ペルソナ3
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試験結果は上々の出来で、少しではあったけれどやはり順位の上がった佐藤に、アマネは祝いだと称してワックへと連れて来られた。
夕食は寮生全員にとりあえず各自でどうにかしてくれとメールしてある。遅くなってもいいか夜食だったら作るが。
「相変わらず学年一位! やっぱ天才は違うね!」
「……天才になった覚えはねぇよ」
セットで頼んだコーラに、やっぱり違う飲み物へすれば良かったと思いつつアマネはポテトを咀嚼する。
向かいに座る佐藤はそんなアマネを見てニヤニヤしていた。
「んだぁ?」
「いや、最近お前体調悪かったから。過呼吸で教室飛び出してったり顔色悪かったり、目の下に隈出来たりしてさ。心配してたんだぜ?」
「……勉強しろぉ」
「勉強もしてたしてた。だから順位上がってんだろ。今回お前に助けてもらってないし、一応気を使ってたっていうね」
摘んだポテトで指されて行儀が悪いと注意すればいいのか迷い、そのポテトを手ごと押し戻すだけに留める。店内は他にも学校帰りの学生がたむろしていた。
試験前ギリギリの内心吐露は、今考えてみれば丁度良かったのかも知れない。試験最中に思い出して過呼吸や吐き気に襲われるよりは、試験中は泣き痕程度で済んだのだから。
『弟』の事とか『荒垣』の事とかは関係なく、全てをさらけ出す様に有里へ話してしまったことで、意図せずアマネの心情は今のところ落ち着いている。同時に有里へはアマネの溜め込んでいたものを垣間見せてしまったという気恥ずかしさもあった。
というより、勢いで『兄さん』と呼んでしまったことも縋って泣いてしまった事も今すぐ忘れて欲しい。
「でもさ、スッキリしたなら良かったんじゃん? 婆ちゃんが良く言うよ? 『抱えてる荷物が重かったら一回置け。そうすりゃ持ち直して更に持てる』って」
「お前のお婆さん何者だぁ?」
「さぁ?」
佐藤と別れて寮へ帰ると、厨房から醤油差しと丼を持って出てきた有里とかち合った。
丼というかご飯の大盛りというか、まさかそれが夕食なのかとアマネが尋ねる前に、目の合った有里が微笑む。
「おかえり」
「……ただいま帰りました」
いつもとは逆だと思いながら返事をする。有里は大抵アマネより遅く帰ってくるからだ。
「それ、夕食ですか?」
「うん。海苔ご飯」
海苔が見当たらない。良く見ればご飯が少し黒っぽいので、おそらくご飯の間に海苔が挟まれているのだろう。
「……今から何か作りましょうか?」
冷蔵庫の中に何があったかを思い出しながら尋ねれば、醤油を掛けようとしていた手を止めて有里がアマネを振り返る。その眼が少なからず輝いている様に見えるのは、見間違いではあるまい。
部屋へは戻らなくてもいいかとソファへ持っていた鞄と脱いだ上着を放り投げ、厨房へ向かう。
食べていればいいものの、後に続いて厨房へ入ってきた有里は菜っ葉を洗い始めるアマネのすぐ傍でアマネの手元を覗き込んだ。
「食べてていいですよ、湊さん」
暗に邪魔だと告げたつもりだった。けれども有里はアマネの予想とは違い、不思議そうにアマネを見上げてくる。
「何ですか?」
「『兄さん』じゃないの?」
「っ……、あれはっ、その、忘れ……」
「『兄さん』がいい」
珍しくニッコリと微笑まれて、アマネは二の句が継げなかった。
***
「今日は大丈夫?」
「……別の意味で駄目だぁ」
ベッドの上に座りながら音楽プレーヤーを弄っていて、そのプレーヤーが唐突に動かなくなってから暫く。部屋の中心へ現れたファルロスは前回のアマネの様子を気にしてか、そんな第一声だった。
「別の意味って?」
「湊さんが、呼び方違げぇのがいいってここ数日ずっと言ってくるんだぁ」
「……ふぅん?」
良くは分からなかったものの、前回みたいな様子ではないので大丈夫だと判断したらしい。ベッドの上へと上がってきて座るファルロスは、身を乗り出すようにしながらアマネの顔を包むように両頬へ触れる。相変わらず暖かくも冷たくもない手だ。
