ペルソナP3P
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夜になって雲雀にバイクで巌戸台分寮の前にまで送ってもらった。次に雲雀と会うのは全てが終わってからの、三月五日以降になればいいのだが。
「三月五日に何かあるの?」
「俺にとっては勝負の結果が出る日だよ」
「ふうん」
興味の無いような相槌を打って雲雀が去っていく。その姿が見えなくなるまで眺めてから、アマネは巌戸台分寮の玄関へと手を掛けた。
まだ外出禁止になる時間の前であるから戸締りはされていない。だがラウンジには予想通り誰の姿も無く、何の音もしない階段を見やってからキッチンへと向かった。
荒垣が居なくなってからは使用頻度が下がったと思われるキッチンを勝手に借り、鍋に持参してきた牛乳を温める。それを人数分のカップへ注いで盆へ乗せ、階段を上がり『彼女』達がいる四階の会議室へと向かった。
出来るだけ足音を立てない様に扉の前へ立ち、深呼吸してからノックする。部屋の中から一気に緊張した雰囲気が感じられて、それから真田の声がした。
「お前は……!」
昨夜のショックが後を引いている真田達がアマネを見て、どうしてここにという疑問と警戒を顔へ浮かばせる。それをあえて無視してアマネはテーブルへそれぞれのカップを並べた。
「ただのホットミルクです。飲んでください」
「いや、いきなり来て飲めってお前」
「毒見しましょうか?」
「そーいう話でもないし! つかいきなり来てなんなのよ!?」
「皆さんに必要なのは落ち着く事です。……昨日の事で、色々と混乱してるのは分かってますから」
睨まれているのが何となく嫌で目を伏せる。影時間の事も幾月のことも、ましてやアマネの事も分からないまま、一気にその混乱を抱える羽目になってしまった伊織達の視線がきつい。
彼らにとって今のアマネの立場は何なのだろうか。それを何度も考えて結局答えを出せないまま来てしまった。だから堂々としていられないのだろう。
今すぐにでもアマネを詰問しようとせんばかりの真田や伊織に対し、山岸や天田はどっちつかずの曖昧な顔をしていた。
「……何なんだよ。何なんだよお前!」
伊織が怒鳴る。
「荒垣さんの時も、理事長の時もいきなり現れてよ! 何がしたいのか全然分かんねーつか、そもそもなんで影時間に動いてんだよ!」
「それは――」
「ちょっと奏!?」
岳羽の悲鳴にアマネと伊織だけでは無く全員が有里を見れば、有里は両手でカップを持ってゴクゴクとホットミルクを飲んでいた。思わずアマネさえも呆気にとられてそれを見つめていると、飲み干した有里が満足そうに息を吐く。
「ぷはッ。これ美味しいね。おかわりある? 皆も飲んでみなよ。落ち着くよ」
「でも奏……」
「私だって混乱してるよ。でもそれとアマネ君がホットミルクを私達の為に淹れてくれたのは関係ないもの」
手の甲で口を拭った有里が、同意を求めるように伊織達を見回した。実際はそんな単純に言い切れるものではないだろうとアマネさえ思うのだが、それを言わせない。
そんな有里の言葉を鵜呑みにした訳では無さそうだが、天田がマグカップを手にとって口を付ける。一口飲んで呆れたようにアマネを見る視線は、少なくとも敵意交じりではなかった。
「これハチミツ入ってるんですか? こんな甘くしなくても良かったのに」
「……甘いものには、心を落ち着かせる効果があるんだぁ」
科学的にも根拠のある説明をごく曖昧に返すと、山岸と岳羽も恐る恐るといった様子ではあるがカップへ手を伸ばし、ソレを見た伊織ももうどうにでもなれとばかりにカップを手にとって口へ運んだ。少しすると全員に一応緊張が緩んだ雰囲気が広がる。
コトリと音がして見れば真田も飲み干したところで、一番年長という事もあって緊張や責任が酷かったであろう彼は、努めて落ち着いた様子で改めてアマネを見た。
「おかわりはあるか?」
「キッチンの鍋の中へ。今更ですがキッチンをお借りしました」
