ペルソナP3P
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十月四日。満月の夜。
嗚呼来てしまったという気持ちと、とうとう来たという気持ちとが半々で、アマネは複雑な気分になりながら召喚器とナイフを服の下へ隠した。
出来ることなら使いたくは無い。使った途端にアマネもペルソナ使いだとばれるからだ。ばれる相手がストレガかSEESかは分からないが。
最悪両方へ知られる訳だが、その場合でも出来るだけ情報は隠しておきたい。
大型シャドウが現れるのは巌戸台駅前広場。しかし天田と荒垣が居るのは確か辰巳ポートアイランドの路地裏だ。そこが二人の因縁の場所だった。
そして二度目の、因縁を生み出すかも知れない場所である。
駅前のビルの屋上から見下ろしたSEESの面々の中に、荒垣と天田の姿はなかった。念の為影時間へ入るギリギリ前に救急隊へ連絡し、影時間が終わって直ぐに路地裏へ救急車が来る様にはしている。だがそれも、無駄になればいいという願いのほうが強い。
SEESのメンバー達が有里を中心に大型シャドウ二体の姿を確認していた。となれば『彼女』達はちゃんと大型シャドウを倒しに行くだろう。
それを確認して辰巳ポートアイランドへ向かおうとしたところで、ふと人の気配を感じて足を止めて振り返った。
「馬鹿と何とかは高いところが好きっちゅーが、自分はどっちや?」
「……どっちだと思うぅ?」
振り返った先の、隣のビルの扉から出てきたジンは既に、片手へ手榴弾を携えている。お手製だと思われるがその手榴弾の威力は身を以ってある程度知っていた。
「何故ここに居んだぁ?」
「タカヤに言われたんや。自分はわし等だけやのうてSEESの奴等も見張ってる筈やってなあ」
なるほどタカヤも知恵が回る。しかしそのくらいは少し考えれば分かるだろう。
問題は『タカヤがアマネを探していた』理由だ。
「自分、ペルソナ使いなんやろ?」
「少なくとも影時間には適応してんなぁ」
「でもわし等の知り合いやない」
ジンの声が真剣味を帯びる。
確かにアマネはジン達とは違う。幾月の行なった実験の被験者ではなく、かといって自然発生のペルソナ使いにしては、SEESへ全面的に協力している訳でもない。つまり幾月の協力者だという可能性が低く、故にストレガにはアマネの目的が分からないのだろう。
ストレガでもなく、SEESでもない立場。それは目的のある者にとっては時として懸念要素だ。
「せやから自分はわし等の『敵』や。やったら、自分の行動は全部邪魔したる」
「それ、あの半裸の考えかぁ?」
「半裸言うな!」
ジンの視線が僅かに逸らされる。敵と対峙している時にそれは自殺行為だと思うが同時に、ジンがここに居るのは彼の独断だとも推測できた。
タカヤはおそらく辰巳ポートアイランドの路地裏へ向かっている。SEESは天田と荒垣を除いてここ、巌戸台駅前で大型シャドウと対峙していた。
『前』にはアマネが駆けつけた時、既にタカヤの姿は無かったのは覚えている。天田の話では荒垣を撃ってからいなくなった筈だが、その傍にジンの姿があったかどうかまでは定かではない。
そもそも『前』がどうであったのかは、今目の前にジンが居る時点でどうでもいい。問題はアマネがどうやって彼を退けて辰巳ポートアイランドへ向かうかだ。
ジンは隣のビルへいる。アマネがいるビルと隙間は下で路地になっているのかそれなりに遠い。とはいえ“飛び越えられない距離”ではなかった。
おそらくジンだってある程度予測している筈だ。彼の目の前でビルから飛び降りた事がある訳だし、そうでなくとも何かを投げれば当然届く距離でもある。
何かを投げれば。問題は、その投げるのに適した物をジンが持っているという事だ。
「手出し出来へんやろ? わしは手榴弾持ってはるもんなぁ」
上位に立っていると認識している者の言い方である。アマネは何も言い返さない。ジンがそれを見て更に笑みを深くする。
「ええで? 襲いかかってきてみい? 出来んやろ? なんならペルソナ召喚したってええんやで?」
「……ふふ」
「何がおかしい」
「大丈夫。ちゃんと『覚えてる』」
