ペルソナ3
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最後の作戦日となるはずの、明日の満月を控えて寮のラウンジには全員が揃っていた。
先月までと違って当然荒垣の姿は無く、ただ気分だけが明日で最後になるだろうという期待で高揚している。
アマネはそんな寮生達を、以前の荒垣のように壁へ寄り掛かって眺めていた。
「……いよいよ、明日で、最後の作戦ですね」
「まぁね……。けど、たった半年チョイで色々あったよね」
たった半年。
そのたった半年で確かに色々あったけれど、良く考えればアマネの場合、半年も経たない期間で後輩達と未来を変えた経験があった。あの時は今以上に死人が出た事を思い出すと、半年で仲間からは一人しか犠牲が出ていない事が、とても些細な事に思えてしまう。
純粋に事実だけを述べた場合、ではあるけれど。
「オレ的にゃ、ヒマしてるよりかは、全然良かったけどな。いろんな人にも会えたしさ」
「……そうですね」
「無駄な事は一つも無かったさ。『力』を得て二年半……。悪くない時間だった」
昔を思い返すような真田の言葉にアマネは顔を逸らす。荒垣がいなくなってから、アマネは少し真田に苦手意識を持つようになった気がする。
失くさせた側の経験があるアマネと失くした側になった真田とでは、感じ方の向きが違うからだと今のアマネは分かっているが、分かっているから、分かったからと言って理解できているかまではまた別の問題だ。
少なくとも、アマネには真田へ荒垣の話を振る勇気は無い。
「桐条先輩は、いつからやってんですか? 確か、真田サンよりもっと前からって……」
「ん? 私か? ……最初は私一人だった。もっともその頃は、まだ作戦も無く、ここもただの学生寮だったがな」
「先輩も、理事長から誘われて?」
「いや……違う。私は幼い頃から、影時間への適性があったんだ。以前、父の指揮するタルタロス調査の一団がシャドウに襲われた事があってな。傍らで見ていた私に、その時ペルソナが覚醒したんだ」
話題はいつの間にか美鶴がこの活動を始めた切っ掛けの話へと変わっていた。コロマルがアマネの足元へやってきたのでしゃがんで撫でる。
安定制御下でペルソナを覚醒できた最初の例だったらしい美鶴。
もし美鶴がペルソナ使いに目覚めていなかったとしても、他の誰かが覚醒していればこの活動はやはり設立されていただろう。むしろ発端の人物に近く内情もある程度知っている美鶴が覚醒していた事は、アマネ達にとって少なくとも幸運だったと考えるべきだ。
でなければ、アマネ達はシャドウの原因もタルタロスが何であるかも今よりずっと分かっていないままに活動せざるをえなかったに違いない。
「明日は最後の召集をかける事になる。……今日はよく休んでおいてくれ」
明日を勝ち残れば。
勝ち残ったら自分が何をしたいと思っているのか、アマネはよく分からなかった。
***
「……いると認識してしまえば、それは『いる』のでございましょう」
「なんて言うんだっけぇ? そういう考え方」
青い部屋で鼻の長い老人イゴールの正面の椅子へ座って、アマネは肩膝を立てる。行儀が悪いのは分かっていた。
「でもさぁ、いるとしたってそれが『戻る』とは限らなくねぇ?」
「さて、戻るのでございますか」
桐条の明日に備えて休めという言葉を無視した理由がそこにある。
アマネのペルソナ『イブリス』は、アマネのもう一人の自分でありアマネの一部や記憶や自身であって、アマネという存在を構築する上での『重要な欠片』だ。
そしてそのイブリスは、シャドウと戦う為にアマネから分離した。では明日の満月で最後のシャドウを倒した後は、イブリスはアマネの中へ戻ってくるのだろうか。
例えばシャドウを倒しても、一度分離してしまったものなので戻らなかったり、そのまま消えてしまったりした場合アマネは非常に困ると考えている。もう一度言うが、あれもアマネにとってはアマネ『自身』なのだ。
