覚えている』
アマネを覚えている。という事は、アマネと同じものを“覚えている”可能性があるということで、となれば当然『前』に起こった全てを知っているか、少なくともこれから思い出すことになるのだ。
「……何処まで思い出してますか」
「まだ殆ど靄が掛かってる感じ。でもきっと、次の満月には全部思い出すんだろうね」
そうは言っても、望月はもう色々な事に気付いてしまっているのだろう。でなければアマネがここへ来ることなんて予想もしなかっただろうから。
知らないでいて欲しくはあった。アマネのことなんて知らない『望月綾時』で、これから起こることも全部知らないまま。そうであったならアマネは彼を更に悲しませずに済んだ筈だ。
彼は、アマネに対しても罪悪感を持っているだろうから。
「アマネ君。ごめんね」
ほらやっぱり、と耳元で謝る望月を抱き締める。
「ごめんね。ごめんね……『湊君』のこと――」
「謝らないでください。貴方のせいじゃねぇ」
「でもっ、でも僕はこれから――っ」
これから、“また”世界を死に導くのだと、望月はもう理解していた。
世界を破滅へと向かわせなければ、望月がこの世界へ現れてくれないのだとしたら。アマネがSEESによる大型シャドウの討伐を阻止しなかったのはそれが理由かもしれない。なんだかんだ言ってアマネは自分のわがままを優先したのである。
その結果で望月が、アイギスや有里が悲しむ羽目になるのは分かっていただろう。そこからまだ取り返しが利くとでも思っているのだろうか。
思っていなければしないだろうなと、まだ自分の愚考に憎しみを抱いた。まだ『ニュクスを止める方法』は見つかっていない。
もしかしたら、という仮定であるのなら、一つだけ方法はある。恐らく『あの人』と同じことをするだろう有里の代わりに、アマネがやればいい。その代わり二年後の約束は果たされることなく、もしかしたら『月森』達は霧の中へ消えてしまうかもしれなかった。
だがもしそうなった場合、アマネの代わりに生き残るだろう有里達へ託すことは出来る。彼らが月森達へ手を貸してくれるのなら、それはアマネ一人よりも心強いはずだ。
「ふうん。『イザナギ』ねえ……」
「ある意味では桐条鴻悦が求めた『時を操る力』を、直接経験したようなものなんでしょう。高位のシャドウはもうその名の通り神の領域なんでしょうね」
「神の領域、かあ。じゃあ僕がアマネ君にとって『前』の僕なのも、そのせいかな」
「俺達はちょっと人とずれてるから、動かしやすかったのかも知れねぇですね」
閉められる前の校舎から出て、談笑するには向いていないムーンライトブリッジで座り込む。アマネは寒かったし望月も寒くないかと気にしてくれたが、他の場所へ行こうだなんて言えもしなかった。
満月になってしまえば、また望月とは殆ど話せなくなる。そうなれば次に会えるのは大晦日の一夜か、一月三十一日だ。もう二ヶ月と日は無いのに、会える時間はもっと少ない。
「……あの後、大変だったんだね」
「大変でしたよ。兄さんは居ないし貴方も居なくて、寂しかったんですから」
「僕はずっとぼんやりしてる感じだったかなあ。……ああでも、一度だけ夢を見たよ。僕と彼とで、女の子を元の場所へ帰してあげる夢だった」
「女の子」
「あの時は君の声が聞こえた気もしたよ。夢でもちょっと嬉しかったな」
本当に嬉しそうに言うので、その女の子はいわゆる臨死体験をしているのではとか、夢で聞いたらしい自分の声に嫉妬とか色々思ったが、結局全部言わなかった。そういうこれから自分達が引き起こすだろう未来以外のことを、もっと話したかったのもある。