ジンが持つ手榴弾が、安全ピンを抜いてから爆発するまでの時間。その数秒を思い出しながらアマネは、ビルの下で大型シャドウの観測をしている山岸を守るように待機している面々を確認した。
上空で爆破音がしたら確実に驚くだろうが誤魔化すしかない。こちらに気付いてやってくる前にこの場を立ち去るとかして。
そう考えたところで、ジンが動いた。
「そうやな。自分とアイツ等一緒に倒してしもうたほうが効率ええな」
「は、ジン――!?」
安全ピンを抜いた手榴弾が、ジンの手から離れてビルの下へと落ちていく。
ビルの下には残って待機しているSEESの皆がいて、例え手榴弾が落下しきる前に爆破したとしても爆風で窓などが割れて破片が落ちるだろう。シャドウを気にして周囲は警戒しているにしても、流石に頭上まで警戒している訳が無い。
「次会ったらぶん殴るからなぁあああ!」
駆け出して屋上の手摺りを飛び越え、手榴弾の後を追うように飛び降りる。頭上で『会えるモンならな!』とジンの笑い声が聞こえたので、殴る回数は一回で済まさない。絶対に。
落下しながらナイフを取り出して投げる。地上で気付いたらしい待機組が見上げているのが見えたが構っていられない。
投げたナイフが手榴弾へ当たり建物から遠ざける。しかしすぐに爆破したので然程意味は無かったかも知れない。
爆風に身体が押しやられる。ビルの壁にぶつかってバランスを崩し、壁にある出っ張りを掴んで落下速度を落とす事は出来てもあまりまともな受身が取れなかった。硬い地面に寝そべる事だけは回避したが、ぶつけた身体中が痛い。立ち上がりながら顔を上げる。
目の前に待機組の一人だった真田が立っていた。
「お前は……」
辰巳記念病院のチドリの病室で、真田に姿を見られたのはまだ記憶に新しい。パーカーは色違いだとはいえ殆ど似たような格好で、これで人違いだと思われることは無いだろう。
「怪我はぁ!」
「け、怪我は無いが、お前こそ平気なのか!?」
真田の背後では、同じく待機組だった岳羽とコロマルが山岸を守るように立っている。経験を考えれば丁度いい役割分担だなと思ったが、今はそんな事を考えている場合ではない。
周囲を見回せば爆破の影響でやはり窓が数箇所割れたり皹が入っていたりする様だが、それらが真田達を傷付けた様子は無かった。アマネの投げたナイフは少し離れた場所へ落ちている。買い換えたばかりだというのにどうも折れてしまっている様だ。
「お前はアキと一緒にいた奴だろう。まさかストレガか!?」
警戒心を強めて尋ねてくる真田に、返事を返すべきかどうかで悩む。ビルの上を見上げてもジンの姿は見えない。おそらく逃げたか。
舌打ちを零したいのを我慢して、真田を無視して落ちているナイフを拾いに向かう。
「おい! 話を――」
「する時間が無ぇ!」
腕を掴まれそうになったのを、腕を捻って振り切りフードの下から真田を見返す。振り切られると思っていなかったのか、驚く真田を無視してナイフの傍へ向かえば、今度は弓を番える音がした。
「動かないで。動いたら、撃つよ」
脅しとはいえシャドウでは無く人へ向けるのは初めてだろう。震えているのが離れていても分かる。
「それは人を傷付けるモンじゃねぇでしょう」
「それは、そうだけど」
「俺に貴方達を害するつもりはありません。ここはどうか見逃してください」
「はいそうですかと見逃せる訳が無いだろ。せめて名前を」
「荒垣さんが知ってます」
予想外の逢瀬にこの辺が収め処だろうが、当然真田達は納得しない。折れているナイフを拾い上げて鞘へ戻し、フードの縁を直して真田を振り返った。
「――今日は、『十月四日』です。真田先輩」
「――!?」
一礼して走り出すと後ろで呼び止める声がしたが、それに立ち止まっている時間は無い。真田達の後ろで大型シャドウを倒してきたのだろう有里達が戻ってくるのが見えたのだ。
『前』では大型シャドウを倒した後、アマネ達は一度寮へ戻ってしまった。そのタイムラグが無ければ、もう少し。
影時間で交通機関は何一つ動いていない。なので信号や車に阻まれることは無いと分かっていても、どうしてこんなに遠いんだと思ってしまう。