「なら後で飲もう。それで、お前はただオレ達をリラックスさせに来たのか?」
「そうですね。今日のところはその為に伺いました。桐条のご当主だけではなく、今まで信じていたであろう幾月の事も、俺を含めた貴方達には衝撃的過ぎると思いましたので」
本当はアマネ自身に関しては除いてもいいかもしれない。一応知っていたことなので真田達よりはショックも少ないというか、むしろ覚悟さえしていた。
覚悟していたからあの場へ駆けつけ、武治を助けようとした訳だが。そうしてアマネの知る最悪の形は免れたものの、やはりその事を彼等は知らない。
現状においてもアマネが話せることなど無いのだとしみじみと思う。
「知ってたのか?」
「知っていたところで話せることではありませんでした。貴方達は幾月を“信頼していた”。更に言うなら幾月は自分を信用させる為に情報を操作もしていましたから」
「操作?」
「貴方方が屋久島で見ただろう十年前の事故のビデオ。アレは幾月のいいように変えられていました」
岳羽が息を呑むのにアマネはあえて眼を逸らさずに彼女を見た。
「他にも色々、まぁ俺も全部を調べた訳では無ぇので分からねぇ部分もありますが、幾月が隠していた事はあります」
「それを話すことは出来ないのか? そもそもお前の目的は何なんだ」
根本的な問い掛けへ答える前に、アマネはSEESの面々をゆっくりと見回す。一昨日には悲願を達成した筈が昨日のうちに全て裏切られ、訳が分からないままここへいる。
『昔』仲間だった人達であり、アマネにとって大切な人達でもある彼等は、それでもまだ『子供』なのだ。
「俺の目的は――俺の目的は、大切な人達を“今度こそ”悲しませないことです」
アマネの目的は最初からそれだけだ。『兄さん』のいないこの世界で、代わりに封印となるだろう有里を助け、アマネの生きた『昔』では死んでしまった荒垣や武治、望月を助ける為に全力を尽くす。
その為には嫌われても構わない。あんな『最悪』を知っているのは自分だけでいいのだと覚悟もした。だからアマネの言葉を聞いたSEESのメンバー達が、訝しげな顔をしていようとどうでもいい。
「今度こそ……ってどういう事?」
「それは言えません」
「おいおいカンジンなとこで黙るなよ。オレらはそれが知りてーんだって」
「言ったら皆さんはソレを信じますか? 幾月を信じたように」
また盲目的に信じるのかと暗に込めて尋ねれば伊織達は口を噤む。ここでアマネが全部を話してそれを彼等が信じて、というのでは幾月のやっている事と行動は変わらない。幾月の立場がアマネへと変わるだけだ。
だからアマネは情報を、未来を口にしない。アマネの知っている未来は彼らにとっての未知であるべきだとアマネは考えている。未来は決まっていないのだから。
「それじゃ、その、君の事を私たちは信じていいの?」
山岸へ訊かれて、曖昧に笑みを浮かべた。
「それを決めるのは貴方達自身です。俺が証明出来ることは皆さんと敵対する意思は無ぇってことだけですから」
話は終わりだとばかりに、それぞれの空になったカップをお盆へ回収していく。今日はこれを洗ってから少し夜食でも作って帰ればいいだろう。本当は夜食も不必要だろうが何かしてやりたいのだ。
「……一つだけ訊いてもいいですか?」
「答えられるかどうか分からねぇけど」
顔を上げた天田を見れば、天田はズボンの生地を握って俯く。
「アマネさんは、どうして幾月さんを撃ったんですか」
「桐条ご当主を“人殺し”にしねぇ為にだよ」
『昔』と同じ答えを返してアマネはお盆を持って立ち上がった。今回生きている彼には、『昔』よりもアマネの行動が意味を持つようになる。証明できるのは生憎影時間適性者だけだが。
だが天田の言葉からしてあの行動は正しかったと思えるし、少なくとも桐条には救いになると思っている。父親が人殺しなんてあの人には悲しいだけだ。
