ペルソナP3P
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『ポロニアンモール。青ひげファーマシー内にて商品を見ている振りをしていてください。くれぐれも尾行や盗聴はされぬよう』
桐条に送ったメールに書いた待ち合わせ時間に間に合うように、厳重に包装した大きめの封筒をポストへ投函する。それから人混みに紛れるように暫く歩き回ってから、公衆トイレで服を着替えた。
着替える前の服を百円ロッカーへ預け、その足で個人経営の薬局である『青ひげファーマシー』へ向かう。
桐条は話し合いの待ち合わせの場所がこんな所であることが信じられないとばかりに、手持ち無沙汰そうに立ち尽くしていた。待ち合わせ場所として信じられない以前にも、彼女はこういう市井の薬局へ入ったことすら無さそうだが。アマネだって別に、桐条のそんな姿が見たくて待ち合わせ場所をそんな所へした訳ではない。
歩き回って尾行がついていない事を確認し、それから所帯なさげにしている桐条が眺めている棚の商品を取る為に近付く、振りをして前もって書いておいたメモを桐条へ見せた。
「――無ぇなぁ」
呟いて踵を返す。目的の商品が無かったという風を装ってアマネが店を出て、暫くすると桐条が店から出てきて周囲を見回しアマネを見つけ近付いてくる。
本当は桐条へも制服ではない格好をしてきてもらいたかったのだが、その辺は何を着ていても人によっては一目で『桐条美鶴』だと分かってしまう人なので、下手に変装染みたことをさせる気にならなかった。代わりに、アマネの格好が『斑鳩 周』では無くなっている。
「それはカツラか?」
「髪の長げぇ男は目立つので」
ジャージと短髪のカツラを被れば特徴という特徴は『紫の眼』以外、結構記憶に残らなくなるものだ。人の顔をマジマジと見ることが日本人は少ないし、顔だって黒子の一つでも描いてみれば大分印象が変わる。
桐条が学校でアマネに会いに来たということは、学校の生徒の名簿を見て探した、探す事が出来たと考えられた。だが桐条は生徒会長とはいえ顔つきの名簿は流石に見られないだろう。だとしたら理事長である幾月へ協力を頼んだ可能性があった。
となればアマネの存在は幾月に知られている。部下が居るのかどうかは分からないが影時間の適性者が見つかったとして、人を使えるかもしれない。そう考えての警戒だった。
「人が居ない場所で話したいのですが、貴方は目立ちますからね」
自分が目立つ事は自覚しているらしい桐条が、話し合いの場所を探すように周囲を見回す。それを無視してアマネは噴水傍のベンチを指差した。
内密の話をする時は、密室へ篭るより周りに何も無い場所を選んだ方が良い。下手な店へ入っても直ぐ隣へ座席が配置されている為、そこへ座られてしまえば丸聞こえ。そもそもそういう場所は監視カメラがある。
何も無い公園のベンチなどだと近くに監視カメラは無い場所が多く、あっても映しているのは自販機や公衆トイレだ。それに人が居ると分かると、大抵は遠慮して近寄らないものである。
ポロニアンモールの噴水は、監視カメラに関して言うなら確実に映る事になるのだが、尾行が無いと確認できた今、人の視線は気にしなくていい。後は人の耳だけだ。
そして桐条という目立つ存在と一緒にいる場合、人目を避けるように動く方が怪しまれる。なので逆に堂々と話をしていた方がいいのだ。
「真田先輩も一緒だと思っていましたが」
「明彦は荒垣の見舞いに行っている」
荒垣は生きている。その事実に内心では泣きたい程だったが、今は泣いてなどいられない。
「それで、話したい事があるそうですが」
「ああ、君には色々訊きたい事がある」
「俺の事など聞かずとも分かるでしょう。『アマネ』という名前だけでクラスも分かったのですから」
「理事長に協力していただいたんだ。流石に月光館の学生だとは思っていなかったが」
