ペルソナP3P
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辰巳ポートアイランドの路地裏まで休憩を挟むことなく走り続けて見たものは、銃を構えるタカヤ。その銃の先には天田がいて、荒垣は既に一発撃たれている。
確か『前』では二発撃たれていた筈だ。
「っタカヤァアアアアアア!」
叫ぶと同時にタカヤがアマネを見た。けれどもその手に握られた銃がアマネへ向けられる事は無く、そのまま天田へと引き金が引かれる。
銃声が影時間に鳴り響いた。
天田を庇って撃たれ、血だらけで膝を突いている荒垣を、天田が呆然と見下ろしている。影時間が終わるまで来ないとはいえ救急車を呼んでおいて本気でよかった。
荒垣の応急手当が最重要事項だったが、衝動的にアマネは荒垣よりもタカヤへと走り寄る。そうして天田を庇った荒垣をつまらなそうに見下ろしていたその面を、握り拳で思い切り殴りつけた。
「あと五発は殴りてぇがテメェに構ってる暇は無ぇ!」
頬を強制的に歪められて、しかし倒れこまずによろめくだけだったタカヤを一瞥し、アマネは血の止まらない傷口を押さえている荒垣へと駆け寄る。
荒垣はアマネが直ぐ傍でしゃがんだのに一度だけ視線を寄越した。
「は……お前……」
「止血するから手ぇ退かせぇ! あと喋んなぁ! いや違う喋ってろぉ! 意識を無くすんじゃねぇ!」
頭が少し混乱している。息をするだけでも苦しげな荒垣の姿を、母親の仇に庇われた天田は呆然と見下ろしていた。
咳き込んで口からも血が飛ぶ。崩れ落ちそうになった荒垣の身体を支えたところで、真田達がやっと追いついて路地裏へとやってきた。
岳羽や有里がアマネの姿を見て驚いているが、それに構っていられない。止血するのに手では当然足りなくて、パーカーを脱いで荒垣の傷口を押さえるのに使う。このパーカーは後で捨てるしかない。
いつのまにかタカヤの姿が無くなっている。真田達が来た事で不利を悟って逃げたのだろう。用が済んだからという事かもしれないが、アイツの行動などどうでもいい。
真田に荒垣の身体を支えてもらい、血塗れの傷を押さえる。山岸が横へ来てもう一つの方の傷口を押さえてくれた。荒垣はアマネが言ったからでは無いだろうが天田へと話しかけている。こんな時でも天田を一番に考えるほど、彼の中で天田への罪悪感は大きかった。
血が止まらない。多少勢いは収まったがそれだけだ。
「……アマネ」
息を漏らすような掠れた声で名前を呼ばれる。荒垣の顔を見れば目が合う。
何か言おうとする荒垣に『前』とは違う事を言おうとしているのだろうと分かっていても、それを言わないで欲しかった。
だから首を横へ振る。
「嫌です」
毅然として言ってやった。
「俺は貴方も死なせたくない。そう決めていたんです」
そう言うと荒垣は苦しいだろうにアマネを見たまま呆れたように笑った。とはいえほんの少し口角が上がった程度だったが、アマネにとってはそれで充分である。
疲れ切ったとばかりに荒垣の瞼が降りていくのに気付いて、真田が何度も呼びかけた。小さく呻くから意識はまだ残っていると信じたい。
手首で脈を測る。弱いがまだあった。アマネがこの場で出来る事は全てやったので、あとは一秒でも早く影時間が終わり、救急車が来てくれることを願うくらいだ。
「だれか上着を。体温が下がってしまうので」
「オレの上着!」
「ありがとうございます。荒垣さんに呼びかけを続けてください」
伊織から受け取った上着を荒垣の身体へ掛ける。こんな上着一枚では大した保温にもなりはしないが、無いよりはマシだ。
血だらけになった手をスボンで拭い、影時間であるせいで動く訳の無い携帯を取り出して時間を確認してしまう。当然携帯の画面は真っ暗で何も映さない。
「シンジ、おいシンジ! シンジ!」
携帯を仕舞って顔を戻したところで、荒垣の様子が先ほど以上にぐったりしている事に気付く。慌てて脈を測ると脈が無い。首筋で測っても指先へ拍動が伝わってこなかった。
心臓が止まったらしい。
「クソっ! 心臓マッサージします!」
言えば荒垣の身体を抱きかかえていた真田が荒垣を横たえさせる。岳羽が天田を脇へ離れさせようとするのを、咄嗟に天田の手を掴んで阻止した。
掴んだ小学生の手が震える。
「君は傍で見ていなさい。君のお母さんと重さだけは変わらねぇ『命』だぁ」
「っ……」
指先を握り締めた手を離してアマネは荒垣の胸部を確かめた。内ポケットに壊れてしまっているが懐中時計が入っている。撃たれた時に壊れたのだろう。
死なせたくなかった。死なせる為にアマネは『過去』へ戻された訳じゃない。意図的では無くともそれを『変える』事が出来るチャンスを貰ったのだ。
何十回と胸椎への圧迫をし続けて腕が疲れてくる。ああやっぱり『変えられない』のかと、少しでも思ってしまった途端涙が零れた。腕に力が入らない。
「アマネ君。代わるよ」
肩に手が置かれた。振り返れば有里がアマネを見ている。
それは荒垣が死んでしまった後、アマネが倒れた時に話をしに来た『兄』に似ていた。
「……もう少し、頑張ります」