作戦室を出ようとするとコロマルが見張りのつもりか傍に来たので一緒に部屋を出る。そうして階段を降りていけば暫くして頭上で扉が開く音がした。おそらくそれぞれ部屋へ戻って休むのだろう。
「三月五日に何かあるの?」
「俺にとっては勝負の結果が出る日だよ」
「ふうん」
興味の無いような相槌を打って雲雀が去っていく。その姿が見えなくなるまで眺めてから、アマネは巌戸台分寮の玄関へと手を掛けた。
まだ外出禁止になる時間の前であるから戸締りはされていない。だがラウンジには予想通り誰の姿も無く、何の音もしない階段を見やってからキッチンへと向かった。
荒垣が居なくなってからは使用頻度が下がったと思われるキッチンを勝手に借り、鍋に持参してきた牛乳を温める。それを人数分のカップへ注いで盆へ乗せ、階段を上がり『彼女』達がいる四階の会議室へと向かった。
出来るだけ足音を立てない様に扉の前へ立ち、深呼吸してからノックする。部屋の中から一気に緊張した雰囲気が感じられて、それから真田の声がした。
「お前は……!」
昨夜のショックが後を引いている真田達がアマネを見て、どうしてここにという疑問と警戒を顔へ浮かばせる。それをあえて無視してアマネはテーブルへそれぞれのカップを並べた。
「ただのホットミルクです。飲んでください」
「いや、いきなり来て飲めってお前」
「毒見しましょうか?」
「そーいう話でもないし! つかいきなり来てなんなのよ!?」
「皆さんに必要なのは落ち着く事です。……昨日の事で、色々と混乱してるのは分かってますから」
睨まれているのが何となく嫌で目を伏せる。影時間の事も幾月のことも、ましてやアマネの事も分からないまま、一気にその混乱を抱える羽目になってしまった伊織達の視線がきつい。
彼らにとって今のアマネの立場は何なのだろうか。それを何度も考えて結局答えを出せないまま来てしまった。だから堂々としていられないのだろう。
今すぐにでもアマネを詰問しようとせんばかりの真田や伊織に対し、山岸や天田はどっちつかずの曖昧な顔をしていた。
「……何なんだよ。何なんだよお前!」
伊織が怒鳴る。
「荒垣さんの時も、理事長の時もいきなり現れてよ! 何がしたいのか全然分かんねーつか、そもそもなんで影時間に動いてんだよ!」
「それは――」
「ちょっと奏!?」
岳羽の悲鳴にアマネと伊織だけでは無く全員が有里を見れば、有里は両手でカップを持ってゴクゴクとホットミルクを飲んでいた。思わずアマネさえも呆気にとられてそれを見つめていると、飲み干した有里が満足そうに息を吐く。
「ぷはッ。これ美味しいね。おかわりある? 皆も飲んでみなよ。落ち着くよ」
「でも奏……」
「私だって混乱してるよ。でもそれとアマネ君がホットミルクを私達の為に淹れてくれたのは関係ないもの」
手の甲で口を拭った有里が、同意を求めるように伊織達を見回した。実際はそんな単純に言い切れるものではないだろうとアマネさえ思うのだが、それを言わせない。
そんな有里の言葉を鵜呑みにした訳では無さそうだが、天田がマグカップを手にとって口を付ける。一口飲んで呆れたようにアマネを見る視線は、少なくとも敵意交じりではなかった。
「これハチミツ入ってるんですか? こんな甘くしなくても良かったのに」
「……甘いものには、心を落ち着かせる効果があるんだぁ」
科学的にも根拠のある説明をごく曖昧に返すと、山岸と岳羽も恐る恐るといった様子ではあるがカップへ手を伸ばし、ソレを見た伊織ももうどうにでもなれとばかりにカップを手にとって口へ運んだ。少しすると全員に一応緊張が緩んだ雰囲気が広がる。
コトリと音がして見れば真田も飲み干したところで、一番年長という事もあって緊張や責任が酷かったであろう彼は、努めて落ち着いた様子で改めてアマネを見た。
「おかわりはあるか?」
「キッチンの鍋の中へ。今更ですがキッチンをお借りしました」
「なら後で飲もう。それで、お前はただオレ達をリラックスさせに来たのか?」
