ペルソナP3P
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
腕を引っ張られる感覚に目を開けると『自分』が居た。
「……は?」
「おや、起きたのですか? ならばさっさと立ち上がれ」
ニコリと微笑む目の前の『自分』はアマネの手を掴んで起き上がらせようとしていて、その眼が金色であった事からその正体に気付く。
「……イブリス」
「そうだよ。ちなみにここは集合的無意識の間だ。テレビの中やベルベットルームと似た空間だが、お前が八十稲羽市へ来たから発動した仕掛け? みたいな?」
「お前の口調も説明も適当じゃねぇかぁ」
起き上がって周囲を見回せば、イブリスの言う『集合的無意識の間』とやらは何も無い真っ白な空間だった。とりあえずベルベットルームと同じだというのなら、アマネの身体は天城旅館の一室で寝ているのだろう。
そのことにだけは安心してイブリスを見れば、イブリスはアマネの腕を掴んだまま『アマネの姿』から『イブリスの姿』へと転換した。アマネの腕を掴んでいないほうの手で何処かを指差し、そちらへ向けて移動し始める。
導かれるまま進んだ先には、並ぶ鳥居による道が出来ていた。そこを進んでいけばだんだんと周囲に浮かんでくる霧に、テレビの中のような既視感を覚える。
その既視感は間違っていなかったらしい。鳥居の柱の向こうに寂れた様子の八十稲羽市が見えてきた。つまりここはテレビの中と同義なのだろう。二年前である今でもテレビの中へそんな場所がある理由は不明だが。
鳥居の並ぶ道をイブリスに導かれるままに進んでいけば、一際大きい鳥居の前に祭られている巨石の前へとたどり着いた。注連縄を掛けられ、鳥居の向こうへ行かせまいと阻むように置かれているその巨石の前には、『月森』のペルソナである『イザナギ』
いや、『イザナギ』ではない。
「……イザナギの本名は、伊耶那岐大神、だったなぁ」
巨石の前で座り込んでいたソレが立ち上がる。
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
ここへ『飛ばされる』前にも聞いた言葉。そのシャドウともペルソナともつかない存在は続ける。
『妻ヘ……会イタイ……』
思わず目を見開く程度には驚きの言葉だった。
ペルソナの姿や名前が神話からとられていることから古事記や日本書紀も調べていたが、『彼』は醜い妻に恐れをなして『逃げ帰った』者である。
岩を挟んで別離の宣言を行なった、最初の離縁者。
「……アンタはその為だけに、俺をここへ飛ばしたのかぁ?」
伊耶那岐大神はじっとアマネを見下ろしている。
しばらく睨むように見詰め合って、先に負けたのはアマネだった。
八十稲羽市であの事件が起こる直前ではなく、その更に前へ戻したのは伊耶那岐大神なりの『代価』だったのだろう。それではアマネはここに居る時点で、半強制的にその願いを叶えてやらなければならないということだが、アマネには強く断る事ができない。
だって気付いてしまったのだ。注連縄の張られた巨石の、その前へ居る伊耶那岐大神という意味に。
会いたいのだという思いに。
「……二年後。二年後の事件が起きる時までは自由にさせてもらう。でなけりゃこっちの約束を守る前に世界が滅んじまう可能性だってあるだろぉ」
納得したのかも分からない伊耶那岐大神を一瞥し、アマネは来た道を戻る為に踵を返す。途中で振り返れば伊耶那岐大神は巨石の前で、じっと何かを待つように座っていた。
二年後の、アマネが再び来る時まで。
もしくはこの世界の『月森』が来るまで、彼はずっとあの場所へ居るのだろうか。
まるで『湊さん』のようだと思ってしまった。
鳥居の道が深い霧に覆われ、気付けば見えたのは天城旅館の客室の天井。首をめぐらせて横を見れば、隣の布団では荒垣が向こうを向いて寝ている。
現実へ戻ってきたのかと思いながら起き上がり、枕元へ置いていたウォレットチェーンを手に取った。手の中で軽く弄びながら、見たばかりの夢とも言い切れない何かを思い出す。
イザナギの妻はおそらく『イザナミ』だろう。だが『会いたい』と告げられても、その『イザナミ』が何処へ居るのかも分からない。
「……ってか、お前ってもう俺のペルソナだろぉ? なんで自由跋扈してんだぁ?」
不思議に思ったことを尋ねてみても当然返事は無かった。荒垣が起きていたら変人だと思われそうなことは止めて、着替える為に布団を出る。
八十稲羽市へ来た理由は予想していない形で解決したので、もう少し気楽に行動は出来そうだ。とはいえ『イザナミ』を探すのは骨が折れそうである。
今頃『彼女』達は屋久島へ向かっているのだろう。そして『アイギス』と出会い『間違った真実』を教えられるのだ。破滅に繋がるその間違いを、アマネには正してやる事は出来ない。
その為に岳羽が泣いても、その為に自分達の手で破滅に近付いていっても。
荒垣が起きないので朝食の時間をギリギリまで遅くしてもらう。寝汚い訳ではないが抑制剤のせいの体温調節が上手くいかないのと、生まれつきの低血圧でいつも起きないのだ。
