ペルソナP3P
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「こんなに刃毀れしたモノを売られてもな」
「でも下手に捨てるよりはいいでしょう? 廃品回収に出すよりは懐が暖まりますし」
SEESとかち合わないように荒垣と情報交換を緻密に行い、タルタロスを繰り返して古くなったナイフを新調する為に交番へ行った。最近は少し気軽に話すようになった黒沢から新しいナイフを買い、交番を出たところで赤みかかった髪の女子高生とぶつかる。
交番に用のある女子高生がそうそう居る筈も無く、見下ろせばアマネが想像した通り『彼女』だった。
「すみませ――あ!」
謝る途中でアマネを見て声を上げ、何故かしっかりとアマネのパーカーの袖を握る。
「君! 荒垣さんと一緒に居た!」
「……放してもらえませんか」
「待って! 私君に……」
「交番の入り口で騒ぐなお前ら」
背後から黒沢が注意するのに『彼女』が慌てて謝っていた。だがアマネの服を掴む手は放さず、むしろそのまま逃がしまいとするかの様に拘束を強くする。
ああこれは駄目なパターンだと思った。ニッコリと微笑んだ『彼女』は案の定アマネを見上げてお願いしてくる。
「ここでちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
「嫌です」
「ありが――断らないでよ!」
「断ります。交番の前で待ってるなんてどんな不良ですか」
「君、不良なの?」
不良とは少し違うので、ここで不良だと言い切るのは憚られた。素直に待っていると嘘を吐いて『彼女』が入ったところで逃げれば良かったのかも知れない。だが『彼女』へそういう嘘を吐くのは何となく心が痛んだ。
ではどうしようかと次の手を考えていると、背後から『彼女』にとっての救いの声が聞こえる。
「交番の中に入れておけばいいだろ。ソイツも買ってるから見られても問題は無い」
「そうなんですか?」
「ああ」
SEESの面々には話すなという最初の頼みを忘れているのか。それともそんな事より交番の前で騒がれるのが嫌なのか。
おそらく後者だろうなと考えている間に、アマネは『彼女』によって再び交番内へ引きずり込まれた。目の前で『彼女』の手で閉められた戸に、この場合黒沢と自分の不運と『彼女』の勢いのどれを恨めばいいのだろう。少なくともアマネも武器を買っている事をばらした黒沢には、将来本庁の刑事になることは絶対に言わないと決める。
来た理由はアマネと同じくメンバーの皆の武器の新調だろう。実物を並べる訳にもいかず黒沢が取り出したリストを確認している『彼女』の後ろ姿を、アマネは手持ち無沙汰なまま眺めていた。
荒垣へ渡してくれと『彼女』が懐中時計を受け取って振り返る。ずっと待っていたアマネを偉いとでも思っているのかと聞きたくなるが、その前に腕を掴んで一緒に交番の外へと出る事になった。
「君、六月に風花のこと聞きに行った時に荒垣さんと一緒に居た子でしょ? 名前は?」
「……アマネ、です」
「アマネ、君ね! 私は『有里 奏』」
既に知っていたなんて言えない。有里は何が楽しいのか機嫌よく歩いている。
アマネの計画では『彼女』へ会うのはもう少し後、早くても十一月になってからを考えていた。幾月が桐条の当主を殺してしまうあの場では、確実に見られることになるからだ。
荒垣の場合は方法によっては見られずに済むだろう。見られたとしても荒垣に誤魔化してもらうことだって出来なくは無い。
「六月の事、ありがとうね。ちゃんと風花見つけられたよ」
「それは……良かったですね」
「やっぱり。アマネ君シャドウの事知ってるでしょ」
前を歩いていた有里が振り返る。
「風花が体育館倉庫に閉じ込められて居なくなった事、どうして知ってるのか不思議だった。でも今の言葉で確信したよ。アマネ君もシャドウを、タルタロスを知ってるんだね?」
「……荒垣さんから聞いただけですよ」
「嘘。だったら荒垣さんも教えてくれたと思う」
利発な人だ。リーダーとして頭の回転が早い人は好ましい。けれどこの場では好ましくなかった。
自分のミスだと分かっていても八つ当たりしたくなってしまう。『彼女』のことは、見守りはしていても性格や思考までは調べていない。だから尚更どう対応しようか悩んでしまうのだ。
「確かに、俺はタルタロスを知っています。でも、それと貴方に何の関係があるんです」
「無いよ?」
あっけらかんと返されて用意していた次の言葉が出せない。
「ただ聞いただけだよ。そんなに警戒しないでいいって」
「……SEESに勧誘されると思ってました」
「SEESの事も知ってるんだ? じゃあもしかしてストレガの事も?」
「――はい」
「物知りだね!」
それで済ます問題だろうか。
『彼女』は確実に『あの人』とは違う。性別も性格も雰囲気も。
けれどもやはり『立場』が同じだからアマネがそう先入観を持って見ているのか、あの人に似ている気がしてしまう。
そう考える事は二人に失礼だとも分かっている。少なくともアマネの『兄』に目の前の『彼女』は成り得ないし、させない。
しかしそれでも、この人と歩くのは落ち着く。
「お腹空いちゃった。アマネ君これから一緒に“はがくれ”どう?」
「……財布に余裕が無いので、その誘いはまた今度で」
