ペルソナP3P
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
八月の満月の夜。旧陸軍の地下施設へ潜んでいる大型シャドウの現れる日。
アマネはいつも荒垣と一緒に居る時とは違う、わざわざ用意した『女物』のパーカーを着て召喚器を身に着けた。
以前山岸の件で裏路地に来ていた『彼女』達と遭遇する可能性がある以上、少しでも同一人物だと思われる要因は排除したかったのである。わざとらしいほどに女々しいデザインのパーカーは、普段であれば絶対に買わない。
それと交番で黒沢さんから買ったナイフを鞘へ収めてベルトへ掛ける。
時間は今出れば到着する頃にはちょうど影時間だろう。やはりこれもわざわざ用意した靴を玄関で履いたところで、部屋の中から物音がしてアマネは部屋の中を振り返った。
棚の上へ飾っておいたはずの仮面が、棚から床へと落ちている。
仮面は確かに不安定な角度で立てかけていたが、その前には他にも小物が置いてあったので落ちるにしたってその小物が先のはずだ。しかし戻って棚を確認すればそれが落ちている様子は無い。
怪奇現象かとふざける事も無くアマネは仮面を拾い上げ、仮面を戻そうとしてふと思い立ってその仮面を見下ろした。
「まぁ、顔は隠せるしなぁ」
顔へ装着して部屋の中を反射している窓を見る。仮面を付けたアマネはどこからどう見ても変人だが、服装のお陰で女性に見えなくも無い。試しにパーカーも被って伸ばしている髪も収納し、毛先だけを首筋から零れさせる。
少なくとも『荒垣と一緒に居た不良』には思えなかった。
一度仮面を外して確認し、アマネは結局それを持って行くことにする。変な仮面を持っていたところで、それよりもナイフを持っている時点で銃刀法違反なのだ。元より影時間になるまでは被らずにいればいいだけの事。
アパートを出ると少し湿気のある昼間の暑さがまだ残っている。時間を確認して旧陸軍施設のある方向へ急ぐ。
今日はSEESの前に始めてストレガのタカヤとジンが現れる日だ。同時にあの二人によってSEESが閉じ込められもする訳で。問題は無いのだと分かっていても助けずにはいられない。
地下施設の入り口は、元々陸軍の地下施設と言えど然程整備されておらず、むき出しの土壁と鉄柱ではなく木の柱が天井を支えている、廃墟と化した鉱山のようなところだ。
アマネが到着すると同時に影時間となったその場所で、既にタカヤがSEESのメンバー達へ言葉を投げかけていた。
「災いなど、常にあるもの。シャドウでなくとも、人が人を襲う。誰がどんな災いに見舞われるかなど、どのみち、分かりはしないのです」
『前』にも聞いたその言葉を否定出来る者はいない。以前否定したアマネはここにいて、SEESのメンバーは誰も言い返せなかったと記憶しているし、まだ若く経験だって少ない彼等にタカヤの言葉は毒だ。
経験が少ない故に否定出来る自信も無い。
お前だって経験は俺に比べれば殆ど無いくせに、なんて言ってやれたら随分とすっきりするだろうと思いながら、アマネは二人がSEESを閉じ込める為に隔壁を閉じて去っていくのを廃材の影へ隠れて見ていた。二人は閉じ込めるなんて大人気ない行為をしてそのまま去っていく。
と、思ったところでタカヤが足を止めた。
「……本当に貴方は私たちの敵のようですね」
「タカヤ?」
「出てきたら如何です」
ジンはともかくタカヤにはばれているなと、素直に廃材の影から出て行けば、ジンが驚きタカヤが笑う。相変わらず血色の悪い笑みだ。
「貴方も聞いていたでしょう? 我々の邪魔をするということは、貴方も力が消えてもいいのですか?」
「……生憎、あの塔が消えてもシャドウもペルソナも消えねぇよ」
「ほう?」
「災いに対して立ち向かうところまでがセットだと俺は思ってる。別に消えたってかまいやしねぇ。それが俺の意思でテメェ等にとっちゃ『身勝手』ってヤツなのかも知れねぇけど、だったら『テメェ等の目的が身勝手じゃねぇ証拠』を教えてくれよぉ」
