ペルソナP3P
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隔年毎の二三年合同修学旅行が近付いてきて、事前準備に生徒会はここ連日忙しいらしかった。アマネと同じクラスの伏見は一年なので行かないが、二年である錦は行く。
先日のアマネを探している途中で、雑談の一つとしてその事を話したら『お土産は八つ橋で良いよ。固いほうね』と雲雀に言われてしまったらしい錦から、金を貸せと半分本気で言われた。雲雀の幼馴染である事がばれてしまって以来、錦からちょくちょく中学時代の愚痴を吐かれる様になったのはいいことなのか悪いことなのか。とりあえず同情しか出来ない。
その錦が『桐条会長を見なかったか』と尋ねてきたのに対し、アマネは少し考えてから『知らない』と返した。桐条を探しているらしい錦が廊下の先で同じく桐条を探しているらしい小田桐と合流したのを見て、アマネは反対方向にある屋上への階段へと向かう。
桐条の居場所は知っていた。正確には居た場所を知っていて今からその場所へ向かう訳だが、時同じくその場所へいるだろう人物に会ったら、自分はどんな反応をするのか想像すら出来ない。
本当は会わないほうが良いのかも知れないが、アマネの中に『会わない』なんて選択肢はなかった。
階段を昇り、屋上への扉へ手を掛ける。反対の手はポケットへ入れられているアパートの鍵の、ちりめん作りのキーホルダーを握り締めて。
開けた扉の向こうから強い風が顔へ当たる。視界を横切る“黄色いマフラー”。
「『……あれ? どちら様?』」
不思議そうにマフラーを押さえて振り返る姿。制服は確か転校までに間に合わなかったらしい。覚えている姿と何一つ変わらない、アマネの“友達”だ。
「……『一年の、斑鳩 周です。生徒会長を探しに来たんですけれど』」
「会長さんならさっき行ったよ」
「知ってます」
「えっ?」
嗚呼間違えたと思ったけれどそんな事はどうでもいい。不思議そうにアマネを見やる彼の姿が目の前にあることが、本来なら嘆くべきなのだろうに嬉しかった。
ぼやける視界に手を上げて、彼がいきなり泣き出したアマネに驚いて近付いてくる。十一月の風に晒されて冷たい手がアマネを気遣うようにアマネの肩へと触れた。
思わず弾けるように顔を上げて、目の前の『望月綾時』を見つめる。そうして彼のことを呼びたかったのに、『何も知らない』まま驚いている彼に言葉を飲み込んだ。
「っ……すみません。眼にゴミが入ったみてぇで」
「ああ、風、強いもんね」
アマネの取り繕った言い訳に納得した彼が微笑む。
「擦ったら駄目だよ。ちょっと見せて」
ゴミなんて入っていない眼を望月が覗き込み、望月の墨のように薄い黒色の眼が一瞬青く見えた。それから望月が何故か信じられないものを見たように目を見開く。
「――『アマネ君』?」
「……ぇ」
「? あれ? ごめんねいきなり名前で呼んで。でも……会ったことあったっけ?」
自分で自分のことを不思議そうに望月が首を傾げるのに、アマネのほうこそ不思議に思うしかなかった。
けれどもそれを、今は些細な事だと考えてしまうくらいには嬉しかった。また望月へそう呼ばれる事、彼が目の前にいることが、一体どれだけ奇跡的なのかきっとアマネ以外には分からない。
彼はまだ思い出していないが『宣告者』で、ニュクスを誘う者として最期が決まっているのだ。そのニュクスによる世界の最期は『兄』の封印によって回避されたけれども、『兄』も望月もアマネの元へは戻ってきてはくれなかった。
『兄』は『助けて欲しい』だなんて一度も言っていないし、多分今もこれからも思わないだろうが。
