「……『前』より高けぇなぁ」
「凄くね？ お前凄くね？」

壁へ張り出された中間試験の結果を見て、佐藤がアマネの肩を掴んで揺さぶっている。人間関係の距離感がどうなっているのか分からないが、アマネとしては彼のそういった言動には『慣れている』ので気にしないことにした。
それより嬉しいのは、佐藤の順位が『前』よりも上がっている事である。『前』より佐藤と知り合ったタイミングが早かったからか、その分親しくなるのも早かったので勉強を見始めるタイミングも早かった。
これも諸々が全体的に早まった事による結果、なのだろう。

「これでお小遣いアップ的な？ りせちーの新曲欲しかったんだよなー」
「問題はこれを維持出来るかだろぉ？」
「そーいう事を今日くらいは言わないで！ 帰りにお祝いでワック行こうぜ。奢るから」

機嫌よく肩をバシバシと叩いてくる佐藤に、他の人の名前も探したいからと言って先に教室へ戻ってもらう。学年の違う試験の順位表を見上げて、探していた名前を見つけた。
苗字だけが同じで下の名前は違うものだが、見ずにはいられなかったのだ。
アマネ以外の誰も、その人の名前を知らないし、中間試験だって受けていないから名前が載っているなんて事はありえない。けれどもアマネの記憶にある『前』ではいつも上位に名を連ねていた。

「……頑張っても、頭は撫でてもらえないんですよね」

口の中で転がすように呟く。廊下の先から試験結果を見に来たのだろう『彼女』に気付いて、アマネはそっとその場を離れた。生徒でごった返していたから『彼女』がアマネに気付く事は無い。
教室に戻れば佐藤がクラスメイトに順位を自慢していた。それを聞いていたクラスメイトの一人が話をアマネへ向けてきたので、正直に一位だったことを告げれば佐藤をよく自慢できるなとからかう。
そういえば、『前』よりも佐藤以外のクラスメイトとも仲良くしている気がした。これも『前』とは違ってちゃんと四月から学校へ来ていたからか。

「……放課後、佐藤がワック奢ってくれるってぇ」
「え！？ マジ？ いいな！ おれも」
「オレもオレも！」
「ちょっ、勉強教えてくれた斑鳩だけに決まってんでしょ！ なんでお前等まで奢んなくちゃなんねえの！？」
「えーケチ」
「まぁ皆でワック行こうぜ？ オレ斑鳩に教えてもらいたいトコあったんだよ」
「マージーメー」

少し離れた場所で生徒会書記をやっている伏見が騒いでいるコチラを眺めていた。目が合うと恥ずかしげに顔を逸らされる。まだ彼女とは仲良くない。