ということは、幾月はアマネの履歴も既に調べているだろう。それでいて手を出してきていない辺りが怪しい。
「俺には貴方へ話すメリットが無いと、承知の上でそれを?」
既に学校で声を掛けてきた時の会話で桐条はアマネに主導権を握られ、今も尚情報を晒していると気付いているだろうか。チドリの尋問さえまともに出来なかった彼女が、今アマネに言い勝てるとは思えない。
そもそもアマネが桐条から聞き出したい情報は、もうあと一つしかなかった。なんだか簡単すぎるなと思ってしまうのは相手が桐条だからか。
取引をして聞きだそうと思っていたのだが、その必要すら感じられない。思わず溜息を吐くと桐条に睨まれた。
「メリットが無かろうと話してもらうぞ」
「二つまでなら答えましょう」
「二つ?」
「今貴方は俺が知りたかったことを二つ教えてくれました。なので二つです」
「……君は」
「別に意図はしてませんよ。先に言っておきますが、俺の言葉を信じるかどうかは貴方次第です」
桐条は全く納得が出来ていないようだったがそれも当然だとは分かっていたので、アマネは無言で桐条を見るに留める。口を開いた桐条の質問は予想通りだった。
「君は敵か? それとも味方か?」
訊きたい事があって、聞けるタイミングは数回となった時、聞いてくるものの一つとして予想は出来ていた。
「二元論で答えるのなら、……味方です」
「そうか。では次の質問だ」
「最後の質問です」
「……君の知っている事を教えてくれ」
考えてきたなと思って笑みを浮かべるが、桐条はそんな気分ではないらしい。
「それに答えるには条件があります」
「条件?」
「俺から聞いた内容は、本当に信用できる相手にしか話してはいけません」
特に幾月修司へは、話した途端アマネの方が危うくなる。話さないで欲しいがきっと今の桐条は話してしまうだろう。だがあえて『幾月修司』を名指しで黙っていろと言うのは『気にしろ』と言っているようなものだ。それならば桐条の判断に任せるように見せかけて情報を漏らしたほうが、まだ安全なように思える。
隣へ座っている桐条は訝しげにしていた。だが結局アマネの『条件』を飲むことにしたらしい。
「教えてくれ」
「……大型シャドウは残すところあと一体です。ですが、それを倒しても影時間は消えてなくなりません」
「なんだとっ!?」
「そもそもの前提が間違っているんです。貴方にはそれを知る術が無かったのですが、もう少しすると否が応でも知る事になるでしょう」
最後の大型シャドウを倒し、幾月が直々に動き出すその瞬間に。同時にソレは、桐条にとって父親を失くす“かもしれない”瞬間でもある。
「今の俺が話せるのはこの程度です。ですが、少し考えれば貴方なら表面的な情報以外も理解していただけるかと」
「……実に不愉快だ。君は『味方』だと言っておきながら情報を小出しにして、まるで弄んでいる」
「俺にも立場と言うものがあります。とまで言わねぇと分かってもらえませんか」
「その立場は世界よりも大事か」
「ええ。少なくとも貴方がペルソナ使いになった理由と同じくらいには」
桐条が目を見開いてアマネを見つめているのを無視し、座っていたベンチから立ち上がった。質問へは同じ数だけ答えたし、長く桐条と一緒に居すぎてもメリットは無い。
アマネの立場は現在、桐条が父親の為にペルソナ使いとなったのと同じく、SEESや『彼女』や、二年後の彼らの為にある。なので、ある意味では『世界よりも大事』だ。
自身がペルソナ使いになった理由を知られていることに驚いている桐条を振り返って見下ろす。
「これは警告ですが、貴方が信じているものが本当に正しいのかどうか、もう一度考え直した方がいいかも知れません」
「本当に、正しいのか……」
「貴方が信じるかどうかは別として、ヒントをあげます。岳羽先輩のお父さん、岳羽詠一郎さんは、冤罪です」
小さく息を呑む桐条に、視界の端で月光館の制服を着た学生がこちらへ注目しているのが見えて潮時だなと考えた。カツラがずれないように頭を下げて踵を返す。
