ペルソナP3P
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校門前で二年の女子生徒が倒れていた事件が起きた。それから主に二年生の間で広まり始めた噂に、アマネは次の満月が近付いてきた事を悟る。
噂の内容は、二年生の苛められていた生徒が死に、その怨霊が苛めていた女子生徒を襲ったというものだ。この噂の中で真実は『苛められていた生徒がいる』という一点しかないが、それを知る者は今のところ当事者達かアマネだけである。もしかしたらノートを読んでいる荒垣も分かっているだろうが、重要でも無いのでそこはどうでもいい。
「俺が覚えてる限りじゃ、担任が保身を図って行方不明の生徒を病気で休んでるって事にしてたんですよ」
「最低だな」
「いやまぁそれは確か桐条せん……生徒会長が何か罰則をしていた筈です」
不良の溜まり場であるポートアイランド駅前の裏路地で、階段へ腰を降ろしている荒垣から少し離れた場所でアマネはパーカーのフードを深く被る。情報収集の為に『彼女』達が路地裏へ来る筈なので、まだ顔を見られては困るのだ。
ガーゼマスクとかでも良かったのに、と思わなくも無いが、つい買い忘れてしまったので仕方が無い。それでも暗い中でフードを被っていれば少しは違うと信じたかった。
タイミング良く表通りに近い場所が騒がしくなる。
荒垣が立ち上がるのに後を付いていけば、不良に囲まれた月光館の制服を着た三人組。やはり制服で来たのかという気持ちと、本当に勇気があるなという呆れが浮かぶ。伊織は殴られたのか倒れている。
「その辺でいいだろ」
アマネの先を歩いていた荒垣が前へ出れば、不良の意識が荒垣へと向いた。荒垣は強いので手助けは必要ないだろうとアマネは動かない。
案の定荒垣へ殴りかかった不良が返り討ちに遭い、周りにいた不良達も気がそがれた様子でこの場を離れていった。粋がっている割には自分より強いものへ挑もうという気概は、ただの不良にはそうそう無いものだ。
「帰れ。お前らの来るトコじゃねぇ」
「待って!」
去っていった不良達を眺めていれば岳羽が荒垣へ話しかける。校門前で倒れていた女子生徒の話と、その女子生徒達へ苛められていた『山岸風花』へ関する噂。
全てを知っているアマネとしては胸糞の悪い話だとしか思えない。苛める女子生徒達も隠蔽する教師も、全部知っているくせに言わない自分も。
知っているのはそのくらいだと締め括った荒垣に、三人が礼を言って路地裏を出て行こうとするのを、アマネは少し距離を開けて付いて行く。『彼女』が不思議そうにアマネを振り返っていた。
裏路地を出た場所でフードを深く被り直し、駅へ向かう三人の後を付いて行く。気味が悪そうに伊織と岳羽が何度もアマネのことを振り返っていたが、アマネはその視線を無視して後ろを確かめた。
『前』とは違って女子が二人に男子が一人で、しかもその男子もあまり喧嘩慣れしていない伊織だったので不安だったのである。案の定路地を出た辺りで隠れていた不良が、舌打ちをして路地へ戻っていくのが見え、やっぱり待ち伏せしていたかと思った。
駅から電車へ乗ってしまえば流石に不良も追いかけはしないだろうと、駅へ三人が入っていくのを確認してアマネは踵を返す。
「待って!」
聞こえた声に足を止めれば、缶ジュースを二本持った『彼女』がアマネへ向かって走ってくるところで。
「その、不良に襲われない様に送ってくれたんでしょう? これ、お礼」
差し出された缶ジュースは、駅の中の自販機で急いで買ったのだろう。『彼女』が走ってきたのに対し、缶ジュースが二本とも炭酸飲料であったことにいささか不安を覚えたが、感謝の印である事には代わりが無いので受け取る。
「ありがとうね」
「……殴られた彼、ちゃんと冷やさないと痣になる」
「え、あ、順平のことか。分かった」
「……“山岸風花”は、体育館倉庫に閉じ込められた後行方不明になってる。閉じ込めた相手に話を聞くといい」
「え?」
「俺が言えることはそれだけ。……頑張って」
『彼女』が何を言うよりも早く歩き出した。後ろから付いてくる気配は無い事を確かめて、再び裏路地へと向かう。
詳細を喋り過ぎた気がした。アマネが言った事は今のタイミングでは当事者である苛めっ子しか知らない内容だ。なのにそれを知っているということに、違和感を抱えられなければいいが。
そうでなくともあまり言葉を交わして、声や話し方を覚えてもらいたくは無い。アマネの予定ではまだ『彼女』達にアマネの存在を知られたくは無いのだ。
それにしても。
「頑張って、なんて白々しい……」
自嘲して裏路地へ戻れば不良の姿は少なくなっていた。その奥のいつもの階段へ座っていた荒垣の隣へ腰を降ろし、『彼女』から貰った缶ジュースを差し出す。
荒垣は横目でそれを見ただけで何も言わない。フードを外して膝を抱え、顔を埋めた。
初めて喋ったのだと思い出して少しだけおかしくなる。性格は『彼女』の方が明るいようで、良いことだというのにそれが少し寂しいと思ってしまうのは、アマネが求めている相手が『あの人』だからだ。