疲れている腕に力を込める。周囲の外灯へ明かりが戻り路地の外が騒がしさを取り戻していった。
人の声と潮風。近付いてくる救急車の音。
荒垣の心臓が動いた気がした。
確か『前』では二発撃たれていた筈だ。
「っタカヤァアアアアアア!」
叫ぶと同時にタカヤがアマネを見た。けれどもその手に握られた銃がアマネへ向けられる事は無く、そのまま天田へと引き金が引かれる。
銃声が影時間に鳴り響いた。
天田を庇って撃たれ、血だらけで膝を突いている荒垣を、天田が呆然と見下ろしている。影時間が終わるまで来ないとはいえ救急車を呼んでおいて本気でよかった。
荒垣の応急手当が最重要事項だったが、衝動的にアマネは荒垣よりもタカヤへと走り寄る。そうして天田を庇った荒垣をつまらなそうに見下ろしていたその面を、握り拳で思い切り殴りつけた。
「あと五発は殴りてぇがテメェに構ってる暇は無ぇ!」
頬を強制的に歪められて、しかし倒れこまずによろめくだけだったタカヤを一瞥し、アマネは血の止まらない傷口を押さえている荒垣へと駆け寄る。
荒垣はアマネが直ぐ傍でしゃがんだのに一度だけ視線を寄越した。
「は……お前……」
「止血するから手ぇ退かせぇ! あと喋んなぁ! いや違う喋ってろぉ! 意識を無くすんじゃねぇ!」
頭が少し混乱している。息をするだけでも苦しげな荒垣の姿を、母親の仇に庇われた天田は呆然と見下ろしていた。
咳き込んで口からも血が飛ぶ。崩れ落ちそうになった荒垣の身体を支えたところで、真田達がやっと追いついて路地裏へとやってきた。
岳羽や有里がアマネの姿を見て驚いているが、それに構っていられない。止血するのに手では当然足りなくて、パーカーを脱いで荒垣の傷口を押さえるのに使う。このパーカーは後で捨てるしかない。
いつのまにかタカヤの姿が無くなっている。真田達が来た事で不利を悟って逃げたのだろう。用が済んだからという事かもしれないが、アイツの行動などどうでもいい。
真田に荒垣の身体を支えてもらい、血塗れの傷を押さえる。山岸が横へ来てもう一つの方の傷口を押さえてくれた。荒垣はアマネが言ったからでは無いだろうが天田へと話しかけている。こんな時でも天田を一番に考えるほど、彼の中で天田への罪悪感は大きかった。
血が止まらない。多少勢いは収まったがそれだけだ。
「……アマネ」
息を漏らすような掠れた声で名前を呼ばれる。荒垣の顔を見れば目が合う。
何か言おうとする荒垣に『前』とは違う事を言おうとしているのだろうと分かっていても、それを言わないで欲しかった。
だから首を横へ振る。
「嫌です」
毅然として言ってやった。
「俺は貴方も死なせたくない。そう決めていたんです」
そう言うと荒垣は苦しいだろうにアマネを見たまま呆れたように笑った。とはいえほんの少し口角が上がった程度だったが、アマネにとってはそれで充分である。
疲れ切ったとばかりに荒垣の瞼が降りていくのに気付いて、真田が何度も呼びかけた。小さく呻くから意識はまだ残っていると信じたい。
手首で脈を測る。弱いがまだあった。アマネがこの場で出来る事は全てやったので、あとは一秒でも早く影時間が終わり、救急車が来てくれることを願うくらいだ。
「だれか上着を。体温が下がってしまうので」
「オレの上着!」
「ありがとうございます。荒垣さんに呼びかけを続けてください」
伊織から受け取った上着を荒垣の身体へ掛ける。こんな上着一枚では大した保温にもなりはしないが、無いよりはマシだ。
血だらけになった手をスボンで拭い、影時間であるせいで動く訳の無い携帯を取り出して時間を確認してしまう。当然携帯の画面は真っ暗で何も映さない。
「シンジ、おいシンジ! シンジ!」
携帯を仕舞って顔を戻したところで、荒垣の様子が先ほど以上にぐったりしている事に気付く。慌てて脈を測ると脈が無い。首筋で測っても指先へ拍動が伝わってこなかった。
心臓が止まったらしい。
「クソっ! 心臓マッサージします!」
言えば荒垣の身体を抱きかかえていた真田が荒垣を横たえさせる。岳羽が天田を脇へ離れさせようとするのを、咄嗟に天田の手を掴んで阻止した。
掴んだ小学生の手が震える。
「君は傍で見ていなさい。君のお母さんと重さだけは変わらねぇ『命』だぁ」
「っ……」
指先を握り締めた手を離してアマネは荒垣の胸部を確かめた。内ポケットに壊れてしまっているが懐中時計が入っている。撃たれた時に壊れたのだろう。
死なせたくなかった。死なせる為にアマネは『過去』へ戻された訳じゃない。意図的では無くともそれを『変える』事が出来るチャンスを貰ったのだ。
何十回と胸椎への圧迫をし続けて腕が疲れてくる。ああやっぱり『変えられない』のかと、少しでも思ってしまった途端涙が零れた。腕に力が入らない。
「アマネ君。代わるよ」
肩に手が置かれた。振り返れば有里がアマネを見ている。
それは荒垣が死んでしまった後、アマネが倒れた時に話をしに来た『兄』に似ていた。
「……もう少し、頑張ります」
疲れている腕に力を込める。周囲の外灯へ明かりが戻り路地の外が騒がしさを取り戻していった。
人の声と潮風。近付いてくる救急車の音。
荒垣の心臓が動いた気がした。