「“また”話しかけてもいいんだね」
「ぅ……はい」
有里がアマネを見上げて嬉しそうに微笑んだ。
「でも下手に捨てるよりはいいでしょう? 廃品回収に出すよりは懐が暖まりますし」
SEESとかち合わないように荒垣と情報交換を緻密に行い、タルタロスを繰り返して古くなったナイフを新調する為に交番へ行った。最近は少し気軽に話すようになった黒沢から新しいナイフを買い、交番を出たところで赤みかかった髪の女子高生とぶつかる。
交番に用のある女子高生がそうそう居る筈も無く、見下ろせばアマネが想像した通り『彼女』だった。
「すみませ――あ!」
謝る途中でアマネを見て声を上げ、何故かしっかりとアマネのパーカーの袖を握る。
「君! 荒垣さんと一緒に居た!」
「……放してもらえませんか」
「待って! 私君に……」
「交番の入り口で騒ぐなお前ら」
背後から黒沢が注意するのに『彼女』が慌てて謝っていた。だがアマネの服を掴む手は放さず、むしろそのまま逃がしまいとするかの様に拘束を強くする。
ああこれは駄目なパターンだと思った。ニッコリと微笑んだ『彼女』は案の定アマネを見上げてお願いしてくる。
「ここでちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
「嫌です」
「ありが――断らないでよ!」
「断ります。交番の前で待ってるなんてどんな不良ですか」
「君、不良なの?」
不良とは少し違うので、ここで不良だと言い切るのは憚られた。素直に待っていると嘘を吐いて『彼女』が入ったところで逃げれば良かったのかも知れない。だが『彼女』へそういう嘘を吐くのは何となく心が痛んだ。
ではどうしようかと次の手を考えていると、背後から『彼女』にとっての救いの声が聞こえる。
「交番の中に入れておけばいいだろ。ソイツも買ってるから見られても問題は無い」
「そうなんですか?」
「ああ」
SEESの面々には話すなという最初の頼みを忘れているのか。それともそんな事より交番の前で騒がれるのが嫌なのか。
おそらく後者だろうなと考えている間に、アマネは『彼女』によって再び交番内へ引きずり込まれた。目の前で『彼女』の手で閉められた戸に、この場合黒沢と自分の不運と『彼女』の勢いのどれを恨めばいいのだろう。少なくともアマネも武器を買っている事をばらした黒沢には、将来本庁の刑事になることは絶対に言わないと決める。
来た理由はアマネと同じくメンバーの皆の武器の新調だろう。実物を並べる訳にもいかず黒沢が取り出したリストを確認している『彼女』の後ろ姿を、アマネは手持ち無沙汰なまま眺めていた。
荒垣へ渡してくれと『彼女』が懐中時計を受け取って振り返る。ずっと待っていたアマネを偉いとでも思っているのかと聞きたくなるが、その前に腕を掴んで一緒に交番の外へと出る事になった。
「君、六月に風花のこと聞きに行った時に荒垣さんと一緒に居た子でしょ? 名前は?」
「……アマネ、です」
「アマネ、君ね! 私は『有里 奏』」
既に知っていたなんて言えない。有里は何が楽しいのか機嫌よく歩いている。
アマネの計画では『彼女』へ会うのはもう少し後、早くても十一月になってからを考えていた。幾月が桐条の当主を殺してしまうあの場では、確実に見られることになるからだ。
荒垣の場合は方法によっては見られずに済むだろう。見られたとしても荒垣に誤魔化してもらうことだって出来なくは無い。
「六月の事、ありがとうね。ちゃんと風花見つけられたよ」
「それは……良かったですね」
「やっぱり。アマネ君シャドウの事知ってるでしょ」
前を歩いていた有里が振り返る。
「風花が体育館倉庫に閉じ込められて居なくなった事、どうして知ってるのか不思議だった。でも今の言葉で確信したよ。アマネ君もシャドウを、タルタロスを知ってるんだね?」
「……荒垣さんから聞いただけですよ」
「嘘。だったら荒垣さんも教えてくれたと思う」
利発な人だ。リーダーとして頭の回転が早い人は好ましい。けれどこの場では好ましくなかった。
自分のミスだと分かっていても八つ当たりしたくなってしまう。『彼女』のことは、見守りはしていても性格や思考までは調べていない。だから尚更どう対応しようか悩んでしまうのだ。
「確かに、俺はタルタロスを知っています。でも、それと貴方に何の関係があるんです」
「無いよ?」
あっけらかんと返されて用意していた次の言葉が出せない。
「ただ聞いただけだよ。そんなに警戒しないでいいって」
「……SEESに勧誘されると思ってました」
「SEESの事も知ってるんだ? じゃあもしかしてストレガの事も?」
「――はい」
「物知りだね!」
それで済ます問題だろうか。
『彼女』は確実に『あの人』とは違う。性別も性格も雰囲気も。
けれどもやはり『立場』が同じだからアマネがそう先入観を持って見ているのか、あの人に似ている気がしてしまう。
そう考える事は二人に失礼だとも分かっている。少なくともアマネの『兄』に目の前の『彼女』は成り得ないし、させない。
しかしそれでも、この人と歩くのは落ち着く。
「お腹空いちゃった。アマネ君これから一緒に“はがくれ”どう?」
「……財布に余裕が無いので、その誘いはまた今度で」
「“また”話しかけてもいいんだね」
「ぅ……はい」
有里がアマネを見上げて嬉しそうに微笑んだ。