ペルソナ3
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結局、大型シャドウを倒しても荒垣が来る事は無く、作戦自体は終わったのだから寮へ戻ろうという段階になってやっと、真田が何かを思い出したようにしながら二人を探しにと走っていった。
今日が十月四日である事をしきりに気にしてはいたけれど、アマネに思い付く事は無い。
影時間が空けるのはまだ先だ。寮へ戻って作戦室へ帰ってきても、荒垣も天田も姿は無かった。理事長の姿も既に無い。
「あれ、まだ誰も戻ってないんだ」
「つか、真田さん、様子ヘンだったよな。今日はどうなってんだ? 十月四日って、なんかの日だっけか?」
皆にお茶でも淹れようかと思ったが、まだ影時間でガス台が動かない事を思い出た。アマネが手持ち無沙汰にしゃがんでコロマルを撫でようとしたところで、美鶴が叫ぶ。
「十月四日……しまった、そうか! 作戦に気を取られすぎて思い至らなかった。今日は、天田の母親の命日だ!」
「命日……?」
唐突な情報にその言葉を繰り返すだけしか出来ない伊織を気にせず、美鶴は山岸へと振り返った。
「山岸、急いで荒垣と天田の居場所を突き止めてくれ。二人一緒に居る可能性がある。明彦も、多分そう気付いたんだ」
「わ、分かりました」
慌てて山岸がペルソナを召喚し荒垣達の居場所を捜索し始める。
腕を組んでその結果を待つ美鶴へ、控えめに岳羽がどういう事かと尋ねた。それはこの場に居る全員の気持ちの代弁だったに違いない。岳羽が聞かなければアマネが聞いていた。
「天田の母親が命を落としたのは、公には『事故』となっているが……本当は過去の私達が原因なんだ」
そうして美鶴が話し始めた事は、二年前に事故とは言え荒垣が天田の母親を死なせてしまっていたという事。
アマネは立ち上がって美鶴を見つめる。美鶴の声には重苦しいものが詰まっていた。
けれどもそれを聞いて納得した部分もある。荒垣とは固い態度だったり、部屋に篭もってしまいがちだったり、天田の今までの言動は、その考えを肯定しやすくしていた。
「天田は自ら志願して、仲間に加わった。しかし、今にして思えば……」
『見つかりました! 辰巳ポートアイランドです! 二人一緒です』
山岸の言葉を最後まで聞かずにアマネは作戦室を飛び出す。背後で岳羽の声が聞こえたが気にすることも出来ない。
今にして思えば。
美鶴はその続きになんて言おうとしたのか。
天田が『しなければいけない事がある』と言っていたのを思い出して、アマネは唇を噛み締める。行って、天田を見つけて、何がしたいのかも分からなかった。
路地裏に辿り着いてその光景を眼にし、アマネは呼吸の仕方すら忘れて立ち尽くす。
後ろから美鶴達がやってきて、真田と天田、そして真田に抱き起こされている荒垣へと駆け寄っていく様が、どうしても目の前で起こっているように感じられない。
荒垣の身体は血塗れで、腹部と胸部へそれぞれ一発ずつ。経口の大きい銃で撃たれたのだろうことは、『×××』が使えなくたって経験で分かった。
未だに止まらず流れ続ける血の赤が、真田のベストの赤と混じっていく。
荒い呼吸を繰り返しながら、荒垣はまだ生きている。
まだ生きているのなら、と踏み出しかけたアマネの足はしかし、中途半端に止まってしまった。
忘れていた呼吸を思い出して息を吸う。アマネにとっては嗅ぎ慣れた、けれどもここ十数年は確実に覚えの無かった匂い。
荒垣が天田へ話しかけている。天田はショックが大き過ぎてまだ泣けてもいない。その方がいいと思ったのは、アマネが荒垣へ自分を重ねていたからだろう。
岳羽達が荒垣へ呼び掛けている。それに混じる事も出来ないまま、アマネはその場から動けずに荒垣を見まいと俯いていた。
「これで……いい……」
今にも消えてしまいそうな、小さな、誰かのすすり泣く声にも負けそうなほど小さな声に、アマネはハッとして顔を上げる。
「……だ……いやだ……やめてくれ……」
誰にも聞こえなかっただろうアマネの呟きにしかし、反応したように荒垣の顔がアマネへと向けられた。その口が何を言おうとしていて、何を考えているかも分かってしまって、アマネは口元を押さえる。
吐き気や申し訳なさ、罪悪感とその他諸々の負の感情が、そうしなければ何かと一緒に溢れ出てしまいそうだった。
立っていることすら奇跡に思える中で、荒垣の目が閉じられていく。
心の何処かでまだ間に合うと叫んでいて、そことは違うどこかで無理だと言ってもいた。
天田が叫ぶ声も、荒垣にはもう届かない。
真田が手を強く握る様子も、涙目の岳羽と山岸も、深く俯いた美鶴も。呆然としている伊織も、寂しげに鼻を鳴らしているコロマルも、立ち尽くしているアイギスも。
アマネに後悔の念だけを酷く募らせる。
こういう時こそ誰かに話を聞いてほしいのに、その話を聞いてくれそうな人は今、眠ってしまった。
喉の奥で震えた声が、口を押さえている手のひらへぶつかって消える。意味も持たないその音がなんて紡ごうとしたのかは、当のアマネさえ分からなかった。