とりあえず、“山岸風花”が無事に助けられればいい。
噂の内容は、二年生の苛められていた生徒が死に、その怨霊が苛めていた女子生徒を襲ったというものだ。この噂の中で真実は『苛められていた生徒がいる』という一点しかないが、それを知る者は今のところ当事者達かアマネだけである。もしかしたらノートを読んでいる荒垣も分かっているだろうが、重要でも無いのでそこはどうでもいい。
「俺が覚えてる限りじゃ、担任が保身を図って行方不明の生徒を病気で休んでるって事にしてたんですよ」
「最低だな」
「いやまぁそれは確か桐条せん……生徒会長が何か罰則をしていた筈です」
不良の溜まり場であるポートアイランド駅前の裏路地で、階段へ腰を降ろしている荒垣から少し離れた場所でアマネはパーカーのフードを深く被る。情報収集の為に『彼女』達が路地裏へ来る筈なので、まだ顔を見られては困るのだ。
ガーゼマスクとかでも良かったのに、と思わなくも無いが、つい買い忘れてしまったので仕方が無い。それでも暗い中でフードを被っていれば少しは違うと信じたかった。
タイミング良く表通りに近い場所が騒がしくなる。
荒垣が立ち上がるのに後を付いていけば、不良に囲まれた月光館の制服を着た三人組。やはり制服で来たのかという気持ちと、本当に勇気があるなという呆れが浮かぶ。伊織は殴られたのか倒れている。
「その辺でいいだろ」
アマネの先を歩いていた荒垣が前へ出れば、不良の意識が荒垣へと向いた。荒垣は強いので手助けは必要ないだろうとアマネは動かない。
案の定荒垣へ殴りかかった不良が返り討ちに遭い、周りにいた不良達も気がそがれた様子でこの場を離れていった。粋がっている割には自分より強いものへ挑もうという気概は、ただの不良にはそうそう無いものだ。
「帰れ。お前らの来るトコじゃねぇ」
「待って!」
去っていった不良達を眺めていれば岳羽が荒垣へ話しかける。校門前で倒れていた女子生徒の話と、その女子生徒達へ苛められていた『山岸風花』へ関する噂。
全てを知っているアマネとしては胸糞の悪い話だとしか思えない。苛める女子生徒達も隠蔽する教師も、全部知っているくせに言わない自分も。
知っているのはそのくらいだと締め括った荒垣に、三人が礼を言って路地裏を出て行こうとするのを、アマネは少し距離を開けて付いて行く。『彼女』が不思議そうにアマネを振り返っていた。
裏路地を出た場所でフードを深く被り直し、駅へ向かう三人の後を付いて行く。気味が悪そうに伊織と岳羽が何度もアマネのことを振り返っていたが、アマネはその視線を無視して後ろを確かめた。
『前』とは違って女子が二人に男子が一人で、しかもその男子もあまり喧嘩慣れしていない伊織だったので不安だったのである。案の定路地を出た辺りで隠れていた不良が、舌打ちをして路地へ戻っていくのが見え、やっぱり待ち伏せしていたかと思った。
駅から電車へ乗ってしまえば流石に不良も追いかけはしないだろうと、駅へ三人が入っていくのを確認してアマネは踵を返す。
「待って!」
聞こえた声に足を止めれば、缶ジュースを二本持った『彼女』がアマネへ向かって走ってくるところで。
「その、不良に襲われない様に送ってくれたんでしょう? これ、お礼」
差し出された缶ジュースは、駅の中の自販機で急いで買ったのだろう。『彼女』が走ってきたのに対し、缶ジュースが二本とも炭酸飲料であったことにいささか不安を覚えたが、感謝の印である事には代わりが無いので受け取る。
「ありがとうね」
「……殴られた彼、ちゃんと冷やさないと痣になる」
「え、あ、順平のことか。分かった」
「……“山岸風花”は、体育館倉庫に閉じ込められた後行方不明になってる。閉じ込めた相手に話を聞くといい」
「え?」
「俺が言えることはそれだけ。……頑張って」
『彼女』が何を言うよりも早く歩き出した。後ろから付いてくる気配は無い事を確かめて、再び裏路地へと向かう。
詳細を喋り過ぎた気がした。アマネが言った事は今のタイミングでは当事者である苛めっ子しか知らない内容だ。なのにそれを知っているということに、違和感を抱えられなければいいが。
そうでなくともあまり言葉を交わして、声や話し方を覚えてもらいたくは無い。アマネの予定ではまだ『彼女』達にアマネの存在を知られたくは無いのだ。
それにしても。
「頑張って、なんて白々しい……」
自嘲して裏路地へ戻れば不良の姿は少なくなっていた。その奥のいつもの階段へ座っていた荒垣の隣へ腰を降ろし、『彼女』から貰った缶ジュースを差し出す。
荒垣は横目でそれを見ただけで何も言わない。フードを外して膝を抱え、顔を埋めた。
初めて喋ったのだと思い出して少しだけおかしくなる。性格は『彼女』の方が明るいようで、良いことだというのにそれが少し寂しいと思ってしまうのは、アマネが求めている相手が『あの人』だからだ。
とりあえず、“山岸風花”が無事に助けられればいい。