ペルソナP3P
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荒垣と一緒に観光と称した散歩を始めて数時間。商店街にある神社で境内の裏にいた狐を目撃した後、愛家へ入って注文をして料理が来るのを待っている間に荒垣が尋ねてきたのは、アマネがこの市へ来た理由だった。
「確認したい事ってのは、確認できたのか」
「とりあえずは。あとは二年後にここへ来ればいい感じですかねぇ」
「ここじゃ何が起こるんだ?」
「殺人事件が起こります」
「……あ?」
グラスから水を飲んでいた荒垣が思わずといったように目を瞬かせる。わざと誤解を招くように言いはしたものの、全くの誤解でもないのが悲しいところだ。
「正確にはそうですね……タルタロスへ入れる力を持った人間が、周囲の人間をタルタロスへ押し込んで結果的に人が死にます」
「お前、そりゃ……」
「その後、似たような犯行が続きますがそれはこの町にいるペルソナ使いが解決していきます」
「この町にもペルソナ使いがいんのか」
「今はまだ。でも二年後には確実に」
注文したラーメンが来たので会話を中断する。
二年後には確実に現われるペルソナ使いこと『特捜隊』のメンバーは、二年前である今の段階ではその半数がこの町にいない。そしてペルソナ能力さえ持ってはいないのだ。
そんな異能がある事も知りはしない。
「だから巌戸台へ連れて帰って戦力に、なんて無理ですから」
ラーメンのチャーシューを摘んで言えば荒垣は心外だとばかりにアマネを睨む。きっとそんな戦力だなんて考えが気に入らなかったのだろう。
それが分かっていたから荒垣へ二年後に起こる未来の話を軽々しく話してしまっている訳だが、それもこれもタルタロスをどうにかしなければ意味の無い未来だ。だから実のところ、考えるには早すぎる事柄である。
「お前はその事件に、どう関わってたんだ?」
「最初は傍観者でした」
それだけ言って麺を啜った。
食べ終えて愛家を出ればまだ雨が降っている。安いビニール傘を開いて次は何処へ行こうかと歩き出し、だいだらの前を抜けて『前』にも何度かお世話になった堂島家へ続く道へと出た。
客が入っているのか分からないガソリンスタンドには店員が一人立っている。こんな雨の日にも大変だなと思いながらその店員を眺め、おかしい事に気付いて足を止めた。
寂れたガソリンスタンド。客は居ない。他の店員は建物の中でこまごまとした仕事をしたり寛いだりしている。雨が降っているので屋根のある場所へ逃げるのは当然だ。とはいえガソリンスタンドには大きい屋根があるが。
おかしいのは、その店員がじっとアマネを見つめている事だ。
「アマネ?」
荒垣が不思議そうに振り返る。目の合っていたガソリンスタンドの店員がアマネを見つめたまま微笑んだ。
「……あの人、シャドウだぁ」
アマネが傘を差したまま近付けば、その店員はアマネを見つめたまま笑みを深くする。
「こんにちは」
「こんにちは。……君は面白いものを持っているね」
それが何を指しているのかは分からなかったので首を傾げれば、店員はそっとアマネの腰にあったウォレットチェーンを指差した。
ベルトへ提げられているソレが指で指されて不愉快そうに揺れる。
「観光?」
「……そう。観光。アンタはぁ?」
「見ての通り仕事中だよ。客は少ないし結構暇だけれどね」
「……違う事をするのは」
「まぁ飽きてはいないからいいじゃない。それに人を眺めるのは楽しいしね」
「……楽しいだけかぁ?」
「楽しいだけ、と言ったら君はどうするんだい?」
「兄さんの手助けでもして欲しいなぁ。どうせアンタも大いなる封印の事は知ってんだろぉ?」
店員が笑みを深めた。
「もう少し駆け引きと言うものを学んだらどうかな。『大いなる全知の亜種』」
「駆け引きってのは対等な立場でこそ成立するモンだろぉ――『イザナミ』」
目の前の店員は確かに男性の姿をしている。けれども『彼女』は女性で、ガソリンスタンドの店員の格好をしながら決して全うな人間ではない。
この感覚をアマネは知っている。かつて死の宣告者だった『望月綾時』と同じその感覚を。
更にはイゴールやテオドア達三姉弟、昨夜の夢で見たイブリスやメティスへ非常に良く似ている。少なくとも、人の形をした人ではないナニカだ。
そして現段階で、アマネが名前だけを知っているのは『イザナミ』だけだった。半ば当てずっぽうだったその呼びかけは合っていたらしく、『イザナミ』は嬉しげに微笑む。
「久しぶりにその名で呼ばれたよ。やはり君は面白い」
「何故ここに?」
「言っただろう? 人を見るのが楽しくてね。いけないことかな?」
「そんなことは無ぇよ。ただ気になっただけで」
「そうかい? それにしては驚いていたね」
「普通シャドウがバイトしてたら驚くだろぉ」
「普通は私の正体へ気付かないだろうがね。まぁ、珍しいものが見れたからよしとしよう」
「アマネ」
荒垣へ呼ばれて振り返る。荒垣は不思議そうに傘を差してアマネを見ていた。
「何してんだ」
「何って……え」
『イザナミ』と話しているのだと言おうとして、正面に向きなおると『イザナミ』の姿は無い。ガソリンスタンドの店内にも『イザナミ』の姿は無く、アマネは思わず自分の頬を抓る。
痛い。
