ペルソナP3P
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事が動いたのは満月の日当日だった。影時間になる少し前に外で何となく気になる車の音がしたと思うと、この近辺の住民が乗っている物ではない、見慣れないワゴン車が停車する。カーテンの隙間からそれを見たアマネは舌打ちを零し、召喚器と携帯とを通学鞄へしているバッグへ押し込んだ。
数時間後には最後の大型シャドウが現れるムーンライトブリッジへ行こうと思っていたのだが、どうやら幾月はアマネに行かせるつもりは無いらしい。今までストレガのように妨害をした覚えは無いが、ここに来て妨害されるとでも思ったのだろうか。少なくともアマネを捕まえておけば心配は減る。
召喚器と携帯とウォレットチェーンを確認して鞄を肩に下げた。ちりめんのキーホルダーがついた鍵を手にとって玄関へ向かい鍵を掛ける。靴を履いて土足のまま台所から料理用に買っておいたチューブ型のガムシロップを掴み、部屋を通り棚の上に置いておいた仮面を取って窓から外へ出た。
ファスナーを開けっ放しの鞄へ仮面を放り込み、窓枠に足を引っ掛け片手で身体を支えながら窓を閉める。鍵は閉められないが仕方ない。ついでに敷金も諦める。
窓枠から飛び降りて建物の裏を抜け、アマネを捕まえに来た者達が乗ってきたワゴンの様子を窺う。ワゴンは最大八人乗りの様だが人数は三人らしい。
笑える事に三人揃ってアマネの部屋の玄関前へ行ってしまっている。更にアマネへ運の良いことに鍵が掛かっていない。
路上駐車なのに車内へ誰も残さないとか、そもそも鍵を掛けないなんてこと、当然だが無用心すぎる。
「でねぇと悪ガキがイタズラしちゃうぜぇ?」
三人の様子を探りながらワゴンの運転席を開け、ガソリンタンクの蓋を開けた。流石に鍵は抜かれている。
玄関のチャイムを鳴らして、出てくる筈の無いアマネが出てくるのを待っている三人を気にしつつ、タンクの中へガムシロップを投入し元通りに蓋をした。ガムシロップを鞄へ放り込んでアマネは再びアパートの影へと戻り、そこから音を立てて走り出す。
「居たぞ!」
この場合は『居たぞ』ではない。見つかってあげたのだ。
走って逃げるアマネを追いかけるようにアパートの階段を駆け下り、三人が車へ乗る。エンジンを掛けて発進しだすワゴンを振り返り、更に急いで逃げる、振りをした。
車の通れない狭い路地を抜ければ、ワゴンは先回りをしようとスピードを出して遠回りを始める。スピードを上げるという事はアクセルを踏むという事。
アクセルと踏めば当然ガソリンはどんどん温まっていく訳だが、そのガソリンの中へガムシロップという不純物を入れたらどうなるか。
三つほど狭い路地を抜けたところでワゴンの姿は見えなくなった。おそらく遠回りしようとして走っている途中に車が動かなくなったのだろう。
アパートへ来た三人から連絡が行ったのか、巌戸台分寮の周りはお仲間だと思われるワゴンが停まっていた。時間があったので調べてみれば、学園前にも同じ様に見張りが立っている。
人数が少ないのはアマネをただの高校生として舐めているからかと思ったが、そうではなく『影時間に適性のある』者の可能性が出てきた。というのも学園前で見張っている彼等は何かへ怯えるように時々校舎を見上げていたからである。
それは『校舎がシャドウの巣窟へと変貌する』と知っているからではないか、と考えると辻褄が合う。だとすれば彼等は影時間になってもアマネを見つけたら追ってくる筈だ。むしろ影時間に見つかった場合の方が危ない。
影時間には一般人という隠れ場所が無くなるからである。
「という事はムーンライトブリッジも危険かぁ?」
大型シャドウを探す山岸の探索に、アマネが引っかからない訳が無い。彼女のペルソナの探索能力は、ペルソナ使いでなくともタルタロス内に引き込まれた人を見つけ出せるのだ。
ストレガのチドリのように、存在を隠せる能力などアマネのイブリスには無い。
確か『前』の時はムーンライトブリッジへ大型シャドウが居ると判明したと同時に、ストレガもその場へ居ると判明させていた。という事は山岸が探索をしている間はそこへ近付いてはいけない。山岸の傍には幾月も何食わぬ顔で居る筈だ。
山岸の探索へ引っかかれば、そのまま居場所が幾月へもばれてしまう。敵に回すと厄介な能力だなと思いつつ、見つかる前に学園前を後にした。
木を隠すには森の中。しかし人の中へは隠れられないのなら。
時計を確認して影時間までの残り時間を確認する。ムーンライトブリッジまではそう遠くないし、これだけ余裕があるのなら平気だろう。
途中のコンビニで夜食と飲み物を買っておきムーンライトブリッジへ向かった。夜も遅い事もあって車の通りはあっても歩行者の姿は無い。ついでに言えばストレガのジンとタカヤの姿も特には見当たらなかった。
周りに人気が無いことを充分に確かめてから点検用の梯子を昇り、そこから更に助走をつけて、フリーランニングの要領で鉄骨製の橋枠を駆け上がる。勢いだけで行けるところまで行ってバランスを崩したところで両手を使って落下を防ぎ、今度はロッククライミングの要領で天辺へと登った。