「―――――」
走りながら呟いた。何を言ったのか分からなかった。
嗚呼来てしまったという気持ちと、とうとう来たという気持ちとが半々で、アマネは複雑な気分になりながら召喚器とナイフを服の下へ隠した。
出来ることなら使いたくは無い。使った途端にアマネもペルソナ使いだとばれるからだ。ばれる相手がストレガかSEESかは分からないが。
最悪両方へ知られる訳だが、その場合でも出来るだけ情報は隠しておきたい。
大型シャドウが現れるのは巌戸台駅前広場。しかし天田と荒垣が居るのは確か辰巳ポートアイランドの路地裏だ。そこが二人の因縁の場所だった。
そして二度目の、因縁を生み出すかも知れない場所である。
駅前のビルの屋上から見下ろしたSEESの面々の中に、荒垣と天田の姿はなかった。念の為影時間へ入るギリギリ前に救急隊へ連絡し、影時間が終わって直ぐに路地裏へ救急車が来る様にはしている。だがそれも、無駄になればいいという願いのほうが強い。
SEESのメンバー達が有里を中心に大型シャドウ二体の姿を確認していた。となれば『彼女』達はちゃんと大型シャドウを倒しに行くだろう。
それを確認して辰巳ポートアイランドへ向かおうとしたところで、ふと人の気配を感じて足を止めて振り返った。
「馬鹿と何とかは高いところが好きっちゅーが、自分はどっちや?」
「……どっちだと思うぅ?」
振り返った先の、隣のビルの扉から出てきたジンは既に、片手へ手榴弾を携えている。お手製だと思われるがその手榴弾の威力は身を以ってある程度知っていた。
「何故ここに居んだぁ?」
「タカヤに言われたんや。自分はわし等だけやのうてSEESの奴等も見張ってる筈やってなあ」
なるほどタカヤも知恵が回る。しかしそのくらいは少し考えれば分かるだろう。
問題は『タカヤがアマネを探していた』理由だ。
「自分、ペルソナ使いなんやろ?」
「少なくとも影時間には適応してんなぁ」
「でもわし等の知り合いやない」
ジンの声が真剣味を帯びる。
確かにアマネはジン達とは違う。幾月の行なった実験の被験者ではなく、かといって自然発生のペルソナ使いにしては、SEESへ全面的に協力している訳でもない。つまり幾月の協力者だという可能性が低く、故にストレガにはアマネの目的が分からないのだろう。
ストレガでもなく、SEESでもない立場。それは目的のある者にとっては時として懸念要素だ。
「せやから自分はわし等の『敵』や。やったら、自分の行動は全部邪魔したる」
「それ、あの半裸の考えかぁ?」
「半裸言うな!」
ジンの視線が僅かに逸らされる。敵と対峙している時にそれは自殺行為だと思うが同時に、ジンがここに居るのは彼の独断だとも推測できた。
タカヤはおそらく辰巳ポートアイランドの路地裏へ向かっている。SEESは天田と荒垣を除いてここ、巌戸台駅前で大型シャドウと対峙していた。
『前』にはアマネが駆けつけた時、既にタカヤの姿は無かったのは覚えている。天田の話では荒垣を撃ってからいなくなった筈だが、その傍にジンの姿があったかどうかまでは定かではない。
そもそも『前』がどうであったのかは、今目の前にジンが居る時点でどうでもいい。問題はアマネがどうやって彼を退けて辰巳ポートアイランドへ向かうかだ。
ジンは隣のビルへいる。アマネがいるビルと隙間は下で路地になっているのかそれなりに遠い。とはいえ“飛び越えられない距離”ではなかった。
おそらくジンだってある程度予測している筈だ。彼の目の前でビルから飛び降りた事がある訳だし、そうでなくとも何かを投げれば当然届く距離でもある。
何かを投げれば。問題は、その投げるのに適した物をジンが持っているという事だ。
「手出し出来へんやろ? わしは手榴弾持ってはるもんなぁ」
上位に立っていると認識している者の言い方である。アマネは何も言い返さない。ジンがそれを見て更に笑みを深くする。
「ええで? 襲いかかってきてみい? 出来んやろ? なんならペルソナ召喚したってええんやで?」
「……ふふ」
「何がおかしい」
「大丈夫。ちゃんと『覚えてる』」
