朝になって固い床から起き上がると、ベッドの中でまだ天田は眠っていた。アマネの自宅のアパートである。
『前』も一晩寮へ帰ってこなかった天田だが、その時はその時でどうにかしていたとしても、目の前で眠そうにしていた天田を不良の溜まり場へ放置できず、仕方なくアマネのアパートへ連れ帰ってきたのだ。
荒垣といい天田といい、よく家に連れ帰ってしまうのは果たして良いのか悪いのか。とりあえず後で口止めはしておかないと桐条達が押しかけて来そうで怖い。
起きてシップを張り替えて上だけ着替えてから、天田と自分の分の朝食を作る。今日も学校はサボリだなと考えて目玉焼きを皿に盛ったところで天田が起きた。

「……？」
「おはよう。朝食が出来たから顔だけ先に洗いなさい」

まだ少し寝ぼけているのか素直に言う事を聞く。荒垣は目覚め最悪な上にすぐ起きなかったなぁと思いながら携帯を取り出したところで、天田が戻ってきて席に着いた。
状況を半分だけ理解して、もう半分を理解しきれずにいる。荒垣も最初はこうだったのだろうかと考えて、何でもかんでも荒垣と比べている自分に気付いて内心自嘲した。

「あの、ここは？」
「俺の家。荒垣さんも泊まった事がある」

そう言った途端黙り込んでしまう天田に、意地悪だったかと思いながらメールを送信する。今日も休むという佐藤と伏見宛の内容だ。天田は昨日から無断欠席していることになるが、そこまでの面倒は見ない。
小さいながらもいただきますと言って天田がアマネの作ったご飯を食べ始める。ソレを見てからアマネも自分の分を食べ始めた。
おそらく今日も天田はあの路地裏へ行くのだろう。アマネも一応一緒に行くつもりだが、彼の邪魔はしない。
邪魔も何もこうして家にまで連れてきている以上おせっかいすぎる気もするが、それは仕方ないと目を瞑る。だって彼のことを荒垣が気に掛けていたのだ。同時にアマネだって天田の事を気に掛けている。

「……あの、名前聞いていいですか」
「名前？ ああ、そういや教えてなかったなぁ。『アマネ』だよ」

今更な質問に答えれば、天田は少し安心したように箸を進めた。そうか名前も知らない人物の家で朝食というのはなんだか誘拐されたみたいだなと考えてしまい、自分の行動に少し後悔する。
いやきっと悪い事はしていない筈だ。予定外の行動であるが未成年、しかも小学生を一晩も放置しておくのは良くない。正論だと思うのだが、連れて来る方法を間違えている気がしないでもなく、心が痛む。