有里が振り返ってアマネを見る。その視線を向けられた事が、一番泣きたい理由に思えた。
今日が十月四日である事をしきりに気にしてはいたけれど、アマネに思い付く事は無い。
影時間が空けるのはまだ先だ。寮へ戻って作戦室へ帰ってきても、荒垣も天田も姿は無かった。理事長の姿も既に無い。
「あれ、まだ誰も戻ってないんだ」
「つか、真田さん、様子ヘンだったよな。今日はどうなってんだ? 十月四日って、なんかの日だっけか?」
皆にお茶でも淹れようかと思ったが、まだ影時間でガス台が動かない事を思い出た。アマネが手持ち無沙汰にしゃがんでコロマルを撫でようとしたところで、美鶴が叫ぶ。
「十月四日……しまった、そうか! 作戦に気を取られすぎて思い至らなかった。今日は、天田の母親の命日だ!」
「命日……?」
唐突な情報にその言葉を繰り返すだけしか出来ない伊織を気にせず、美鶴は山岸へと振り返った。
「山岸、急いで荒垣と天田の居場所を突き止めてくれ。二人一緒に居る可能性がある。明彦も、多分そう気付いたんだ」
「わ、分かりました」
慌てて山岸がペルソナを召喚し荒垣達の居場所を捜索し始める。
腕を組んでその結果を待つ美鶴へ、控えめに岳羽がどういう事かと尋ねた。それはこの場に居る全員の気持ちの代弁だったに違いない。岳羽が聞かなければアマネが聞いていた。
「天田の母親が命を落としたのは、公には『事故』となっているが……本当は過去の私達が原因なんだ」
そうして美鶴が話し始めた事は、二年前に事故とは言え荒垣が天田の母親を死なせてしまっていたという事。
アマネは立ち上がって美鶴を見つめる。美鶴の声には重苦しいものが詰まっていた。
けれどもそれを聞いて納得した部分もある。荒垣とは固い態度だったり、部屋に篭もってしまいがちだったり、天田の今までの言動は、その考えを肯定しやすくしていた。
「天田は自ら志願して、仲間に加わった。しかし、今にして思えば……」
『見つかりました! 辰巳ポートアイランドです! 二人一緒です』
山岸の言葉を最後まで聞かずにアマネは作戦室を飛び出す。背後で岳羽の声が聞こえたが気にすることも出来ない。
今にして思えば。
美鶴はその続きになんて言おうとしたのか。
天田が『しなければいけない事がある』と言っていたのを思い出して、アマネは唇を噛み締める。行って、天田を見つけて、何がしたいのかも分からなかった。
路地裏に辿り着いてその光景を眼にし、アマネは呼吸の仕方すら忘れて立ち尽くす。
後ろから美鶴達がやってきて、真田と天田、そして真田に抱き起こされている荒垣へと駆け寄っていく様が、どうしても目の前で起こっているように感じられない。
荒垣の身体は血塗れで、腹部と胸部へそれぞれ一発ずつ。経口の大きい銃で撃たれたのだろうことは、『×××』が使えなくたって経験で分かった。
未だに止まらず流れ続ける血の赤が、真田のベストの赤と混じっていく。
荒い呼吸を繰り返しながら、荒垣はまだ生きている。
まだ生きているのなら、と踏み出しかけたアマネの足はしかし、中途半端に止まってしまった。
忘れていた呼吸を思い出して息を吸う。アマネにとっては嗅ぎ慣れた、けれどもここ十数年は確実に覚えの無かった匂い。
荒垣が天田へ話しかけている。天田はショックが大き過ぎてまだ泣けてもいない。その方がいいと思ったのは、アマネが荒垣へ自分を重ねていたからだろう。
岳羽達が荒垣へ呼び掛けている。それに混じる事も出来ないまま、アマネはその場から動けずに荒垣を見まいと俯いていた。
「これで……いい……」
今にも消えてしまいそうな、小さな、誰かのすすり泣く声にも負けそうなほど小さな声に、アマネはハッとして顔を上げる。
「……だ……いやだ……やめてくれ……」
誰にも聞こえなかっただろうアマネの呟きにしかし、反応したように荒垣の顔がアマネへと向けられた。その口が何を言おうとしていて、何を考えているかも分かってしまって、アマネは口元を押さえる。
吐き気や申し訳なさ、罪悪感とその他諸々の負の感情が、そうしなければ何かと一緒に溢れ出てしまいそうだった。
立っていることすら奇跡に思える中で、荒垣の目が閉じられていく。
心の何処かでまだ間に合うと叫んでいて、そことは違うどこかで無理だと言ってもいた。
天田が叫ぶ声も、荒垣にはもう届かない。
真田が手を強く握る様子も、涙目の岳羽と山岸も、深く俯いた美鶴も。呆然としている伊織も、寂しげに鼻を鳴らしているコロマルも、立ち尽くしているアイギスも。
アマネに後悔の念だけを酷く募らせる。
こういう時こそ誰かに話を聞いてほしいのに、その話を聞いてくれそうな人は今、眠ってしまった。
喉の奥で震えた声が、口を押さえている手のひらへぶつかって消える。意味も持たないその音がなんて紡ごうとしたのかは、当のアマネさえ分からなかった。
有里が振り返ってアマネを見る。その視線を向けられた事が、一番泣きたい理由に思えた。