「戻ってこなけりゃそれは何処へ消えたってことになるし、そうでなくったって、どうやって戻ってくるんだろうとか、もうイブリスのあの姿は見れねぇのかなぁとか、思うんだぁ」
イゴールは相変わらず手を組んで口元を隠していた。それでもアマネの言葉に目を細めるのは見てとれて、アマネはイゴールの言葉を待つ。
「……私には、分かりかねる悩みでございますな」
「それはアンタが、ヒトよりシャドウやペルソナに近けぇからかぁ?」
「そうでもあり、そうではなくもありましょう」
否定も肯定もはぐらかしたイゴールに、アマネはこれみよがしな溜め息をわざと吐いた。
「哲学は俺には向いてねぇやぁ。……いいよ。イブリスが居なくなったりしたら、アンタに泣きつくことにするぜぇ」
「……受けいれ難きを受け入れる事も、時には重要です」
「親友と弟を悲しませていたっていう事実を受け入れたばっかりの俺に、試練ばっかり与えねぇでくれぇ」
「私が与えているわけではございません」
「知ってるぅ」
ベルベットルームから寮へ帰る途中で影時間になってしまい、薄暗い影時間の夜道を指先に灯した死ぬ気の炎を明かりにして寮へ帰る。
他の皆も今日は既に寝入ってしまったらしく、ラウンジへは誰もいなかった。
起こさないように階段を上がって部屋へ入ろうとして、ドアにメモが張られている事に気付く。
『明日、おにぎり食べたい』『わかめの味噌汁』『具は明太子かな』『卵焼きリクエストしていい?』『野菜も欲しいです』『ピンクの、アレがいいのだが名前が分からない』『でんぷではありませんか?』『肉も頼む』
「……弁当の注文?」
コロマルの足跡がはみ出るように捺されていたり、プロテインという言葉が二重線で消されていたり、様々な方向から書かれているそのメモのような手紙に、直に頼めばいいのにと思う反面アマネが出掛けていたからかと納得する。
とりあえず、明日の朝食は予定を変更して和食だ。
満月の日。昨日ドアに張られていたメモへの対応は合っていたらしく、揃って喜びながら食べる。内容的に朝食とお昼のお弁当が出来そうな組み合わせしか作れなかったが、全員何となく食べ納めのような気分らしかった。
先月までと違って当然荒垣の姿は無く、ただ気分だけが明日で最後になるだろうという期待で高揚している。
アマネはそんな寮生達を、以前の荒垣のように壁へ寄り掛かって眺めていた。
「……いよいよ、明日で、最後の作戦ですね」
「まぁね……。けど、たった半年チョイで色々あったよね」
たった半年。
そのたった半年で確かに色々あったけれど、良く考えればアマネの場合、半年も経たない期間で後輩達と未来を変えた経験があった。あの時は今以上に死人が出た事を思い出すと、半年で仲間からは一人しか犠牲が出ていない事が、とても些細な事に思えてしまう。
純粋に事実だけを述べた場合、ではあるけれど。
「オレ的にゃ、ヒマしてるよりかは、全然良かったけどな。いろんな人にも会えたしさ」
「……そうですね」
「無駄な事は一つも無かったさ。『力』を得て二年半……。悪くない時間だった」
昔を思い返すような真田の言葉にアマネは顔を逸らす。荒垣がいなくなってから、アマネは少し真田に苦手意識を持つようになった気がする。
失くさせた側の経験があるアマネと失くした側になった真田とでは、感じ方の向きが違うからだと今のアマネは分かっているが、分かっているから、分かったからと言って理解できているかまではまた別の問題だ。
少なくとも、アマネには真田へ荒垣の話を振る勇気は無い。
「桐条先輩は、いつからやってんですか? 確か、真田サンよりもっと前からって……」
「ん? 私か? ……最初は私一人だった。もっともその頃は、まだ作戦も無く、ここもただの学生寮だったがな」
「先輩も、理事長から誘われて?」
「いや……違う。私は幼い頃から、影時間への適性があったんだ。以前、父の指揮するタルタロス調査の一団がシャドウに襲われた事があってな。傍らで見ていた私に、その時ペルソナが覚醒したんだ」