「……だから、自由跋扈し過ぎだろぉ」
居なくなってしまった『イザナミ』だけではなく、ペルソナとシャドウ全般へ向けて呟く。
降り続けていた雨は弱くなってきていた。
「確認したい事ってのは、確認できたのか」
「とりあえずは。あとは二年後にここへ来ればいい感じですかねぇ」
「ここじゃ何が起こるんだ?」
「殺人事件が起こります」
「……あ?」
グラスから水を飲んでいた荒垣が思わずといったように目を瞬かせる。わざと誤解を招くように言いはしたものの、全くの誤解でもないのが悲しいところだ。
「正確にはそうですね……タルタロスへ入れる力を持った人間が、周囲の人間をタルタロスへ押し込んで結果的に人が死にます」
「お前、そりゃ……」
「その後、似たような犯行が続きますがそれはこの町にいるペルソナ使いが解決していきます」
「この町にもペルソナ使いがいんのか」
「今はまだ。でも二年後には確実に」
注文したラーメンが来たので会話を中断する。
二年後には確実に現われるペルソナ使いこと『特捜隊』のメンバーは、二年前である今の段階ではその半数がこの町にいない。そしてペルソナ能力さえ持ってはいないのだ。
そんな異能がある事も知りはしない。
「だから巌戸台へ連れて帰って戦力に、なんて無理ですから」
ラーメンのチャーシューを摘んで言えば荒垣は心外だとばかりにアマネを睨む。きっとそんな戦力だなんて考えが気に入らなかったのだろう。
それが分かっていたから荒垣へ二年後に起こる未来の話を軽々しく話してしまっている訳だが、それもこれもタルタロスをどうにかしなければ意味の無い未来だ。だから実のところ、考えるには早すぎる事柄である。
「お前はその事件に、どう関わってたんだ?」
「最初は傍観者でした」
それだけ言って麺を啜った。
食べ終えて愛家を出ればまだ雨が降っている。安いビニール傘を開いて次は何処へ行こうかと歩き出し、だいだらの前を抜けて『前』にも何度かお世話になった堂島家へ続く道へと出た。
客が入っているのか分からないガソリンスタンドには店員が一人立っている。こんな雨の日にも大変だなと思いながらその店員を眺め、おかしい事に気付いて足を止めた。
寂れたガソリンスタンド。客は居ない。他の店員は建物の中でこまごまとした仕事をしたり寛いだりしている。雨が降っているので屋根のある場所へ逃げるのは当然だ。とはいえガソリンスタンドには大きい屋根があるが。
おかしいのは、その店員がじっとアマネを見つめている事だ。
「アマネ?」
荒垣が不思議そうに振り返る。目の合っていたガソリンスタンドの店員がアマネを見つめたまま微笑んだ。
「……あの人、シャドウだぁ」
アマネが傘を差したまま近付けば、その店員はアマネを見つめたまま笑みを深くする。
「こんにちは」
「こんにちは。……君は面白いものを持っているね」
それが何を指しているのかは分からなかったので首を傾げれば、店員はそっとアマネの腰にあったウォレットチェーンを指差した。
ベルトへ提げられているソレが指で指されて不愉快そうに揺れる。
「観光?」
「……そう。観光。アンタはぁ?」
「見ての通り仕事中だよ。客は少ないし結構暇だけれどね」
「……違う事をするのは」
「まぁ飽きてはいないからいいじゃない。それに人を眺めるのは楽しいしね」
「……楽しいだけかぁ?」
「楽しいだけ、と言ったら君はどうするんだい?」
「兄さんの手助けでもして欲しいなぁ。どうせアンタも大いなる封印の事は知ってんだろぉ?」
店員が笑みを深めた。
「もう少し駆け引きと言うものを学んだらどうかな。『大いなる全知の亜種』」
「駆け引きってのは対等な立場でこそ成立するモンだろぉ――『イザナミ』」
目の前の店員は確かに男性の姿をしている。けれども『彼女』は女性で、ガソリンスタンドの店員の格好をしながら決して全うな人間ではない。
この感覚をアマネは知っている。かつて死の宣告者だった『望月綾時』と同じその感覚を。
更にはイゴールやテオドア達三姉弟、昨夜の夢で見たイブリスやメティスへ非常に良く似ている。少なくとも、人の形をした人ではないナニカだ。
そして現段階で、アマネが名前だけを知っているのは『イザナミ』だけだった。半ば当てずっぽうだったその呼びかけは合っていたらしく、『イザナミ』は嬉しげに微笑む。
「久しぶりにその名で呼ばれたよ。やはり君は面白い」
「何故ここに?」
「言っただろう? 人を見るのが楽しくてね。いけないことかな?」
「そんなことは無ぇよ。ただ気になっただけで」
「そうかい? それにしては驚いていたね」
「普通シャドウがバイトしてたら驚くだろぉ」
「普通は私の正体へ気付かないだろうがね。まぁ、珍しいものが見れたからよしとしよう」
「アマネ」
荒垣へ呼ばれて振り返る。荒垣は不思議そうに傘を差してアマネを見ていた。
「何してんだ」
「何って……え」
『イザナミ』と話しているのだと言おうとして、正面に向きなおると『イザナミ』の姿は無い。ガソリンスタンドの店内にも『イザナミ』の姿は無く、アマネは思わず自分の頬を抓る。
痛い。
「……だから、自由跋扈し過ぎだろぉ」
居なくなってしまった『イザナミ』だけではなく、ペルソナとシャドウ全般へ向けて呟く。
降り続けていた雨は弱くなってきていた。