ペルソナP3P
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
風呂を出て、先に部屋へ戻った荒垣とは違い髪を乾かすのに手間取ったアマネは、部屋へ戻る途中にあったロビーのソファへ腰を降ろした。長風呂し過ぎて湯中りを起こしかけているのと、色々考えすぎて気分が沈んでいたからである。
この先どうすればいいのだろうとか、荒垣へ大見得張って『疑っていい』とか言ったくせに、もうそれを後悔している事とか、今からそんな状態でこの先大丈夫なのかとか、不安が今になって押し寄せてきた。
いっそのこと全部荒垣へ話してしまうとか、幾月を暗殺してしまうとか、幾月の計画を桐条へ全部バラしてしまえば、それはそれで楽だろう。少なくとも桐条当主の死亡フラグは消せる気がする。しかしそれでは、この世界の消滅フラグは消せやしない。
もう十年も前に始まってしまっていたソレを止める事はアマネにももう出来なかった。それは重々分かっている。分かっているからこそ変えてやろうと決めたのに。
「どうかなさいましたか、お客様」
ふと声を掛けられて振り返ると、旅館の手伝いをしていたのだろう少女がぎこちない微笑みを浮かべて立っていた。
「……湯中り、したみてぇで」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫」
天城は少し小首を傾げてからふと思いついたように自販機の元へ行き、何かを買ってアマネの元へと戻ってくる。
「どうぞ」
差し出された炭酸の缶に、どうしてこんな時に炭酸なんだと思ったものの、少し天然が入っている彼女の好意にそんな文句は言えなかった。受け取ってタブを開け、一口だけ飲めば思ったよりもサッパリする。
天然でも、優しいところは変わっていないらしい。
「……今、暇?」
「え?」
「暇なら少し話し相手になってもらえねぇかなぁ? 座って適当に相槌打つだけでいいから」
その優しさに甘えるように誘えば天城は戸惑ったようだが、やがてそろそろと向かいのソファへ腰を降ろした。
「学校楽しいかぁ?」
「……はい」
「俺も学生なんだけどさぁ、学校生活以外にどうしてもやりてぇっていうか、やらなくちゃいけねぇだろって思ってることがあるんだぁ」
「やりたい事?」
「君はやりたい事はあるかぁ?」
「……いえ」
「だろうなぁ。一人娘だからって女将じゃねぇ道もあるもんなぁ。道は無限に広がってる、ってなぁ」
「え……」
「でも俺の前の道は今のところ多分少なくなってんだろうなぁ。途中ゴールは決まってるからそこへ行く道筋を変えなけりゃならねぇ。……きっと君もやらなくちゃいけねぇだろって思う事が出来るから、そん時の参考にして欲しいけど、『そういう事』は一人じゃ何も出来ねぇ気がして仕方が無ぇよ」
天城は理解できないとばかりにアマネを見つめている。それにちょっと笑った。
「俺のしてぇ事は、きっと俺がやらずとも最悪それなりの結果を迎える事で、俺はそれをやりてぇと考えてた訳じゃなかった。ただチャンスを与えられたからやろうとしているだけで、多分俺が望むタイミングでそれを諦める事だって出来る。むしろ今、こんな辛いのならやめてしまえとも思わなくも無ぇ」
ただ、昔から誰もが言う通り『諦めるのは簡単』なのだ。そして一度諦めてしまえばそこで終わりでもある。諦めるのが遅ければ遅いほど、それは確定する。
そしておそらく、今の段階なら諦めてもいいのかもしれない。どうせアマネがいなくたって『彼女』が世界を救う。
なのに諦められない。それが辛い。
「兄さんを助けられない俺が言うのも何だけど、多分『彼女』も助けて欲しいなんて言わねぇんだと思う。じゃあ俺のやってる事は無駄でしかないのかなとか、皆にとって邪魔でしかない鬱陶しい行為なんじゃとか、こういう時思うんだよ。……でも、諦められねぇ俺は馬鹿だと思わねぇ?」
同意をして欲しいのか、否定して欲しいのかも分からなかった。ただ天城は真っ直ぐにアマネを見つめている。それにアマネは笑って立ち上がった。
「ゴメンなぁ。訳の分からねぇ愚痴を吐いちまってぇ。もう部屋へ帰るよ。ありがとう」
「……よく分からないんですけれど、頑張ってください」
立ち上がって部屋へ戻ろうと足を踏み出した姿勢のまま、座っている天城を振り返って見下ろす。天城は相変わらず臆することなく真っ直ぐにアマネを見つめていた。
いや、この場合比べている対象が『二年後』なので相変わらずというのはおかしいのか。ともかく昔から彼女は、話をするときはまっすぐ見つめる子だったのだろう。
明かりの殆どが消されているロビーで、自販機の冷蔵機能の音が鈍く低く響いていた。アマネ達以外には誰も居ない。消灯時間が近いからそれも当然なのだろう。
「頑張ってください。貴方のその頑張りは、きっと誰かが見てると思います」
安い雑誌の広告部分にでも載っていそうな言葉だ。けれどもアマネは天城へと笑いかけた。
今のアマネの『頑張り』を見ているのは荒垣だろうか。それともアマネを『飛ばした』犯人か、それとも。
「……ありがとう。『天城』」
礼を言って歩き出す。貰った缶ジュースは廊下を歩きながら、ゆっくり歩く言い訳として丁度良かった。それでも到着してしまった宿泊している部屋の中では、荒垣が窓際に座っている。