窓の外は観光には向かない生憎の雨で、夜まで降り続いていたらマヨナカテレビが見れそうだなと考えてちょっと笑った。
「……は?」
「おや、起きたのですか? ならばさっさと立ち上がれ」
ニコリと微笑む目の前の『自分』はアマネの手を掴んで起き上がらせようとしていて、その眼が金色であった事からその正体に気付く。
「……イブリス」
「そうだよ。ちなみにここは集合的無意識の間だ。テレビの中やベルベットルームと似た空間だが、お前が八十稲羽市へ来たから発動した仕掛け? みたいな?」
「お前の口調も説明も適当じゃねぇかぁ」
起き上がって周囲を見回せば、イブリスの言う『集合的無意識の間』とやらは何も無い真っ白な空間だった。とりあえずベルベットルームと同じだというのなら、アマネの身体は天城旅館の一室で寝ているのだろう。
そのことにだけは安心してイブリスを見れば、イブリスはアマネの腕を掴んだまま『アマネの姿』から『イブリスの姿』へと転換した。アマネの腕を掴んでいないほうの手で何処かを指差し、そちらへ向けて移動し始める。
導かれるまま進んだ先には、並ぶ鳥居による道が出来ていた。そこを進んでいけばだんだんと周囲に浮かんでくる霧に、テレビの中のような既視感を覚える。
その既視感は間違っていなかったらしい。鳥居の柱の向こうに寂れた様子の八十稲羽市が見えてきた。つまりここはテレビの中と同義なのだろう。二年前である今でもテレビの中へそんな場所がある理由は不明だが。
鳥居の並ぶ道をイブリスに導かれるままに進んでいけば、一際大きい鳥居の前に祭られている巨石の前へとたどり着いた。注連縄を掛けられ、鳥居の向こうへ行かせまいと阻むように置かれているその巨石の前には、『月森』のペルソナである『イザナギ』
いや、『イザナギ』ではない。
「……イザナギの本名は、伊耶那岐大神、だったなぁ」
巨石の前で座り込んでいたソレが立ち上がる。
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
ここへ『飛ばされる』前にも聞いた言葉。そのシャドウともペルソナともつかない存在は続ける。
『妻ヘ……会イタイ……』
思わず目を見開く程度には驚きの言葉だった。
ペルソナの姿や名前が神話からとられていることから古事記や日本書紀も調べていたが、『彼』は醜い妻に恐れをなして『逃げ帰った』者である。
岩を挟んで別離の宣言を行なった、最初の離縁者。
「……アンタはその為だけに、俺をここへ飛ばしたのかぁ?」
伊耶那岐大神はじっとアマネを見下ろしている。
しばらく睨むように見詰め合って、先に負けたのはアマネだった。
八十稲羽市であの事件が起こる直前ではなく、その更に前へ戻したのは伊耶那岐大神なりの『代価』だったのだろう。それではアマネはここに居る時点で、半強制的にその願いを叶えてやらなければならないということだが、アマネには強く断る事ができない。
だって気付いてしまったのだ。注連縄の張られた巨石の、その前へ居る伊耶那岐大神という意味に。
会いたいのだという思いに。
「……二年後。二年後の事件が起きる時までは自由にさせてもらう。でなけりゃこっちの約束を守る前に世界が滅んじまう可能性だってあるだろぉ」
納得したのかも分からない伊耶那岐大神を一瞥し、アマネは来た道を戻る為に踵を返す。途中で振り返れば伊耶那岐大神は巨石の前で、じっと何かを待つように座っていた。
二年後の、アマネが再び来る時まで。
もしくはこの世界の『月森』が来るまで、彼はずっとあの場所へ居るのだろうか。
まるで『湊さん』のようだと思ってしまった。
鳥居の道が深い霧に覆われ、気付けば見えたのは天城旅館の客室の天井。首をめぐらせて横を見れば、隣の布団では荒垣が向こうを向いて寝ている。
現実へ戻ってきたのかと思いながら起き上がり、枕元へ置いていたウォレットチェーンを手に取った。手の中で軽く弄びながら、見たばかりの夢とも言い切れない何かを思い出す。
イザナギの妻はおそらく『イザナミ』だろう。だが『会いたい』と告げられても、その『イザナミ』が何処へ居るのかも分からない。
「……ってか、お前ってもう俺のペルソナだろぉ? なんで自由跋扈してんだぁ?」
不思議に思ったことを尋ねてみても当然返事は無かった。荒垣が起きていたら変人だと思われそうなことは止めて、着替える為に布団を出る。
八十稲羽市へ来た理由は予想していない形で解決したので、もう少し気楽に行動は出来そうだ。とはいえ『イザナミ』を探すのは骨が折れそうである。
今頃『彼女』達は屋久島へ向かっているのだろう。そして『アイギス』と出会い『間違った真実』を教えられるのだ。破滅に繋がるその間違いを、アマネには正してやる事は出来ない。
その為に岳羽が泣いても、その為に自分達の手で破滅に近付いていっても。
荒垣が起きないので朝食の時間をギリギリまで遅くしてもらう。寝汚い訳ではないが抑制剤のせいの体温調節が上手くいかないのと、生まれつきの低血圧でいつも起きないのだ。
窓の外は観光には向かない生憎の雨で、夜まで降り続いていたらマヨナカテレビが見れそうだなと考えてちょっと笑った。