この話し合いとは言えない『話し合い』が、どういう結果を生み出すのか。
桐条に送ったメールに書いた待ち合わせ時間に間に合うように、厳重に包装した大きめの封筒をポストへ投函する。それから人混みに紛れるように暫く歩き回ってから、公衆トイレで服を着替えた。
着替える前の服を百円ロッカーへ預け、その足で個人経営の薬局である『青ひげファーマシー』へ向かう。
桐条は話し合いの待ち合わせの場所がこんな所であることが信じられないとばかりに、手持ち無沙汰そうに立ち尽くしていた。待ち合わせ場所として信じられない以前にも、彼女はこういう市井の薬局へ入ったことすら無さそうだが。アマネだって別に、桐条のそんな姿が見たくて待ち合わせ場所をそんな所へした訳ではない。
歩き回って尾行がついていない事を確認し、それから所帯なさげにしている桐条が眺めている棚の商品を取る為に近付く、振りをして前もって書いておいたメモを桐条へ見せた。
「――無ぇなぁ」
呟いて踵を返す。目的の商品が無かったという風を装ってアマネが店を出て、暫くすると桐条が店から出てきて周囲を見回しアマネを見つけ近付いてくる。
本当は桐条へも制服ではない格好をしてきてもらいたかったのだが、その辺は何を着ていても人によっては一目で『桐条美鶴』だと分かってしまう人なので、下手に変装染みたことをさせる気にならなかった。代わりに、アマネの格好が『斑鳩 周』では無くなっている。
「それはカツラか?」
「髪の長げぇ男は目立つので」
ジャージと短髪のカツラを被れば特徴という特徴は『紫の眼』以外、結構記憶に残らなくなるものだ。人の顔をマジマジと見ることが日本人は少ないし、顔だって黒子の一つでも描いてみれば大分印象が変わる。
桐条が学校でアマネに会いに来たということは、学校の生徒の名簿を見て探した、探す事が出来たと考えられた。だが桐条は生徒会長とはいえ顔つきの名簿は流石に見られないだろう。だとしたら理事長である幾月へ協力を頼んだ可能性があった。
となればアマネの存在は幾月に知られている。部下が居るのかどうかは分からないが影時間の適性者が見つかったとして、人を使えるかもしれない。そう考えての警戒だった。
「人が居ない場所で話したいのですが、貴方は目立ちますからね」
自分が目立つ事は自覚しているらしい桐条が、話し合いの場所を探すように周囲を見回す。それを無視してアマネは噴水傍のベンチを指差した。
内密の話をする時は、密室へ篭るより周りに何も無い場所を選んだ方が良い。下手な店へ入っても直ぐ隣へ座席が配置されている為、そこへ座られてしまえば丸聞こえ。そもそもそういう場所は監視カメラがある。
何も無い公園のベンチなどだと近くに監視カメラは無い場所が多く、あっても映しているのは自販機や公衆トイレだ。それに人が居ると分かると、大抵は遠慮して近寄らないものである。
ポロニアンモールの噴水は、監視カメラに関して言うなら確実に映る事になるのだが、尾行が無いと確認できた今、人の視線は気にしなくていい。後は人の耳だけだ。
そして桐条という目立つ存在と一緒にいる場合、人目を避けるように動く方が怪しまれる。なので逆に堂々と話をしていた方がいいのだ。
「真田先輩も一緒だと思っていましたが」
「明彦は荒垣の見舞いに行っている」
荒垣は生きている。その事実に内心では泣きたい程だったが、今は泣いてなどいられない。
「それで、話したい事があるそうですが」
「ああ、君には色々訊きたい事がある」
「俺の事など聞かずとも分かるでしょう。『アマネ』という名前だけでクラスも分かったのですから」
「理事長に協力していただいたんだ。流石に月光館の学生だとは思っていなかったが」
ということは、幾月はアマネの履歴も既に調べているだろう。それでいて手を出してきていない辺りが怪しい。
「俺には貴方へ話すメリットが無いと、承知の上でそれを?」