『前』にこの場所で、アマネの考えを『偽善』たと言った彼等。しかし二人にも、この戦いにおいて正義など存在しない事を知っている。
二人にとって、ストレガにとってコレは自分達を傷付けた者達や世界への復讐なのだ。
人体実験の被験者として、誰にも救ってもらえず自力で逃げた被害者として。
とはいえそれも、アマネにとっては『身勝手』だ。
「『カワイソウ』なのが自分達だけだと思ってんじゃねぇぞぉ。それならいっそ『生きる事は素晴らしい!』とか叫べる努力でもしてみろぉ。このエセ哀れみ頂戴集団」
「なっ、……なんやねん自分!」
「テメェ等の苦労なんか知らねぇけど、テメェ等だって俺の苦労なんか知らねぇくせに」
「このっ――」
ジンが手榴弾を投げようとするのをタカヤが止める。アマネもタカヤが止めるだろうと思って挑発していたので、こっそりナイフの柄に添えていた手をわざと見せつけるように降ろした。
「貴方は、何を知っておいでで?」
「大切な人がいなくなる未来を」
脳裏に浮かんだのは『兄さん』だけではない。『今』はまだ一度も会っていない“友達”だって、アマネは失ってしまった一人だと考えている。
タカヤは暫くアマネを見つめていたが、一度息を吐き出すと色の悪い顔でいつもの笑みを浮かべた。ジンを促して歩き出すタカヤに、ジンが不満そうながらもついていく。
「なるべく、会う事の無いように願いたいですね」
「俺もそう思うぜぇ」
ストレガの二人が去った坑内で、アマネはさてと閉められた隔壁へと近付いて正面に立つ。この隔壁を挟んだ向こう側では『アマネを知らない』SEESの面々が大型シャドウを倒しに行っており、数人が残って待機しているはずだ。
無事に大型シャドウを倒し、影時間が終われば桐条が外へ連絡をして無事に出られるのだが。
「……放っておけなかったんだよなぁ」
誰にも聞こえないと分かっているからこそ苦笑気味に呟いて、アマネは持って来た仮面を顔へ装着した。それから扉の取っ手へと手を掛け、後ろへ体重を掛けるようにして引っ張る。
重く引き摺られる音とだんだん開いていく扉。人一人が抜けられるほど隙間を空けたところで中を見れば、驚いた様子の桐条や山岸、それからアイギスと目が合った。
正確には仮面越しなので目が合ったと認識はされていないかもしれない。
「っ、誰だ貴様は!?」
一拍置いて警戒心を露わにする桐条へ、アマネは抵抗の意思が無い事を示す為に両手を挙げる。途端に軋んで閉まっていきそうになった扉に、慌てて再び取っ手を掴んで引っ張った。一度ある程度まで引っ張ってしまえば閉まる様子の無くなった扉に満足し、アマネは緊張した面持ちでアマネを見ている桐条達を見回す。
喋ったら流石に声で分かってしまう。なので人差し指と親指を立てた手で、自分のこめかみを打つフリをしてみせてから、アマネは誰かが声を発する前に踵を返して走り出した。
「待ってください!」
アイギスの声に思わず足を緩めかけるが、自分を叱咤して走り続ける。『彼女』が居て『彼女』に呼ばれたら、確実に止まっていたかも知れない。止まって捕まって、そしたら台無しだ。
暫く走って、気付けば地下施設どころか自分の住んでいるアパートとは逆方向にまで来てしまっていた。かちりと動き出す秒針に影時間の終わりを知る。
人気のない遊歩道で立ち止まって仮面を外した。
今頃SEESは無事に大型シャドウを倒し、ストレガやアマネの事について話し合っているのだろうか。アマネまでストレガの一味だと思われていたらそれはそれで悔しいが、『幾月修司』は少し混乱するかもなと思うと少し笑えた。彼の覚えている脱走被験者でもないアマネの存在は、きっと興味をそそるものだろう。
しかもSEESを助けたとなれば、尚更。“アレ”は敵か味方か、それとも違う何かなのかと少しでも悩んで、ボロを出せばもっといい。十年近く周囲を誤魔化し続けていた奴なのでそう簡単にはいかないだろうが。
