ペルソナP3P
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住んでいたアパートを見に行ったところで帰らなければ夕食の時間に間に合わなくなり、急いで帰れば部屋へ夕食が運ばれているところだった。
部屋の中だからか旅先だからかコートもニット帽も脱いでいた荒垣は、けれどもまだ温泉に行ったり浴衣に着替えたりはしていない。
「寛いでて良かったのに」
「充分寛いでたぜ」
そうは見えない、と言おうと思ったが、運ばれてきた食事に心なしうきうきとしている様子の荒垣に、その言葉を信じることにする。
名物にしようと動いているせいかメインはビフテキだった。荒垣が何か言いたげな顔をしたのでそのことを教えれば、もっと他のものがあるだろうにと呆れている。
何が怖いかというとこの市には酪農や養鶏場などが無く、ビフテキの材料である肉はこの町で作られているものではない可能性があることと、商店街にある店のビフテキ串は実際に牛肉を使われているのか怪しいということだろう。
流石にそれは言わないことにした。
ゆっくり食べるようにと配慮しつつ、少しずつ運ばれてくる料理も終わりに近付いた頃、自分で淹れたお茶を飲んだ荒垣が口を開く。
「で、ここへはなんで来たんだ」
「俺自身が少し気になることがあったので」
「それはテメェの知ってる『未来』に関する事なのか」
「……俺が『知っている』未来は三年後の春先まで。その春の最後に起こった事の確認、といえばいいんですか」
小鉢の佃煮を摘む。
「正直オレはテメェがどうしてそこまで知ってるのかはどうでもいいが、テメェが何をしようとしてるのかは気になってる。テメェに付いて来たのだって、見てねえところで何をしてんのかが気になったからだ」
「それは最初にも聞きました。何がしてぇのか知りたいってのも、俺を見張ってるのも。そして俺はその両方にちゃんと答えてるつもりです」
「だが隠してることはある、だろ」
持っていた小鉢と箸を置いて荒垣を見た。
荒垣は疑いの目をしている。完全にではないところへ甘さなのか優しさなのか分からない気遣いを感じるが、正直アマネはその甘さを向ける相手を間違えていると思った。
いっそのことアマネを『敵』だと認識してしまえば、アマネだって彼のことを敵だと認識できるから楽なのに。それが出来ないからアマネは彼を『助けたい』とほざくのだろうけれど。
「貴方だって、天田に復讐されることを望んでいた事を、黙っていたじゃねぇですか」
荒垣が目を見開くのに、アマネの脳裏で『最後に見た』荒垣の表情が思い出される。
天田を庇ってストレガのタカヤの凶弾に倒れ、命を落とした荒垣は実のところペルソナ抑制の為の抑制剤の副作用でそう長くない命だったらしい。
先の見える命を荒垣はおそらく天田の為に使おうとした。その結果があれであった事は、果たして良かったのかどうかもアマネには判断が付いていない。唯一つ言える事はアマネも荒垣も、それから『湊さん』も『命を差し出せる馬鹿』だったと言うことだろう。
アマネはそのどちらにも残された立場で、二人は満足そうに目を閉じていた。
「……隠してることがあるのが気に食わねぇとしても、それは俺が悪ぃんでいいです。でも荒垣さん。『誰にも言えねぇ悩みが人にはあることぐらい、アンタには分かるでしょう』?」
『前』にも荒垣へ言ったことのある言葉を繰り返す。アマネがまだ荒垣と天田の関係を知らなかった頃、荒垣がアマネの様子から隠していることがあると気付いた後に、裏路地で話したことだ。
思えばあの時の荒垣の行動から、アマネは荒垣を認めたような気がする。少なくとも素を晒そうと思えたのはあの時だ。
アマネ自身はあの時の延長のように荒垣を『信じられる』が、荒垣は絶対にそうはいかない。そういかなくて当然だ。アマネと彼は経験している時間からして違うのだから。
「疑ってください。真田先輩や天田の為に俺を疑って敵視して監視してください。納得がいくまでそうしてくださって結構です」
「……それで、テメェは誰を『信頼』するんだよ」
荒垣の問いには、咄嗟に答えられなかった。
仲居がデザートを運んできて部屋の中の空気の悪さに戸惑っている。内心で申し訳ないと思いつつアマネは全く味の覚えられないデザートを片付けた。
食後、就寝前にもう一度外へ行くかどうかで悩んだが、荒垣が食事の時の気まずい空気など無かったかのように風呂へ誘ってきたので、誘われるままに浴場へ向かう。
時間ごとに男女が変わる風呂は丁度男が露天で、更に運がいいのか悪いのか他の客が居なかった。湯の中へ身体を沈めて空を見上げれば、夏の星座が辰巳ポートアイランドよりも綺麗に見える。
もう少し周囲の木々を整理すれば、それなりに売りになるだろうにと思った。近くにプラネタリウムでも建設されればもう少し賑わうだろう。
しかしどうせ、二年後には不穏な理由で有名になるかと考えるのをやめた。