アマネが帰ってきたことに気付いて視線を寄越した彼へ、アマネは持っていた缶を軽く握り潰した。
この先どうすればいいのだろうとか、荒垣へ大見得張って『疑っていい』とか言ったくせに、もうそれを後悔している事とか、今からそんな状態でこの先大丈夫なのかとか、不安が今になって押し寄せてきた。
いっそのこと全部荒垣へ話してしまうとか、幾月を暗殺してしまうとか、幾月の計画を桐条へ全部バラしてしまえば、それはそれで楽だろう。少なくとも桐条当主の死亡フラグは消せる気がする。しかしそれでは、この世界の消滅フラグは消せやしない。
もう十年も前に始まってしまっていたソレを止める事はアマネにももう出来なかった。それは重々分かっている。分かっているからこそ変えてやろうと決めたのに。
「どうかなさいましたか、お客様」
ふと声を掛けられて振り返ると、旅館の手伝いをしていたのだろう少女がぎこちない微笑みを浮かべて立っていた。
「……湯中り、したみてぇで」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫」
天城は少し小首を傾げてからふと思いついたように自販機の元へ行き、何かを買ってアマネの元へと戻ってくる。
「どうぞ」
差し出された炭酸の缶に、どうしてこんな時に炭酸なんだと思ったものの、少し天然が入っている彼女の好意にそんな文句は言えなかった。受け取ってタブを開け、一口だけ飲めば思ったよりもサッパリする。
天然でも、優しいところは変わっていないらしい。
「……今、暇?」
「え?」
「暇なら少し話し相手になってもらえねぇかなぁ? 座って適当に相槌打つだけでいいから」
その優しさに甘えるように誘えば天城は戸惑ったようだが、やがてそろそろと向かいのソファへ腰を降ろした。
「学校楽しいかぁ?」
「……はい」
「俺も学生なんだけどさぁ、学校生活以外にどうしてもやりてぇっていうか、やらなくちゃいけねぇだろって思ってることがあるんだぁ」
「やりたい事?」
「君はやりたい事はあるかぁ?」
「……いえ」
「だろうなぁ。一人娘だからって女将じゃねぇ道もあるもんなぁ。道は無限に広がってる、ってなぁ」
「え……」
「でも俺の前の道は今のところ多分少なくなってんだろうなぁ。途中ゴールは決まってるからそこへ行く道筋を変えなけりゃならねぇ。……きっと君もやらなくちゃいけねぇだろって思う事が出来るから、そん時の参考にして欲しいけど、『そういう事』は一人じゃ何も出来ねぇ気がして仕方が無ぇよ」
天城は理解できないとばかりにアマネを見つめている。それにちょっと笑った。
「俺のしてぇ事は、きっと俺がやらずとも最悪それなりの結果を迎える事で、俺はそれをやりてぇと考えてた訳じゃなかった。ただチャンスを与えられたからやろうとしているだけで、多分俺が望むタイミングでそれを諦める事だって出来る。むしろ今、こんな辛いのならやめてしまえとも思わなくも無ぇ」
ただ、昔から誰もが言う通り『諦めるのは簡単』なのだ。そして一度諦めてしまえばそこで終わりでもある。諦めるのが遅ければ遅いほど、それは確定する。
そしておそらく、今の段階なら諦めてもいいのかもしれない。どうせアマネがいなくたって『彼女』が世界を救う。
なのに諦められない。それが辛い。
「兄さんを助けられない俺が言うのも何だけど、多分『彼女』も助けて欲しいなんて言わねぇんだと思う。じゃあ俺のやってる事は無駄でしかないのかなとか、皆にとって邪魔でしかない鬱陶しい行為なんじゃとか、こういう時思うんだよ。……でも、諦められねぇ俺は馬鹿だと思わねぇ?」
同意をして欲しいのか、否定して欲しいのかも分からなかった。ただ天城は真っ直ぐにアマネを見つめている。それにアマネは笑って立ち上がった。
「ゴメンなぁ。訳の分からねぇ愚痴を吐いちまってぇ。もう部屋へ帰るよ。ありがとう」
「……よく分からないんですけれど、頑張ってください」
立ち上がって部屋へ戻ろうと足を踏み出した姿勢のまま、座っている天城を振り返って見下ろす。天城は相変わらず臆することなく真っ直ぐにアマネを見つめていた。
いや、この場合比べている対象が『二年後』なので相変わらずというのはおかしいのか。ともかく昔から彼女は、話をするときはまっすぐ見つめる子だったのだろう。
明かりの殆どが消されているロビーで、自販機の冷蔵機能の音が鈍く低く響いていた。アマネ達以外には誰も居ない。消灯時間が近いからそれも当然なのだろう。
「頑張ってください。貴方のその頑張りは、きっと誰かが見てると思います」
安い雑誌の広告部分にでも載っていそうな言葉だ。けれどもアマネは天城へと笑いかけた。
今のアマネの『頑張り』を見ているのは荒垣だろうか。それともアマネを『飛ばした』犯人か、それとも。
「……ありがとう。『天城』」
礼を言って歩き出す。貰った缶ジュースは廊下を歩きながら、ゆっくり歩く言い訳として丁度良かった。それでも到着してしまった宿泊している部屋の中では、荒垣が窓際に座っている。
アマネが帰ってきたことに気付いて視線を寄越した彼へ、アマネは持っていた缶を軽く握り潰した。