「気持ち悪くは無いんだね?」
「おう。湊さんに全部吐き出したら一応落ち着いた。後は少しずつ昇華させてきゃいい話だぁ」
「君は強いね」
「いや、俺ほど弱い奴もいねぇよ」
アマネの場合いくら見た目や肉体年齢が高校生だとしても、本当であれば肉体も精神も高校生である有里へ泣き縋るなんてあってはいけないようにも思う。
有里へ吐き出すくらいなら、今までにだって『親友』やその『兄』のような存在へ吐き出すチャンスはあった筈だ。
それが出来なかったからこその、今回の件と『弱い』という自負なのだけれど。
ファルロスの手がアマネの頬から離れていく。
「次の満月まで、あと一週間だよ」
「うん」
「ボクはそれを喜べばいいのか悲しめばいいのか分からないんだ」
「大型シャドウとかって問題が無かったら、俺は結構満月好きだぜぇ?」
音楽プレーヤーを枕の脇へ置いてアマネは座りなおした。ベッドが軋む。
「お前は嫌いかぁ?」
「……分からないや」
「分からねぇって事は少なくとも嫌いじゃねぇってことだろぉ。それでいいんじゃねぇかなぁ。完全に好きか嫌いかで分けて世界を見るほうが、よっぽどつまんねぇ考え方だと俺は思うぜぇ?」
「君は、……ううん。やっぱりいいや」
「んだぁ? 言ってみろぉ?」
「ボクの事も、好きでも嫌いでもないの?」
「好きなトコも嫌いなトコも全部ひっくるめてお前で、そんなお前だから友達になったつもりなんだけどぉ?」
目を見開くファルロスに、アマネは笑いながら手を伸ばしてその頭を撫でる。少し癖のある、猫っ毛。
頭を撫でられて首が揺れているファルロスは、そのまま俯いて表情を隠したかと思うとアマネの手を掴んで頭から退かし、アマネを見て微笑んだ。
「君のそういうところ、好きだよ」
「それはどうもぉ」
「今日はもう帰るね。でも嬉しかったよ。……また、会えるといいね」
「好きな時に会いに来ていいんだぜぇ? 影時間じゃなくたって、いつだって」
それは無理なのだろうとアマネは考えていたけれど、気持ちだけは本当だった。
「おやすみ」
「おやすみファルロス……またなぁ」
夕食は寮生全員にとりあえず各自でどうにかしてくれとメールしてある。遅くなってもいいか夜食だったら作るが。
「相変わらず学年一位! やっぱ天才は違うね!」
「……天才になった覚えはねぇよ」
セットで頼んだコーラに、やっぱり違う飲み物へすれば良かったと思いつつアマネはポテトを咀嚼する。
向かいに座る佐藤はそんなアマネを見てニヤニヤしていた。
「んだぁ?」
「いや、最近お前体調悪かったから。過呼吸で教室飛び出してったり顔色悪かったり、目の下に隈出来たりしてさ。心配してたんだぜ?」
「……勉強しろぉ」
「勉強もしてたしてた。だから順位上がってんだろ。今回お前に助けてもらってないし、一応気を使ってたっていうね」
摘んだポテトで指されて行儀が悪いと注意すればいいのか迷い、そのポテトを手ごと押し戻すだけに留める。店内は他にも学校帰りの学生がたむろしていた。
試験前ギリギリの内心吐露は、今考えてみれば丁度良かったのかも知れない。試験最中に思い出して過呼吸や吐き気に襲われるよりは、試験中は泣き痕程度で済んだのだから。
『弟』の事とか『荒垣』の事とかは関係なく、全てをさらけ出す様に有里へ話してしまったことで、意図せずアマネの心情は今のところ落ち着いている。同時に有里へはアマネの溜め込んでいたものを垣間見せてしまったという気恥ずかしさもあった。
というより、勢いで『兄さん』と呼んでしまったことも縋って泣いてしまった事も今すぐ忘れて欲しい。
「でもさ、スッキリしたなら良かったんじゃん? 婆ちゃんが良く言うよ? 『抱えてる荷物が重かったら一回置け。そうすりゃ持ち直して更に持てる』って」
「お前のお婆さん何者だぁ?」
「さぁ?」
佐藤と別れて寮へ帰ると、厨房から醤油差しと丼を持って出てきた有里とかち合った。
丼というかご飯の大盛りというか、まさかそれが夕食なのかとアマネが尋ねる前に、目の合った有里が微笑む。
