ペルソナP3P
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そこの君」
「はい?」
男女が揃って無気力症になる噂が流れ始めた六月末。廊下を歩いていたら呼び止められた。
もうすぐ次の満月が来るので、その日の出来事を思い出しながらどうやって監視しようかと悩んでいたので、振り返った先にいた生徒会の先輩に声を掛けられた理由は全く分からない。
確か副会長だったなと思いながらアマネを呼び止めた小田桐へ向き直る。この人も『湊さん』と交流があった人で、多分『今』も生徒会の雑用をするようになった『彼女』と交流があるのだろう。
小田桐は振り返ったアマネに、顔をしかめながら軽く睨んできた。
「校内で煙草の喫煙をした生徒を探してるんだが、何か知らないか」
なんでそれを自分へ聞いて来るんだ、とは聞き返せない。
おそらく原因はアマネが伸ばしている髪だろう。男の癖に髪を伸ばしているなんて、という考えがある事も、髪を伸ばしているイコール不良と思われがちである事も理解はしている。
しかしアマネの場合不良だから伸ばしている訳ではないし、月光館学園の校則には男子が髪を伸ばしてはいけないというものも無い。あったとしても生徒会長からまず率先して規定の制服を崩しているのでそちらを注意して欲しかった。
とりあえず不良と勘違いされている、もしくはあまり真面目な生徒ではないと思われているのかと判断し、アマネはあえて真剣さを滲ませながら首をかしげる。
「……いつ煙草を吸ったのかも知らねぇのでなんとも。でも先輩が犯人を捜してると知ったら、バレねぇように持込みをやめるかからかう為にわざともっと煙草を持ち歩いたりするんじゃねぇですか?」
真面目に答えたのに小田桐は変な顔をした。
「君は……」
「小田桐! テメェまた突っ走ってんのか!」
小田桐の後ろから聞こえた柄の悪い声に、見覚えの無い男子生徒がやってきて小田桐のわき腹を突く。
見た目より痛そうだったそれへ小田桐がわき腹を押さえるのに、走ってきた男子生徒は無視してアマネへと顔を向けた。
「悪いな。コイツちょっと正義感強えんだよ」
「いえ」
「錦君、いつもわき腹を突くなと何度も」
「お前が『不良っぽい』ってだけで尋問すんの止めたら止めてやるよ」
錦、というのが苗字なのか名前なのか分からないが、とりあえず名前に『錦』が入るらしいその先輩は、金髪に近い髪の色をした目付きの悪い人である。下手すればアマネよりも荒垣よりも目付きが悪い。
「煙草吸った犯人の事は知らないんだろ? つかお前一年か。じゃあ尚更知らねえか」
「煙草を吸った生徒がいることは、同じクラスの伏見さんから聞いてます」
「なにお前、伏見と同じクラスか」
「はい」
『前』にはこんな人と知り合った覚えは無かったが、もしかしたら『前』にも居たのだろうと思いながら頷く。こういった微妙な差異はあまり気に留めないようにしていた。
逐一気にしていても仕方ない事だってある。その最たるものが今のところ『風紀財団』や『並盛町』だが、学校が休みにならなければ調べる余裕が無い。それについてはおいおい調べるつもりだが、それ以外の細やかな部分を全て確認していたら、一年という期間はあっという間に過ぎてしまうだろう。ただでさえ足りないだろう時間を、そんな事に費やしてはたまったものではない。
ガリガリと頭を掻いて何か考えているようだった錦は、まだわき腹を押さえている小田桐へと顔を向けた。
「とりあえず小田桐生徒会室戻れよ。会長探してたから」
「錦君も来るんだぞ」
「わぁーってる」
去っていく小田桐を見送って、何となく去る事も出来ず立ち尽くしていたアマネへ錦が振り返る。
「お前も不良に思われたくなかったら髪切れよ」
「……そういう先輩はどうなんですか」
「オレのコレは地毛だ。色素薄いんだ」
「弟とお揃いなんです」
「弟不良か? つか仲良いな」
「弟の髪はもう伸びませんが」
言外に弟が『いない』ことを滲ませて言えば、錦は何か言いかけて止めた。
嘘は言っていないが髪を伸ばしている言い訳にココディーロの事を言う度に、罪悪感はある。その罪悪感からの落ち込む雰囲気も含めて、勝手に勘違いしてくれるのでそこはありがたいが。
「さっきのアイツのこと、悪く思わないでくれ。ちょっと……まぁちょっとじゃねえんだけど正義感が強くてな。どうにも空回りしちまうヤツなんだよ」
「友達なんですか」
「同じ生徒会ってだけでクラスも違う。けど、……悪いヤツじゃねえしな」
「悪い人じゃねぇって事は、見てれば分かりますよ」
ただの『悪い人』なら、多分『湊さん』と交流する事はなかっただろう。もしそうだったとしても、『そういう人が居てはいけない』なんて事も無い。
錦がもう一度アマネを見た。目付きが悪くて睨まれているようだが、自分も釣り眼で目付きが悪い方だと思っているので、アマネは文句を言わない。言ったところで治せるものでもなし、相手を不快にさせるだけだ。
「お前、変な奴だな」