ジンが持つ手榴弾が、安全ピンを抜いてから爆発するまでの時間。その数秒を思い出しながらアマネは、ビルの下で大型シャドウの観測をしている山岸を守るように待機している面々を確認した。
上空で爆破音がしたら確実に驚くだろうが誤魔化すしかない。こちらに気付いてやってくる前にこの場を立ち去るとかして。
そう考えたところで、ジンが動いた。
「そうやな。自分とアイツ等一緒に倒してしもうたほうが効率ええな」
「は、ジン――!?」
安全ピンを抜いた手榴弾が、ジンの手から離れてビルの下へと落ちていく。
ビルの下には残って待機しているSEESの皆がいて、例え手榴弾が落下しきる前に爆破したとしても爆風で窓などが割れて破片が落ちるだろう。シャドウを気にして周囲は警戒しているにしても、流石に頭上まで警戒している訳が無い。
「次会ったらぶん殴るからなぁあああ!」
駆け出して屋上の手摺りを飛び越え、手榴弾の後を追うように飛び降りる。頭上で『会えるモンならな!』とジンの笑い声が聞こえたので、殴る回数は一回で済まさない。絶対に。
落下しながらナイフを取り出して投げる。地上で気付いたらしい待機組が見上げているのが見えたが構っていられない。
投げたナイフが手榴弾へ当たり建物から遠ざける。しかしすぐに爆破したので然程意味は無かったかも知れない。
爆風に身体が押しやられる。ビルの壁にぶつかってバランスを崩し、壁にある出っ張りを掴んで落下速度を落とす事は出来てもあまりまともな受身が取れなかった。硬い地面に寝そべる事だけは回避したが、ぶつけた身体中が痛い。立ち上がりながら顔を上げる。
目の前に待機組の一人だった真田が立っていた。
「お前は……」
辰巳記念病院のチドリの病室で、真田に姿を見られたのはまだ記憶に新しい。パーカーは色違いだとはいえ殆ど似たような格好で、これで人違いだと思われることは無いだろう。
「怪我はぁ!」
「け、怪我は無いが、お前こそ平気なのか!?」
真田の背後では、同じく待機組だった岳羽とコロマルが山岸を守るように立っている。経験を考えれば丁度いい役割分担だなと思ったが、今はそんな事を考えている場合ではない。
周囲を見回せば爆破の影響でやはり窓が数箇所割れたり皹が入っていたりする様だが、それらが真田達を傷付けた様子は無かった。アマネの投げたナイフは少し離れた場所へ落ちている。買い換えたばかりだというのにどうも折れてしまっている様だ。
「お前はアキと一緒にいた奴だろう。まさかストレガか!?」
警戒心を強めて尋ねてくる真田に、返事を返すべきかどうかで悩む。ビルの上を見上げてもジンの姿は見えない。おそらく逃げたか。
舌打ちを零したいのを我慢して、真田を無視して落ちているナイフを拾いに向かう。
「おい! 話を――」
「する時間が無ぇ!」
腕を掴まれそうになったのを、腕を捻って振り切りフードの下から真田を見返す。振り切られると思っていなかったのか、驚く真田を無視してナイフの傍へ向かえば、今度は弓を番える音がした。
「動かないで。動いたら、撃つよ」
脅しとはいえシャドウでは無く人へ向けるのは初めてだろう。震えているのが離れていても分かる。
「それは人を傷付けるモンじゃねぇでしょう」
「それは、そうだけど」
「俺に貴方達を害するつもりはありません。ここはどうか見逃してください」
「はいそうですかと見逃せる訳が無いだろ。せめて名前を」
「荒垣さんが知ってます」
予想外の逢瀬にこの辺が収め処だろうが、当然真田達は納得しない。折れているナイフを拾い上げて鞘へ戻し、フードの縁を直して真田を振り返った。
「――今日は、『十月四日』です。真田先輩」
「――!?」
一礼して走り出すと後ろで呼び止める声がしたが、それに立ち止まっている時間は無い。真田達の後ろで大型シャドウを倒してきたのだろう有里達が戻ってくるのが見えたのだ。
『前』では大型シャドウを倒した後、アマネ達は一度寮へ戻ってしまった。そのタイムラグが無ければ、もう少し。
影時間で交通機関は何一つ動いていない。なので信号や車に阻まれることは無いと分かっていても、どうしてこんなに遠いんだと思ってしまう。
「―――――」
走りながら呟いた。何を言ったのか分からなかった。