手に持った仮面に水滴が垂れる。それを指で払って顔をぬぐって、アマネは家へ帰る為に遊歩道を戻り始めた。
アマネはいつも荒垣と一緒に居る時とは違う、わざわざ用意した『女物』のパーカーを着て召喚器を身に着けた。
以前山岸の件で裏路地に来ていた『彼女』達と遭遇する可能性がある以上、少しでも同一人物だと思われる要因は排除したかったのである。わざとらしいほどに女々しいデザインのパーカーは、普段であれば絶対に買わない。
それと交番で黒沢さんから買ったナイフを鞘へ収めてベルトへ掛ける。
時間は今出れば到着する頃にはちょうど影時間だろう。やはりこれもわざわざ用意した靴を玄関で履いたところで、部屋の中から物音がしてアマネは部屋の中を振り返った。
棚の上へ飾っておいたはずの仮面が、棚から床へと落ちている。
仮面は確かに不安定な角度で立てかけていたが、その前には他にも小物が置いてあったので落ちるにしたってその小物が先のはずだ。しかし戻って棚を確認すればそれが落ちている様子は無い。
怪奇現象かとふざける事も無くアマネは仮面を拾い上げ、仮面を戻そうとしてふと思い立ってその仮面を見下ろした。
「まぁ、顔は隠せるしなぁ」
顔へ装着して部屋の中を反射している窓を見る。仮面を付けたアマネはどこからどう見ても変人だが、服装のお陰で女性に見えなくも無い。試しにパーカーも被って伸ばしている髪も収納し、毛先だけを首筋から零れさせる。
少なくとも『荒垣と一緒に居た不良』には思えなかった。
一度仮面を外して確認し、アマネは結局それを持って行くことにする。変な仮面を持っていたところで、それよりもナイフを持っている時点で銃刀法違反なのだ。元より影時間になるまでは被らずにいればいいだけの事。
アパートを出ると少し湿気のある昼間の暑さがまだ残っている。時間を確認して旧陸軍施設のある方向へ急ぐ。
今日はSEESの前に始めてストレガのタカヤとジンが現れる日だ。同時にあの二人によってSEESが閉じ込められもする訳で。問題は無いのだと分かっていても助けずにはいられない。
地下施設の入り口は、元々陸軍の地下施設と言えど然程整備されておらず、むき出しの土壁と鉄柱ではなく木の柱が天井を支えている、廃墟と化した鉱山のようなところだ。
アマネが到着すると同時に影時間となったその場所で、既にタカヤがSEESのメンバー達へ言葉を投げかけていた。
「災いなど、常にあるもの。シャドウでなくとも、人が人を襲う。誰がどんな災いに見舞われるかなど、どのみち、分かりはしないのです」
『前』にも聞いたその言葉を否定出来る者はいない。以前否定したアマネはここにいて、SEESのメンバーは誰も言い返せなかったと記憶しているし、まだ若く経験だって少ない彼等にタカヤの言葉は毒だ。
経験が少ない故に否定出来る自信も無い。
お前だって経験は俺に比べれば殆ど無いくせに、なんて言ってやれたら随分とすっきりするだろうと思いながら、アマネは二人がSEESを閉じ込める為に隔壁を閉じて去っていくのを廃材の影へ隠れて見ていた。二人は閉じ込めるなんて大人気ない行為をしてそのまま去っていく。
と、思ったところでタカヤが足を止めた。
「……本当に貴方は私たちの敵のようですね」
「タカヤ?」
「出てきたら如何です」
ジンはともかくタカヤにはばれているなと、素直に廃材の影から出て行けば、ジンが驚きタカヤが笑う。相変わらず血色の悪い笑みだ。
「貴方も聞いていたでしょう? 我々の邪魔をするということは、貴方も力が消えてもいいのですか?」
「……生憎、あの塔が消えてもシャドウもペルソナも消えねぇよ」
「ほう?」
「災いに対して立ち向かうところまでがセットだと俺は思ってる。別に消えたってかまいやしねぇ。それが俺の意思でテメェ等にとっちゃ『身勝手』ってヤツなのかも知れねぇけど、だったら『テメェ等の目的が身勝手じゃねぇ証拠』を教えてくれよぉ」