「そうですね。今日のところはその為に伺いました。桐条のご当主だけではなく、今まで信じていたであろう幾月の事も、俺を含めた貴方達には衝撃的過ぎると思いましたので」
本当はアマネ自身に関しては除いてもいいかもしれない。一応知っていたことなので真田達よりはショックも少ないというか、むしろ覚悟さえしていた。
覚悟していたからあの場へ駆けつけ、武治を助けようとした訳だが。そうしてアマネの知る最悪の形は免れたものの、やはりその事を彼等は知らない。
現状においてもアマネが話せることなど無いのだとしみじみと思う。
「知ってたのか?」
「知っていたところで話せることではありませんでした。貴方達は幾月を“信頼していた”。更に言うなら幾月は自分を信用させる為に情報を操作もしていましたから」
「操作?」
「貴方方が屋久島で見ただろう十年前の事故のビデオ。アレは幾月のいいように変えられていました」
岳羽が息を呑むのにアマネはあえて眼を逸らさずに彼女を見た。
「他にも色々、まぁ俺も全部を調べた訳では無ぇので分からねぇ部分もありますが、幾月が隠していた事はあります」
「それを話すことは出来ないのか? そもそもお前の目的は何なんだ」
根本的な問い掛けへ答える前に、アマネはSEESの面々をゆっくりと見回す。一昨日には悲願を達成した筈が昨日のうちに全て裏切られ、訳が分からないままここへいる。
『昔』仲間だった人達であり、アマネにとって大切な人達でもある彼等は、それでもまだ『子供』なのだ。
「俺の目的は――俺の目的は、大切な人達を“今度こそ”悲しませないことです」
アマネの目的は最初からそれだけだ。『兄さん』のいないこの世界で、代わりに封印となるだろう有里を助け、アマネの生きた『昔』では死んでしまった荒垣や武治、望月を助ける為に全力を尽くす。
その為には嫌われても構わない。あんな『最悪』を知っているのは自分だけでいいのだと覚悟もした。だからアマネの言葉を聞いたSEESのメンバー達が、訝しげな顔をしていようとどうでもいい。
「今度こそ……ってどういう事?」
「それは言えません」
「おいおいカンジンなとこで黙るなよ。オレらはそれが知りてーんだって」
「言ったら皆さんはソレを信じますか? 幾月を信じたように」
また盲目的に信じるのかと暗に込めて尋ねれば伊織達は口を噤む。ここでアマネが全部を話してそれを彼等が信じて、というのでは幾月のやっている事と行動は変わらない。幾月の立場がアマネへと変わるだけだ。
だからアマネは情報を、未来を口にしない。アマネの知っている未来は彼らにとっての未知であるべきだとアマネは考えている。未来は決まっていないのだから。
「それじゃ、その、君の事を私たちは信じていいの?」
山岸へ訊かれて、曖昧に笑みを浮かべた。
「それを決めるのは貴方達自身です。俺が証明出来ることは皆さんと敵対する意思は無ぇってことだけですから」
話は終わりだとばかりに、それぞれの空になったカップをお盆へ回収していく。今日はこれを洗ってから少し夜食でも作って帰ればいいだろう。本当は夜食も不必要だろうが何かしてやりたいのだ。
「……一つだけ訊いてもいいですか?」
「答えられるかどうか分からねぇけど」
顔を上げた天田を見れば、天田はズボンの生地を握って俯く。
「アマネさんは、どうして幾月さんを撃ったんですか」
「桐条ご当主を“人殺し”にしねぇ為にだよ」
『昔』と同じ答えを返してアマネはお盆を持って立ち上がった。今回生きている彼には、『昔』よりもアマネの行動が意味を持つようになる。証明できるのは生憎影時間適性者だけだが。
だが天田の言葉からしてあの行動は正しかったと思えるし、少なくとも桐条には救いになると思っている。父親が人殺しなんてあの人には悲しいだけだ。
作戦室を出ようとするとコロマルが見張りのつもりか傍に来たので一緒に部屋を出る。そうして階段を降りていけば暫くして頭上で扉が開く音がした。おそらくそれぞれ部屋へ戻って休むのだろう。