ソレはともかく、本来なら『兄』の立場である存在が女性の、平行世界の過去へ飛ばされたアマネのことを望月が知っている訳が無かった。『今』はファルロスとも会っていないので尚更だ。なのに目の前の望月はまるでアマネを『知っていた』かのように名前を呼んだ。彼が『呼んでいいか』と聞いた呼び方で。
ましてや会ったことがあるかとも尋ねてきた。会うどころかほんの少し前まで『望月綾時』という存在すら本来は無かったのに。
それがどういう事なのかはアマネにも分かりかねた。
「デジャヴとかってヤツでしょう。もしくは廊下ですれ違ったとか。先輩は転校してきたばかりですし」
「そうかなぁ? そうじゃない気がするんだけど……」
唸って考え込む望月の背後で空を飛んでいたカラスが鳴く。その声に振り返った望月は考えるのを止めた様子でアマネを見た。
「君のこと、アマネ君って呼んでいい?」
「良いですよ」
「僕のことは綾時でいいよ」
嬉しそうに微笑む彼に一瞬、間逆の悲しそうに微笑む彼の姿が重なる。風になびくマフラーを押さえて微笑んだ望月と目を合わせて、それでもアマネも笑ってみせた。
残り数ヶ月。望月にとってはあと二ヶ月も無い。アマネ一人では不安になるほどの短い時間だが、諦める気にはなれなかった。
アマネの携帯が鳴って視線を逸らす。見れば佐藤から何処にいるのかというメールで、教室にいるから一緒に帰ろうという誘いだった。教室に荷物が残っているから帰ったとは思っていないのだろう。
もう少し望月と一緒に居たかったのだが、諦めて返信をして携帯をしまった。
「それじゃ、失礼します綾時さん」
「うん。『またね』」
手を振る望月のその言葉にまた泣きたくなるのを堪える。
屋上を出て教室に戻れば佐藤が椅子では無く机に座って携帯を弄っていた。ゲームでもしているのか何故か真剣そうに画面を見つめていたが、アマネが戻ってきた事に気づくとすぐにゲームを終了させる。
そうやって、アマネも途中で止める事が出来たらどんなに楽か。けれども諦めた瞬間、きっとアマネは後悔するのだ。
先日のアマネを探している途中で、雑談の一つとしてその事を話したら『お土産は八つ橋で良いよ。固いほうね』と雲雀に言われてしまったらしい錦から、金を貸せと半分本気で言われた。雲雀の幼馴染である事がばれてしまって以来、錦からちょくちょく中学時代の愚痴を吐かれる様になったのはいいことなのか悪いことなのか。とりあえず同情しか出来ない。
その錦が『桐条会長を見なかったか』と尋ねてきたのに対し、アマネは少し考えてから『知らない』と返した。桐条を探しているらしい錦が廊下の先で同じく桐条を探しているらしい小田桐と合流したのを見て、アマネは反対方向にある屋上への階段へと向かう。
桐条の居場所は知っていた。正確には居た場所を知っていて今からその場所へ向かう訳だが、時同じくその場所へいるだろう人物に会ったら、自分はどんな反応をするのか想像すら出来ない。
本当は会わないほうが良いのかも知れないが、アマネの中に『会わない』なんて選択肢はなかった。
階段を昇り、屋上への扉へ手を掛ける。反対の手はポケットへ入れられているアパートの鍵の、ちりめん作りのキーホルダーを握り締めて。
開けた扉の向こうから強い風が顔へ当たる。視界を横切る“黄色いマフラー”。
「『……あれ? どちら様?』」
不思議そうにマフラーを押さえて振り返る姿。制服は確か転校までに間に合わなかったらしい。覚えている姿と何一つ変わらない、アマネの“友達”だ。
「……『一年の、斑鳩 周です。生徒会長を探しに来たんですけれど』」
「会長さんならさっき行ったよ」
「知ってます」
「えっ?」
嗚呼間違えたと思ったけれどそんな事はどうでもいい。不思議そうにアマネを見やる彼の姿が目の前にあることが、本来なら嘆くべきなのだろうに嬉しかった。