『前』にこの場所で、アマネの考えを『偽善』たと言った彼等。しかし二人にも、この戦いにおいて正義など存在しない事を知っている。
二人にとって、ストレガにとってコレは自分達を傷付けた者達や世界への復讐なのだ。
人体実験の被験者として、誰にも救ってもらえず自力で逃げた被害者として。
とはいえそれも、アマネにとっては『身勝手』だ。
「『カワイソウ』なのが自分達だけだと思ってんじゃねぇぞぉ。それならいっそ『生きる事は素晴らしい!』とか叫べる努力でもしてみろぉ。このエセ哀れみ頂戴集団」
「なっ、……なんやねん自分!」
「テメェ等の苦労なんか知らねぇけど、テメェ等だって俺の苦労なんか知らねぇくせに」
「このっ――」
ジンが手榴弾を投げようとするのをタカヤが止める。アマネもタカヤが止めるだろうと思って挑発していたので、こっそりナイフの柄に添えていた手をわざと見せつけるように降ろした。
「貴方は、何を知っておいでで?」
「大切な人がいなくなる未来を」
脳裏に浮かんだのは『兄さん』だけではない。『今』はまだ一度も会っていない“友達”だって、アマネは失ってしまった一人だと考えている。
タカヤは暫くアマネを見つめていたが、一度息を吐き出すと色の悪い顔でいつもの笑みを浮かべた。ジンを促して歩き出すタカヤに、ジンが不満そうながらもついていく。
「なるべく、会う事の無いように願いたいですね」
「俺もそう思うぜぇ」
ストレガの二人が去った坑内で、アマネはさてと閉められた隔壁へと近付いて正面に立つ。この隔壁を挟んだ向こう側では『アマネを知らない』SEESの面々が大型シャドウを倒しに行っており、数人が残って待機しているはずだ。
無事に大型シャドウを倒し、影時間が終われば桐条が外へ連絡をして無事に出られるのだが。
「……放っておけなかったんだよなぁ」
誰にも聞こえないと分かっているからこそ苦笑気味に呟いて、アマネは持って来た仮面を顔へ装着した。それから扉の取っ手へと手を掛け、後ろへ体重を掛けるようにして引っ張る。
重く引き摺られる音とだんだん開いていく扉。人一人が抜けられるほど隙間を空けたところで中を見れば、驚いた様子の桐条や山岸、それからアイギスと目が合った。
正確には仮面越しなので目が合ったと認識はされていないかもしれない。
「っ、誰だ貴様は!?」
一拍置いて警戒心を露わにする桐条へ、アマネは抵抗の意思が無い事を示す為に両手を挙げる。途端に軋んで閉まっていきそうになった扉に、慌てて再び取っ手を掴んで引っ張った。一度ある程度まで引っ張ってしまえば閉まる様子の無くなった扉に満足し、アマネは緊張した面持ちでアマネを見ている桐条達を見回す。
喋ったら流石に声で分かってしまう。なので人差し指と親指を立てた手で、自分のこめかみを打つフリをしてみせてから、アマネは誰かが声を発する前に踵を返して走り出した。
「待ってください!」
アイギスの声に思わず足を緩めかけるが、自分を叱咤して走り続ける。『彼女』が居て『彼女』に呼ばれたら、確実に止まっていたかも知れない。止まって捕まって、そしたら台無しだ。
暫く走って、気付けば地下施設どころか自分の住んでいるアパートとは逆方向にまで来てしまっていた。かちりと動き出す秒針に影時間の終わりを知る。
人気のない遊歩道で立ち止まって仮面を外した。
今頃SEESは無事に大型シャドウを倒し、ストレガやアマネの事について話し合っているのだろうか。アマネまでストレガの一味だと思われていたらそれはそれで悔しいが、『幾月修司』は少し混乱するかもなと思うと少し笑えた。彼の覚えている脱走被験者でもないアマネの存在は、きっと興味をそそるものだろう。
しかもSEESを助けたとなれば、尚更。“アレ”は敵か味方か、それとも違う何かなのかと少しでも悩んで、ボロを出せばもっといい。十年近く周囲を誤魔化し続けていた奴なのでそう簡単にはいかないだろうが。
手に持った仮面に水滴が垂れる。それを指で払って顔をぬぐって、アマネは家へ帰る為に遊歩道を戻り始めた。