「おかえり」
「……ただいま帰りました」
いつもとは逆だと思いながら返事をする。有里は大抵アマネより遅く帰ってくるからだ。
「それ、夕食ですか?」
「うん。海苔ご飯」
海苔が見当たらない。良く見ればご飯が少し黒っぽいので、おそらくご飯の間に海苔が挟まれているのだろう。
「……今から何か作りましょうか?」
冷蔵庫の中に何があったかを思い出しながら尋ねれば、醤油を掛けようとしていた手を止めて有里がアマネを振り返る。その眼が少なからず輝いている様に見えるのは、見間違いではあるまい。
部屋へは戻らなくてもいいかとソファへ持っていた鞄と脱いだ上着を放り投げ、厨房へ向かう。
食べていればいいものの、後に続いて厨房へ入ってきた有里は菜っ葉を洗い始めるアマネのすぐ傍でアマネの手元を覗き込んだ。
「食べてていいですよ、湊さん」
暗に邪魔だと告げたつもりだった。けれども有里はアマネの予想とは違い、不思議そうにアマネを見上げてくる。
「何ですか?」
「『兄さん』じゃないの?」
「っ……、あれはっ、その、忘れ……」
「『兄さん』がいい」
珍しくニッコリと微笑まれて、アマネは二の句が継げなかった。
***
「今日は大丈夫?」
「……別の意味で駄目だぁ」
ベッドの上に座りながら音楽プレーヤーを弄っていて、そのプレーヤーが唐突に動かなくなってから暫く。部屋の中心へ現れたファルロスは前回のアマネの様子を気にしてか、そんな第一声だった。
「別の意味って?」
「湊さんが、呼び方違げぇのがいいってここ数日ずっと言ってくるんだぁ」
「……ふぅん?」
良くは分からなかったものの、前回みたいな様子ではないので大丈夫だと判断したらしい。ベッドの上へと上がってきて座るファルロスは、身を乗り出すようにしながらアマネの顔を包むように両頬へ触れる。相変わらず暖かくも冷たくもない手だ。
「気持ち悪くは無いんだね?」
「おう。湊さんに全部吐き出したら一応落ち着いた。後は少しずつ昇華させてきゃいい話だぁ」
「君は強いね」
「いや、俺ほど弱い奴もいねぇよ」
アマネの場合いくら見た目や肉体年齢が高校生だとしても、本当であれば肉体も精神も高校生である有里へ泣き縋るなんてあってはいけないようにも思う。
有里へ吐き出すくらいなら、今までにだって『親友』やその『兄』のような存在へ吐き出すチャンスはあった筈だ。
それが出来なかったからこその、今回の件と『弱い』という自負なのだけれど。
ファルロスの手がアマネの頬から離れていく。
「次の満月まで、あと一週間だよ」
「うん」
「ボクはそれを喜べばいいのか悲しめばいいのか分からないんだ」
「大型シャドウとかって問題が無かったら、俺は結構満月好きだぜぇ?」
音楽プレーヤーを枕の脇へ置いてアマネは座りなおした。ベッドが軋む。
「お前は嫌いかぁ?」
「……分からないや」
「分からねぇって事は少なくとも嫌いじゃねぇってことだろぉ。それでいいんじゃねぇかなぁ。完全に好きか嫌いかで分けて世界を見るほうが、よっぽどつまんねぇ考え方だと俺は思うぜぇ?」
「君は、……ううん。やっぱりいいや」
「んだぁ? 言ってみろぉ?」
「ボクの事も、好きでも嫌いでもないの?」
「好きなトコも嫌いなトコも全部ひっくるめてお前で、そんなお前だから友達になったつもりなんだけどぉ?」
目を見開くファルロスに、アマネは笑いながら手を伸ばしてその頭を撫でる。少し癖のある、猫っ毛。
頭を撫でられて首が揺れているファルロスは、そのまま俯いて表情を隠したかと思うとアマネの手を掴んで頭から退かし、アマネを見て微笑んだ。
「君のそういうところ、好きだよ」
「それはどうもぉ」
「今日はもう帰るね。でも嬉しかったよ。……また、会えるといいね」
「好きな時に会いに来ていいんだぜぇ? 影時間じゃなくたって、いつだって」
それは無理なのだろうとアマネは考えていたけれど、気持ちだけは本当だった。
「おやすみ」
「おやすみファルロス……またなぁ」