ペルソナP3P
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『シャドウには幾つもの不思議な能力がある。研究によれば、それは時間や空間にさえ干渉するものらしい』
かつて聞いた言葉を思い出しながら、アマネはポロニアンモールの路地奥にある青い扉へと手を掛けた。
ドアを開けた先は一面青で染められた部屋で、窓の向こうの光景は下へ下へと移動している。部屋には幾つかの青い扉と青い服を着た男性。それに椅子へ座る鼻の高い老人。
後ろ手にドアを閉めながら、アマネはその老人を真っ直ぐに見つめて曖昧な笑みを浮かべた。
「……久しぶり。イゴール」
老人が伏せていた視線を上げ、アマネを見て笑みを浮かべる。
「はてさて、久しぶりと言いますべきか初めましてと言いますべきか。ようこそベルベットルームへ」
ベルベットルーム。
深層たる心の海へと繋がる部屋なのか、それとも全く違う何かなのか、未だにアマネはこの部屋の事を上手く説明出来ない。本来であれば『ワイルド』の契約者しか入れないはずの、異空間じみた部屋。
その主であるイゴールは、向かいの椅子へアマネが座るのを見てから、いつものように目を伏せた。
「何とも奇妙な経験をなされましたな」
「……やっぱり知ってんのかぁ」
平行世界へ『飛んだ』アマネ。しかしそのアマネを『知っている』イゴール。となればこの部屋は平行世界間での干渉を受けていないと仮定できる。つまりこの部屋は平行世界の同じ部屋ではなく、今までにも来たことがある部屋なのだろう。
故にイゴールもアマネの知る人物で、今までアマネが経験した事や、アマネが話したこともきっと覚えている相手だ。
「……アンタに会えて、少し嬉しいよ」
そう言えばイゴールが僅かに視線を上げる。
イゴールの横に控えている男性は、そんな気軽にイゴールと話しているアマネを見て戸惑いを浮かべているようだった。凄く何処かで見たような気がするが覚えは無い。エリザベスやマーガレットと同じ、エレベーターボーイの格好をしている彼は、やはり二人に似ている。
「この者はテオドア。エリザベスとマーガレットの弟で、今のお客人のパートナーでもあります」
「へぇ、あの二人の弟かぁ」
「あの、姉上達をご存知で?」
ぎこちなく尋ねてくる声にも覚えがあるがやはり思い出せず、ただの既視感的なものだろうと思い直した。
「俺は斑鳩 周。 アンタの姉二人とも知り合いだぁ。マーガレットは元気かぁ?」
「はい。エリザベス姉上もご存知なのですか?」
「うん。彼女がここを出て行った理由も、一応知ってる」
「そうですか……失礼ですが、前に何処かでお会いした事がありましたか?」
「? 無かったと思うけどぉ?」
アマネが答えればテオドアは釈然としないものの納得したらしい。互いに既視感を覚えているのは偶然だろうか。
椅子へだらしなく座り直せばテオドアがお茶を淹れてくれた。礼を言って一口飲んだら思ったより淹れるのが上手である。
そんな事はどうでもよく、アマネはカップを置いて俯いているイゴールへ向き直った。
「俺がこの世界へ『飛ばされた』あの日、俺の目の前には月森のペルソナが居たんだぁ。でも『月森の為』にあそこへ居た風でもなかった」
「さて、私はそれを見ておりませんので」
「シャドウが、時間や空間に干渉出来るらしいってのは、あのテレビの中っていう『空間』や時が止まってる『影時間』で立証済みだとして、ペルソナもそんな事が出来るのかぁ?」
「貴方様は一つ、勘違いをしておられるようですな」
「勘違い?」
イゴールが上目遣いに見上げてくる。
「“アレ”は、まだペルソナではございませんでしょう」
じっと見つめてくる視線から顔を逸らさずに、アマネはイゴールの言葉の意味について考えて目を見開いた。
月森のペルソナの姿をしていたからペルソナだと考えていたが、そういえば光へ包まれる直前、イザナギの姿が変わっていたように思う。おおまかな形は同じだが、確実に違う姿へ。
しかしとなれば、『アレ』は何だったのか。
「……あれは、アメノサギリとかと同じ、シャドウだったってのかぁ?」
イゴールは答えない。
「だとすりゃあの場所で、テレビの中が侵食してきたみてぇにまだ何かが起こる可能性があったってことかぁ……? なぁ、月森はあの日もうあの町を出て行く予定だったんだぞぉ。なのにあの町じゃまだ事件が起こるかも知れなかったのかよぉ!?」
思わず立ち上がってイゴールを睨みつけながら怒鳴る。テオドアが脇でおろおろとしているのが視界の端に映っていたが、気を利かせてはやれなかった。
だってそうだとするのなら、あの町はまだ何かしらの脅威へ晒されているという事になる。一年を過ごして連続殺人事件や誘拐未遂事件を解決して、やっと平穏になった筈なのに。
考え直せば謎が残っている事に気付く。アメノサギリがペルソナ能力を授けた中に月森はいなかった。生田目がテレビの中へ入れる能力を持っていた事も、足立さんがテレビの中へ入れられる能力を持っていた事も、改めて考えればアメノサギリの言葉とは矛盾している。
あの三人は、テレビに入る前から『テレビへ入れる能力』を有していた。つまりあの三人に関しては、『与えた存在が違う』のだ。
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
イザナギもどきが言っていた言葉を思い出す。アレはアマネが『大いなる全知の亜種』だということを知っていた。月森には話していないから、よく考えれば月森のペルソナであったなら知らない筈だろう。