途中で影時間へと入り、月の灯りだけに照らされる道路を見下ろして、隠れる場所として間違った選択をした感覚が否めない。だがSEESもストレガもここへ来るのだから、探索された場合下手な場所へ居るよりは良いと思ったのだ。
「……ホット買っておきゃよかった」
十一月の潮風が冷たい。
数時間後には最後の大型シャドウが現れるムーンライトブリッジへ行こうと思っていたのだが、どうやら幾月はアマネに行かせるつもりは無いらしい。今までストレガのように妨害をした覚えは無いが、ここに来て妨害されるとでも思ったのだろうか。少なくともアマネを捕まえておけば心配は減る。
召喚器と携帯とウォレットチェーンを確認して鞄を肩に下げた。ちりめんのキーホルダーがついた鍵を手にとって玄関へ向かい鍵を掛ける。靴を履いて土足のまま台所から料理用に買っておいたチューブ型のガムシロップを掴み、部屋を通り棚の上に置いておいた仮面を取って窓から外へ出た。
ファスナーを開けっ放しの鞄へ仮面を放り込み、窓枠に足を引っ掛け片手で身体を支えながら窓を閉める。鍵は閉められないが仕方ない。ついでに敷金も諦める。
窓枠から飛び降りて建物の裏を抜け、アマネを捕まえに来た者達が乗ってきたワゴンの様子を窺う。ワゴンは最大八人乗りの様だが人数は三人らしい。
笑える事に三人揃ってアマネの部屋の玄関前へ行ってしまっている。更にアマネへ運の良いことに鍵が掛かっていない。
路上駐車なのに車内へ誰も残さないとか、そもそも鍵を掛けないなんてこと、当然だが無用心すぎる。
「でねぇと悪ガキがイタズラしちゃうぜぇ?」
三人の様子を探りながらワゴンの運転席を開け、ガソリンタンクの蓋を開けた。流石に鍵は抜かれている。
玄関のチャイムを鳴らして、出てくる筈の無いアマネが出てくるのを待っている三人を気にしつつ、タンクの中へガムシロップを投入し元通りに蓋をした。ガムシロップを鞄へ放り込んでアマネは再びアパートの影へと戻り、そこから音を立てて走り出す。
「居たぞ!」
この場合は『居たぞ』ではない。見つかってあげたのだ。
走って逃げるアマネを追いかけるようにアパートの階段を駆け下り、三人が車へ乗る。エンジンを掛けて発進しだすワゴンを振り返り、更に急いで逃げる、振りをした。
車の通れない狭い路地を抜ければ、ワゴンは先回りをしようとスピードを出して遠回りを始める。スピードを上げるという事はアクセルを踏むという事。
アクセルと踏めば当然ガソリンはどんどん温まっていく訳だが、そのガソリンの中へガムシロップという不純物を入れたらどうなるか。
三つほど狭い路地を抜けたところでワゴンの姿は見えなくなった。おそらく遠回りしようとして走っている途中に車が動かなくなったのだろう。
アパートへ来た三人から連絡が行ったのか、巌戸台分寮の周りはお仲間だと思われるワゴンが停まっていた。時間があったので調べてみれば、学園前にも同じ様に見張りが立っている。
人数が少ないのはアマネをただの高校生として舐めているからかと思ったが、そうではなく『影時間に適性のある』者の可能性が出てきた。というのも学園前で見張っている彼等は何かへ怯えるように時々校舎を見上げていたからである。
それは『校舎がシャドウの巣窟へと変貌する』と知っているからではないか、と考えると辻褄が合う。だとすれば彼等は影時間になってもアマネを見つけたら追ってくる筈だ。むしろ影時間に見つかった場合の方が危ない。
影時間には一般人という隠れ場所が無くなるからである。
「という事はムーンライトブリッジも危険かぁ?」
大型シャドウを探す山岸の探索に、アマネが引っかからない訳が無い。彼女のペルソナの探索能力は、ペルソナ使いでなくともタルタロス内に引き込まれた人を見つけ出せるのだ。
ストレガのチドリのように、存在を隠せる能力などアマネのイブリスには無い。
確か『前』の時はムーンライトブリッジへ大型シャドウが居ると判明したと同時に、ストレガもその場へ居ると判明させていた。という事は山岸が探索をしている間はそこへ近付いてはいけない。山岸の傍には幾月も何食わぬ顔で居る筈だ。
山岸の探索へ引っかかれば、そのまま居場所が幾月へもばれてしまう。敵に回すと厄介な能力だなと思いつつ、見つかる前に学園前を後にした。
木を隠すには森の中。しかし人の中へは隠れられないのなら。
時計を確認して影時間までの残り時間を確認する。ムーンライトブリッジまではそう遠くないし、これだけ余裕があるのなら平気だろう。
途中のコンビニで夜食と飲み物を買っておきムーンライトブリッジへ向かった。夜も遅い事もあって車の通りはあっても歩行者の姿は無い。ついでに言えばストレガのジンとタカヤの姿も特には見当たらなかった。
周りに人気が無いことを充分に確かめてから点検用の梯子を昇り、そこから更に助走をつけて、フリーランニングの要領で鉄骨製の橋枠を駆け上がる。勢いだけで行けるところまで行ってバランスを崩したところで両手を使って落下を防ぎ、今度はロッククライミングの要領で天辺へと登った。
途中で影時間へと入り、月の灯りだけに照らされる道路を見下ろして、隠れる場所として間違った選択をした感覚が否めない。だがSEESもストレガもここへ来るのだから、探索された場合下手な場所へ居るよりは良いと思ったのだ。
「……ホット買っておきゃよかった」
十一月の潮風が冷たい。