なのでそう言われて、やっぱり言ってやろうかと思ったことは内緒である。
「はい?」
男女が揃って無気力症になる噂が流れ始めた六月末。廊下を歩いていたら呼び止められた。
もうすぐ次の満月が来るので、その日の出来事を思い出しながらどうやって監視しようかと悩んでいたので、振り返った先にいた生徒会の先輩に声を掛けられた理由は全く分からない。
確か副会長だったなと思いながらアマネを呼び止めた小田桐へ向き直る。この人も『湊さん』と交流があった人で、多分『今』も生徒会の雑用をするようになった『彼女』と交流があるのだろう。
小田桐は振り返ったアマネに、顔をしかめながら軽く睨んできた。
「校内で煙草の喫煙をした生徒を探してるんだが、何か知らないか」
なんでそれを自分へ聞いて来るんだ、とは聞き返せない。
おそらく原因はアマネが伸ばしている髪だろう。男の癖に髪を伸ばしているなんて、という考えがある事も、髪を伸ばしているイコール不良と思われがちである事も理解はしている。
しかしアマネの場合不良だから伸ばしている訳ではないし、月光館学園の校則には男子が髪を伸ばしてはいけないというものも無い。あったとしても生徒会長からまず率先して規定の制服を崩しているのでそちらを注意して欲しかった。
とりあえず不良と勘違いされている、もしくはあまり真面目な生徒ではないと思われているのかと判断し、アマネはあえて真剣さを滲ませながら首をかしげる。
「……いつ煙草を吸ったのかも知らねぇのでなんとも。でも先輩が犯人を捜してると知ったら、バレねぇように持込みをやめるかからかう為にわざともっと煙草を持ち歩いたりするんじゃねぇですか?」
真面目に答えたのに小田桐は変な顔をした。
「君は……」
「小田桐! テメェまた突っ走ってんのか!」
小田桐の後ろから聞こえた柄の悪い声に、見覚えの無い男子生徒がやってきて小田桐のわき腹を突く。
見た目より痛そうだったそれへ小田桐がわき腹を押さえるのに、走ってきた男子生徒は無視してアマネへと顔を向けた。
「悪いな。コイツちょっと正義感強えんだよ」
「いえ」
「錦君、いつもわき腹を突くなと何度も」
「お前が『不良っぽい』ってだけで尋問すんの止めたら止めてやるよ」
錦、というのが苗字なのか名前なのか分からないが、とりあえず名前に『錦』が入るらしいその先輩は、金髪に近い髪の色をした目付きの悪い人である。下手すればアマネよりも荒垣よりも目付きが悪い。
「煙草吸った犯人の事は知らないんだろ? つかお前一年か。じゃあ尚更知らねえか」
「煙草を吸った生徒がいることは、同じクラスの伏見さんから聞いてます」
「なにお前、伏見と同じクラスか」
「はい」
『前』にはこんな人と知り合った覚えは無かったが、もしかしたら『前』にも居たのだろうと思いながら頷く。こういった微妙な差異はあまり気に留めないようにしていた。
逐一気にしていても仕方ない事だってある。その最たるものが今のところ『風紀財団』や『並盛町』だが、学校が休みにならなければ調べる余裕が無い。それについてはおいおい調べるつもりだが、それ以外の細やかな部分を全て確認していたら、一年という期間はあっという間に過ぎてしまうだろう。ただでさえ足りないだろう時間を、そんな事に費やしてはたまったものではない。
ガリガリと頭を掻いて何か考えているようだった錦は、まだわき腹を押さえている小田桐へと顔を向けた。
「とりあえず小田桐生徒会室戻れよ。会長探してたから」
「錦君も来るんだぞ」
「わぁーってる」
去っていく小田桐を見送って、何となく去る事も出来ず立ち尽くしていたアマネへ錦が振り返る。
「お前も不良に思われたくなかったら髪切れよ」
「……そういう先輩はどうなんですか」
「オレのコレは地毛だ。色素薄いんだ」
「弟とお揃いなんです」
「弟不良か? つか仲良いな」
「弟の髪はもう伸びませんが」
言外に弟が『いない』ことを滲ませて言えば、錦は何か言いかけて止めた。
嘘は言っていないが髪を伸ばしている言い訳にココディーロの事を言う度に、罪悪感はある。その罪悪感からの落ち込む雰囲気も含めて、勝手に勘違いしてくれるのでそこはありがたいが。
「さっきのアイツのこと、悪く思わないでくれ。ちょっと……まぁちょっとじゃねえんだけど正義感が強くてな。どうにも空回りしちまうヤツなんだよ」
「友達なんですか」
「同じ生徒会ってだけでクラスも違う。けど、……悪いヤツじゃねえしな」
「悪い人じゃねぇって事は、見てれば分かりますよ」
ただの『悪い人』なら、多分『湊さん』と交流する事はなかっただろう。もしそうだったとしても、『そういう人が居てはいけない』なんて事も無い。
錦がもう一度アマネを見た。目付きが悪くて睨まれているようだが、自分も釣り眼で目付きが悪い方だと思っているので、アマネは文句を言わない。言ったところで治せるものでもなし、相手を不快にさせるだけだ。
「お前、変な奴だな」
なのでそう言われて、やっぱり言ってやろうかと思ったことは内緒である。