ぼやける視界に手を上げて、彼がいきなり泣き出したアマネに驚いて近付いてくる。十一月の風に晒されて冷たい手がアマネを気遣うようにアマネの肩へと触れた。
思わず弾けるように顔を上げて、目の前の『望月綾時』を見つめる。そうして彼のことを呼びたかったのに、『何も知らない』まま驚いている彼に言葉を飲み込んだ。
「っ……すみません。眼にゴミが入ったみてぇで」
「ああ、風、強いもんね」
アマネの取り繕った言い訳に納得した彼が微笑む。
「擦ったら駄目だよ。ちょっと見せて」
ゴミなんて入っていない眼を望月が覗き込み、望月の墨のように薄い黒色の眼が一瞬青く見えた。それから望月が何故か信じられないものを見たように目を見開く。
「――『アマネ君』?」
「……ぇ」
「? あれ? ごめんねいきなり名前で呼んで。でも……会ったことあったっけ?」
自分で自分のことを不思議そうに望月が首を傾げるのに、アマネのほうこそ不思議に思うしかなかった。
けれどもそれを、今は些細な事だと考えてしまうくらいには嬉しかった。また望月へそう呼ばれる事、彼が目の前にいることが、一体どれだけ奇跡的なのかきっとアマネ以外には分からない。
彼はまだ思い出していないが『宣告者』で、ニュクスを誘う者として最期が決まっているのだ。そのニュクスによる世界の最期は『兄』の封印によって回避されたけれども、『兄』も望月もアマネの元へは戻ってきてはくれなかった。
『兄』は『助けて欲しい』だなんて一度も言っていないし、多分今もこれからも思わないだろうが。
ソレはともかく、本来なら『兄』の立場である存在が女性の、平行世界の過去へ飛ばされたアマネのことを望月が知っている訳が無かった。『今』はファルロスとも会っていないので尚更だ。なのに目の前の望月はまるでアマネを『知っていた』かのように名前を呼んだ。彼が『呼んでいいか』と聞いた呼び方で。
ましてや会ったことがあるかとも尋ねてきた。会うどころかほんの少し前まで『望月綾時』という存在すら本来は無かったのに。
それがどういう事なのかはアマネにも分かりかねた。
「デジャヴとかってヤツでしょう。もしくは廊下ですれ違ったとか。先輩は転校してきたばかりですし」
「そうかなぁ? そうじゃない気がするんだけど……」
唸って考え込む望月の背後で空を飛んでいたカラスが鳴く。その声に振り返った望月は考えるのを止めた様子でアマネを見た。
「君のこと、アマネ君って呼んでいい?」
「良いですよ」
「僕のことは綾時でいいよ」
嬉しそうに微笑む彼に一瞬、間逆の悲しそうに微笑む彼の姿が重なる。風になびくマフラーを押さえて微笑んだ望月と目を合わせて、それでもアマネも笑ってみせた。
残り数ヶ月。望月にとってはあと二ヶ月も無い。アマネ一人では不安になるほどの短い時間だが、諦める気にはなれなかった。
アマネの携帯が鳴って視線を逸らす。見れば佐藤から何処にいるのかというメールで、教室にいるから一緒に帰ろうという誘いだった。教室に荷物が残っているから帰ったとは思っていないのだろう。
もう少し望月と一緒に居たかったのだが、諦めて返信をして携帯をしまった。
「それじゃ、失礼します綾時さん」
「うん。『またね』」
手を振る望月のその言葉にまた泣きたくなるのを堪える。
屋上を出て教室に戻れば佐藤が椅子では無く机に座って携帯を弄っていた。ゲームでもしているのか何故か真剣そうに画面を見つめていたが、アマネが戻ってきた事に気づくとすぐにゲームを終了させる。
そうやって、アマネも途中で止める事が出来たらどんなに楽か。けれども諦めた瞬間、きっとアマネは後悔するのだ。