つまりアマネは、最初から勘違いしていた。アレはイザナギの姿を借りるなりそう見えるようにしてなりしてきた、ペルソナではない『何か』だったのである。
かつて聞いた言葉を思い出しながら、アマネはポロニアンモールの路地奥にある青い扉へと手を掛けた。
ドアを開けた先は一面青で染められた部屋で、窓の向こうの光景は下へ下へと移動している。部屋には幾つかの青い扉と青い服を着た男性。それに椅子へ座る鼻の高い老人。
後ろ手にドアを閉めながら、アマネはその老人を真っ直ぐに見つめて曖昧な笑みを浮かべた。
「……久しぶり。イゴール」
老人が伏せていた視線を上げ、アマネを見て笑みを浮かべる。
「はてさて、久しぶりと言いますべきか初めましてと言いますべきか。ようこそベルベットルームへ」
ベルベットルーム。
深層たる心の海へと繋がる部屋なのか、それとも全く違う何かなのか、未だにアマネはこの部屋の事を上手く説明出来ない。本来であれば『ワイルド』の契約者しか入れないはずの、異空間じみた部屋。
その主であるイゴールは、向かいの椅子へアマネが座るのを見てから、いつものように目を伏せた。
「何とも奇妙な経験をなされましたな」
「……やっぱり知ってんのかぁ」
平行世界へ『飛んだ』アマネ。しかしそのアマネを『知っている』イゴール。となればこの部屋は平行世界間での干渉を受けていないと仮定できる。つまりこの部屋は平行世界の同じ部屋ではなく、今までにも来たことがある部屋なのだろう。
故にイゴールもアマネの知る人物で、今までアマネが経験した事や、アマネが話したこともきっと覚えている相手だ。
「……アンタに会えて、少し嬉しいよ」
そう言えばイゴールが僅かに視線を上げる。
イゴールの横に控えている男性は、そんな気軽にイゴールと話しているアマネを見て戸惑いを浮かべているようだった。凄く何処かで見たような気がするが覚えは無い。エリザベスやマーガレットと同じ、エレベーターボーイの格好をしている彼は、やはり二人に似ている。
「この者はテオドア。エリザベスとマーガレットの弟で、今のお客人のパートナーでもあります」
「へぇ、あの二人の弟かぁ」
「あの、姉上達をご存知で?」
ぎこちなく尋ねてくる声にも覚えがあるがやはり思い出せず、ただの既視感的なものだろうと思い直した。
「俺は斑鳩 周。 アンタの姉二人とも知り合いだぁ。マーガレットは元気かぁ?」
「はい。エリザベス姉上もご存知なのですか?」
「うん。彼女がここを出て行った理由も、一応知ってる」
「そうですか……失礼ですが、前に何処かでお会いした事がありましたか?」
「? 無かったと思うけどぉ?」
アマネが答えればテオドアは釈然としないものの納得したらしい。互いに既視感を覚えているのは偶然だろうか。
椅子へだらしなく座り直せばテオドアがお茶を淹れてくれた。礼を言って一口飲んだら思ったより淹れるのが上手である。
そんな事はどうでもよく、アマネはカップを置いて俯いているイゴールへ向き直った。
「俺がこの世界へ『飛ばされた』あの日、俺の目の前には月森のペルソナが居たんだぁ。でも『月森の為』にあそこへ居た風でもなかった」
「さて、私はそれを見ておりませんので」
「シャドウが、時間や空間に干渉出来るらしいってのは、あのテレビの中っていう『空間』や時が止まってる『影時間』で立証済みだとして、ペルソナもそんな事が出来るのかぁ?」
「貴方様は一つ、勘違いをしておられるようですな」
「勘違い?」
イゴールが上目遣いに見上げてくる。
「“アレ”は、まだペルソナではございませんでしょう」
じっと見つめてくる視線から顔を逸らさずに、アマネはイゴールの言葉の意味について考えて目を見開いた。
月森のペルソナの姿をしていたからペルソナだと考えていたが、そういえば光へ包まれる直前、イザナギの姿が変わっていたように思う。おおまかな形は同じだが、確実に違う姿へ。
しかしとなれば、『アレ』は何だったのか。
「……あれは、アメノサギリとかと同じ、シャドウだったってのかぁ?」
イゴールは答えない。
「だとすりゃあの場所で、テレビの中が侵食してきたみてぇにまだ何かが起こる可能性があったってことかぁ……? なぁ、月森はあの日もうあの町を出て行く予定だったんだぞぉ。なのにあの町じゃまだ事件が起こるかも知れなかったのかよぉ!?」
思わず立ち上がってイゴールを睨みつけながら怒鳴る。テオドアが脇でおろおろとしているのが視界の端に映っていたが、気を利かせてはやれなかった。
だってそうだとするのなら、あの町はまだ何かしらの脅威へ晒されているという事になる。一年を過ごして連続殺人事件や誘拐未遂事件を解決して、やっと平穏になった筈なのに。
考え直せば謎が残っている事に気付く。アメノサギリがペルソナ能力を授けた中に月森はいなかった。生田目がテレビの中へ入れる能力を持っていた事も、足立さんがテレビの中へ入れられる能力を持っていた事も、改めて考えればアメノサギリの言葉とは矛盾している。
あの三人は、テレビに入る前から『テレビへ入れる能力』を有していた。つまりあの三人に関しては、『与えた存在が違う』のだ。
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
イザナギもどきが言っていた言葉を思い出す。アレはアマネが『大いなる全知の亜種』だということを知っていた。月森には話していないから、よく考えれば月森のペルソナであったなら知らない筈だろう。
つまりアマネは、最初から勘違いしていた。アレはイザナギの姿を借りるなりそう見えるようにしてなりしてきた、ペルソナではない『何か』だったのである。