既に学校で声を掛けてきた時の会話で桐条はアマネに主導権を握られ、今も尚情報を晒していると気付いているだろうか。チドリの尋問さえまともに出来なかった彼女が、今アマネに言い勝てるとは思えない。
そもそもアマネが桐条から聞き出したい情報は、もうあと一つしかなかった。なんだか簡単すぎるなと思ってしまうのは相手が桐条だからか。
取引をして聞きだそうと思っていたのだが、その必要すら感じられない。思わず溜息を吐くと桐条に睨まれた。
「メリットが無かろうと話してもらうぞ」
「二つまでなら答えましょう」
「二つ?」
「今貴方は俺が知りたかったことを二つ教えてくれました。なので二つです」
「……君は」
「別に意図はしてませんよ。先に言っておきますが、俺の言葉を信じるかどうかは貴方次第です」
桐条は全く納得が出来ていないようだったがそれも当然だとは分かっていたので、アマネは無言で桐条を見るに留める。口を開いた桐条の質問は予想通りだった。
「君は敵か? それとも味方か?」
訊きたい事があって、聞けるタイミングは数回となった時、聞いてくるものの一つとして予想は出来ていた。
「二元論で答えるのなら、……味方です」
「そうか。では次の質問だ」
「最後の質問です」
「……君の知っている事を教えてくれ」
考えてきたなと思って笑みを浮かべるが、桐条はそんな気分ではないらしい。
「それに答えるには条件があります」
「条件?」
「俺から聞いた内容は、本当に信用できる相手にしか話してはいけません」
特に幾月修司へは、話した途端アマネの方が危うくなる。話さないで欲しいがきっと今の桐条は話してしまうだろう。だがあえて『幾月修司』を名指しで黙っていろと言うのは『気にしろ』と言っているようなものだ。それならば桐条の判断に任せるように見せかけて情報を漏らしたほうが、まだ安全なように思える。
隣へ座っている桐条は訝しげにしていた。だが結局アマネの『条件』を飲むことにしたらしい。
「教えてくれ」
「……大型シャドウは残すところあと一体です。ですが、それを倒しても影時間は消えてなくなりません」
「なんだとっ!?」
「そもそもの前提が間違っているんです。貴方にはそれを知る術が無かったのですが、もう少しすると否が応でも知る事になるでしょう」
最後の大型シャドウを倒し、幾月が直々に動き出すその瞬間に。同時にソレは、桐条にとって父親を失くす“かもしれない”瞬間でもある。
「今の俺が話せるのはこの程度です。ですが、少し考えれば貴方なら表面的な情報以外も理解していただけるかと」
「……実に不愉快だ。君は『味方』だと言っておきながら情報を小出しにして、まるで弄んでいる」
「俺にも立場と言うものがあります。とまで言わねぇと分かってもらえませんか」
「その立場は世界よりも大事か」
「ええ。少なくとも貴方がペルソナ使いになった理由と同じくらいには」
桐条が目を見開いてアマネを見つめているのを無視し、座っていたベンチから立ち上がった。質問へは同じ数だけ答えたし、長く桐条と一緒に居すぎてもメリットは無い。
アマネの立場は現在、桐条が父親の為にペルソナ使いとなったのと同じく、SEESや『彼女』や、二年後の彼らの為にある。なので、ある意味では『世界よりも大事』だ。
自身がペルソナ使いになった理由を知られていることに驚いている桐条を振り返って見下ろす。
「これは警告ですが、貴方が信じているものが本当に正しいのかどうか、もう一度考え直した方がいいかも知れません」
「本当に、正しいのか……」
「貴方が信じるかどうかは別として、ヒントをあげます。岳羽先輩のお父さん、岳羽詠一郎さんは、冤罪です」
小さく息を呑む桐条に、視界の端で月光館の制服を着た学生がこちらへ注目しているのが見えて潮時だなと考えた。カツラがずれないように頭を下げて踵を返す。
この話し合いとは言えない『話し合い』が、どういう結果を生み出すのか。