荒垣はまだ髪を洗っている。アマネはそっと赤みのある右肩を撫でてから、湯船の縁へ腕を掛けて額を押し付けた。
部屋の中だからか旅先だからかコートもニット帽も脱いでいた荒垣は、けれどもまだ温泉に行ったり浴衣に着替えたりはしていない。
「寛いでて良かったのに」
「充分寛いでたぜ」
そうは見えない、と言おうと思ったが、運ばれてきた食事に心なしうきうきとしている様子の荒垣に、その言葉を信じることにする。
名物にしようと動いているせいかメインはビフテキだった。荒垣が何か言いたげな顔をしたのでそのことを教えれば、もっと他のものがあるだろうにと呆れている。
何が怖いかというとこの市には酪農や養鶏場などが無く、ビフテキの材料である肉はこの町で作られているものではない可能性があることと、商店街にある店のビフテキ串は実際に牛肉を使われているのか怪しいということだろう。
流石にそれは言わないことにした。
ゆっくり食べるようにと配慮しつつ、少しずつ運ばれてくる料理も終わりに近付いた頃、自分で淹れたお茶を飲んだ荒垣が口を開く。
「で、ここへはなんで来たんだ」
「俺自身が少し気になることがあったので」
「それはテメェの知ってる『未来』に関する事なのか」
「……俺が『知っている』未来は三年後の春先まで。その春の最後に起こった事の確認、といえばいいんですか」
小鉢の佃煮を摘む。
「正直オレはテメェがどうしてそこまで知ってるのかはどうでもいいが、テメェが何をしようとしてるのかは気になってる。テメェに付いて来たのだって、見てねえところで何をしてんのかが気になったからだ」
「それは最初にも聞きました。何がしてぇのか知りたいってのも、俺を見張ってるのも。そして俺はその両方にちゃんと答えてるつもりです」
「だが隠してることはある、だろ」
持っていた小鉢と箸を置いて荒垣を見た。
荒垣は疑いの目をしている。完全にではないところへ甘さなのか優しさなのか分からない気遣いを感じるが、正直アマネはその甘さを向ける相手を間違えていると思った。
いっそのことアマネを『敵』だと認識してしまえば、アマネだって彼のことを敵だと認識できるから楽なのに。それが出来ないからアマネは彼を『助けたい』とほざくのだろうけれど。
「貴方だって、天田に復讐されることを望んでいた事を、黙っていたじゃねぇですか」
荒垣が目を見開くのに、アマネの脳裏で『最後に見た』荒垣の表情が思い出される。
天田を庇ってストレガのタカヤの凶弾に倒れ、命を落とした荒垣は実のところペルソナ抑制の為の抑制剤の副作用でそう長くない命だったらしい。
先の見える命を荒垣はおそらく天田の為に使おうとした。その結果があれであった事は、果たして良かったのかどうかもアマネには判断が付いていない。唯一つ言える事はアマネも荒垣も、それから『湊さん』も『命を差し出せる馬鹿』だったと言うことだろう。
アマネはそのどちらにも残された立場で、二人は満足そうに目を閉じていた。
「……隠してることがあるのが気に食わねぇとしても、それは俺が悪ぃんでいいです。でも荒垣さん。『誰にも言えねぇ悩みが人にはあることぐらい、アンタには分かるでしょう』?」
『前』にも荒垣へ言ったことのある言葉を繰り返す。アマネがまだ荒垣と天田の関係を知らなかった頃、荒垣がアマネの様子から隠していることがあると気付いた後に、裏路地で話したことだ。
思えばあの時の荒垣の行動から、アマネは荒垣を認めたような気がする。少なくとも素を晒そうと思えたのはあの時だ。
アマネ自身はあの時の延長のように荒垣を『信じられる』が、荒垣は絶対にそうはいかない。そういかなくて当然だ。アマネと彼は経験している時間からして違うのだから。
「疑ってください。真田先輩や天田の為に俺を疑って敵視して監視してください。納得がいくまでそうしてくださって結構です」
「……それで、テメェは誰を『信頼』するんだよ」
荒垣の問いには、咄嗟に答えられなかった。
仲居がデザートを運んできて部屋の中の空気の悪さに戸惑っている。内心で申し訳ないと思いつつアマネは全く味の覚えられないデザートを片付けた。
食後、就寝前にもう一度外へ行くかどうかで悩んだが、荒垣が食事の時の気まずい空気など無かったかのように風呂へ誘ってきたので、誘われるままに浴場へ向かう。
時間ごとに男女が変わる風呂は丁度男が露天で、更に運がいいのか悪いのか他の客が居なかった。湯の中へ身体を沈めて空を見上げれば、夏の星座が辰巳ポートアイランドよりも綺麗に見える。
もう少し周囲の木々を整理すれば、それなりに売りになるだろうにと思った。近くにプラネタリウムでも建設されればもう少し賑わうだろう。
しかしどうせ、二年後には不穏な理由で有名になるかと考えるのをやめた。
荒垣はまだ髪を洗っている。アマネはそっと赤みのある右肩を撫でてから、湯船の縁へ腕を掛けて額を押し付けた。