話題はいつの間にか美鶴がこの活動を始めた切っ掛けの話へと変わっていた。コロマルがアマネの足元へやってきたのでしゃがんで撫でる。
安定制御下でペルソナを覚醒できた最初の例だったらしい美鶴。
もし美鶴がペルソナ使いに目覚めていなかったとしても、他の誰かが覚醒していればこの活動はやはり設立されていただろう。むしろ発端の人物に近く内情もある程度知っている美鶴が覚醒していた事は、アマネ達にとって少なくとも幸運だったと考えるべきだ。
でなければ、アマネ達はシャドウの原因もタルタロスが何であるかも今よりずっと分かっていないままに活動せざるをえなかったに違いない。
「明日は最後の召集をかける事になる。……今日はよく休んでおいてくれ」
明日を勝ち残れば。
勝ち残ったら自分が何をしたいと思っているのか、アマネはよく分からなかった。
***
「……いると認識してしまえば、それは『いる』のでございましょう」
「なんて言うんだっけぇ? そういう考え方」
青い部屋で鼻の長い老人イゴールの正面の椅子へ座って、アマネは肩膝を立てる。行儀が悪いのは分かっていた。
「でもさぁ、いるとしたってそれが『戻る』とは限らなくねぇ?」
「さて、戻るのでございますか」
桐条の明日に備えて休めという言葉を無視した理由がそこにある。
アマネのペルソナ『イブリス』は、アマネのもう一人の自分でありアマネの一部や記憶や自身であって、アマネという存在を構築する上での『重要な欠片』だ。
そしてそのイブリスは、シャドウと戦う為にアマネから分離した。では明日の満月で最後のシャドウを倒した後は、イブリスはアマネの中へ戻ってくるのだろうか。
例えばシャドウを倒しても、一度分離してしまったものなので戻らなかったり、そのまま消えてしまったりした場合アマネは非常に困ると考えている。もう一度言うが、あれもアマネにとってはアマネ『自身』なのだ。
「戻ってこなけりゃそれは何処へ消えたってことになるし、そうでなくったって、どうやって戻ってくるんだろうとか、もうイブリスのあの姿は見れねぇのかなぁとか、思うんだぁ」
イゴールは相変わらず手を組んで口元を隠していた。それでもアマネの言葉に目を細めるのは見てとれて、アマネはイゴールの言葉を待つ。
「……私には、分かりかねる悩みでございますな」
「それはアンタが、ヒトよりシャドウやペルソナに近けぇからかぁ?」
「そうでもあり、そうではなくもありましょう」
否定も肯定もはぐらかしたイゴールに、アマネはこれみよがしな溜め息をわざと吐いた。
「哲学は俺には向いてねぇやぁ。……いいよ。イブリスが居なくなったりしたら、アンタに泣きつくことにするぜぇ」
「……受けいれ難きを受け入れる事も、時には重要です」
「親友と弟を悲しませていたっていう事実を受け入れたばっかりの俺に、試練ばっかり与えねぇでくれぇ」
「私が与えているわけではございません」
「知ってるぅ」
ベルベットルームから寮へ帰る途中で影時間になってしまい、薄暗い影時間の夜道を指先に灯した死ぬ気の炎を明かりにして寮へ帰る。
他の皆も今日は既に寝入ってしまったらしく、ラウンジへは誰もいなかった。
起こさないように階段を上がって部屋へ入ろうとして、ドアにメモが張られている事に気付く。
『明日、おにぎり食べたい』『わかめの味噌汁』『具は明太子かな』『卵焼きリクエストしていい?』『野菜も欲しいです』『ピンクの、アレがいいのだが名前が分からない』『でんぷではありませんか?』『肉も頼む』
「……弁当の注文?」
コロマルの足跡がはみ出るように捺されていたり、プロテインという言葉が二重線で消されていたり、様々な方向から書かれているそのメモのような手紙に、直に頼めばいいのにと思う反面アマネが出掛けていたからかと納得する。
とりあえず、明日の朝食は予定を変更して和食だ。
満月の日。昨日ドアに張られていたメモへの対応は合っていたらしく、揃って喜びながら食べる。内容的に朝食とお昼のお弁当が出来そうな組み合わせしか作れなかったが、全員何となく食べ納めのような気分らしかった。